パワプロアプリの冴木創ちゃんがカワイイ。   作:なんJお嬢様部

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ちょっと間が開きましたが、冴木ちゃんシリーズ続編です。

いつの間にかUA1000超えしておりました。見てくれた皆様とパワプロというコンテンツに無上の感謝を。

この話以降、日本のプロ野球シーンに独自設定等が盛り込まれているので、苦手な方はバック推奨です。


追記

後書きで今後の登場キャラについてのアンケート的なものがあります。よろしければコメントください。


あの夏の影を追って(最終場面追加、追記有り)

 ーーープロ野球。

 

 それは熱い夏に魅せられた球児たちに許された延長戦。

 

 ここに足を踏み入れるということは、良くも悪くもその人生を野球という一匹の巨大な魔物の前に差し出すことを意味する。

 

 魔物に喰われて道半ばで果てるか。

 

 あるいは魔物を喰らう英雄となるか。

 

 私に待つのがどちらの運命かはまだ分からない。

 

 だが、それでも。

 

 あの夏に魅せられた私は、バットを一振り握り締めて魔物に対峙することを選んだのだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ということは、冴木さんは女子プロの道を進むことがほぼ決まっていると、そういうわけですね」

 

 大筒高校の校長室の横に設けられた応接室。そこのソファーに腰を下ろした私の前に、有名スポーツ誌の記者が座って質問を投げかけてくる。

 

「はい、ありがたいことに日本のほぼ全ての女子プロチームからお声かけをいただいています。その中でも条件がいいチームを選んで入団するつもりでいます」

 

 記者からの質問に私はスムーズに返答する。

 あらかじめ答えを決めていたということもあるが、この質問に答えるのはもう既に4回目だ。これだけの場数を踏めば誰だって淀みなく答えることができるだろう。

 

 そんな私の回答に記者は軽く頷いてメモにペンを走らせる。ひとしきり走ったペンが止まると記者が再び口を開く。

 

「なるほど、なんといっても冴木さんは日本初、現在ただ一人の甲子園優勝経験を持つ女性球児ですからね。どこもかなりの金額を提示するでしょうね」

「はい。ただ、私が求めるものにはお金以上に大切なものもありますので、金額が全てというわけではありませんが」

 

 この答えも事前に想定済みだ。

 高校球児相手に奇をてらった質問をする記者はほとんどいないだろうから、これもまた予定調和だといえる。

 

 記者もその辺りは想定済みのようで、さらりとメモをとると顔を上げた。

 

「ストイックな冴木さんらしいお答えですね、ありがとうございます。それでは、最後の質問なのですが、冴木さんはNPBのドラフトを受けるためにプロ申請を出されているというのは事実ですか?」

「事実です。今年は選手が豊富で、恐らく私が選考にかかることは無いと思いますが、やはりNPBは野球を志した者にとってひとつの到達点と言えます。可能性が僅かでもあるなら私もそれにすがろうと思っています」

 

 私の最後の答えに、記者は大きく頷いてメモにペンを走らせるとソファーから腰を上げた。後を追うように私もソファーを立つ。

 

「貴重なお時間をありがとうございました冴木さん。今日のドラフト会議で日本初の女性NPB選手が生まれることを私たち一同も期待していますよ」

「ありがとうございます」

 

 応接室を出ようとする記者の前に立って扉を開ける。

 記者は私に会釈をして扉を潜ると、数歩歩いてからこちらを振り返った。

 

「そうだ、もし冴木さんがNPBのドラフトにかかったら今度は私たちに最初にインタビューさせてくださいよ」

「ははは、校長先生や監督と相談させてもらいますね」

「いいお返事期待してますよ、それではまた」

「ええ、またよろしくお願いします」

 

 学校の入り口を出ていく記者に一礼をして見送ると、記者は大きく手を振って応えてくれた。

 

 その姿が見えなくなるまで待ってから、私はすぐに踵を返す。

 

 今日はNPBのドラフト会議の日。私たち大筒高校野球部員は、その結果を視聴覚室の大スクリーンで見ることを許されているのだ。

 

