機動戦士ガンダムU.C.0097 YUME IS BORN 作:擬態人形P
『U.C.0096 月面の裏側』
冷えた研究所の中を、ノーマルスーツを着用した人物が複数歩いていた。だが、その先頭にいるのは10歳に行くか行かないかの金髪の男の子。彼は、その「高いニュータイプ能力」によって、もぬけの殻となったはずの研究所の中に、生命反応を察知していた。研究所の奥底で、誰かが呼んでいると。「先の戦い」でその能力の高さを知った大人達はその言葉を信じ、研究所の奥へと進んでいるのだ。
「………怖いか?」
「ちょっと………ビーチャは?」
「真っ先にオレに振るなよ、別に………。」
「ビーチャは臆病だからねぇ………。」
「あのな、エル………。」
男の子の両脇を固める20代前半くらいの男女が緊張をほぐそうとしているのか、軽口を言い合う。「ビーチャ」と呼ばれた男は茶髪にそばかすが印象的で、「エル」と呼ばれた女は金髪を後ろで結んでおり美人だった。
「とにかくだ、オレ達がいるから安心しろ、サン。」
「うん………この奥からだよ。」
「サン」と呼ばれた男の子の声を聞いて、ビーチャは通路の奥に鎮座した扉を見る。エルに目配せをすると、彼女はサンを抱え扉の横………開いた時に死角になるように陣取った。ビーチャも反対側の死角に陣取ると、後ろの銃を携えた軍人達と頷きあい、スライド式の扉の開閉ボタンを押す。扉が開くと同時に軍人達が乗り込み、部屋の中を見渡す。しばらく足音が鳴り響いた後、沈黙が続いた。
「もしかして………コイツ、なのか?」
「どうした?」
「いや、うーん………悪い、入ってきてくれ。」
軍人達の首を傾げるような言葉にビーチャとエルはサンを守るようにしながら部屋に入る。すると………。
「うわッ!?」
思わずサンは赤面し、顔を手で隠した。それもそのはず。正面にはカプセルが据えられており、全裸の少女が入っていたからだ。しかも、その外見年齢はサンと同じか少し上。年頃の男の子が動揺するには十分だった。
「強化人間………いや、この状態はクローンなのか?」
「ロック・ホーカーだっけ?嫌な趣味してるね………。サン、この子が呼んでたの?」
「う、うん………間違いないよ。」
エルの言葉に頷いたサンは、今度は恥ずかしがらずに直視する。カプセルが曇っていて確定はできないが、髪は水色のボブの長さで綺麗に思えた。
「出たがってる。」
「どれどれ………生きてるみたいだが、記録が抹消されてて何が何だか分からねえな。」
ビーチャは軍人達が確認している近くのモニターを覗いて、データを確認し、その上で、エル達に向き直り、お手上げのポーズを見せる。
「このままだとこの子、どうなるかな………。」
「そりゃ、連邦が回収して………下手すりゃまた実験台だな………。」
「ビーチャの権限で何とかならないの?」
「そんな滅茶苦茶な権限オレにはねぇぞ?」
「ビーチャはこのままこの子を見捨てたいの?」
「そう言われてもな………。」
段々目つきが厳しくなるサンの視線を受けて、ビーチャは頭をかく。「過去の経験上」、見捨てるのは正直イヤであるのが彼の本音だ。だが、現実は厳しい物だ。この子の素性すら分からないのに、どうにかする方法なんて………。
「助けてあげてよ、ビーチャ!」
「サン、悪いが………。」
「ねえ、ビーチャ。」
「ん?」
「子供、欲しい?」
真剣な瞳で問いかけてきたエルの言葉に、ビーチャは一瞬思考が追い付かなかった。それはつまり………。
「ま、マジで………。」
「お願い、ビーチャ!」
「僕もお願い!」
「え、ええええええええ!?」
ビーチャは究極の選択を強いられる事になった。