「問おう。貴方が、私のマスターか」
そう言いながら俺の目の前に現れたのは青い服をきた金髪が煌めく少女だった。
「……ああ、そうだ。 俺は藤丸立香。 君は?」
「私は……いえ、今はそれどこらでは無いようですね」
そう言ってレフに向けて剣を……? 構えた俺のサーヴァントの手には何も握られていない。 でも彼女の構えは多分剣を持っているソレに近い。
「行きます!」
次の瞬間にはレフの体が吹き飛んだ。 次々と青い線が飛び回りレフの体が抉れていく。
「速っ! 凄い! これなら……!」
俺が興奮して叫ぶも、キリシュタリアは苦そうな顔だ。
「いや……まだだ。 奴の肉体は再生している。 一撃で仕留めなければ……。 オフェリア、君のサーヴァント。 宝具は?」
「ダメです……! 先の魔眼に魔力を使いすぎて現状維持にしか魔力を回せません!」
「く……」
「キリシュタリア、宝具って?」
俺がキリシュタリアに尋ねると、キリシュタリアが令呪を見せながら答える。
「令呪が我々マスターにとっての切り札なら、宝具はサーヴァントにとっての切り札だ。 サーヴァントは生前、所謂聖剣。 魔剣の類いや、生前の逸話を己のあり方とまで昇華させたものがある。 それが宝具だよ。 有り体に言ってしまえば必殺技だね。 本来の聖杯戦争だとそれがサーヴァントの正体を探る手がかりとなるんだけど、今回はそういう心配は無いだろうね」
と、キリシュタリアが説明してくれている内に、再びレフが叫びながら膨張した。
「不味い! セイバー!」
オフェリアさんが叫び、令呪を構える。 令呪が赤く光り輝き、オフェリアさんのサーヴァントから魔力が迸る。
「了解した! マスター!」
セイバーと呼ばれたサーヴァントが持っている棒状の剣を構える。
「宝具……展開!」
しかし、その魔剣が放たれる寸前に、レフが目玉から光線を放ちセイバーを吹き飛ばす。
「ぐ、ぐおおおおおおお!」
光線とセイバーの宝具がぶつかり合い魔力と物理が混じりあった爆発が起こる。
「セイバー!」
「ダメだ! オフェリア! 前に出るな!」
キリシュタリアがオフェリアさんの腕を掴み制止する。
爆発が収まるとセイバーの体が半透明になり倒れている。
「セイバー!」
「ぐっ……。 不覚……。 マスター、すまない……」
そう言い残して光に包まれて消えた。
「そんな……死んだ?」
「いや、もう死んでいるから死んだは正しくない。 また再び呼び出す事は出来るが、暫くは無理だろう。 残るサーヴァントは立香の正体不明のサーヴァントのみ」
俺のサーヴァントは攻撃を食らうことなく高速で動き回り、恐らく斬撃を打ち込んではいるが、レフの体は切り刻まれてもジワジワとその傷口がくっつき再生し始めている。
「俺のサーヴァントの攻撃だけじゃダメなのか……?」
「今までの攻撃だけならぱそうだろうな……」
「つまり……。 宝具しだいって事?」
「ああ、君のサーヴァントの宝具が大型の敵や複数の敵を殲滅出来る宝具ならあるいは……。 しかし、今それを聞くことは無理だろうしこちらから無理に発動させようとすると好きが出来てサーヴァントがやられてしまうかもしれない」
でも……こちらから宝具の指示を出さないといつかジリ貧になる……!
「立香。 君に私の魔力を渡す。 令呪と私の魔力ブーストさえあれば、君のサーヴァントに命令をした瞬間に宝具は発動させられるだろう。 オフェリア、君は宝具発動のタイミングに合わせて再び魔眼でサポートを」
「はい。 恐らく私の残存魔力で奴の動きを止められるのはあと一回でしょう」
キリシュタリアの令呪が光り、俺の体に魔力が注がれる感覚がある。
「うわっ……熱!? 痛っ!?」
「君の魔力回路ではあまり長い間私の魔力を保持出来ないのだろう。 発動は出来る限り早く頼む」
「……ああ、任せろ!」
そう言って令呪を構える。
しかし、レフと俺のサーヴァントの戦いは拮抗し、レフの攻撃を避け、懐に飛び込んで切り裂き、再生するを無限ループさせている。 所々で爆発を避けきれず負傷していく。
(くっそ……! いつ打てばいい!? こうしている内にも……サーヴァントが!)