 …………今日のドラフトで私と○○の運命が決まる。

 

 淡い期待に胸を弾ませながら、私は視聴覚室への廊下を急いだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 視聴覚室の扉を開けると、中にいた野球部の面々の視線が私に集中した。

 

「おっ、遅いぜ冴木!そろそろドラフトの発表が始まるぞ!」

「越後。悪いな、インタビューが長引いてしまったんだ」

「やれやれだぜ!早いとこ空いてる席を探して座った方がいいぜ!」

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

 心配してくれていた越後君に頭を下げて、空いた席を探して部屋を見回す。すると部屋の奥の方で矢部くんが私に向かって大きく手を振るのが見えた。

 

「冴木さん、こっちでやんす!○○君の隣が空いてるでやんすよ!」

「矢部君、ありがとう」

 

 矢部君にお礼を言って○○の横に腰を下ろす。その時に軽く目配せをすると、彼は小さく右手を上げて軽く頭を下げた。今の私たちにできるコンタクトはこれが精一杯だ。

 

 ○○から目を離し、スクリーンに目を向けようとしたその時、矢部君が話しかけてきた。

 

「冴木さんは、甲子園優勝以来引っ張りだこでやんすねぇ、うらやましいでやんす」

「ははっ、高校野球で久しぶりの面白い話題だからみんな食い付いているだけさ。じきにみんな忘れてしまうだろう」

 

 かつては国民的スポーツと言われた野球も、今や衰退の一途だ。ボールひとつ身一つあればできるサッカーなどと違って、野球は必要とされる道具も多い。始めるまでのハードルの高さがその間口を狭くしている。

 そこに加えて選手は丸刈りなどの古い因習や少子化もそれに拍車をかけた。今や野球に全盛期の面影は最早無い。

 

 しかし、NPBや高野連もただ指を咥えて眺めていた訳ではない。女性選手の解禁や、プロ球団をセパ共に2球団ずつ増やして2リーグ16球団制にするなど、野球人口の確保に熱を入れている。

 

 私はそんな球界の流れの中で生まれた日本初の甲子園優勝を経験した女性球児だったわけだ。これに飛び付かない手はないだろう。

 

 実際、甲子園では毎試合後に必ずインタビューを受けたし、優勝後は女性プロ野球チームのオファーやスポーツ誌からのインタビューもひっきりなしにやって来た。

 更には有名なプロ野球選手と対談をさせてもらったこともある。それもこれも私の日本初という肩書きのお陰だ。

 

 しかし、女性高校球児の増加の流れは今後ますます加速するだろう。そうなれば私もその黎明期の女性選手の一人として時たま語られるぐらいの存在になるはずだ。

 

(だから、私が持て囃されるのもあと少しだな)

 

 そういった冷静な自己分析の末に言った言葉だったが、矢部君はそれに首を傾げる。

 

「そうでやんすかねぇ?オイラは高校野球の歴史に名を残した冴木さんをみんな忘れたりしないと思うでやんす」

「まぁ、確かに記録として名前は残るだろう。でも人は忘れる生き物だ。矢部君だって3年前の夏の甲子園優勝メンバーを全員挙げろって言われても思い出せないだろう?」

「確かにそうでやんす。……どれだけ活躍しても、時と共に忘れられるのってなんだか寂しいでやんすねぇ」

 

 しみじみとした口調で矢部君が呟く。

 人は皆忘れる生き物だ。故に人は儚い生き物だが、だからこそ人は人として生きて行けるとも言える。

 

「仕方がないさ。同じ時を生きている人たちがちょっとでも私たちのことを覚えてくれて、たまにふと何かの拍子に思い出してくれる。それぐらいで満足するのがちょうどいいんだ」

「なるほどでやんす」

「だからこそ、少しでも多くの人に覚えてもらえるように矢部君もドラフトにかかってプロ入りしないとな」

「そうでやんすね!うぉー!どこかオイラを拾ってくれでやんす!」

 

