冬木から帰還して数日。 全職員に渡された端末にダヴィンチちゃんから連絡が来る。
『 キリシュタリア・ヴォーダイム。 藤丸立香両名は会議室に集合』
何の話だろうと思いながら会議室に行くと、キリシュタリアはもう到着しており、ドクターロマンとオルガマリー、そしてダヴィンチちゃんがいた。
「やあ! 待っていたよ。 立香君!」
「遅い!」
「来たね、立香。 どうやらダヴィンチ女史が話があるらしい」
「はあ……ダヴィンチちゃん。 話って?」
と俺が聞くとダヴィンチちゃんがその言葉を待っていたと言わんばかりの笑顔で説明する。
「実はね! 以前、レフの襲撃で壊れてしまっていたカルデアの召喚術式。 及びその設備の復旧が終わってね、英霊を召喚できるようになったんだよ!」
英霊を召喚! アルトリアやキリシュタリアのカイニスの様にサーヴァントが仲間になるのか!
「凄いじゃないですか! 早速召喚しましょうよ!」
「それがねぇ、サーヴァントの召喚にはもう一手間いるんだよ」
「一手間?」
「うん。 サーヴァントの召喚には令呪さえあれば最低限出来るけど、狙ったサーヴァントを召喚するには触媒か、そのサーヴァントとの繋がり、『縁』が必要なんだよ」
「へー」
触媒か、縁……。 アルトリアで言えばエクスカリバーとかがあれば行けるのかな?
「で、カルデアには触媒なんて無く、外の世界は滅びてしまって触媒を取りに行けない。 つまり、冬木の土地でサーヴァントと縁を結んだ君達二人でサーヴァントを呼んで欲しいわけだ」
「なるほど……。 あれ? マシュはいなくていいんですか?」
と、俺が聞くとそれにはオルガマリーが答える。
「マシュはデミサーヴァントだからよ。 マシュ自身も魔力を消費する上に、サーヴァントに魔力を回すなんて出来ないのよ」
相変わらずキツい視線で睨まれる。 確かに出会いの印象は最悪だったけどそこまで嫌われるかなぁ……。
「兎に角! さっさとサーヴァントを召喚して戦力の増強をしよう!」
と、ダヴィンチちゃんに急かされ、俺とキリシュタリアの二人で令呪を構えて召喚の呪文を詠唱する。
「「抑止の輪より来たれ 天秤の守り手よ!」」
光の輪が収束し、目を開けられないほどの光が収まった時に現れたのは青いフードを被り、身の丈程の杖を担いだ。 あの時見たサーヴァントだった。
「サーヴァント。 クーフーリン。 今回はキャスターでの限界か……。 と、坊主じゃねぇか!」
と、いきなり俺の背中をバシバシと音が鳴る強さで叩く。
「痛い痛い痛い! 痛いよクーフーリン!」
「なんだよ、寂しいなぁ。 さて、召喚された意味は分かってるぜ。 人理を守るために、お仕事といきますかね」
こうして、カルデア召喚実験は無事成功し、これを皮切りに他のマスター達へ召喚を初めて行く目処がたった。
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「キリシュタリア、Aチームのトレーニングはもう終わったの?」
「ああ、今終わって解散した所だ。 何か用かな?」
「マシュとキリシュタリアを誘ってお茶でもしようと思って。 時間はある?」
俺がそう提案するとキリシュタリアは破顔する。
「勿論だとも。 マシュは別メニューでまだ時間がかかるから、先に準備だけしておこう」
「ああ。 でも、三人だけってのも寂しいよな……」
「……ふむ。 なら、カドック! 君もどうだい?」
声をかけられたカドックは心底嫌そうな顔をする。
「何で僕が君のようなエリートとコイツみたいなボンクラと仲良くお茶をしなくてはいけないんだ?」
「いや、これは命令だよ。 カドック・ゼルムプス。 次回の特異点が判明した。 メンバーは私と立香。 そして君だよ」
「はぁ!? ……何で僕を!?」
「冬木での活動で分かった。 私のカイニスと立香のアルトリア。 そしてマシュがいれば前衛は十分果たせる。 しかし、アーチャーやキャスターの様な後衛が必要なんだ」
「それならぺぺでいいだろ?」
「いや……ペペのアーチャーは……。 なんというか……」
「まぁ……それもそうだけど……」
「既にオルガマリーに許可はもらってるよ。 さあ、親睦を深めるためにお茶でもどうだい? カドック?」
「…………。 ああ、分かったよ」
そうして合流したマシュも合わせて四人でテーブルを囲むことになった。
……気まずい。 キリシュタリアとマシュは和やかに話しているけど、カドックが相変わらず俺に睨みつけている。
「……なんだよ」
「いや、えっと……そういえば! カドックのサーヴァントはどんなのなんだ?」
そう、彼もマスターならサーヴァントを持っており、自分のサーヴァントに自信を持っているだろう。 そこから会話を続けて……
