スパロボDDクロッシングパイロット「コッペパンを一つ所望する」   作:どるき

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異世界からの禍

 それは謎の光と共に現れた。

 エウロペア……平行世界風に言うならばヨーロッパに位置する国の一つに、猟兵機と名付けられた高い性能を持つロボット兵器を有する国があった。

 先の大戦でもその力をもって国力差をひっくり返した軍事国家ワイルティア帝国。

 その首都郊外にそれは現れた。

 銀色の体を持ち長い髪の毛を靡かせる猟兵機らしきもの。正体不明のロボット兵器が突然現れたことにワイルティアの人々が驚かないはずがない。

 しかも偶然ながら猟兵機の演習をしている渦中へのダイブなのだから、敵視されても仕方がない。

 

「この世界の歓迎はずいぶんと手荒いねえ。いや、飛び出した場所が悪かったか?」

 

 光の中から現れるやいなや首都防衛戦力の洗礼を受ける銀色のロボット。それを操縦する男は軽口混じりに状況を分析していた。

 広域を見回すと遠方には栄えている都市があり、自分を襲うロボットはその都市の戦力なのだろう。

 ロボットの性能はアームスレイブならば第二世代と第三世代の中間だろうか。

 なるほど悪くないが兵士の練度はどうにも低い。

 

「戦力は御大層だが乗り手が良くない。こりゃ新兵か? ぎこちないったらありゃしないぜ」

 

 男は後のことも考えたのだろう。

 極力防戦に留めて消耗を避け、反撃は徒手格闘あるいは奪った武器によるものに限っていた。

 何の因果か男の駈るロボットと猟兵機は大きさを含めて共通点が多かったため、奪った武器は問題なく振るうことが出来たからだ。

 

「試作品ですから大事に使ってくださいね」

「わかっている。無駄にはしないさ」

 

 元々は演習中の遭遇戦ということもあり、男が相手にする猟兵機は確かに新兵が動かしていた。

 彼ら新兵に銀色のロボットは荷が重い相手ではあるが、彼らの役目はロボットが首都に入り込まないように押さえ込めればそれで充分である。

 本命は連絡を受けて開発局から試作兵器を受け取って発進した黒い猟兵機。

 黒き魔槍の二つ名を持つワイルティア軍屈指の才女が新兵器をその手に持って向かっていた。

 

「親衛隊の残党か、あるいは敵国の新兵器か……どちらにしろ撃たせてもらうぞ」

 

 大業物を抱えつつも駆け寄る黒い猟兵機は有効射程に入るやいなやそれの引き金を弾く。

 当たってはいる様子だが倒しきれない状況を前に「距離が遠すぎるか」と接近し、そして狙撃を繰り返していく。

 操縦者、ソフィア・フォン・ルンテシュタットの持つ二つ名は彼女が猟兵機を用いての狙撃で戦果をあげたことに由来している。

 油断する相手に凸スナで当てにいくことなど彼女には造作もない。

 

「新手か? こっちはやるようだね」

 

 弾丸を謎の壁で受け止めると、男はニヤリと口元を歪ませた。

 

「なんだ今のは? 遠すぎて威力が落ちたのかと思って近づいてしまったが、当たる前に弾丸が砕けてしまった。この銃が不良品ということではないよな」

「そんなハズありませんよ。僕もスコープで見ていましたが……あれは見えない何かに弾かれたという方が正解のようです」

 

 弾丸が空中で砕ける怪現象を前にしたソフィアは試作銃を作り出した本人、ダイアン・フォーチュナーに確認を取るが答えは得られない。対猟兵機を想定した大型アンチマテリアルライフルの弾丸が当たる前に砕けるなど、いったい何が起こっているのか。

 

「やるじゃない。この世界のエースさんよ」

「シャイゼッ!」

 

 ソフィアが悪ついたときにはもう遅い。試作銃をものともせずに間合いを積め、ついに銀色のロボットは黒い猟兵機と目と鼻の距離にまで近づいていた。

 試作銃はもう弾切れであり使いものにならない。

 ソフィアは試作銃を投げ捨ててブジツの構えで迎え撃つが、ここでも未知の相手ゆえにその判断は誤りだった。

 見えない鎧を纏っていると想定しての心臓狙い。

 否、コックピット狙いの掌打が鋭く空を切る。

 

「今のは危なそうだね。ま、トロくてあたりゃしないが」

 

 男の軽口を聞いたかのようにソフィアは再び悪態をついていた。

 これがもし生身同士の戦いであれば龍吼に捕らえられようが、銀色のロボットにはそれは叶いそうもない。

 完全に見てから避けているのだから、運動性能が雲泥の差だと言って間違いないだろう。

 黒き魔槍と呼ばれるのはソフィアのスナイパーとしての力量によるものだが、もう一つ言えばその力量を猟兵機でも発揮可能なオペレーターとしての腕前と共に「それを再現可能な生身に近い操縦インターフェイス」を猟兵機が兼ね備えているからに他ならない。

 そんなソフィアの専用機をもってしてもなお捉えきれない程に銀色のロボットは柔軟だった。

 オペレーターとしては互角かそれ以上でも機体性能が一段階上ではどうもこうもない。

 

「そこの黒いの……そのまま銀色が動かないように押さえろ。動きを止めさえすれば羽交い締めでも何でもいい」

 

 ヤマト人であれば「ナムサン」とでも言いそうなこの危機的状況を前に、ソフィアは更なる混乱を与えられた。

 黒い服を着た髪の長い女性が突如現れて、そして戦いに割り込んだのだから。

 

「誰だ?!」

「宮廷賢者ハヌッセンさんです。従ってください、ソフィアさん」

「なんだと?!」

 

