スパロボDDクロッシングパイロット「コッペパンを一つ所望する」   作:どるき

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コッペパンを一つ所望する

 草原には三機のASが残された。

 スヴェンに引きちぎられ頭部だけになったコダール。

 乗り手を失って座り込むアーバレスト。

 そして装甲は歪みヒビだらけのガーンズバック。

 負傷した脇腹を押さえたまま身動きがとれないクルツの前に、黒衣の女性が現れた。

 ガーンズバックのハッチを開けるこの女性はハヌッセン。ベルンからコダールを追って来た宮廷賢者と呼ばれる国賓である。

 

「そこの男。ここで何があった?」

「へへ。教えて差し上げたいのは山々だけど、その前に少し手を貸してもらえませんかね。傷口を塞がないと洒落にならないもんで」

「お前……怪我をしているのか」

 

 クルツの脇腹に滴る血を見たハヌッセンは得意の術を使い傷を塞いだ。

 この程度の怪我ならなんてことないと事務的な態度で。

 

「これは?」

「応急処置だが傷なら塞いだ。とっとと語れ色男……包み隠さずな」

 

 美人に色男と言われれば悪い気分はしないし、不思議な力で傷を治してもらった恩もある。

 断る理由はないのだが、彼女の本心を感じ取ったクルツは多少のバツの悪さを感じつつも先程の戦いを伝えた。

 包み隠さずと言われた以上、彼らがゲートによって平行世界から来たことも含めていたが、ハヌッセンからすればそれも全てお見通しと言ったところ。

 そして巨大な女の子が消えたあたりからレザニウムを回収したハヌッセンは「これで禍の元は断たれた」と安堵した。

 クルツはハヌッセンを人外の輩のように感じていたが、この瞬間の横顔だけはクルツにも人間らしいものに見えた。

 

「あとはお前たちを返すだけか。連れというのは何処に行った?」

「それがですね……さっきまであれを操縦していた男が戻ってこないことには」

「その男とは筋骨隆々で顔に傷のある男だったな。さて、どこかで見た顔か?」

「あの……もしもし」

「なんだ女」

 

 話し込む二人の間に教会から顔を除かせたマレーネが割り込む。

 ちなみに彼女は物音がしている最中は子供たちを遠ざけるべく教会内に隠っていたため、先の戦いは見ていない。

 

「たぶんそれってルートのことですよ」

「では案内しろ。その男のことを思い浮かべるだけでいい」

「はい?」

 

 とりあえずハヌッセンに言われるがままルートの顔を浮かるマレーネの額に手を触れるハヌッセン。

 すこし目を閉じてから見開いたマレーネの目の前からはクルツとハヌッセン、それに三機のASは姿を消していた。

 

「とりあえず教会に戻ろう。サガラくんの仲間が待っている」

「その必要はない。また会ったなルートとやら」

「ヒュー! お熱いね」

「え?!」

 

 ハヌッセンが転移の魔術を使ったのはちょうどルートがスヴェンを抱きしめていた頃。

 ルートが腕を離してさて教会に戻ろうかとしていた瞬間に二人はトッカーブロートの前に移動してきた。

 初対面なクルツにからかわれてルートまで顔を赤くするのをちらりと見たハヌッセンは、奥にいるであろう宗介会うべくずかずかと店に入ろうとする。

 そしてすれ違い様のスヴェンの耳に、小声かつ早口で「いい男を捕まえたな機械人形。わたしなら一晩で千回はかますわ」と囁いた。

 人型猟兵機の聴力だからこそ聞き取れたその言葉にスヴェンは余計に顔が赤くなってしまった。

 

「もういいだろう。起き上がってさっさと服を着ろ」

 

 宗介の治療もあっけなく終わり、予定がつまっているのでさっさと終わらせたいといった態度で急かすハヌッセンに宗介も従った。

 その中で宗介は小首を傾げる。そもそもこの女は何者なのか。

 この場で彼女を知っているのは以前助けてもらった恩があるルートだけなのだが、矢継ぎ早にことを進められれば紹介すら出来ないでいた。

 

「あとはわたしが元の世界にお前たちを帰せば全て終わりだ」

「元の世界? どういうことですか」

「なんだ。知らずに協力していたのか」

「放っておけば教会が巻き込まれると言われてつい。それに詳しい説明は聞く時間もなかったもので」

「ふむ。だったらそうだな……あまり深く考えなくていい。わたしの術で彼らを故郷に返すだけだ。一応聞いておくが、帰る前になにか一言あるか?」

「俺からはソースケが世話になったので助かったとだけ。これ以上は変に親しくなって別れ惜しくなるのも困るからなにも言わないぜ」

「……」

 

