スパロボDDクロッシングパイロット「コッペパンを一つ所望する」 作:どるき
遠方に見えるアーバレストを発見したガウルンは、コダールを飛ばして教会に急ぐ。
地面を巨人が蹴る音が周囲に響き、首を横に降ったクルツの前に銀色のそれは現れた。
「よお色男。カシムは居るか?」
「ヤツは俺が引き付ける。キミは早くソースケを呼んできてくれ」
「畏まりましたわ」
「なんだよ無視かよ。連れねえな」
「ちょっとは大人しくしていろ。お目当てのソースケならすぐに戻ってくるからよ」
「素直で結構じゃない。というか、ここには居ないのか?」
「あいつはちょっと遅い昼飯を買いに行ったところだぜ」
「だったらコッペパンだったか? カシムがお気に入りのあのパンを喰ってみたいなあ」
「テメーに御馳走するだなんて誰が言ったよ」
「だったら代わりにテメーを喰ってやろうか? カシムが来るまでの暇潰しだ」
「上等だ!」
うまくガウルンを挑発して一対一の決闘に持ち込むクルツ。
その隙にアーバレストに乗り込んだスヴェンはECSを使う暇もなく全速力で店を目指す。
少年の体は万全にはほど遠いが、コダールを退けるのには手助けが必要になる。
彼とアーバレストに搭載されたラムダドライバなる切り札に頼るしかないとスヴェンは判断していた。
それには怪我が思いのほか浅いことに賭けて、本来の主である宗介を頼るしかない。
「主様!」
騒音をたててアーバレストを店の前に停めたスヴェンはルートを求める。
事情を知らないルートはきょとんとした顔をしているが、スヴェンの表情から緊急事態であることを読み取ってすぐ狼の顔となる。
「お帰り。随分と慌てているが、表の猟兵機はいったいどういうことだ」
「ランガートさん……今の物音は?」
「キミはまだ寝ていないとダメだ」
「ちょうどいいですわ。無茶は承知ですが二人とも表に」
「ス、スヴェン?!」
急いでいたのもあって、スヴェンは布団ごと裸の宗介を抱き抱えると、アーバレストの元にルートを連れてきた。
初めて見る白いロボットに小首を傾げるルートと「何故アーバレストがここにあるのか」と小首を傾げる宗介。
理由は異なるが二人の反応は似ている。
「この猟兵機はいったい……」
「これはアーバレスト。俺のASです」
「詳しい説明は後にしますが、今すぐこれに乗って教会に向かっていただけません? あなたのお仲間が大変なことになっていますの」
「仲間……まさかクルツとガウルンがそこで交戦中なのか」
スヴェンは肯定の意味で頷いた。
だが直接抱き抱えて外に出ただけでも随分と顔色が悪く、この様子ではとても彼は戦えそうにない。
かといってルートに乗ってもらうにしても、それではラムダドライバが使えず性能が落ちてしまうので、大事な主様を危険にさらすだけだ。
八方塞がりなスヴェンはおろおろとルートの顔を見てしまい、そんな彼が「この猟兵機で少年の仲間の助太刀にいかないと、オーガンベルツの町まで危険になるであろう相手が現れた」と察した様子に心を痛めてしまう。
なにか手段がないか。
例えば自分がアーバレストのシステムに介入し、直接ルートをサポートすることで宗介専用のラムダドライバをルートでも使えるようにするような。
「困っているようだね」
コンフリクトにより思考が割れて、オーバーフローしかかったスヴェンの頭脳に誰かが語りかけてきた。
「どういうわけかあの機械にも僕の力は作用する。だからいまキミが望んだことは、キミさえ求めれば容易く叶えられるよ」
スヴェンは幻聴かもしれないその声に身を任せた。
「少年の怪我ではとても戦えませんわ。代わりに主様があれに乗ってくださいませ。早くしないと教会も巻き添えになってしまいますわ」
「わかった」
「待て! 民間人を勝手に乗せるわけにはいかない。そもそもランガートさん……あなたにはあれを操縦できるのか?」
「サガラくん。その傷では無茶だ。それに俺だって元軍人だ。猟兵機の操縦だってお手のものさ」
「無茶でもなんでも、俺がやらなければ……」
「失礼いたしますわ!」
ルートを行かせまいと無理をする宗介。
スヴェンは寝ていた彼を無理やりに起こしたのは自分なので少し罪悪感を感じつつも、急所を刺激して宗介を気絶させた。
本来なら悶絶する程度のそれでも、重症を負っている今の彼では耐えられない。
一先ず宗介をベッドに再び寝かせると、アーバレストに乗り込んだルートの足元でスヴェンはアーバレストに手を触れた。
搭乗した大男が例の元大尉だと察して彼に合わせてセミマスタースレイブの調整をするアルに隣り合うように、彼女もまたアーバレストに乗り移る。
「確認する。貴官はワイルティア軍元大尉、ルート・ランガートで間違いないか?」
「その通りだが、何故キミは俺のことを?」
「その先は私から。お久しぶりです、ランガート大尉」
「その声……もしかしてアーヴェイか? 何故キミがここに」
「その説明は作戦終了後にいたします。まずは作戦内容の確認をさせてください」
「わかった。その前にカメラを足元に切り替えてくれ。不用意に動いてスヴェンに……足元の人間に危害を加えるわけにはいかない」
「了解(ラージャ)」
カメラの切り替えはアルが担当。
サブスクリーンに映し出されたスヴェンはなにやらうずくまっているが、体は少し離れているので大事ないだろうとルートは機体を少し動かす。
目の前で巨体が動いても微動だにしないスヴェンはまるで気絶しているかの様子だが、ここにアーヴェイがいるという事実で状況を察したルートはアーヴェイの説明を受ける。
作戦内容は教会に出現した銀色のロボット「コダール」の撃退。僚機は先行して交戦中のM9ガーンズバック。
特筆事項は敵機に搭載されたラムダドライバなる装置の存在から、自軍もアーバレストのそれを発動させなければ勝利は困難という点。
唐突に虚弦斥力発生装置がどうたらと言われたところでルートにはちんぷんかんぷんだが、一つだけ言えるのはアーヴェイと一緒なら負ける気がまるでしないということ。
訳がわからない秘密兵器でも、アーヴェイと一緒なら問題なく発動できるという安心感。
ルートは彼女が知られたくないと隠している秘密に既に気づいている。
割愛すれば気づいて当然の出来事が先にあったのだからそれも当然なのだが、だからこそ彼女と一緒なら自分は無敵だと思えていた。
「説明は以上です。なにか確認事項は?」
「何もない。始めようか、いつものように」
「では、いつものように始めましょう、大尉」
正直に言ってルートにとって宗介もクルツもアルも、彼らは見ず知らずの他人である。いくら彼らを狙う敵がいるとしても、無関係を装えば身の危険まではおそらくない。
だが本当に些細なきっかけとはいえ既に宗介とは縁ができいる。スヴェンもアルやクルツと縁ができているようなので、放っておくのも後味が悪い。
それになによりアーヴェイがその敵と戦うと彼女の意思で決めたのだ。お膳立てをここまでされたら、彼女の願いを叶えなければとルートは意気込む。
まるで好きな女の子にいい格好をしたいと背伸びする少年のように。
ルートは全速力で教会を目指した。