いっそたった今闇雲にでも打ってしまおうかと思ってしまうが、打って外してしまえば終わりの事実がそれを押しとどめる。
「くっそ! このままじゃ……!」
「焦るな立香! きっとその時が来る! それまで……」
「その時っていつだよ! このままじゃ俺のサーヴァントが……」
そう叫んだ瞬間。 俺のサーヴァントと目が合った気がした。 その目を見た瞬間。 俺の心は決まった。
「分かったよ、キリシュタリア。 隙は必ず来る。 俺のサーヴァントが必ず道を開いてくれる!」
「驚いたな。 もう念話が出来るのかい?」
「いや全然。 でも、あいつの目を見た時。 声が聞こた気がした。 『大丈夫だ』って」
「マスターの君が言うなら……信じよう」
少しずつ負傷して行きながらもその目だけは真っ直ぐ前を向いている。自分が俺達を守る。 人理を護る最後の一騎である自覚を持って戦っている。
「いい加減に、堕ちろおおおおおおおお! 羽虫がああああああああああ!」
業を煮やして先に動いたのはレフだった。 柱状の体の全ての目が暗く光り、破壊の光線が放たれる。
彼女はそれを真っ向から受け止め、爆発に巻き込まれる。
「灰燼と化せ! 三流サーヴァントがぁ! 」
オフェリアさんはまた飛び出そうとするが、キリシュタリアが止める。
もう俺は心配しない。 あの目を信じるって決めたから。 ……だから……来い!
「今です! マスター!」
だから俺はその声が煙の中から聞こえた瞬間に、持てる全ての令呪とキリシュタリアからの魔力を彼女に注ぎ込んだ!
「オフェリア! 魔眼発動だ!」
キリシュタリアも察知してオフェリアさんに指示を出す。
「令呪を持って命じる! 宝具を持ってレフ・ライノールを倒せ!」
令呪が今までより強く光り、セイバーの傷が瞬時に癒え、彼女の手に持っていた剣が現れる。 青い両刃の西洋剣は、黄金の光を放ち魔力の風が吹き荒れる。
「束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流。受けるが良い『約束された勝利の剣』!」
まさに必殺。 剣より迸る黄金の光全てを、一振を持って眼前の敵へと打ち込む。
そして、決着は一瞬だった。 光が収まった時にはレフの肉体は一片たりともこの世に残ってはいなかった。
「終わった……のか?」
俺がそう呟くと俺のサーヴァントが寄ってきた。 流石にあの激戦に全力の宝具の後でボロボロだ。
「ええ、初陣にしては少々厳しいものでしたね」
そう言ってボロボロの手を差し伸べる。 俺はしっかりとその手を握り返して改めて挨拶をする事にした。
「助かったよ。 改めて、俺は藤丸立香。 実は、魔術師でも何でもないんだ」
「そうなんですね。 しかし、私を使う技量は確かなものでした」
先程の戦いで見せていた厳しい目つきとは打って変わって年相応の幼さを残した温和な表情となっている。
「改めて自己評価を、私はセイバー。 真名をアルトリア・ペンドラゴン。 ブリテンを統べる王として生き、獅子王の名を冠しています」
アルトリア・ペンドラゴン! それくらいは魔術師でない俺ですら知っている。
世界一有名な聖剣、エクスカリバーを振るった騎士王アルトリア・ペンドラゴン!
