目を開けるよりも先に鼻に着く匂いでレイシフトの成功を悟った。
だが、臭うのはとても気分の良くなるようなものでは無かった。 物が焼ける煤臭さ。 錆びた鉄のような臭い。
そして焼け付くような熱さ! また炎か!
「あっつ……あ! マシュ!? キリシュタリア!?」
俺が二人を探して叫ぶとすぐ近くから声が聞こえた。
「マシュ・キリエライト、ここにいます!」
「ああ、私もいるよ。 これで全員だな」
キリシュタリアが手持ちの端末を操作すると空中にディスプレイらしき物が浮かんで所長の顔が浮かぶ。
「うぉっ! 凄いなこれ」
「ああ、私は詳しく無いが世界でも公表されていない最先端の技術らしい。 実は、カルデアのパトロンには国連もいるんだよ」
「国連!? ホントなのか!?」
「ああ。 と、無駄話はここくらいだな。 オルガマリー。 キリシュタリア含め三人。 無事にレイシフト成功した」
「よかった。先ずは霊脈を発見しなさい。 いかにあなた達とはいえ自前の魔力だけではサーヴァントの維持は厳しいわ。 霊脈さえあればこちらから魔力や物資を送ることが出来るわ」
「分かった。 霊脈のポイントを転送してくれ」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「……よし、霊脈と接続完了っと」
「これでカルデアからの魔力でサーヴァントを呼び出せるようになるな。 よし、来い! ランサー!」
キリシュタリアが令呪をかざしてサーヴァントを呼び出す。 ……よし、俺も!
「来てくれ! アルトリア!」
令呪の導きによってこの時代でも無事にアルトリアを召喚できた。
「来てくれてありがとう。 アルトリア」
「いえ、私は立香のサーヴァントですから」
「……失礼、少しいいかな? 立香」
キリシュタリアが俺を呼ぶ。
「ん? どうしたの? キリシュタリア」
「君は……サーヴァントを真名呼びしているのかい?」
「ああ、良くないのは分かっているけど……。 セイバーとかランサーって呼ぶのはなんか良くない気がして……」
「なるほど……それは一理ある。 やはり君は面白い。 我々の常識など意に介せずサーヴァントと接する才能。 やはり君を選んで正解のようだよ」
「そういうものなのか? 所で、キリシュタリアのサーヴァントの真名は?」
「……ランサー」
キリシュタリアがランサーに聞く。 ランサーは無言で頷く。
「俺はギリシャの英霊。 真名をカイニスだ」
「……あー。 ごめん……その……」
「知らないんだろ? ま、気にはしないさ」
俺が気まずそうにしているとカイニスと名乗った方からフォローしてくれた。
「……ごめん」
「良いって。 ま、戦場での俺の動きを見れば惚れ込むさ」
と、心強い事を言ってくれる。
「まぁ、作戦中はクラス名で呼んだ方が良いかもしれないな。 敵に真名がバレてしまえば弱点を突かれる可能性がある」
「そうなのか……ならレイシフト中はセイバーって呼ぶ事にしていいか?」
俺がアルトリアを振り向きながら呼ぶと。 アルトリアも首肯してくれる。
「よし。 で、俺達は今から何をすればいいんだ?」
「ふむ、先ずははぐれサーヴァントを探そう」
「はぐれサーヴァント?」
聞きなれない単語に首を傾げる。
「ああ、今回の異変は間違いなく高純度の魔力の塊。 聖杯によって引き起こされているものだ。 基本的に聖杯はただの道具であり、手にした者の願いがどんな物であれ叶えてしまう物だが、それによって世界が崩壊するような願いだったらそれに対する抑止力。 カウンターの様な物として聖杯が自分をマスターの様なものとしてサーヴァントを召喚するのさ。 聖杯による異変を解決すると言う目的が同じだから、出会う事さえ出来ればきっと力になるだろうね」
「なるほど……なら、最初ははぐれサーヴァントを探す所から始めようか。 マシュとセイバーもそれでいいか? ん? セイバー? マシュがどうかしたのか? じっと見つめて」
「……いえ、なんでもありません。 少し、知り合いに似ていたので」
「えっと……私はアルト……セイバーさんとは面識が無いはずですけど……」
「いえ、きっと気のせいでしょう。 あと、サーヴァントを探すと言う作戦は賛成です。 私も、ランサーも前衛でしょうから、アーチャーかキャスター辺りの後衛が欲しいところですね」
贅沢は言えないでしょうねと言いながらアルトリアは歩き出す。
「所で、キリシュタリア。 サーヴァントのクラスってどのくらいあるんだ?」
と、俺が聞いたら、キリシュタリアも歩きながら答えてくれた。
「ああ、基本は七種類だよ。
騎士のセイバー
弓兵のアーチャー
槍兵のランサー
魔術師のキャスター
騎兵のライダー
暗殺者のアサシン
狂戦士のバーサーカー
の七騎だね。 たまにそれ以外のエクストラクラスが召喚されることもあるらしいけど、めったにないはずだ」
「ありがとう。 詳しいんだな」
「あー。 それくらいら聖杯戦争の基本なんだ」
「あ、そうだったんだ」
「先輩。 もしかして所長から送られた資料読んでいません?」
「あー……。 ああ言うのは苦手で……」
そうこう話していると、街の中心部に近い。 大きな橋の下に着いた。
「サーヴァントがどの辺にいるとか分からないのかなぁ?」
「難しいですね。 遠目の効くアーチャーや、魔術による探知が可能なキャスターならともかく、私達では近距離でしか……! マスター! 伏せて!」
言うが早いか、アルトリアの声に反応したマシュが俺を押し倒す!
