スパロボDDクロッシングパイロット「コッペパンを一つ所望する」 作:どるき
ワイルティア帝国の片田舎オーガンベルツにあるパン屋、トッカーブロートの店主ルートはいつものように配達をしていた。
行き先はお得意様のベルツ鉱山。
鉱山労働者たちにとって、彼のパンは労働の中の楽しみだった。
ルートはいつものようにトラックをトンネルの前に止めると、積み荷のパンを奥にいる親方たちへ届ける。
全員分を抜けなく届けてトラックの前へと戻ってきたルートの目の前に少年は現れた。
「が、がうる……ん」
少年はうつ伏せで倒れてうめいていた。
驚いたルートは彼に駆け寄って傷の具合を見てみるが、それは酷いとしか言いようがない。
胸を中心に青アザが広まっていて、胸に耳を当てれば脈拍も狂っている。
まるでブジツの心臓撃ち……龍吼をうけて人為的な心不全を起こしているかのようなか弱い脈拍。むしろ彼の状態をそう見抜けるのはルートがその龍吼を身に付けているからに他ならない。
「荒療治だが我慢してくれ」
意識のない少年は答えられない。
だがルートは緊急事態だと、少年の胸を叩いた。
心臓が何らかのショックで正常に動かないのならば、同質のショックで戻せるだろうと。
「それで連れてきてしまったのですか。主様もお優しいのは構いませんが、少し危険では御座いません?」
「相手は子供だ。問題ないだろう」
「主様がそう仰るのなら」
店に戻ると出迎えた看板娘スヴェンに指示を出して、ルートは早速少年をベッドに寝かせる。
人道的に考えれば正しい行為でありスヴェンは主を咎めるつもりなどない。しかし少年の容姿故に彼女は危険だと苦言を呈していた。
脱がせて机の上にある少年の身なりは頭を包むヘッドギアに装甲板のついた黒いスーツといかにも怪しい。
軍人、それも特殊な部隊の工作員としか思えない格好だったからだ。
もしかしたらかつての自分と似た境遇かもしれないとルートが絆されているのではないか。それがスヴェンの心配である。
ズヴェンはルートが少年を匿うと言った手前、それに逆らうつもりはなかった。
「それではまた留守番を頼むよ。医者と、ついでにマレーネを呼んでくる」
「でしたら私にお任せを。少年が目覚めた場合のことも考えれば主様はそばにいた方がよろしいかと」
「それは一理ある。では任せるよ、スヴェン」
「畏まりましたわ。全速力で医者を呼んで参ります」
ルートの指示を得てスヴェンは急ぎ足で店を出ていった。
それから一時間程が経過すると、スヴェンの依頼を受けた町医者がトッカーブロートにやってくる。
酷い打撲だと医者も診察し、炎症を押さえるべく少年の胸に軟膏を塗ると、安静にするようにと言い残して医者は去る。
診断によれば命には別状はないとのことでルートは胸を撫で下ろし、そしてまだ帰らぬスヴェンの帰りを待った。
流石に徒歩ではマレーネのいる教会までは時間がかかるか。
そんな呑気なことを考えつつ。
「こ、ここは……?」
医者が帰ってしばらくしてからだろう。
投与された薬のお陰か少年は目を覚ました。
自分がどこにいるのかと困惑する様子だが無理もない。
ルートは保護者として彼に接した。
「ここはオーガンベルツ。キミはベルツ鉱山の近くで倒れていたのを俺が発見して保護させてもらった。俺の名前はルート・ランガート……キミは何者だ?」
「ベルツ? オーガンベルツ?」
少年は聞きなれない地名に困惑していた。
倒れる前の彼がいた場所に、そのような地名はなかったからだ。
この少年はワイルティアの人間ではない。
それどころかこの世界の人間でもない。
平行世界からの来訪者であろうと誰が予想できるものか。
「まさか記憶喪失というやつなのか?」
「そうではない。怪我のせいで頭が回っていなかっただけです。申し遅れたが自分はソースケ・サガラ。助けてもらったようで感謝します、ランガートさん」
「サガラくんか。名前の響きとその黒い髪は、もしかしてキミはヤマトの人間か?」
○○スケという名や三音と短い姓から宗介の出身を予測するルートは、ヤマト出身の恩師を思い出して少し懐かしむ。
一方で宗介は自分がルートに怪しまれないようにと敬語を含め言葉を選んでいた。気絶する前、ガウルンとの交戦中に「謎の光に包まれた」ことを辛うじて覚えていた宗介は状況判断から平行世界に移動したと推測し、正直に話してもややこしいことになるかもしれないとそれを隠していた。
ヤマトと言う国がこの世界における日本であろうことは宗介にもすぐに予想がついた。
そこで宗介は無言で頷き、自分がこの地からは遠いであろうヤマトの人間だと嘘をついた。
ルートの持つ金髪碧眼という特徴は彼の世界でヨーロッパに多い。それにルートの操る言葉からこの土地が彼の世界でいうドイツやオーストリアにあたる国だと予想をつけて。
「ところで、体の具合はどうだ?」
「激しい動きはまだ出来ないが、起き上がれる程度には回復しています」
宗介は自分を案じるルートを安心させようと上半身を起こした。
口では気丈にふるまうがこれだけで宗介の額には脂汗が滲むほどで、ルートからすれば余計に辛そうなのだが、少年が見せる強がりにルートはどこかシンパシーを感じていた。
ルートも以前は軍人で、しかも特殊部隊にいた経験もある。親を亡くして宗介の年の頃には軍の汚れ仕事をしていただけあって、宗介がその頃の自分のように見えていた。
ヤマトに人狼のような存在がいたとは知らないが、かつての自分のような不幸にはなってほしくない。
己が恩人と同じ立場だなと、ルートは宗介を温かい目で見ていた。
「この辺りでございますね」
一方その頃、医者に往診の依頼をしたスヴェンは教会には向かわず、ルートの命令に背いてその足でベルツ鉱山に来ていた。
背くと言っても自分の行動を優先しただけだが、これはルートの安全を確保するために必要なことだとスヴェンは考えている。
スヴェンは己が赤い瞳を輝かせると、彼女がもつ機能を駆使してそれを探した。
そしてそれはスヴェンが思った通り、ベルツ鉱山に隠されていた。