また、ネタ元のゲームと違って、現役の病院のトップという設定にしています。
引子はいません。
育ち盛りの少年・爆豪の食事問題について。
そして、沙耶役の出久が喰ってたモノを……?
出久と出会ってから、絶望と狂気に染まっていた爆豪の世界に小さいが光が見えた。
人間のすべてが…動物も植物も問わずすべてが醜悪なになってしまった世界で、今のところ唯一普通の人間に見えた出久。
もしかしたら、認識障害であっても、特定の条件下なら普通の人間に見える人間や動植物もいるのではないかという、微かな希望。つまり退院さえできれば、その条件を見つけていき、この認識障害と付き合いながらも醜悪な肉塊共の中で生きていけるのではないかという希望だった。
出久の容姿は、見たところ地味めの同年代ぐらいの少年だ。優しい性格がにじみ出ている愛嬌を感じさせる笑顔を見せたり、いたって普通の少年だった。
それなのに、なぜか今の爆豪には、出久だけが人間の形に見える。
肉と汚物まみれの病室に来る、親や親戚、そして同級生らしき肉塊共を吐き気と嫌悪感を隠して観察しても、どう見ても人間には見えない。肉の塊みたいに見えるということと、辛うじて聞き取れる泡立つような奇怪な鳴き声などの共通点があるだけで、爆豪が知っている人間のソレとはかけ離れすぎている。目があったり、無かったり、どこに耳や鼻があるのかすら分からず、手足と判別できる部位や口らしき部位が全部人間の形のソレじゃなくって、メチャクチャだ。
そんな狂った世界で、爆豪にとって夜にやってくる出久だけが救いになってきていた。その姿を見るだけで、まだ自分は正気なのだという確証が持てるし、前の爆豪ならいじめていたであろう地味めのこの少年の人柄のおかげで、夜以外の日時での出来事を包み隠さず吐き出せるのもストレスの発散になった。出久は、時折相づちを打ちながら話を聞いてくれる。きちんとした人間の声で、きちんと話ができることがこれほどに素晴らしいことなのかと痛感した。
そうしてなんとか精神面での支えができていたのだが、育ち盛りの成長期の少年である爆豪はある問題に悩まされていた。
食事だ。
病院食と思われる汚物は、味も匂いも見てくれも最悪だ。生きるための生理現象で無駄に腹だけは鳴るため、まったく食欲をそそらないそれらを口にしたが、ほとんどの場合、耐えきれず吐き出してしまった。のどと胃が受け付けてくれないのだ。
食べたい。けれど食べられない。そのジレンマと、無理矢理にでも食べさせようとしてくる肉塊(たぶん看護師や母親)に怒りを覚えて、ついに手を出してしまったりもしてしまい、得体の知れない土留め色の液体の入った袋から異物を腕に刺されて液体を注入されるようになってしまった。点滴であるのだろうが、認識のせいで気分も精神も最悪だった。
「かっちゃん…、痩せた?」
「……腹減った…。」
食べたくても食べられない状況が続いて、鏡や窓だったであろう物では自分の姿が分からないがきっとゲッソリと痩せているのだろう。
「病院食が美味しくない?」
「ああ…。最悪だぜ…。」
このままじゃ、退院以前に栄養不足で枯れて死ぬしかない。人間は食べなければ死ぬ。
「ところで…、デク? てめぇ、そんな俺の前で何喰ってやがる?」
「えっ、あっああ…、ご、ごめん。お腹すいたのと、かっちゃんに会いに行かなきゃって気持ちがあって…。」
「それで喰いながら来たってか? …ざけんな!」
「ごめん…。」
「ところで、それ見たこともねぇな。棒菓子か?」
「えっ?」
「なんか…甘い匂いがする…。まだあるのか?」
「ご、ごめん。僕が食べてるので全部だよ。」
「…寄越せ。」
「えっ?」
「てめぇだけ腹いっぱいになんて許さねーぞ! だから寄越しやがれ!」
「えっ…、で、でも、コレは…。」
「あぁ? デクぅ? 病院の奴らにお前が病院に勝手に住み着いてるってことバラしてやろうか?」
「う! それ…だけは…。分かったよぉ…。」
「口に入れろ。」
「えっ?」
「手ぇ…動かすのも億劫なんだよ。ホレ。早く。」
出久は、渋々食べていた棒状のモノを口を開けている爆豪の口に入れた。
