爆豪勝己は、周りから褒め称えられるほど優れた攻撃型個性の持ち主だった。
自身の汗を爆発の火薬として利用できる個性。
彼自身、それが優れているのだと教わったし、周りがすごいすごいと言っていたので、そうなんだと認識していた。
そして自身が住む世界で、ヴィランという悪と戦うヒーローにも憧れて、その道を歩もうと考えるのに時間はかからなかった。
周りから褒められ、讃えられて持ち上げられることが当たり前だった爆豪にとって、自分より弱い者は誰も彼もが下だった。当然だが、無個性と判断された人間にはとりわけ辛く当たったものだ。いわば彼がいじめっ子側だった。しかしそんな彼を咎める者はおらず、増長に拍車をかけた。
しかしある日……、その恵まれてはいたが歪んだ人生を謳歌しようとしていた彼に、まるで天罰のような事件が起こる。
ほんの些細な思いつきで、自身の個性がどこまでやれるのだろうかという若さ故の過ちだったのだろう。だが、彼に虐げられていた者達は、天罰が下ったんだと笑った。
けれど……、そのことを爆豪勝己自身が理解しているかと言ったら否だろう。
いや……、理解できなくなったのだ。
暴走した爆発の力で、もろに重要器官である脳にダメージを受けてしまった爆豪は、死ぬ寸前だったにもかかわらず、最先端医療技術で奇跡的な回復をした。
目を覚ました…というよりは、視力は回復が遅れており目の前は真っ暗、それ以外の五感が回復して意識だけが浮上してそれで生還したことが分かったという流れだった。
両親がずっと呼びかけてくれていたらしい。それはとても嬉しかったし、死なずにすんだのだと思ったし、自分が置かれた状況が自分の過ちのせいだったのだというのを理解するには十分だった。視力が回復していない状態で、泣いている親に何度も謝った。
それだけなら……、歪んで成長しつつあった爆豪勝己という人間の正しい成長に繋がっただろう。
だが、現実は、あまりにも酷かった。
ある日、目を覚まし、目を開けたとき……。爆豪は、錯乱した。
肉…、グロテスクな肉、汚泥、ミミズ…なのか血管なのか、さっぱり分からない物であふれかえっていたのだ。
数ヶ月もまともに動けず、寝たきりだった身体であらんばかりにそれらから逃げるために暴れていると、ゴボゴボ、ブクブクと奇声を発する蠢く肉塊達に取り押さえられ、わけの分からない異物を腕に刺されたり、その中にあった得体の知れない気色の悪い液体を注入された事実に、爆豪はショックのあまりに一瞬で意識を失った。
それからは、地獄だった。
何度目を閉じて、耳を塞いで、病院のベットの毛布と思われる肉皮のような物を被って現実を見ないようにしても、どれだけ耐えても、自分自身を殴ったりしてみても、グロテスクな肉まみれの世界はなにも変わらなかった。むしろ視力が回復した結果、嗅覚や聴力にも変調をきたしたらしく、おそらくは病院の部屋に飾られた見舞いの花や、人間であるはずの蠢く肉塊達の声、当然だが出される食事も、すべてが見たままの最悪な物としてしか感じられなくなった。
賢い彼は、おかしいのは自分なのだと理解するのに時間はかからなかった。けれど、それを周りに知られれば、どうなるかという最悪の結末も同時に考えてしまい、かつて親であったはずの肉塊達にさえ何も言えなくなっていた。
なのに……。
ベットらしき肉の上の感触に耐えつつ、寝転がって自分の手を見る。自分の手は、変わらず知っている人間の形だった。自分自身も肉塊と同じに見えていれば、どれだけ救いだったのだろうっと、何度も自虐したものだ。
なにも喋らず、相手をまともに見ることがなくなってしまったことは、すぐに周りに知れてしまい、両親らしき肉塊達や、医師や看護師達らしき肉塊達が耳障りすぎるが、辛うじて聞き取れる声で話をしている。自分を心底心配してる言葉を、親だったはずの肉塊達が発している。それが、辛かった。
