退職した奥涯教授と違い、このネタでは、現役の医師であり、医院長をしています。
なので、出久のご飯をその権力を使って……。
緑谷病院。
その病院は、脳科学の医学において最先端技術を導入してしている大きな病院である。
そこに爆豪勝己は搬送され、治療を受けて入院している。
その病院のトップであり、自らも優れた医師でもある緑谷久という男が運営している。
海外での大きな仕事を終え、しばらく留守にしていた自身の病院に帰ってきた。
病院所属の多くの医師達や看護師達に出迎えられ、緑谷医院長は笑顔で応えた。
自宅でいったん荷物などを置いてきてから、医院長室に戻り、溜まっている仕事を片づけていく。その手際は時に人間離れしていると形容されることも少なくはない。
書類のほとんどは、ハンコを押すばかりのもので占められていたが……。
ふと、緑谷は、手を止めた。
病院内で保存されている、輸血用の血液や、解剖されてホルマリン漬けにされた臓器などのサンプル……それらの数が合わないという内容の書類。
緑谷は、自分がいない間代理を務めていた副医院長と、輸血用の血液やホルマリン漬けの臓器の管理をしている看護師や解剖医師を呼び、詳細を聞き出した。
どうやら消えているのは、輸血用の血液やホルマリン漬けだけじゃなく、解剖して保管していた身内のいない遺体まで含まれていたようだった。あと、幻覚などの疾患を持つ患者が次から次に怪物を見たと騒いで精神病院の方に転院させられた件も同じ時期に多発していた。
そうして話を聞きだした彼は、青ざめているその者達に、このことは外部に決して漏らさないことを約束させ、あとで口止め料を払うと伝えて仕事に戻した。
「……まったく。」
緑谷は、ひとりになった後、ヤレヤレと言った風にため息を吐いた。
「……出久…。別荘で待ってなさいって言わなかったかい?」
彼以外いないはずの医院長室で、『出久』と、緑谷は呼んだ。
すると……、ボコボコ…ブクブクと音が机の下辺りから鳴り、机の下を緑谷が覗き見て。
「悪い子だな。出久は。それで? どうして病院に来ちゃったのかな?」
『……ゴメ※◎ザ§。』
泡立つような音に混じって、ほぼ聞き取れないような奇怪な音のような声が机の下から漏れる。
それから、その奇妙で常人には耳障りすぎる声を、嫌な顔ひとつせ、緑谷は時折相づちを打ちながら聞いた。
「ダメだよ。出久。もしもお前が、精神疾患のない他の人間に見つかったら大変なことになるんだ。分かるね? お父さんを心配させないでくれ。」
『ヴヴ…。』
「まあ、寂しかったのなら仕方ない。私が悪いのだからね。ところで、コソコソと食事をするのは大変だっただろう? お腹がすいてないか?』
『ヴん。ゾれヨリ、おドウざ※。た§ミがあ△ノ。』
「どうしたんだい? 改まって?」
『聞★デぐレる?』
「もちろんだよ。だって出久は、大切な私の息子だから。それで? 頼み事って?」
そして出久は、緑谷に自分の食料を分けてあげたい人がいることを伝えた。
それを聞いた緑谷はさすがに眉を動かした。
「まさか…、誰かに見つかったのかい?」
『ゴめ…。』
「ああ、ごめんよ。怒ってるっていうよりは、ビックリしたんだ。それで? この病院にいる人? もしかして患者さん?」
『ゾう。』
それは意外なことだ。出久の暇つぶしのイタズラ遊びで遭遇した患者が、出久の普段の食事を必要としているというのだ。
そういう嗜好のある人間というのは、昔、今問わずいる。しかし、入院患者の中にいて、しかも出久を見て食料の調達を頼むのはずいぶんとまあ……。
そう考えると、ムクムクと緑谷の心に好奇心と興味が湧いた。
「その患者さんの名前は?」
『かっちゃん。』
「本名は?」
そう聞くと、出久がスルリと机の下から出てきて、医院長室に設置されているPCのキーボードを打ち、患者のリストからひとつを閲覧した。
「ほう…。」
爆豪勝己。14歳。
自らの個性の暴走で重傷を負い、当病院に搬送され、現在医学における最先端の脳の医療手術を受け回復。
意識の回復後、一時錯乱状態に陥るなどし、錯乱が治まった後、現在ほとんど食事を摂取できず、栄養の補給のため点滴処置が行われている。
検査結果としては、肉体に異常なし。脳への重大ダメージも見受けられない。
「この少年に、出久の“ご飯”をあげたいのかい?」
『ヴん。』
「そうか。分かった。出久が運びやすいように手配しよう。」
『イ●の?』
「この術後の経過状態だと…、育ち盛りの少年には酷だろう。生きたいという意思があるのなら、なおさら回復させて無事に退院させてあげるのが医者の務めだ。お前は、気にせず、私を頼りなさい。」
『アりガドヴ!』
「その代わり。この患者君のことを教えてくれると嬉しいな。私も父としてその患者君にうちの出久がお世話になってることにお礼を言いたい。それにうまく周りを誤魔化すのを手伝ってあげたいしね。」
『ヴん!』
「出久は、優しい子だね。誰かのために何かしてあげるなんて…、お父さんがいない間に…。」
緑谷は、出久の頭らしき部位を撫でて、慈しみの視線を向ける。
出久は、嬉しそうにゴロゴロ、ゴボゴボと声を漏らしていた。
なんで聞き取れんの?レベルです。
まあ、慣れたら聞き取れんこともないので慣れですね。
これから、爆豪の環境は劇的に良くなって、ようやく回復へ向かっていきます。