昨日の夜にキリシュタリアが立てた作戦を確認し、魔力を一番感じられる城。 恐らくは黒ジャンヌのいる城で間違いないだろう。 近づけば近づくほど竜の姿を見かけることが増えた。
出来る限り戦闘を避け、遂に小高い丘の上にある城が目視出来る距離までたどり着いた。
「ようやくたどり着いたな。 皆。 作戦は覚えているだろうね?」
「ああ、ほとんどが正面突破の簡単な作戦だからな」
「戦力もない。 時間も無い中でキリシュタリアは良くやってくれたよ」
「……まぁそれはそうだが。 僕たちの誰かでも失敗したら全滅だぞ」
「だけど成功させるしかないだろう」
「お優しいリーダーだな。 まあ良いさ。 せいぜい足掻いてやるさ」
「……」
「先輩。 大丈夫ですか?」
マシュが俺の顔を覗き込む。
「ああ、大丈夫だよ。 俺は一人じゃないからね。 アルトリアが導いてくれる。 マシュが守ってくれる。 キリシュタリアとカドックが並んで戦ってくれる」
そうだ。 俺一人じゃああの燃え盛るレイシフト室で死んでいただろう。 俺は皆がいたからここまで来れた。 今度も皆と一緒なら戦える。そして
「うん。 今回は皆の力を借りる事になる。 でもいつか、俺が皆の助けになれるようになりたい!」
「ああ。 なら、この戦いは勝たないとな」
「うん。 行こう!」
隠れていた草むらから俺、キリシュタリア、ジークフリートが飛び出し、目の前にいた数体の竜を一息に屠る。 しかし、奇襲はそれで終わり、仲間がやられた事に気づいた他の竜が吠え、一斉に襲い掛かってくる。
「アマデウス! 頼んだ!」
「ああ、大勢の観客相手に演奏するのは慣れているさ。 宝具
影から死神の楽団が現れ、精神を直接揺さぶる大音量の大演奏が響く。 演奏の中に、確かな怒りを感じる。
「ここの雑魚どもは僕が引き受けよう」
「ああ、ありがとう」
「……。 らしくなく昂るよ。 こんなに昂るのはマリーにフラれて以来かな。 さあ! 行きたまえ!」
苦しんで空中でのたうち回っている竜の間をすり抜け、城門にたどり着こうと言う時に、今までの竜とは桁が違う咆哮が轟き、竜を統べる邪竜。 ファブニールが現れた。
音というより寧ろ衝撃に近いそれを耐え、真っ直ぐに睨み付ける。
「ここが正念場だぞ。 行けるか、立香?」
「勿論! こいつを倒さないと中に潜入したカドックたちが危険だ。 皆。 力を貸してほしい!」
「はい! マシュ・キリエライト。 行きます!」
「ええ。 行きましょう」
「カイニス。 行けるな」
「ったりめーだ! それより、長髪! てめーこそ行けるんだろうな!?」
「ああ。 例え刺し違えてでもこいつだけは俺が倒す。 倒さなければならないんだ」
その言葉を待っていたかのように竜がジークフリートに向かって火炎を放つ。 しかしそれは割り込んだマシュが防いでくれる。
「させません! 盾持ちの役目。 果たして見せます!」
盾の影から三人が飛び出し、ファブニールの攻撃を加える。 しかし、またみるみるうちに傷が塞がっていく。
「やはりジークフリートでさえ通常の攻撃では効かないか……」
やはり、聖杯に繋がっている邪竜を倒すにはその竜を屠った逸話を己の在り方にまで昇華した宝具でしか倒せない。
「キリシュタリア」
「分かっている。 やはり予想通りに宝具でしか倒せないようだ。 ジークフリートへの魔力供給は私がしよう。 マシュの宝具であいつの攻撃を防いだ後アルトリアの宝具を発動させるんだ」
「分かった。 マシュ! アルトリア! 頼む!」
「分かりました」
「はい! アルトリアさんとジークフリートさんの宝具の準備が出来るまで守り切って見せます!」
「カイニス。 援護を頼む。 ジークフリート。 頼むぞ」
「おう! 任せな!」
「ああ、やり遂げよう」
カイニスとマシュがあえて真正面で邪竜に立ち向かい、アルトリアとジークフリートが剣を構える。 俺とキリシュタリアは以前やった時の様に令呪を構える。 二人の令呪が輝き、宝具の準備をしている。二人の剣から魔力が迸り出す。
しかし、当然その魔力を狡猾で知られる邪竜が見逃す筈が無く、体を一揺すりでマシュとカイニスを吹き飛ばし、ジークフリートへと狙いを定める。
大きく体を反らし、こちらを睨み付ける。 口から炎が溢れ出す。 その熱気に当てられたなら灰すら残らないだろう。
「させません! マシュ・キリエライト。 皆さんをお守りします!」
そう言って盾を地面に突き刺し、自身の魔力を増幅させる。
「私の中のまだ名前の分からない英雄。 力をお借りします! 宝具、開帳します!
