野郎同士のキス表現あります。
『言わない』 ←
光己は、勝己のことを考えた。
もし事件に関わっているのなら、あの子が黙っているだろうかと。そしてそれを顔に出さずにいられるだろうかと。
母親である自分がよく分かっているはずだ。
だから……。
「いいえ…。特に…ありません。ですが、あの子は今病院に入院していて、大変な状態なんです。できたら穏便にお願いします。」
『そうか…。分かった。ご協力感謝する。』
そして電話を切った。
***
緑谷医院長からのメールを受け取ってから、出久は、勝己に肩を貸して歩いていた。
「ねえ、かっちゃん、無理しちゃダメだよ。」
「ダメだ…。俺が守るんだからな。」
「でも…。」
「お前だって辛いだろ?」
「うっ…。」
そう、胎動する熱に徐々に出久は弱ってきていた。それもこの数十分の間である。
空が見える場所に行きたい。そう願った出久が病院の屋上を目指そうとしたので、勝己もついていくと言って聞かなかったのだ。
「俺だって…、見守りてーよ。お前の子供…、もうすぐ生まれるんだろ?」
「うん…。」
「そんで…、俺達の世界が始まるんなら…、見届けたいぜ。」
「うん、うん…、かっちゃん。ありがとう。」
「もう少しだ…。」
「うん!」
勝己はそう言って笑い、出久も笑った。
そして、屋上への扉を開き。夜空が広がる空の下に出た。
「外だな…。」
「うん…。」
「あちぃな、お前…、本当に…。」
密着している部位から感じる温度はかなり高い。
「ちゃんと、生めるのか?」
「うん…だいじょうぶ。あと少し…、あと少し…。うぅ…。」
「おい!」
出久が倒れた。
勝己は、出久を助け起こした。その時、モゴリと出久の背中が蠢いた。
「!」
「ああ…、もう少しだよ…。」
出久は身体を起こし、背中を夜空に向けるようにした。
そして、勝己は見た。
開花。
まさにその言葉に尽きる。
美しく緑に輝く花のような花弁が出久の背中から咲いたのだ。
その花弁から凄まじい数の鱗粉のような薄緑の光が空に向かって飛んでいく。
勝己の目に、濁った色の夜空が、美しく彩られていく。
「綺麗…でしょ?」
「ああ……すげぇな。」
心から感動した。涙が零れた。
「これで…世界は、かっちゃんにとって…とても綺麗になるよ。」
「もちろんお前も一緒だぜ? デク。」
「うん。」
コツンッとおでこを会わせて笑い合い。そして、二人は口づけを交わした。
***
『オールマイト…ざん…、爆豪…みつ…きです…。連絡を…。耳が…取れちゃって…身体が…、痛い…溶けて…、もう…。』
緑谷は、途中で拾った携帯端末から聞こえる声を聞いて、そしてそれを投げ捨てた。
「……素晴らしい。」
緑谷は、変わり果てた世界を眺め、両腕を広げて、思いっきり悪臭漂う世界の空気を吸った。
ゴホゴホとむせたが、それさえも愛おしく感じた。
そこら中に、ゴボゴボ、ブクブク…異様な音を立てて蠢く者達がいる。
「安心したまえ。私は、どうもあの子と同じ空気を吸っていて耐性が出来てしまったらしくってね、そちらのお仲間に入るのはもう少し待ってくれるかい?」
そう、緑谷は、文字通り人間の形をまだ保っていた。
それでも少しずつだが変異は始まっている。指先はすでに感覚は無い。けれど、まだ歩いて周りを見て回るには十分だ。脳がまだ人間であるうちに、生まれ変わった世界を見て回りたい。そう願った。
世界は、生まれ変わった。
出久によって。
今や、世界は、爆豪勝己が見ていた世界と同じになった。逆に言えば、爆豪勝己から見て美しくなった。
相手の見ているモノを写真に投射する個性の持ち主に頼んで、爆豪勝己の視界に映るモノを写真に収めてもらったが、まさにこの世界そのものだった。
あれでは、たしかに狂うのも当たり前だ。そして、真逆の見た目をしていた出久だけが人間に見えていたのも理解できた。
やがて、この辺りで一番大きなビルの屋上についた緑谷は、懐から酒瓶を取り出し。
「出久、勝己くん。君達の世界に乾杯!」
アルコール濃度の高い酒をグイッと一飲みした。
***
「……っちゃん。かっちゃん。」
「…ん?」
「あっ、やっと起きた。おはよう。」
「デク?」
「ねえ、今、何が見えてる?」
「デク…だろ? あと……、あっ?」
ガバッと起き上がった勝己は、周りを見回した。
白いような灰色のような空の色であるが、濁った色の空ではない。
そして、周りが自分が見知っている建造物に見えた。
「嘘だろ?」
「現実だよ。ほらっ。」
「イデデデ! 何しやがる!」
「ほっぺた抓った。」
「いきなりやるな!」
「でも、現実だって分かったでしょ?」
「それより、お前…背中…。」
「あ、もう治ったよ。だいじょうぶだよ。」
「はあ…。あんなことがあって…。お前身体どーなってんだよ?」
「うーん。僕もよくわかんない。」
「あんだそりゃ。」
「ねえ、見て。ここからよく見えるよ。」
「ああ?」
出久に促されて、勝己は、病院の屋上から見える景色を見た。
そして目を見開いた。
「……あぁ…。」
そこには、肉まみれだった悪臭漂う世界はなかった。
風が運ぶ爽やかな香りに乗って、緑が揺れ、見知っている建造物が建ち並んでいる。
「かっちゃん。」
「あ…?」
「泣いてる?」
「あ、な、泣くかよ!」
自然と流れていた涙をゴシゴシと慌てて腕で拭った。
「うーん、気持ちの良い朝だね。」
「朝なのか?」
「そうだよ。朝だよ。ほら、時計だって示してるでしょ?」
「時計だ…。」
久しぶりに見るまともな腕時計だった。
「しばらくは、慣れないだろうけど、いずれ普通になるよ。この世界で、僕らは新しく始めるんだ。」
「そうか…。」
「嫌…だった?」
「んなわけねーだろうが。俺がいて、デクがいて、それで始まるんだ。こんな嬉しいことは、ないぜ。」
「そうだね。」
「行こうぜ。デク。」
「うん!」
「俺達の世界だ! 楽しみだ!」
「僕もだよ、かっちゃん!」
二人は手を取り合い、病院から飛び出し、新しい世界へと走り出した。
ED3 デクの唄
原作ゲーと違って、沙耶役の出久は開花の後死ぬことはありませんでした。
本来なら沙耶と同じように力尽きるはずでしたが、爆豪と生きたいという気持ちが身体に変化を起こし、開花後に回復。
そして、緑谷が人間の姿を保っている理由については完全に捏造です。
そして、二人がその後どうなったかは、ご想像にお任せします。
これで本当に最後です。
お気に入り、感想、評価、ありがとうございました。