ああ…、いっそ死のうかなぁ?っと、部屋の窓らしき物の変わり果てたおぞましい景色を眺めながら、その考えに染まりかけていた時だった。
クックッといつ死のうかと、死ぬ方法も考えながら、視線を天井だった部位に向けたときだった。
自分と同じぐらいの年頃の、濃い緑色をしたくせ毛の髪の毛をした、そばかすのある少年が自分をジィっと見ていた。
最初、自分の目を疑った。
なぜなら、どう見ても、あの醜悪な肉塊とはまったく異なる、完璧な人間の形をしていたからだ。
「あれ?」
しかも、耳障りな奇声でも、ブクブクとした異様な音でも無く、ハッキリとした人間の言葉をその口から発していた。
「君…驚かないの?」
「……おま…え…? 人間…?」
「えっ?」
「嘘だろ? なあ…これ、現実か?」
「現実だよ? 夢だって思ってる? 起きてたのに気づかなかったなー。うっかりしてた。」
ああ、それは、爆豪にとってどれぐらいぶりのまともな人間の声だろう。
「珍しいなぁ。僕を見てそんな反応した人って…。」
「なあ…、お前、だれ? この病院の患者か?」
「違うよ。」
首を持ち上げて見れば、染みひとつない白い上下の服を着ているだけで、しかもなぜか裸足だった。
「ま、こんな時もあるんだ。じゃあね。」
「ま…待ってくれ!」
去って行こうとした少年を、爆豪は慌てて呼び止めた。
「なに?」
「…えっと……、ちょっと、触って良いか?」
「えっ?」
「手…握るだけで良いから…。なあ、頼むよ…。」
「……分かった。」
一瞬キョトンとした少年だったが、不思議そうにしつつも爆豪の手を握った。
その感触は間違いなく、人間の肌と温もりのそれだった。ベッチャリとした肉塊共の触り心地とはかけ離れたものだった。
「泣いてるの?」
「あっ…。」
知らず知らずのうちに爆豪は泣いていた。
「ねえ、そろそろ巡回の看護師さんが来るから…。」
「あ、おい!」
「ん?」
「なんていうか……、俺らしくもねーんだけどよぉ…。また…来てくれないか?」
「えっ?」
「頼む…、お願いだ…。」
爆豪は自分らしくないと分かっていても自尊心とかそういうものをかなぐり捨ててでも彼を引き留めたい気持ちでいっぱいだった。
「…いいよ。ただし、夜だけだけど。」
「いい! それでいい!」
「じゃあ、明日。」
「あ、待ってくれ!」
「今度はなに?」
「名前…教えてくれねぇか? 俺は、勝己…。爆豪勝己ってんだ。」
「かつき…、じゃあかっちゃんって呼んでいい?」
「ああ、いいぜ。お前の名前は?」
「…出久。出るって字に、久しぶりの久で出久。」
「へー…、デクか。」
「いきなりそんな呼び方された…。」
「あ、すまねぇ…。つい…。」
「でもいいよ。そう読めるし。かっちゃんて呼ぶんだからお互い様だよね。」
「ああ、そうだな。」
「じゃ、明日の夜ね。かっちゃん。おやすみ。」
ニコッと微笑んだ少年・出久は、今度こそ病室から出て行った。
残された爆豪は、先ほど握ってもらった自分の手を見つめた。
「……俺は…狂ってねぇんだ。よかった…。」
なんのことはない、病室の外の世界には、ちゃんとまともに見える人間がいたじゃないかと。爆豪は腕を顔に押し当てて、笑い泣きした。
そうと分かれば、こんな場所に1秒たりともいたくはない。早くここから脱出するために、肉塊共に悟られないように身体を癒さなければ…っと、先ほどまで死ぬことを考えていた頭の中をすべて切り替えて明日からどう肉塊共を騙すか考えた。
沙耶の唄……、最高に好きです!!
友達には不評だったけどね……。
さて、もし連載するなら、なにEDにしようかな?