「はぁ? 僕のサーヴァントをキャスターと知って、セイバーのマスターの君が聞くのかい? それともそれはエリート流の嫌味かい? 悪いねぇ、生憎凡人の僕にそういう皮肉が伝わらなくてねぇ」
「……なんだよその言い方! 大体俺がエリートなんて……」
「三騎士を召喚出来てまともに使えているんだろう? その時点でエリートの証明じゃないか!」
「カドック。 そんな言い方は感心しないわ。 まるで私が弱いみたいな言い方じゃないの。 あなたは狙ってキャスターを引き当てたんでしょう?」
そう言いながら虚空から現れたのは銀髪を腰まで伸ばした少女だった。 この子がカドックのサーヴァント。 キャスター
「えっと……。 君がカドックのサーヴァントだよね? よろしく」
「ええ、よろしくお願いするわ。 セイバーのマスター。 藤丸立香」
「あれ? 俺、君に名乗ったっけ?」
「いいえ、でもカドックが……」
「自己紹介はもう良いだろう? キャスター」
「……カドックがあなたのこと話していたのよ」
俺の事を? そう思っていたらカドックがものすごい形相で俺に睨んだ。
「それを言うな! それにこいつだけじゃない! 僕はサーヴァントの召喚に成功したマスター全員の特徴をまとめているだけだ!」
それさり気に凄くないか?
「カドックさんはミーティング後もいつも資料を見ていますし、トレーニングもいつも居残りで自主練していますよね」
「ああ、カドックの情報量は正直私以上だ。 その意味でも立香と相性が良さそうだと判断した」
マシュとキリシュタリアの援護もあり、諦めたように紅茶を呷る。
「……僕はAチームの中じゃあ一番弱いマスターなんだ。 魔力量も、回路も……。 だから自力で消費魔力量が一番少ない後衛支援のキャスターを選んだ。 そして僕はこのキャスターと共にゼムルプス家を大きくしてみせる」
「ゼムルプス家?」
「立香。 魔術師において家柄というのは何よりも大切と言っても過言ではないんだよ」
キリシュタリアが袖を捲ると、腕に令呪とは別の青緑に光る模様が浮かび上がっている。
「これが魔術刻印。 魔術師は代々これを下の代に強く濃くしながら受け継がせるものなんだよ」
「ああ、そして僕の家系は魔術師としての歴史が浅い。 だから皆僕を下に見る。 だが! 僕はこのグランドオーダーでゼムルプス家の名を上げてみせるんだ!」
卑屈に薄汚れた瞳の奥に、確固たる信念の光が見える。
「そのために僕みたいな凡人は努力し続けるしかないんだよ」
「……月並みな言葉だけど、努力し続けられるのも才能だと思うよ。 カドック」
心の底からの言葉のはずだった。 しかし、カドックには届かずお茶会はお開きとなった。
「立香。 それでもメンバーは変える気は無い。 君たちの事もあるけどコフィンの調整等もある」
「大丈夫だよ、キリシュタリア。 カドックは悪いやつじゃない。 きっと上手くやれるよ」
と俺たちが話していたら後ろから急に声が掛かる。 さっきのお茶会でも聞いた氷のように冷たく透き通っている声。
「こうして改めて話すのは始めてね。 私はカドックのサーヴァント。 キャスターよ。 真名はカドックの言いつけで話せないわ、許して頂戴」
声のイメージは氷のような鋭さを感じたけど話し方や顔立ちはキツそうなイメージは感じられなかった。
「ああ、改めてよろしく。 キャスター」
俺が手を差し出すと、その手をマジマジと見つめてくる。
「えっと……キャスター?」
「ああ、ごめんなさいね。 ここまで無防備なマスターも珍しいから」
「え? どういう……」
……これ以上喋っていたら喉元の氷が刺さっていただろう。 キリシュタリアもアルトリアも殺気をまるで感じられなかったようで、咄嗟のことに対処出来ていない。
「キャスター?」
「ごめんなさいね。 脅すつもりは無かったのだけど、カドックがあのエリートがどのくらいか見極めてこいって言うから。 殺す気はなかったのよ? 本当よ」
クスクスと見た目の年相応の笑顔を見せる。
「いや、気にしてはないよ。 ありがとう」
「ありがとう? どういう意味かしら?」
キャスターが眉を顰める。
「これが実践だったら俺はもう死んでいる。 だけどこうして知っておくことで次はもう少し足掻けるかもしれない。 魔術回路が無いに等しい俺はアルトリアに魔力を通す為には物理的距離が近くないといけないらしいんだ。 だからこういう死が一番近いマスターは俺だろう。 だからそういう事を教えてくれてありがとうって事」
俺がそう言うと、珍獣を見るような目でキャスターが俺を見る。
「……ふぅん。 貴方、カドックの思っている以上に面白いかもね」
