『デクの唄』 ヒロアカで、沙耶の唄パロ?   作:蜜柑ブタ

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爆豪の母親・光己さんが不憫かも。



爆豪はすでに……?


SS6  偽りの安心

 爆豪勝己の母、光己は、最近の息子の様子を見て少しばかりホッとしていた。

 

 最近、太ってきたのである。いや、標準体型に戻って来たというべきか。

 

 一時期は、昏睡状態で、意識が戻ってからは食事を食べても吐き出したり拒否してガリガリに痩せてしまっていた。

 

 栄養失調でこのままでは生命維持が危ぶまれたが、ある日から、少しずつ食事を摂ってくれるようなった。それでも、健康だった頃を思い出せば、ほんのちょっぴりの量であるが、それでも食べてくれることに安心した。

 

 食べる量も少しずつ増え、最近では一食を普通に食べれるようになった。

 

 病院の食事が美味しくないのは仕方ないだろう。なにせ体調面を考慮した味付けや調理法が優先されるのだ、どうしても美味しくなくなるのだろう。

 しかし…、病院食の量と、食べ始めてからの日数を考えたら…。

「でも、その割には太ってきたわね?」

「……。」

「勝己? 聞いてる?」

「……。」

 光己は、病室の窓をじっと眺めている勝己の様子に、ひっそりとため息を吐いた。

 前に、酷く怒鳴られて以来、一時的に面会謝絶状態になり、それが解除されてからというもの、勝己はこんな状態だ。

 気まずいのだろうか? それとも、単純に顔も見たくないと思われているのだろうか?

 爆豪の横顔からは、なにも読み取れない。無表情だ。

 光己は、あの時の勝己の剣幕と怒鳴り声を思い出す。

 まるで母親に向けるような顔じゃなかった、声や言葉じゃなかった。まるで……、見知らぬ化け物に向かって放ったような…。

 その時、コンコンと病室の扉を叩く音がした。

 入って来たのは、この緑谷病院の医院長だった。

「お母様、こんにちは。」

「こんにちは。医院長先生。」

 そう挨拶をしあった。

 

 勝己の状態が一気に回復に向かい始めたのは、この医院長が直属の医師として担当を始めてからだ。

 光己にしてみれば、まさに救い主だ。

「外で話を。」

「はい。」

 緑谷医院長と会えた日は、こうやって病室から出て別室で話をすることにしている。

 勝己は、とにかく静かにしたいということでこういう体制が取られたのだ。

「……私は、あの子にとって余計なことをしているのでしょうか?」

「勝己君は、現在とても苦しんでいるのです。カルテを見ましたが、あの状態から回復したのは本当に奇跡と言うべきレベルのことです。世界でまだ数例しかない最先端医療技術を手術の患者となったのも大きいでしょう。最先端医療技術とは、まだ未知を孕んでおり、今現在のこと、そしてこれからのことを踏まえて慎重に経過を観察しなければならないのですよ。」

「あの…、あの子が受けた手術ですが…、本当に…安全な手術だったのですか? 何か重大な障害が残るようなことは?」

「お母様。もう何度も申し上げていますが、医療とは、常に成功と失敗、そのどちらの結果を踏まえた上で進化していく未知の世界なのです。私個人の意見で言わせて貰えば……、息子さんが受けた手術は完璧でした。これ以上ないほどの完璧な手術だったのです。しかし、我々医者がしたことは、あくまでも肉体を治しただけで、その身に宿る心までは手術のように治すことはできません。」

「心のケアですね?」

「そうです。心に負った傷は、その心の持ち主と、そして周囲の助けがあって始めて癒えるのです。しかし逆に、傷をより深い物にしてしまう原因にもなる。注意深く、そして慎重にしなければなりません。」

「勝己は…、退院できますか?」

「現在の健康状態からしますと…、このままならリハビリ次第で…というところでしょうか。」

「手足に麻痺はないのですね?」

「ありませんよ。それはご安心を。本当に彼は幸運です。私も長らく医者として務めていますが、この回復レベルは、まさに奇跡ですよ。」

「そう…ですか…。」

 光己は、知らず知らず声が震えていた。

 それが喜びなのか、安心なのかこみ上げてきた感情を抑えられなかった。

「彼に怒鳴られたことを引きずっていますか?」

「っ…。」

「二人きりで話をしました。彼には内緒ですよ? とてもとても…、後悔しているそうですよ。息子さんは。あなたを傷つけてしまったことを。」

「……そうですか。ありがとうございます。」

 光己は、椅子に座ったまま深く頭を下げた。

 

 まるで人が変わってしまったようだと思ってしまっていた。けれど違った。

 あの子は、やっぱりあの子なのだと感じた。

 光己は、そんな大きな安心感を胸に、相変わらず窓を眺めている勝己に帰るねっと声を掛けてから、病院を後にした。

 