 矢部君が元気に叫び声を上げたその時、「おい、始まるぞ!」と越後君の声が視聴覚室に木霊した。スクリーンにはドラフト会議の会場が大写しになっている。

 

 いよいよ、運命の時が来た。

 

 視聴覚室に集った監督と部員たちは固唾を飲んでスクリーンを見つめた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 日本のプロ野球のドラフトシステムは他国と違う特殊なシステムだ。

 

 一巡目は指名制で各球団が同時に選手を指名して、競合した場合は抽選で交渉権が与えられることになる。

 二順目以降は球団順位が下位の球団から選手を指名していく逆ウェーバー方式と、上位の球団から指名するウェーバー方式を交互に繰り返し、希望選手がいなくなった球団がそこからどんどん抜けていくという形になっている。

 

 この内テレビ中継が行われるのは球団数の都合もあり三順目までで、残りはラジオやインターネットなどで確認する必要がある。

 故に三順目までに名前が挙がった選手たちこそが衆目を集めることになる球界の花形選手と言えるだろう。

 

(○○は間違いなく花形選手になるだろうな……)

 

 そんなことを思いながら私は隣に座る○○の横顔をちらりと眺める。彼は私の視線には気付かずに真剣な眼差しでスクリーンを見つめる。

 

 一年生からベンチも含めて四度甲子園の土を踏んだ○○は間違いなく今回のドラフトの目玉の一人だ。ほぼ確実に一巡目でどこかは指名するだろうし、複数球団が競合することも十分にあり得る。

 競合を嫌った球団たちが指名を避けたら万にひとつ二順目に回ることもあり得るが、二順目で彼を取らない球団はまず無い。

 

 彼女という贔屓目を抜きにしても、○○の野球センスはそれぐらいのレベルは間違いなくある。彼は今後のNPBを牽引する選手の一人になるだろう。

 

 だが、私にとっての問題は彼が指名をされるかどうかではない。それ以上に重要なのはーーー

 

(ーーー問題は、どこが○○を指名するかなんだがな)

 

 そう、私にとっての最重要問題は彼がどこの球団に指名を受けるかだった。

 

(できれば、私にオファーをくれている女子プロチームの本拠地で近いところがあると嬉しいんだが…………)

 

 記者とのインタビューで私はチームをえらぶ基準は金銭面が全てではないと言った。

 それを記者は皆、練習内容やチームメンバーが充実したところを選ぶのだろうと解釈していたようだが実際は違う。

 

 私がチームに求めるものは「○○が所属するチームの本拠地から近いかどうか」その一点である。

 

 二年生の夏の終わりから一年近く、○○と私は恋人らしいことをほとんどしないままここまでやってきた。

 高校を卒業したら今までよりは多少恋人らしいことができると思っていたが、もし本拠地が離れた球団にお互いが所属してしまったらいきなりの遠距離恋愛になってしまう。

 

 もちろんオフには会えるだろうが、それでもお互いの予定を縫っての会合になるだろう。そうなると毎日顔を会わせている今よりも状況が後退してしまう。それは流石の私も耐え難い。

 

(今までずっと我慢してきたんだ。これ以上は流石に厳しい………)

 

 野球に人生を捧げたとはいえ、私だって○○の前では一人の少女なのだ。その想いが引き裂かれるのは、野球を辞めろと言われるぐらいにつらい。

 

 それにもし、距離が離れてしまったことによって、彼の心が離れていって他の女でもできてしまったら…………

 

(………ぐうぅ!何を考えているんだ私は!○○はそんな男ではない!)

