作戦通りに、キリシュタリア達が正面突破を仕掛けて五分後に行動を開始する。 アマデウスの宝具による攪乱と、アナスタシアの魔術によって城内に潜入するまではばれないだろう。
「カドックさん」
「……」
「その……、他の皆さんは大丈夫なのでしょうか?」
「気にするだけ無駄さ。 お互いに助け合うことは出来ない。 どっちかがしくじったら両方死ぬ。 それだけだ」
向こうが死ねば潜入組の僕たちは戦力差で死ぬ。 僕たちが死んだら後から来るであろうキリシュタリア達はアサシンと黒ジャンヌの挟撃で死ぬ。 故に両方を同時に倒さなければならないのだ。
「それより、気を付けてくれよ。 僕たちも援護はするが、アサシンと直接戦うのは君なんだぞ」
そう言うと、ジャンヌは旗をきつく握りなおす。
「ええ、もう一人の私を倒し、この時代を修正するためにこの戦い、必ず勝って見せます」
「そうはさせないわ、わがマスターの元へは行かせません」
声の方向に振り向きながら、アナスタシアに目で合図を送る。 アナスタシアも僕の合図を待たずに声の方向へ氷弾を放つ。 しかし、そこにあったのは声の主ではなく、彼女が愛用している拷問道具、アイアン・メイデンだけだった。
「っ……! 囮だ! アナスタシア、防御!」
そう叫んだ瞬間、首筋をなでるような感覚、思わず自分の周りに障壁を張り、防御を固める。
「違う! カドックさん! アナスタシアさんが!」
その声と共に悲鳴が。 障壁を解いて二人で駆け寄る。 血だまりの中のアナスタシアを抱きかかえ、令呪を構える。
「令呪を持って命じる。 生きてくれ、アナスタシア」
右手から令呪が一画消え、消えかけていたアナスタシアの体に生気が戻る。
「……ありがとう、助かったわ」
「よかった……」
「あら残念。 殺せなかったわ。 そしてありがとう。 即死させてしまっては血を吸えないですからね」
そう言いながら虚空から姿を現したのはバーサークアサシン。 カーミラだった。
「血の代わりに銀の弾丸ならあるぞ?」
僕が挑発してもどこ吹く風でジャンヌとアナスタシアを見つめている。
「ああ……、なんて美しくおいしそうな血なのでしょう。 神の声を聞いたなどと嘯き、民衆の貴重な血を流させた偽りの聖女の血。 高貴なるロマノフ王朝最後の純潔の血。 どちらから啜るか悩んでしまいますわ」
血の味を想像しているのか、うっとりとした表情になる。 しかし、その間でも隙が一切見えない。
(くそっ! ほんとに狂化されているのかよ……。 もっと特攻してくるかと思ったのに)
切り替えろ、と頭を振りながら二人に指示を出す。
「ジャンヌ、君はとにかく前に出て攻めてくれ、アサシン相手ならそう簡単には死なないだろう。 アナスタシアは援護を。 僕らへの攻撃もあるぞ」
僕がそう支持を出すと、二人とも頷いてジャンヌが旗を振りかざしながら飛び込む。 カーミラは手にした杖で正面から受け止める。
「ああ! まずは貴方から吸わせてくれるのね!」
そう言いながらジャンヌの背後にメイデンを召喚する。
「くっ!」
跳んで背後の処刑道具を躱し、逆に背後を取る。
「はあああああああ!」
鋭く叫んでカーミラの背中を一刺し。 と思ったが、カーミラの体が無数の蝙蝠になってジャンヌを覆う。
「これは!? きゃあ!」
「くそっ吸血鬼の逸話か。 アナスタシア、援護!」
「もうやっているわ、マイマスター」
そう言いながら人形をかざすと、突然吹雪が吹き荒れる。生前を過ごした、ロシアの吹雪だ。 吹雪で身動きが取れなくなった蝙蝠たちが集まって再びカーミラの姿を取る。
「小癪な……。 先に貴方から啜ってあげましょう!」
そう叫びながら杖を上段に構えながら真正面から攻撃してくる。 直接の戦闘が苦手なアサシンと言ってもサーヴァントの本気の攻撃が人間の僕には例え強化していても目で追うのがやっとだった。
振り下ろされた杖がアナスタシアの脳天に突き刺さる。 と思った瞬間アナスタシアの体が砕け散り、氷の破片がカーミラに突き刺さる。
「くっ!? これは……!」
「ひっかかった」
声に反応して真後ろに杖を突きたてるが、あらかじめ構えていたジャンヌがそれを阻む。 そうして余裕を持って宝具の準備を終えたアナスタシアが宝具を発動させる。
「ヴィイ、全てを見なさい。全てを射抜きなさい。我が墓標に、その大いなる力を手向けなさい。
アナスタシアの影から巨大な精霊が現れ、カーミラを押しつぶす。 悲鳴を上げる暇も与えずにすべてを凍らせ砕く。 巨大化したヴィイが消えた時にはカーミラの姿はもう無かった。
「アナスタシア。 索敵」
「やっているわ。 …………私たち以外に周囲に反応はないわ。 ほぼ確実に死んだはずよ」
念のため自分でも索敵をするもやはり見つからない。 奴はもう死んだと考えよう。
ふと、城内が静かすぎることに気が付いた。 入ったときは僕たちの存在を隠してくれたアマデウスの宝具が聞こえない。
「カドック」
「ああ。 恐らく彼はもう……」
そう話していたら足音と聞きなれた声が聞こえる。藤丸を先頭にマシュと藤丸のセイバー。 アルトリアが殿でそれ以外に人影は見られなかった。
「おい、キリシュタリアはどうした?」
最悪の場合を想定して聞くが、藤丸はそれを否定した。
「いや、キリシュタリアとカイニス。 あとジークフリートは外で竜達を押えててくれてる」
「そうか。 なら、ここからは僕達だけでやるしかないな。 時間をかけすぎると新たにサーヴァントを再召喚されたり、逃げられるかもしれない」
残った戦闘要員はマスターが僕と藤丸。 サーヴァントはマシュ、アルトリア、ジャンヌ、そしてアナスタシアだ。 対する相手は恐らく黒ジャンヌのみ。 人数では圧倒的だが、あっちには聖杯がある。 戦いの肝はいかに聖杯の力を使わせずに戦うかにかかっているだろう。
残ったメンツにそれぞれ役割を振り分け、城の最奥部へと進む。 扉の向こうから溢れる魔力で肌が粟立つ。 しかし、そんな事情を知ったか知らずか藤丸がドアを押し開ける。
広間にいたのは二人だった。 ジャンヌと瓜二つの容姿をした、しかし同じ人物とは思えない邪悪な笑顔を浮かべている。 もう一人は黒ジャンヌの後ろに控えているやせていて飛び出そうな眼玉をギョロつかせている男だった。
「ここまで生き残るとは……。 正直驚きました。 全員でかかってきなさい。 敬意を表して私一人で相手をしてあげましょう」
右手に竜が描かれた旗を、左手には直剣を構える。
「藤丸、いくぞ!」
「頼んだぞ、カドック!」
この時代最後の戦いが始まる。