キャスターの唐突な訪問をもって、改めてお茶会は解散となった。
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「アルトリア、俺に剣を教えて欲しい」
「……マスター急にどうしたのですか?」
戦闘シュミレーション室でアルトリアを呼び出して模造刀を構える。
「いやさ、俺はマスターとしては未熟だから最前線で魔力供給をしなきゃ行けないわけじゃないか? だから全線に出てもサーヴァントは無理でもせめてただの魔獣とか亡者相手くらいなら生き残れるくらいにはならないとなーって思って」
俺がそう言うとアルトリアは納得はしたが許容はできないと言うような表情を見せる。
「確かに最低限の心得はあっても困ることは無さそうですが……。 立香、貴方は何かあったら私を庇いに飛び込んできそうで怖いのですよ」
うっ……。 少し見透かされた気分だ。 俺の動揺をアルトリアは見逃さない。
「その反応はやはりその覚悟はあったようですね。 私達サーヴァントは例え体が滅びてもカルデアからの魔力供給さえあれば再び肉体を構成出来るのですから。 間違っても私を庇って傷をおうようなことはしないでくださいね」
「あ、ああ。 分かったよ。 でも、やっぱり俺が全然にいることはかわりないんだから、少しくらい戦えてもいいだろ? 邪魔にはならないくらいにさ」
と、俺が食い下がったらアルトリアが諦めたように構える。
「……はぁ、分かりましたよ。 これから私があなたに攻撃を加えます。 これからするのは致命傷を負うような攻撃ばかりです。 防げ、とは言いません。 知ってください。 知っていれば少しは対処出来るものですから。 いいですか? いざ!」
そう言ってアルトリアが目の前から消えた! いや、消えたと錯覚するような速度で俺の右に回る。 咄嗟に振り向いてもそこに見えるのはエクスカリバーの剣先だった。
「はい、これが敵サーヴァントとの戦闘でしたら立香。 あなたはもう死にました。 その時間一秒未満。 マシュが以下に優れたが盾兵でも流石に守りきれないでしょう」
流石に厳しい。 でも、俺はここで諦める訳には行かないんだ!
「もう一本!」
「良いでしょう。 行きますよ!」
そうして、アルトリアとの特訓は第一特異点へのレイシフトの前日まで及んだ。
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レイシフト当日。 キリシュタリアを先頭に俺、マシュ。 そしてカドックが揃った。
「分かっているわね、これからが本当の人理修復よ」
オルガマリー所長が緊張したような面持ちで告げる。 それぞれがコフィンに入り込む最後まで所長は俺たちから目を離そうとしなかった。
「分かっているわね? 向こうに着いたら先ずは全員合流して、霊脈の発見が最優先だからね」
事前に知らされているマニュアルの再確認をする。
「じゃあレイシフト。 開始するよ」
ドクターロマンの掛け声とともに体から意識が抜けていく感覚と共に目の前が加速する。
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目を開けると、草原に立ち尽くしていた。 すぐ近くにはマシュの姿もある。 マシュもサーヴァントの出で立ちになっており、大盾を杖代わりにして立っている。
「マシュ」
「はい、マスター。 マシュ・キリエライト。 ……そして、着いてきてしまったフォウさん両名レイシフト成功です」
見ると、フォウ君もマシュの傍で当たりをキョロキョロ見渡している。
「フォウ君。 着いてきちゃったの?」
「フォーウ!」
まぁ、着いてきてしまったものはしょうがないか。 そう思っていたらキリシュタリアから連絡が入る。
「立香、マシュ無事か?」
「キリシュタリア! こっちは無事だ」
「そうか、カドックもこちらにいる。 どうやらお互いの座標がズレてしまったらしいな。 距離はおよそ三キロって所か」
「どうする? 先ずは合流するんだろ?」
「ああ。 よし、合流ポイントを送る。 そこで落ち合おう」
そう言って通信は切れてしまった。 カルデアに通信を繋げると、無事に連絡は届き現在の状況を伝える。
一つ、空に謎の光輪があること
一つ、時代測定からここは1431年。 百年戦争。 場所はオルレアン周辺。
一つ、空を舞う龍。 正式にはドラゴンではなくなりそこないのワイバーンらしいが。 ともかく、現実にありえない生物が空を闊歩している事。
「よし、先ずはキリシュタリア達と合流しよう」
一言そう言ってマシュと共に人理修復の最初の一歩を踏み出した。