 

 頭に浮かぶ悪い考えを戒めるように頭を軽く叩く。

 ○○は私が思っているような不誠実な男では決してない。恋人になったあの日に部室で彼が私にしてくれた告白は絶対に嘘ではないと信じられる。

 

 信じられるのだが。

 

(…………スケベなんだよな、○○)

 

 私の一番の懸念材料、それは○○がスケベな奴だということだ。

 

 プロ野球選手はやはりスポーツ選手の花形で、何とかしてハートを射止めようとする女性は多い。特に、ドラフト上位に食い込み一軍で活躍しそうな選手やルックスのいい選手には多くの女性が群がる。

 そして、○○はルックスに関しては多分に私の主観が混じるものの、将来的には恐らく両方の条件を満たす選手になるはずだ。そうなれば彼の元にはアイドルやアナウンサーのような見目麗しい女性が次々とやって来るだろう。

 

 悔しいことに私ではそんな女性たちに女としての魅力では太刀打ちできそうにもない。

 もし、彼女たちが体で○○を誘惑しようものならスケベな彼のことだ、ころりとそちらに転がって一夜の過ちを犯してしまうこともあり得ない話ではない。

 

(…………あああ!そんなのは絶対に駄目だ!私が○○の貞操を守護らなければ、一体誰が守護るというのだ!…………頼むぞ、どうかいい場所の球団が彼を指名してくれ!)

 

 隣で熱心にスクリーンに視線を注ぐ○○とは恐らく全く違う理由で、私は熱心に祈るような視線をスクリーンに注いだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「それでは只今から××年度NPBドラフト会議を開催いたします」

 

 司会者の声がスピーカーから響く。いよいよ今年度のドラフト会議が始まる。

 

 私たち大筒高校野球部から今年度のプロ志望届を提出したのは5名。

 キャプテンで公式戦通算13本のホームランを打ったサードの鬼鮫君、野性的直感と身体能力で足りない頭脳をカバーするレフトの越後君、俊足が持ち味のライトの矢部君、そして大筒高校外野の守護神○○に、最後にセカンドの私だ。

 

 春夏通して大筒の守備の要となった選手が全員プロ志望を出した形になった。打撃の大筒と呼ばれる大筒高校では鬼鮫君以外はパワーヒッターではないという珍しいメンバーであると言える。

 

 しかし、この五人は全員が複数回甲子園の土をレギュラーで踏んだ選りすぐりだ。女の私は兎も角として、他の全員が上位指名を受けるにふさわしい実力者であることは間違いない。

 

(さて、どうなることやら…………)

 

 まずは一巡目の全球団指名からスタートだ。早ければここで早々にプロ入りが決まる者もいる。そして、恐らくこの五人の中の誰かもそこに名前が入るはずだ。

 

 視聴覚室の面々は誰一人身動ぎ一つしない。皆食い入るようにスクリーンの動きを待つ。

 スクリーンの中の司会者がマイクを握る。

 ついにそのときが来る。

 

「それでは一巡目、一位指名の選手を発表いたします」

 

 司会者が手元の紙に目を落としながら、そこに書かれた人名を読み上げ始める。誰かが唾を飲む音が聞こえる。あるいはそれは私の喉から漏れた音なのかもしれない。

 

「第一位、大筒高校、鬼鮫君。猪狩カイザース」

 

 一瞬、視聴覚室の空気が止まった。

 次の瞬間「うぉー!」という鬼鮫君の叫び声と共に視聴覚室は狂喜の歓声に包まれた。

 

「キャプテン!」「鬼鮫君!」「やったぜキャプテン!」「っしゃあ!」「すごいでやんす!」

 

 皆が鬼鮫君のところに駆け寄って鬼鮫君をもみくちゃにするなかで、私は少し意表を突かれた思いで席に座っていた。

 

(カイザースの一位は猪狩じゃないのか。もしかして進学を選んだのか?)

 

 私の頭に思い浮かんでいたのはあかつき大付属の絶対エース、猪狩守の姿だった。

 夏の準決勝で大筒と1-0という死闘を演じた彼は今年度のドラフトの目玉の一人と目されており、特に彼の父親が経営する球団、猪狩カイザースは間違いなく一位で指名するものと噂されていた。

 

(…………やはりドラフトは蓋を開けてみないと分からないな。○○もどうなることやら…………)

 

 一人目から先が読めないドラフトに、私の心はやきもきさせられる。

 

 そして、鬼鮫君の一位指名の熱狂も冷めやらぬうちに、どんどんと指名は進んでいく。

 

 アンドロメダの大西=ハリソン、ゲノム大付属の明神、天空中央の虹谷。甲子園の地でしのぎを削りあった球児達が続々とプロへの一歩を踏み出して行く。呼ばれる名前はほとんどが投手のものだ。今年の投高打低の甲子園を反映したかのような指名である。

 

(ふむ、確かに今年の投手は粒ぞろいだった。これは、野手の一位指名は厳しいか?)