口からはみ出る長さのそれを口に含んだ瞬間、爆豪は大きく目を見開いた。
「うめぇ! け、けど、固ぇ!」
「それでもだいぶ柔らかくしたんだよ? かっちゃんの顎力じゃ…、ちょっと難しいか。」
「むぐぐ…!」
あの固いお菓子、ビスコンティっか!?っと言いたくなるほど固いそれを頑張って、ついにかみ砕いた。かみ砕いてからは、必死に咀嚼した。
油で揚げたスナック菓子とも、焼いた小麦粉菓子ともつかない味で、けれどほのかに甘く、空腹で飢えに飢えていた胃袋と栄養が足りない脳にダイレクトに直撃した。
唾液に、汚物の味ではない刺激物のような味じゃない、味が染み渡り、手に急に力が入って、口から出ている部分を掴んで、ガジガジ、バキボキと必死に噛んで、噛み砕いて、飲み込み、胃に収めた。
「うめぇ…。」
もっと味わえばよかったという後悔が出てくるが、久しぶりのまともな味に出会えた感動が勝った。
「あのさぁ…。」
「なんだよ?」
「さっきの…、僕が食べてたわけで…つまり…。」
「あぁ? ハッキリ言えよ?」
「その…間接キスってやつ?」
「!」
モジモジとしている出久の言葉に、ギョッとした爆豪は、目を大きく見開いた。
「この、糞デク! お前のせいだぞ!」
「だって、かっちゃんがくれって言うから…。」
「誰が野郎と間接キスだ! 初な女子みたいな反応してんじゃねーよ!」
「それはそうと…。」
出久が切り替えた。
「かっちゃん、ああいうのがいいの?」
「はあ?」
「つまり…、僕が普段食べてる物の方が口に合うのかなって思って。」
「くせぇ生ゴミより最悪な食い物モドキに比べりゃ、圧倒的にいいぜ。で?」
「このままだとかっちゃん飢え死にしちゃいそうだから…、せめて夜の間だけ僕が食べ物持って来てあげる。もう点滴は嫌じゃない?」
「ああ…。いいのか?」
「もちろん! 僕にできることならしてあげるよ!」
そう言われた瞬間、爆豪の心は、ジーンっと強い感動に打たれた。
「かっちゃん?」
「ん…、あ、なんでもねーよ。けど、もうマジでねぇの? もっと喰いてぇ。」
「ごめん…。最近はあんまり手頃そうなのがなくって…。久しぶりに取れたのを、チビチビ食べてたのがさっきので最後。」
「……悪かったな。」
「いいよ。あと少しで、父さんも帰ってくるらしいし、そしたら食べ物に困らないからさ。」
「どういうことだ?」
「あれ? 言ってなかったっけ? この病院で一番偉い人なんだよ。僕の父さん。」
「んん?」
出久の言葉に、爆豪は記憶を掘り起こす。
自分がいる病院は、確か……緑谷病院とかいう、脳科学における最先端医療をうたい文句にしている大病院だったはずだ。
「ってことは、デクの苗字は、緑谷か。」
「そうなるのかな?」
「当たり前だろ? 父親がトップならよぉ。」
「ふーん。そうなんだ。」
出久は、どうもどこか抜けているように見える。
しかし爆豪は、病院の御曹司なら世間知らずでも仕方ないかと納得した。
だが、それだと分からないのが、そんなお坊ちゃまが食い物に難儀していることだ。聞くところによるとこの病院に隠れ住んでいるというのもおかしい。
「お前…マジで変な奴だな。」
「えー?」
「ま、いいけどな。それよか、明日からでも、もっと食い物持って来てくれ。いいな?」
「……うん。分かった。」
「もちろん、汚物なんて持って来たら怒るからな?」
「分かってるよ。さっきのでかっちゃんの口に合うモノも分かったし、だいじょうぶ。」
そう言って出久は微笑んだ。
まさかこんな形で食事の問題も解決するとは思わなかった。自分で言うのはなんだが、口が悪いのでうまくお礼を言えないが、感謝してもし足りない。
いつか……必ず恩は返そう。一生を賭けても。
それだけのことを出久は爆豪にしてくれているのだから。
さて? 出久くんは何を食べていたのでしょう……?
元ネタのゲームでは、郁紀は、頑張って食事に耐えていますが、年齢の違いか爆豪は耐えきれず……。
そのため、この日の夜以降、出久が持ってくるナニカを楽しみに耐えられるようになる。