「あれ? でも……君は……女の子……だよね?」
そう言われたアルトリア・ペンドラゴンは表情を少し曇らせる。
「政治的な関係で男装していたんですよ……」
「あ、悪い……嫌な事聞いてしまったな……」
「いえ、もう気にしてはいませんよ。 マスター」
と、俺達が話している内にドアを激しく叩く音が聞こえた。
「ちょっと! キリシュタリア! オフェリア! 中はどうなっているの? 」
この声は所長だ。 無事逃げ出せた様だった。
「そうだった……完全に忘れてたけど此処……。 レイシフト室……だったんだよね」
「ああ……だが、おそらくコフィンのほとんどは破壊されてしまっただろうね……。 とにかく。 アルトリア君。悪いが扉を開けてもらえるか?」
「承知しました」
そう言って剣の一振で歪んだ扉を両断する。
「きゃあ!? ドアが真っ二つに……って誰? アナタ!?」
所長はそう言って隣にいるマシュに飛びつく。
「所長、マシュ。 無事だったんですね」
「無事かどうかはこっちのセリフです! レフ教授は? この人……いえ、サーヴァントは?」
「それは私が説明しよう。 立香はサーヴァントの召喚と令呪の行使で疲弊している。 医務室へ」
その言葉で自分の疲労を思い出したように体が重くなる。アルトリアが支えてくれなかったらここで突っ伏して倒れてしまっただろう。
「大丈夫ですか? マスター」
「ああ、助かった」
「召喚!? どういう事なの?」
「詳しい事は後で、先ずはこのの始末が先です」
なるほど確かに、セイバーの宝具である程度火は消し飛んだけどまだ火は燻っている。
「…………そうね、ここは廃棄するしかないかもね」
「そこの辺りも消火活動が終わってからでしょう」
そこで俺はアルトリアとマシュに連れられて医務室に向かう。 けど、その途中で意識が落ちてしまった。
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意識が再び目覚めた時にはアルトリアはいなく、マシュが俺のそばの椅子で船を漕いでいた。
ふと右手を見ると、令呪の一部が薄れてしまっている。
「目が覚めましたか? 藤丸立香」
「うおっ!? ……オフェリアさん?」
マシュの反対側にいたのはオフェリアさんだった。 サイドテーブルを見ると文庫本が数冊置いてあったから恐らくあの後ずっとマシュと二人で俺の目覚めを待ってくれていたみたいだ。
「貴方が意識を失ってから十時間以上たっています。 そして、その十時間は世界を大きく変える十時間です」
「どういう事ですか?」
「詳しい話はブリーフィングルームにて、キリシュタリアとオルガマリー所長が話します。 立てますか?」
「なんとか……いてて。 全身が痛いや」
「サーヴァントの召喚や令呪の行使の影響でしょう。 手を貸します」
そう言ってマシュを起こしながら俺に手を差し伸べる。
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起きたマシュとオフェリアさんに肩を貸されながらなんとかブリーフィングルームにたどり着く。
「来たわね、藤丸立香。 貴方は十時間ほど寝ていました。 その十時間は世界を……」
「あ、その下りもう聴きました」
「え? あらそう。 なら話は早いわ。 じゃあ具体的に何が起こったか説明するわ」
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所長の話は俺の混乱させるのに十分すぎた。
一つ。 ここ、カルデア以外の世界の全ては滅びてしまった事。
二つ。 過去に世界が滅びた原因となる聖杯がある事。
三つ。 レイシフト技術を使って俺達マスターを過去に転送し、聖杯とそれによって引き起こる異変を探索。 聖杯を回収する事。
四つ。 先の戦闘によってレイシフトに必要なコフィンがほとんど破壊されてしまった事。
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「…………」
「いい? これが現状よ。 世界を救う事が出来るのはここカルデアのマスターだけよ」
「所長は来ないんですか?」
「指揮官が戦場に出向く訳ないでしょう? 先ずは残ったコフィンは数少ない。 先ずはキリシュタリアをリーダーとしてメンバーを二名選出するわ。 人選はリーダーに一任します」