 

 地区予選決勝の伊貫のことからも明らかなように、優秀な投手を先発のローテーションに組み込むことができれば、それだけで球団の陣容は様変わりする。打者と違って代替が効きにくい投手が優秀ならば、早めに確保に動きたいのは球団心理として当然だと言えるだろう。

 

 ちなみに、私たちと熱戦を繰り広げた伊貫たちは皆プロではなく、SG高校の伝で海外のガンメーカーやセキュリティ関係の会社あるいは学校に就職と進学するらしい。

 

(あれだけ苦汁を舐めさせられた相手でも、いざ道を違えるとなると寂しいものだな)

 

 かつては相争った仲とはいえど、広い目でみれば野球という大樹の下に集った仲間でもある。

 そんな仲間達がいなくなっていくことに少しのセンチメンタルを覚えていた私に、その瞬間は唐突に訪れた。

 

 

「…………第一位、大筒高校○○君。西京ギガンツ」

「あっ…………」

 

 その声は誰の口から漏れたものか。

 私か、○○か、あるいは他の誰かのものか。

 鬼鮫君の興奮の熱が一瞬引いて、そして再び視聴覚室の面々は爆発した。

 

「うおぉぉおお!」「○○がやったでやんす!」「二人目の一位指名だぜ!」「○○!お前もやったな!」

 

 先程までのメンバーに鬼鮫君を加えたメンバーが、○○に殺到して彼をもみくちゃにする。

 発表の時、半ば呆然と口を開いていた彼だったが、仲間に揉まれる内に実感が湧いてきたらしく、その顔に笑顔が浮かぶ。

 

「いてっ、みんなありがとう!いて、いてて!ちょっと待って、本気で痛い!」

 

 みんなからの手荒な祝福に本気で痛がる○○を隣で眺めながら、私は心の中でほっと胸を撫で下ろしていた。

 

(○○、ついにやったんだな。君は本当に夢を叶えたんだな)

 

 球児たちに許された、熱い夏の延長戦。そこに足を踏み入れることを許された○○を見て、私の胸にも熱いものが込み上げてくる。

 べしべし叩かれながらも、夢を叶えて笑顔を浮かべる彼の姿は、私の目にはとても輝いて見えた。

 

 そして、私が胸を撫で下ろした理由はもう一つあった。

 

(○○が西京ギガンツに入団するなら、私がオファーを受けた女子プロに本拠地が近い球団がある!)

 

 西京ギガンツは京都に本拠地を設けるかなり新しい球団だが、そこは女子プロチームの一つ、ラピッドラビッツの本拠地がある場所でもある。

 俊足好守で知られるラピッドラビッツは、堅守が持ち味の私に真っ先にオファーをくれたチームであり、私がかなり注目していたチームでもある。これはかなり嬉しい展開だ。

 

(これなら、私も野球をしながら○○と離れることもない。ありがとう、野球の神様……!)

 

 基本的に、私は自分の運命は自分の努力で切り開くタイプなので神に祈ったりはしないのだが、今回の○○の指名に関しては完璧に神頼みの領域だった。

 だからこれは今まで真面目に野球に打ち込んできた私への、神様からのご褒美なのかもしれない。

 

 そう思った私は、野球を司る神が天にいるかどうかは知らないけれど、いるかもしれない神に対して自然に感謝の祈りを捧げていた。

 

 

 そして、そんな神への祈りが更なる奇跡を呼ぶことになるとは、今の私は想像もしていなかった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ○○の指名からしばらくして、全球団の一位指名が終了した。

 驚くべきことに、今年の一位指名は誰一人として競合した選手がいなかった。それだけ今年の選手層が厚かった訳だが、球団側にとってこれは嬉しい誤算と言えるだろう。

 