「マシュ! 何をっ!」
その次の瞬間。 元俺の場所を何かが通り過ぎていって壁に刺さった。 見ればナイフの様なもので寸分違わず狙いは俺の首があった場所だ。
「……!」
冷や汗が止まらない……。アルトリアとマシュがいなければ死んでいた……!
「ランサー!」
「ちっ! ダメだこいつ! 恐らくアサシンだ! 気配遮断のスキルで位置が把握出来ねぇ!」
「マシュ! 物陰に隠れて! 」
「でも! 先輩は!?」
「俺はいいから! 早く!」
「マスター! 右に飛んで!」
アルトリアの警告で右に転がるように飛ぶ。 すると数瞬遅れて俺のいた場所にナイフが突き刺さる。 刺さった角度から見て恐らく移動しながらナイフを投擲している!
「セイバー!」
「ダメです! 私も正確な位置までは……! それに、私がここから離れるとマスターが危ない……」
くっそ! さっき話題になったばかりの攻撃を距離が早くも!
「くっそ……!せめてもう一騎サーヴァントがいれば……!」
なん……無い物ねだりをしてるとどこからともなく声が聞こえた。
「サーヴァントを所望かい? 坊主」
「誰!?」
声のした方向に目を向けると青いフードを被り、身の丈程ある杖を手にした男がいる。
「貴方は?」
「自己紹介は後だ! 先ずはあのせこせこした野郎をぶっ飛ばすぞ!」
急に助力に来てくれたサーヴァントは杖から放った光弾を物陰に撃ち込んだ。 光弾が直撃する瞬間、影が飛び出し近くの草むらに飛び込んだのがかすかに見えた!
「セイバー! そこの草むらだ!」
「はあああああああああ!」
俺が言うと同時にアルトリアが飛び込み、草むらごとサーヴァントを両断する。
「取った!」
肉体を真っ二つにされた敵サーヴァントは一言も発すること無く消えていった。
「やった……のか?」
「ああ、お疲れ様だな。 坊主」
そう言いながら俺の頭に手を置いて乱暴に撫で回す。
「さっきの嬢ちゃんを気遣う根性と言い、てめぇのサーヴァントへの指示と言い悪くねぇな」
「失礼。 貴方ははぐれサーヴァントかな?」
キリシュタリアが声をかける。
「おう、サーヴァント。 キャスター。 真名をクーフーリンだ」
「クーフーリンですか? あのケルトの大英雄、クランの猛犬と称されるあの!?」
マシュが興奮気味に詰め寄る。
「おう、本来の適正クラスはランサーなんだが、今回の聖杯戦争はキャスターとしての現界らしいな」
「同じサーヴァントでも違うクラスで召喚される事なんてあるの?」
俺の疑問にはキリシュタリアが答えてくれた。
「ああ、サーヴァントの逸話しだいで複数のクラス適性がある場合もあるんだ。 例えば、世界一有名な英雄と称される事もあるヘラクレスは七騎の内、キャスター以外の適性があると言われている」
「へー。 で、クーフーリンは今回はキャスターだけど、本当はランサーなの?」
「おう。 ま、キャスターが偽物って事じゃ無いんだけどな」
こうして、キャスターのクーフーリンを仲間にして一行は橋を渡り聖杯へと向かった。