スパロボDDクロッシングパイロット「コッペパンを一つ所望する」 作:どるき
スヴェンは教会の近くにアーバレストを停止させると、なに食わぬ顔で表からそこに入った。
この教会のシスターマレーネは正規の聖職者ではないが、本物同様にオーガンベルツ住民から慕われている。
そんな彼女はルートに色目を使っており、故にスヴェンは彼女を嫌っていた。
嫌いと言っても嫌悪とはまた別のジェラシーなので、こうしてルートの頼みならば同じ町の住民としてお付き合いは勿論している。
そんな普段の延長のつもりで教会の戸を開いたスヴェンに、彼女の珍しい姿が飛び込んできた。
「シスター……麗しいあなたの力を貸していただけませんか?」
見慣れない男性がマレーネの肩を掴んで、今にもキスしそうなほどに接近していたのだ。
マレーネもまんざらではないのか赤面はするが振りほどかない。
あのような殿方がいるのならばルートに色目を使うことは無くなるだろうとスヴェンは思うが、よく見れば男性の格好は普通ではなかった。
肩にはサポーターを着けているのか羽織ったジャケットはやけに肩口が盛り上がっているし、腰にはホルスターで拳銃を携えている。
それにマレーネに鼻の下を伸ばしつつも戦場に身を投じているかのように警戒している様子で、スヴェンの足音にも気づいて反応を示した。
まさか振り向き様に拳銃で撃ってきたりはしないだろうか。スヴェンはそんな予感がした。
「お邪魔でしたか?」
「ちょ、ちょうどいいところに来た!」
とりあえず挨拶がてらスヴェンが声をかけると、彼女の来訪に気づいたマレーネは男性の手を振りほどいてスヴェンに駆け寄った。
気が緩んだのか眼鏡越しの眼に涙が貯まりだして、この様子ではマレーネは何をされたのやら。
「なんですのいきなり。あちらの殿方とよろしくやっていた最中にお見受けしますが?」
「そんなんじゃないって。あの人はただの旅人だって」
「それでもちょうどいいとはいったいどういうご用件で?」
「なんでもはぐれた仲間を探しているそうなんだけれど……どこの軍人だかわからない格好なのよ。ほら、あたしって昔はいろいろあったじゃない?」
「なるほど。仲間を探すっていうのは口実で、正体は自分を拘束に来た他国の工作員かと思ったと」
「その通り。だけどあんたが一緒なら強引には来ないだろうなと」
男性が他国の工作員だと勘違いしていたマレーネは、自分の過去に関係があると思いスヴェンに泣きついていた。
たしかにかつての彼女がやったことにはそういう目にあっても仕方がない事件がひとつある。だがあの件はもう闇に葬られた一件であるし、なにより仮にいまさら蒸し返すのならば、穏便に誘い出して連れ去ろうなどと回りくどい真似はしない。
強引に突撃してドンで事足りてしまうからだ。
「バカですわね。本当にそのような相手ならば、肩をつかんだ時点で毒針でブスリとやっていますわよ」
「だったら何者だっていうのよあの人」
「確かに見るからに怪しいですわね」
「……おや、そちらの方もお知り合いですか?」
突き放されてスヴェンとひそひそ話をするマレーネに近づいてきたことで、件の男性の姿をここで初めてスヴェンは正面から捉えた。
金色の髪の毛は脂汗で濡れており少し汗臭い。
横にいるアバズレには男臭い魅力的な匂いに感じるのかもしれないが、戦場での経験で言えば強敵との戦闘で嫌な汗をかいたばかりという方が近いだろう。
それに羽織ったジャケットの下にはプレートつきの黒いスーツである。これでカタギだと言われても信用できようものか。
だがよく見ればこの服装は見覚えがある。
そこでスヴェンはアルから聞いた話を元に相手の予測を立てた。
「ええ。この街のパン屋、トッカーブロートのスヴェンと申します。失礼ですが、もしやあなたはクルツ・ウェーバーさんではありませんか?」
「何故俺の名を?」
「やはり」
格好から推測した通り、目の前の男はクルツだった。
ゲートを通ってこの世界に移動する前に宗介の近くにいた僚友は彼だけなのをアルは知っていた。
それに加えて宗介と同じ黒いスーツなのだから、彼の仲間だと推測するのは容易い。
「ちょっと表に来ていただけません? あ、そこの眼鏡はここで待っててくださいまし。お話の邪魔ですので」
「なんだとこのスケ」
「落ち着いてくださいシスター。どうやら込み入った話のようなので。終わったら戻りますから」
「そういうところですわ」
マレーネを中に残して二人は外に出た。
スヴェンがマレーネに席を外させたのは余計な手間を省く為に他ならない。
自分はアルから説明を聞いているとはいえ、普通なら彼らが進んだ科学を持つ平行世界から来ていると信じられようものか。
「そろそろいいですかね。さて……アンタは何者だ?」
誰も自分たちのことを知らぬはずの平行世界でスヴェンが自分の名を知っていたという事実。
彼の立場では疑っても無理のない行動をしているスヴェンにクルツは腰から抜いた拳銃を向けた。
「まずはこれをご覧下さい」
もっとも、飛来する弾丸すら指でつまめる人間型猟兵機のスヴェンにはこの程度では脅しに弱く、彼女は意に返さず話を始める。
スヴェンがクルツを誘い出したのはアーバレストの前。合図と共にECSを解除したことで晒された白い巨体をクルツは見間違おうものか。
「そこにいるのか? ソースケ」
「その少年ならわたくしの主様が匿っておりますわ。行き倒れておりましたので。詳しくは彼にお聞きになってくださいませ」
「彼?」
「アーバレストに搭載されているアルですわよ」
スヴェンに従ってクルツはアルと交信し、この世界で宗介の見に起きたことを把握した。
転移前に受けた攻撃で宗介が怪我をしていることや、こちらの世界側にはゲートが見当たらず、転移位置が各々で異なること。
他の平行世界と同様に人型ロボットこそ存在しているが、基本的には科学技術が数十年遅れているこの世界では現地の有力者の協力を得てゲートを探すなど困難を極めるだろうこと。
そしてこれはクルツだけが知っていることだが、自分と同様に宗介の後を追ったガウルンもこの世界に来ているだろうこと。
帰り道を探すよりもまずは宗介と合流するより他にないかとクルツも悟った。
「事情はわかった。ソースケの元に案内してはくれないか?」
「畏まりましたわ。ところであなたもASなるモノをお持ちですこと?」
「ああ。俺のは向こう側に隠してある」
「アルには彼を主の元に案内すると言ったしまいましたが、さすがに二機も店の前には停められませんわね。少しお待ちを。アルに謝って来ますので」
アーバレストだけならと思っていたスヴェンだが、もう一機いるとなると話が違う。
そこでアルには教会に残るように頼み、宗介の元にはクルツだけを連れていくこととした。
この間、アーバレストのECSはずっと解除されたままである。教会の周囲には人気がないのでと隠すことを配慮していなかったのだが、それが不幸の引き金となる。
「見つけたぜ……カシム」
ベルン郊外からハヌッセンの術で転送されたガウルンが、アーバレストを発見してしまったのだ。