 そして、競合がないということは、○○の入る球団は西京ギガンツで決まったことを意味する。彼は特にこだわりの球団もないので、契約金と年俸の折り合いがつけば間違いなく入団を決めるだろう。これで私たち二人が別離してしまう危機は完全に回避されたというわけだ。

 

(ふふっ、○○は私も京都の女子プロチームに入団すると言ったら驚くだろうな)

 

 私は、自分が○○に秘密を打ち明けたときに、彼が驚く顔を思い浮かべて一人微笑む。

 

 目の前のスクリーンでは、ドラフトが二順目に突入していた。私を含め、越後君と矢部君の三人は一巡目ではまだお呼びがかかってはいなかったが、最早そんなことは些細な問題だ。めくるめく卒業後の生活を思い描いて私は夢見心地だった。

 

「…………大筒高校、越後君。大神ホッパーズ」

「うぉー!やったぜ!」

 

 名前が呼ばれた瞬間、越後君が叫び声と共に椅子から飛び上がった。

 

「すごいぞ越後!」「二位指名でやんす!これで三人目でやんす!」「バカでもプロになれるんだな!」「えちゴリラもこれでついに人間の仲間入りだな!」

 

 若干ひどい祝福の言葉を受けながら、今度は越後君にみんなが殺到する。

 まぁ、彼は○○としのぎを削りあうほどのバカなのでみんなの発言はあながち間違ってはいないのだが、それでも友人を祝福するときぐらいちょっとは優しい言葉をかけてあげてもよいのではないだろうか。

 

 それでも越後君は「やれやれだぜ!」と言いながらみんなの祝福を受け入れているので、これもまた一つの友情の形なのかもしれない。女の私には踏み込めない男子なりの友達の世界があるのだろう。

 

 そんな風に盛り上がる、男子たちを遠巻きに眺めていたその時。

 

 スピーカーから飛び出た声が、視聴覚室の空気と私の運命ををがらりと変えた。

 

「…………大筒高校、冴木さん。西京ギガンツ」

「…………は?」

「え?」「うん?」「おっ?」

 

 一番最初の声は他ならぬ私の口から漏れたものだ。

 

 それから少し遅れて、驚愕の声がみんなの口から漏れる。

 

 暫しの沈黙。停滞する空気。

 

 その静寂を切り裂いて私は何とか声を出した。

 

「…………もしかして、私が指名されたのか?」

 

 そう言って恐る恐るみんなを振り返った次の瞬間。

 

「冴木さん!」

「わっ!○○!?」

 

 隣に座っていた○○が私の名前を叫びながら抱きついてきた。

 人前での彼の暴挙に慌てた私だったが、そんなことはすぐにどうでもよくなった。

 

「うぉぉおお!すごいぜ冴木!」「史上初の女性選手の指名でやんす!」「しかも二順目だぞ!?」「やったー!」「冴木さんすごい!」「おめでとう冴木さん!」

 

 我に帰ったみんなが口々に祝福の言葉を叫びながら私のところに押し寄せて、一斉に私をもみくちゃにし始めたからだ。

 それは鬼鮫君や越後君、そして○○が受けたものよりも優しいものだったがそれでもみんなは彼らと同じように私のことを扱ってくれた。

 

 女子だからといって特別扱いはしない。そんなみんなの優しさがそこには溢れていた。

 

「み、みんな、あ、ありがとう…………」

 

 祝福を一身に受ける私の目にはいつの間にか涙が溢れていた。

 

 レギュラーを勝ち取ったときも、甲子園で優勝したときも流すことがなかったそれが、こらえようとしても後から後から頬を伝った。

 

(…………今までの野球人生で大筒高校のみんなに出会えたことは私にとって無上の幸福だった)

 

 みんなの心からの優しさに触れて。

 

 そして、それがもうすぐ終わってしまうことの寂しさに気づいて。

 

 私は野球人生で初めての涙を流したのだ。

 

「冴木、よくやったな」

「ぐすっ……か、監督……」

 