マシュの盾から魔力を幾重にも重ねた障壁を生み出し、マシュの心が折れない限り砕けない。 いまだ仮の名前しか与えられていない宝具。 自分自身を、そして何より守りたい誰かを守る優しくも苛烈な宝具。
邪竜の火炎とマシュの宝具が真正面からぶつかり合う。 マシュの後ろの俺たちは、傷一つ受けていない。 そして、もう十分に時間はもらった。 必殺の一撃を打つ為の時間を。
「アルトリア!」
「カイニス、先陣は任せる。 その後は……」
「ああ、俺がやる」
「……」
「カイニス……」
「うるせえっつってんだろうが! 次にいらん心配してみろ。 あのトカゲより先にお前を殺すぞ」
カイニスが吠える。 それを聞いたキリシュタリアは少し悩んだような顔をしたが、決意したような顔になる。 そして令呪を一画だけ光らせた。
「分かった。 立香。 ジークフリート。 頼むぞ」
「ああ!」
キリシュタリアに並び、令呪に光を灯す。
「「令呪を持って命じる! 宝具を持って邪竜,ファブニールを打倒せよ!」」
その叫びを聞いて、邪竜が再び吠える。 しかし、再び攻撃が来る前にカイニスが飛び込む。
「させるかよっ! 宝具
炎を纏った鳥となったカイニスが炎を放つ寸前のファブニールに突進し、火炎を防ぐ。 しかし、二度も阻まれた事に怒り狂った邪竜はカイニスを吹き飛ばした!
「キリシュタリア! カイニスが……」
「あれがカイニスの役目だと事前に言っていただろう! それより、宝具を!」
「……分かっている。 アルトリア!」
その言葉を待っていたようにアルトリアとジークフリートが宝具を発動させる。
「束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流。受けるが良い
「黄金の夢から醒め、揺籃から解き放たれよ。邪竜、滅ぶべし!
振りぬかれた二本の光線が混じりあい、より強力な光となってファブニールを飲み込む。 邪竜の末期の叫びは、聞こえなかった。
魔力を放出しすぎて、俺とキリシュタリアがへたり込む。
「……倒したぞ……。 やってやったぞ」
「ああ……。 そうだ! カイニスは!?」
俺が周りを見渡しても、土煙のせいで全く見えない。 魔力のパスが繋がっているからアルトリアとマシュがいるのは分っている。 近くにいたからキリシュタリアとジークフリートがいるのも分かっている。 でも、俺たちを守るために特攻してくれたカイニスが!
そうして土煙の中を手探りで探していたらキリシュタリアが声を上げた。
「いたぞ! こっちだ。 手を貸してくれ!」
いつも冷静沈着なキリシュタリアが声を荒げている。 急いで駆け寄ると、カイニスを抱きかかえながら治療魔術を施しているキリシュタリアと自慢の銀の鎧がバラバラになっているカイニスがいた。
「マシュ!」
「はい! 魔力の供給をお願いします!」
俺の魔力を受け取ったマシュが治療魔術を施す。 しかし、出血が止まらずどんどん顔色が悪くなっている。
「そうだ! キリシュタリア! 令呪……」
俺がそういうと、キリシュタリアが思う出したように令呪を構える。
「令呪を持って命じる。 カイニス。 生きてくれ!」
最後の令呪が消え、カイニスの体に淡い光が灯る。 すると、鎧の再生までは出来なかったが、出血も止まり、顔色も大分良くなった。
「カイニス。 良かった」
「ったく。 心配性だな、お前は。 俺様が死ぬわけねぇだろ?」
そうこう話している内にも、ファブニールを失った竜達が暴走状態になり、見境なく襲い掛かって来た! ジークフリートがそれを薙ぎ払いながら叫ぶ。
「ここは俺に任せろ! 皆は中に!」
「分かった。 行くぞ、アルトリア、マシュ」
俺たちが駆けだそうとするも、キリシュタリアとカイニスが来ようとしない。
「立香。 ここから先は君たちだけで行くんだ。 カイニスは令呪で回復したが、おそらくサーヴァントクラスの強敵とは戦えないだろう。先に潜入しているカドック達と合流して君達で竜の魔女を倒すんだ!」
すると、ひときわ大きな竜の咆哮が轟き、その方向を見ると、多数の竜がこっちに向かってきている。 気付けば、オーケストラの音は聞こえない。
「行け! 行くんだ! 中にいるはずのアサシンはカドックが倒している筈だ。さあ!」
キリシュタリアの声に押されて、三人で中に入る。