 ソフィアの常識では猟兵機同士の戦いに国のVIPが割って入ってきたのだ。驚くを通り越して保護しなければと考えるのが当然である。

 だが目の前のロボットを相手に民間人を保護する余裕はなく、そんな隙を見せれば民間人ごと打たれるだろう。

 これがあの有名な賢者であるならばもう彼女にかけるより他にない。

 言われるがまま銀色のロボットの後ろをとって、ソフィアは羽交い締めにした。

 

「羽交い締めにしてどうする気よ」

 

 男は余裕の態度である。

 割り込んできたハヌッセンなどこのロボットの前では羽虫に過ぎないと軽んじていた。

 

「今だ、頼むぞ!」

「その大きなおもちゃと共に巣に帰れ羽虫!」

 

 ハヌッセンがやろうとしている何かが危険だと男を感じないのも仕方がないことだろう。

 人間を羽虫と同一視しているハヌッセンは、よもや自分が羽虫扱いされるなどと、ムッとした顔で術を発動させた。

 空に浮かぶ五芒星は東洋の流れを組むハヌッセンの魔術。目の前の相手がどこから着たのかを探り、そして適切な帰り道を生み出すための術式。

 口にはしないが魔術的なスキャンにより「異世界からの来訪者」だと見抜くハヌッセンは、そこへロボットを押し返さんと気を高める。

 

「なんだよこりゃあ。まだカシムを見つけてないってのに」

 

 ハヌッセンの放った転送魔術に男の雑念が混ざり混んだ。

 ひとまず銀色のロボットは虚空へと消えていったが、はたして元の場所に返せたのかは彼女にも図りかねない。

 残されたソフィアは無事な兵士を統率して事後処理にあたり、一段落したところでダイアンの元へと向かう。あれは何だったのか、聞かないわけには納得できないからだ。

 

「説明してくれてもいいよな?」

「構いませんよ。僕にわかる範囲であれば」

「その言い方……まるで貴様でも理解できないとでも言いたそうだな」

「残念ながらその通りなんですよこれが。あの銀色のロボットは僕が作った猟兵機よりも基礎性能が高い上に、あの見えない力まである。あれを本気で使っていたら、ソフィアさんも無事ではすまなかったでしょう」

「あれで本気じゃないだと?!」

「ええ。回数制限があるのか、相手はあの力を極力出し惜しみしていました。新兵たちが軽くあしらわれた際にはあの力を使っていないことはあの場にいた皆さんに確認済みです」

「それで……あの力が何かって言うのは? もしあれが古代エウロペア帝国の遺産ならば、大変なことになるぞ」

 

 古代エウロペア帝国とはこの世界にかつて存在した国のこと。その遺産の数々はこの世界ではどこよりも発展した技術の塊である。ソフィアが理解を越えた技術を前にして懸念するのも当然のことだ。

 

「その心配はありません。古代エウロペア帝国はあくまでも機械文明によった存在です。その中には魔法のごとき技術もありますが、本質的にそれらは魔法とは異なるのです。だがあの力は科学で再現したものだとはいえその根底は魔法……帝国のそれとは起源が違います」

「それは宮廷賢者の知恵か?」

「ええ。あの人は本物の魔法使いですから。科学には疎い反面でそういうオカルトには詳しいんです。その彼女が言うにはあの力は虚弦斥力……空間を歪めて虚空に壁を作る術式なんだそうです」

「どうりで弾丸が通らないわけだ」

「もっと恐ろしいことに虚弦斥力は単純なバリアだけではありません。敵に向かって放てばそれ自体が強固な矛へと早変わりするんです。考えてみてください。空間ごとくびり切られたら、どんなに頑丈な鎧で身を守ろうともひとたまりもありませんから」

「だがヤツは……」

「ソフィアさんが言いたい通り、そのような攻撃はしてきませんでした。ですが出来ないとは限りません。むしろ虚弦斥力を操れるのならば出来て当然なんですから」

「まったく、今回は運が良かったということか」

「そうですね。あの人が無償で即座に動いてくれるだなんて珍しいことなんですよ」

 

 話が一段落したところでダイアンは紅茶を差し出した。

 自分が飲むためではなく、ソフィアが来訪したときのために用意していた取って置きの茶葉を使って。

 

 一服し、悔しいが最高の味を前に頭がスッキリしたソフィアは一つの疑問を浮かべた。

 ダイアンが言うに物珍しいほどの早急な対応をしたということは、宮廷賢者は相手の素性を察しているのだろうかと。

 

「ところで宮廷賢者は?」

「僕にもわかりません。ですが、あのロボットを追っていることだけは確かです」

「そこまで固執すると言うことは、相手の正体も宮廷賢者にはお見通しか」

「おそらくは。なんでもあれは招かれざる異世界からの禍なんだそうです」

「異世界?! 空想小説ではあるまいし。ただでさえ宮廷賢者が魔法使いというだけでも眉唾だというのに」

「あの人が言うに、あのロボットを呼び出した元凶を放置していたら異世界の門が開いて同じような存在がわんさか押し寄せてくるそうです。ソフィアさんもわかると思いますが、あのロボットは虚弦斥力を脇にどけても我々のテクノロジーを凌駕した存在です。それが大勢ともなればもうお手上げですね。白旗をあげて同盟を結べなければ、ワイルティアとて滅ぼされることでしょう」

「それは避けねばならないな」

「そうですね。ソフィアさんが異世界の兵士に捕まってあんなことこんなことをされたらと思うと、僕も怒りしかありませんよ」

 

 最後の言葉だけは流石に失言だったので、ソフィアはダイアンを目で殺した。

 そんな視線を浴びてもひきつりつつ喜ぶダイアンもまた大したタマであろう。

 この二人はこれ以上はなにも出来ない。

 ただ宮廷賢者働きに賭けることしか出来なかった。

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