 未だに涙の止まらない私に監督が声をかけてくれる。その声と表情は今まで一度もみたことがないぐらい穏やかなものだ。

 

「やはりお前は大した奴だった。女子高生初の公式戦ホームラン、甲子園出場、甲子園優勝、ドラフト指名を全部自分の力で決めたんだからな」

「ひっく……はい……」

 

 しゃくりあげるように泣く私の肩に監督の手が添えられる。力強く、そして優しい手だ。

 

「ありがとう冴木。いや、冴木だけじゃない。ここにいる皆に、そして皆を育てた先輩たちに感謝する。お前たちは俺に最高の夢を見せてくれた。俺は最高に恵まれた監督だったよ」

「「「監督……!」」」

 

 監督の言葉に皆が声を上げる。

 

「プロの世界、そして高校卒業後の進路は厳しいものが待ち受けていると思う。しかし、お前たちなら絶対にそれに勝てる。監督の俺が保証する。だから安心して全力で未来に飛び込んでいけよ!」

「「「オス!」」」

 

 力強い監督からの祝福に、みんなの返事が応える。

 

 私ももう涙を流してはいなかった。

 

 大筒がここまでやれたのはこの監督の手腕のおかげ。それを実感させるような熱い言葉だった。

 

 

 

 そして心が一つになった充足感にみんなが浸っていたその時、視聴覚室の隅の方から恐る恐る声が上がった。

 

「あのー、盛り上がってるところ悪いでやんすが、オイラの指名がまだ残っているでやんす…………」

「「「あっ………」」」

 

 完全に存在を忘れられていた矢部君は、その後三順目に無事にジャジメントナマーズから指名を受けた。

 

 名前が呼ばれた瞬間、忘れていたことをうやむやにするように、みんなが矢部君のところに集まって彼を胴上げした。

 

 みんなに支えられて宙を舞う矢部君は、満更でもなさそうな表情だった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「冴ちゃん、プロ指名おめでとう」

 

 学校からの帰り道、一人自転車に乗って帰り道を走っていた私は、待ち構えていた○○に呼び止められて二人で自転車を押しながら歩いていた。

 

 ドラフト会議の後、私は舞い戻ってきた記者からの質問攻めにあった。それが終わった後も学校にはひっきりなしに電話がかかってきたらしく、どうやらしばらくは私に平穏は与えられないらしい。

 

「ありがとう○○。でも、祝福の言葉を言うのはむしろ私の役目だ。私は二順目だが、君は一巡目の指名なんだからな。おめでとう○○、君は最高の形で夢を叶えたんだ」

 

 ○○に礼を言ってから、私も彼のことを祝福する。16球団のいずれかから一巡目の指名を受けるということは今年最高の評価を受けた選手であることに他ならない。これは高校球児にとっては最高の栄誉だ。

 

 ○○は、照れたようにはにかみながら頭を掻くと、すぐに真剣な表情になる。

 

「そうかもね。でも、俺は欲張りだからね。一つ夢が叶うとすぐに次の夢が湧いてくるんだ」

「君の次の夢といったら……」

「まずは新人王。今年も含めて近年の選手は粒ぞろいだからね。ここで新人王に輝けば、そこで俺は初めて世代を代表する選手になれる」

「なるほど」

 

 新人王をとるのはルーキーシーズンの選手にとっては最高のステイタスだ。登録五年以内で一年で最も活躍した選手ただ一人に贈られるこの賞は球団数が16球団になった現在、その価値をさらに高めている。

 

「あとは当然リーグ優勝、できれば日本一までいきたい。そうすれば間違いなく歴史に名前が残る」

「そうだな」

 

 西京ギガンツは球界再編の流れの中で生まれた新規4球団の内の一つだ。創設時からAクラスとBクラスの境目を行き来していて、プレーオフに出たことはあるものの未だにリーグ優勝の経験はない。

 

 そして、これは新規4球団全てに当てはまる状況でもある。故にこれらの球団にとって優勝と日本一は悲願であり、これを成し遂げれば球団史だけではなく球界史にもその名を残せるだろう。