 

 

 

 そして……、光己が去った後。

 勝己の病室に入って鍵を掛けた緑谷医院長は、ボード型の端末機に字を書いた。

 そこに書かれた字は、どこの国の字でも、記号ともつかないような異質な文字。

 それを爆豪の前に差し出すように見せると、やっと前を向いた勝己がボードの字を目で読んだ。

 そこから筆談と、勝己の声による奇妙な会話が始まった。

 

 

 『調子はどうだい?』

 

 

「……最悪だぜ。」

 

 

 『アレが、お母さんだって分かったかい?』

 

 

「しつけーからな。なんとなく。」

 

 

 『私の虚言を信じていたよ。

 君がお母さんを傷つけて後悔していると、嘘を吐いた。

 本当に、後悔はないんだね?』

 

 

「ああ…、正直…、胸がちっとばっかしスッとしたような気がするぜ。ついに言ってやったって、なっ。」

 

 

 『君にとって、もはや出久以外は、すべてどうでもいい肉の塊でしかないのかい?

 私も含めて。』

 

 

「あんたは別だ。恩人だぜ。あんたがいなきゃ、デクの奴とも出会えなかったんだろ?」

 

 

 『そうだな。私は確かにあの子を息子として育てていた。』

 

 

「そういやぁ…、そろそろリハビリって、あの肉が言ってたな。」

 

 

 『お母さんがかい?』

 

 

「ああ。……出たくねぇな。」

 

 

 『病院から?

 君は、外が怖いと?』

 

 

「怖えとか…そんな次元じゃねーんだよ…! アイツら、肉共に囲まれた生活なんて考えただけで鳥肌が止まらねぇ!」

 

 

 『そうか。

 では、どうしたいんだい?』

 

 

「できたら、ココ(病院)から二度と出たくねぇ…。分かってんだ…、アイツらが…、あの気色悪くて、くせぇ奴らが、人間だってことは分かってんだ! だけど、もう無理だ…、あんたとこうしてやりとしているのもギリギリだってのに、今更戻れる自信がねーよ。」

 

 

 『そうか。すまない。君がそれほどに追い詰められているのに気づかなかった。』

 

 

「分かってる…。分かってるんだ…。俺が、狂ってるってことぐらいは…。」

 

 

 『君は間違ってなんかいない。』

 

 

「慰め事はもういらねーんだよ!」

 

 

 『ところで、君はこんな漫画を知っているかい?

 とある青年が、君のように重大な脳のダメージを受けて、手術の末に、生物が無機物に見え、逆にロボットが美しい人間に見えるようなったという、ロボットの心を持ったという物語を。』

 

 

「……なんか、どっかで見た覚えがある…かな?」

 

 

 『その青年は、最後にはロボットの女性と結ばれ、自ら人間であることを捨てたのだ。

 君と、出久は、その物語の登場人物に似ている気がするよ。』

 

 

「じゃあ…、アイツが女役? じょーだんじゃねーよ。俺は、ホモじゃねーし。」

 

 

 『形なんてどうだっていいんだ。

 ようは、心の在り方次第なのだと思うのだ。私はね。

 君は、病院から出たくないと言った。だが永遠に肉の塊に世話される生活をするかい?

 それとも…、出久がいること前提でその話を、私に?』

 

 

「……。」

 

 

 『私は、否定などしない。

 君らの邪魔などしない。

 心の在り方を決めるのは、その心を持っている君自身だ。

 分かるね?』

 

 

「俺の…心…。」

 

 

 『ゆっくり考えなさい。

 時間はまだタップリとある。

 その時が、来るまでにはできたら答えを出して欲しい。』

 

 

「……?」

 

 

 『では、私は仕事に戻る。

 疲れただろう?

 ゆっくり眠って、夜を楽しみにしなさい。』

 

 

「あっ…おい…。」

 

 

 緑谷医院長は、ボードを抱えてそのまま出て行った。

 残された勝己は、ぼう然と病室の扉を見つめた。

「……どういうことだ? そのとき?」

 まるで時間制限があるのような言い回しだった。

 爆豪勝己は、母親のことなど一切考えず、母親だった肉塊からの一方的な話を聞き流していた疲れでウトウトと、やがて眠った。

 今夜は、何が食えるんだろう?

 そう考えながら。

 

 

 




爆豪の心には、すでに母親やそれ以外のことは、もうどうでもよくなっている。
出久と緑谷医院長さえいれば…って感じですね。


郁紀ほど成熟していないため、爆豪は耐えられず。
たぶん、出久と緑谷医院長がいなかったらとっくに発狂していた。

そして着々と落ちていく、砂時計のリミット。


※2020/04/21
エンディングは、原作ゲーと同じ3つにしました。分岐します。
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