 まずはクルツが感謝の言葉を伝えたが、今回はそこまで深い付き合いがあった訳でもないのでどこか事務的な謝礼であろう。

 それを横で見ていた宗介とて助けてもらった恩はあれどもルートのことをろくに知らぬままなので気のきいた別れの言葉など浮かばない。

 この場で言うかは微妙な内容としては「ガウルンを退けたと言うことは、彼は初見でアーバレスト……ひいてはラムダドライバを使いこなしたのか」とは聞きたいのだが、流石にそれを野暮と感じる程度の情緒が宗介にもあった。

 心の中を悩ませる宗介だが、ふと店の軒先を見てようやく気づく。彼はパン屋の主人だったなと。

 

「色々と助けていただいた上でわがままついでになってしまうが……パンを一つ頂けないか? ランガートさん」

「それくらいお安いご用さ。どれでも好きなのを持っていくといい」

「それでは……」

 

 宗介がパンが欲しいと頼むと、ルートの顔がにこやかに緩んだ。

 パン屋の主ならばそのパンは自慢のものだろうと予想しての願いだったが、どうやら喜ばしいもののようだと宗介もつられて微笑む。

 

「コッペパンを一つ所望する」

「コッペパン?」

 

 ルートは宗介の注文に小首を傾げた。

 効いたこともない名前のパンを要求されても当然ながらこの店には置いていない。

 

「なんだ、パン屋のくせにコッペパンを知らないのか」

 

 パン屋ならば当たり前のようにあると思っていたコッペパンが売っていないどころか、存在すら知らないルートに呆れて宗介はつい溜め息を一つ。

 そんな彼の年相応な反応を顔に傷を持つ強面の店主は心の中で喜んでいた。

 俺がコッペパンを知らないことを心底残念そうにするこの少年は人狼だった頃の自分のようにはなっていないのだろうと。

 隣にいるクルツもよき僚友であると共によき友人なのだろうと先程からかわれたことから推測し、軍隊所属でも健全な彼の行く末を心の中で祈る。

 

「すまない、俺の不勉強だ。代わりといったらなんだが、すぐに食べられるバゲットサンドとお土産用のアーホルン・ヘルブストを用意しよう」

「なんですか? それは」

「メープルの甘いジャムが入った馬蹄型のパンだソースケ。便乗するようで悪いが、そのパンは多めに持たせてくれないか? 向こうの仲間にも振る舞ってやりたいし」

「だったら少し時間をくれないか。どうせなら焼きたてを持っていってもらいたい。スヴェンは皆さんにお茶とバゲットサンドを振る舞ってくれ」

「畏まりましたわ」

「気前がいいなお兄さん。ありがたく御馳走になるぜ」

「おいおい……わたしはとっととカタをつけて帰りたいのだが? 土産などあるだけ持たせれば良かろう」

 

 ルートが焼きたてのパンを持たせたいと言い出したことで、馬蹄型の甘いパンを知っていたクルツがはしゃぐ横でハヌッセンは不満げに店棚のそれを指差した。

 売り場にあるのは二つだけだが、クルツのわがままに譲歩せずそれだけ持たせれば充分だろうと。

 

「すみません。俺のわがままに付き合ってもらって。でも以前助けていただいたときはお礼もできてなかったので、あなたにも俺のパンを食べてもらいたかったんです」

「ふん。あいつらに担がれたのではなく、あいつらがお前に担がれたってことか」

「そうなりますね」

 

 宗介らを引き留めたことが自分へのもてなしのためだと言われて、ハヌッセンは不満を取り下げた。

 そして振る舞われたバゲットサンドに舌鼓を打つ三人を横目にアーホルン・ヘルブスト十人前を焼き上げたルートは、ほかほかのうちに梱包をして宗介に持たせた。

 

「ではこれでお別れだ。サガラくん……キミたちに幸福があらんことを」

「???」

「そのパンにはそういうお守りの意味があるんだよ。帰ったら普段心配させてる詫び代わりにカナメちゃんにプレゼントしてやれよ」

「それはもしかして恋人かな?」

「まあ、そんなところですよ」

「クルツ!」

 

 この頃はまだ自分の恋心をうまく整理できていない宗介は、クルツのからかいにムキになる。

 そしてそういう相手がいるからこそ彼はかつての自分のようにはなっていないのだろうなと、ルートは一人で納得した。

 土産を持たされた宗介とクルツはハヌッセンの術によって元の世界に消えていく。

 また会うことがあるかはわからないが、ルートはその時に向けてコッペパンについて勉強しようと心に決めつつそれを見送った。

 

 ちなみに一説によればコッペパンは西暦1919年に日本軍に納品されたパンが起源だと言われている。

 大陸歴921年が宗介の世界における西暦1919年のいつに当たるのかは定かではないが、まだコッペパンが生まれて間もないこの世界でルートがそれを知る日はだいぶ先の話となる。

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