「ふむ……なら、立香とマシュ・キリエライトを推薦しよう」
キリシュタリアがそう言うと所長が驚いた顔をしてこちらを指指す。
「嘘でしょ? 即決? それに、何で同じAチームのメンバーじゃなくてこいつとマシュなの? マシュはまだ分かるわ! でも、何でこの新米マスターなの?」
「立香は先の戦闘で十分すぎる活躍を見せたよ。 オフェリアはまだ回復しきっていない。 マシュは立香にかなり懐いているようだしね」
「……キリシュタリアがそう言うなら良いけど……でも」
「大丈夫。 立香のサーヴァントは強力だよ」
「そう。 ならもう何も言わないわ。 二時間後。 キリシュタリア・ヴォーダイム及びサポート二名はここに集合。 レイシフト目標は日本の地方都市。 冬木よ」
以上。 解散と言う所長の号令で会議は終了となった。
俺は会議室を出て直ぐにキリシュタリアを追いかけた。
「キリシュタリア。 少しいいか?」
「構わないよ」
「率直に聞くけど、どうして俺なんだ? 確かに、俺のサーヴァント。 アルトリアは強力だけど。 Aチームの人達のサーヴァントも勿論強力だろ?」
俺がそう言うと、キリシュタリアはにこやかに答えた。
「所長の手前、ああ言ったが本当に評価してるのは君自身だよ。 あの勇敢さ。 初のレイシフト先で必ず役に立つはずさ」
正面からそう言われてはこそばゆい……。
「そこまで言うなら……。 期待しててよ」
「ああ。 じゃあ、二時間後にまた会おう」
キリシュタリアと別れ、自室に戻る。
自室のベットに腰掛けながらアルトリアを呼ぶ。
「アルトリア。 いる?」
すると、何も無い空間からアルトリアが現れる。
「呼びましたか? マスター?」
「いや……何となく。 話がしたくて」
「そうですね。 私もマスターの事が知りたいです」
「えっと、そのマスターっの辞めないか? こそばゆくて」
「なるほど……では、立香と呼んでも?」
「ああ、そうしてくれ。 君の事はどう呼んだらいい? 本当の聖杯戦争だとセイバーって呼んだ方がいいんだろ?」
「本来ならそう呼ばれるべきでしょうが、カルデアにはかなりのサーヴァントがいるはずです。 なので今回は私の事は好きに呼んでくれて構いませんよ」
「そうか……ならアルトリアって呼ばせてもらうよ」
「分かりました」
そうしてセイバー改めアルトリアとキチンと顔合わせを済ませ、レイシフト室へと向かう。 レイシフト室は一応片付けられ、生き残っているコフィンが数基残されていてこざっぱりしている。
レイシフト室にはドクターロマンとオルガマリー所長。 そしてかなり芸術的な服装をしている。 女性がいた。 見た目は中学の芸術の授業中に見たモナ・リザによく似ている。
「藤丸立香。 集合しました。 で、その女性は?」
「よく聞いてくれたね! 48番目のマスター! 私こそが万能の天才! レオナルド・ダ・ヴィンチだとも!」
……は? レオナルド・ダ・ヴィンチ? あのモナ・リザ描いた? でも……ダ・ヴィンチってオッサンだったような?
「あっはっはっはっは! 驚いてくれてどうもありがとう! 私はサーヴァントだよ。 実験第三号! カルデアによるまともな召喚成功例だよ!」
な、なるほど……確かに歴史的な偉人がサーヴァントになるなら、戦士だけじゃなくて芸術家とかもサーヴァントになる訳か……。
「君は聞いたところ令呪を消費してしまってるようだね。 装填してあげるよ」
ダ・ヴィンチが手をかざすと掠れていた部分が再び赤く浮かび上がった。
「凄い! ありがとうございます! レオナルド・ダ・ヴィンチさん!」
「私の事は親愛をもってダヴィンチちゃんと呼んでくれたまえ!」
「な、なるほど……」
「さて、私が最後かな?」
キリシュタリアも遅れて来て、これでレイシフトメンバーは全員揃った。
キリシュタリアも令呪を装填して万全の状態になってコフィンに乗り込む。
心臓の音がうるさい……一応所長から手順は説明してくれている貰ったし。 そもそも俺はキリシュタリアのサポートだから……。
なんて事考えている内にレイシフトが始まった。 体が中に浮き、世界から切り離される感覚だ。
そして暗くも眩い光の輪を通り、レイシフト。 時間旅行が始まった。