 

「そしてーーー」

「そして?」

 

 ここまで言うと○○は言葉を止める。何か気になることでもあるのかとその顔を覗き込むと、真剣な眼差しの彼と目があった。

 

 位置がはっきりわかるほど、胸の内で心臓が動く。

 

「ーーー俺はその夢を冴ちゃんと一緒に追いかけられたらいいなと思ってる。どうかな?」

 

(…………やっぱり、○○は悪い男だな。そんな風に言われたら断りようがないじゃないか)

 

 もちろん断るつもりなど端からなかった。

 しかし、そんな風に真剣に話されるとこそばゆく恥ずかしい気持ちになる自分がいるのも事実だ。

 

 だから私は、それをごまかすために○○を少しからかうことにした。

 

「その事なんだがな○○、実は私は女子プロのチームからお誘いを受けていてな」

「えっ、それじゃあもしかして、冴ちゃん女子プロに行っちゃうの?」

 

 先ほどまでの凛々しい姿とはうって変わって、まるで雨の降る日に段ボール箱に入れられて棄てられた子犬のような表情で○○が声を出す。

 

 グラウンドの上ではいつも凛々しい彼がこんな情けない表情をしているというギャップに、秘められた嗜虐心が一瞬目覚めそうになったが、流石にあまりに可哀想だと思い直して私はすぐにネタばらしをすることにした。

 

「ふふっ、冗談だよ。声をかけてくれた女子プロチームには悪いけれど、私も西京ギガンツに入団するよ」

「ほ、本当に?」

 

 それでもなお私に疑いの目を向ける○○を見て思わず苦笑してしまう。

 

「柄にもなく騙して悪かった。ギガンツに入団したいのは本気だよ。私はこれからも○○と同じチームで君と同じ夢を追いかけていたい。猛者揃いのプロの世界では私は頼りないかもしれないが、それでも構わないかな」

 

 そう言って私が差し出した手を、○○はすぐにぎゅっと握り返してくれる。

 

「もちろん!冴ちゃんが側にいてくれることが俺にとっては何よりも一番心強いよ。力とか技術とかそういったことよりも、俺のそばにいる人が俺と同じぐらいの熱意を野球に傾けてくれる。本当に大切なのはそこなんだ」

 

 ○○は満面の笑みを浮かべる。

 やっぱり彼には悲しそうな表情よりも明るかったり真剣だったり、ポジティブな表情が似合う。

 

(……だって、そういうところに私は惚れたんだからな)

 

 そのまましばらく、私たちは自転車を押して二人並んでゆっくりと歩く。少し背が低く歩みが遅い私に○○は歩幅を合わせてくれる。心地よい時間が過ぎていく。

 

「○○」

「どうしたの、冴ちゃん?」

「絶対に日本一になろうな」

「そうだね」

 

 いつの間にか辺りは夕闇に包まれて、空には一番星が輝いていた。

 

 空を見上げた私は、今しばらくは流星のように燃え尽きるのではなく、あの空に瞬く一番星のように誰よりも強く輝きを放つことを祈っていた。

 

 

 

〈了〉

 




一応キリがいいところで投下。後で少し加筆します。

というわけで、ここからプロ野球編になります。

アプリのゲームだと冴木ちゃんはエピローグで女子プロ野球に進むので、ここからは完全にオリジナル展開になります。

冴木ちゃんと○○君のお話の続きが気になる人はぜひブクマと評価をお願いします。


追記

お気づきの方もいると思いますが、この作品は一部キャラクターやチームにパワポケからの引用があります。その辺りは知らなくても楽しめますが、知っているとさらに楽しめると思います。


アンケート

プロ野球編で登場したらいいなと思うキャラがいたらコメントください。上手く出せそうなら出して行こうと思います。
一応、仲間では男性投手を中心に数名、ライバルチームには男性・女性選手を数名ずつ出そうと思っています。
仲間に関しては出そうと思っているキャラの候補は数名いますが、基本的にマイナーキャラになりそうです。
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