機動戦士ガンダムU.C.0097 YUME IS BORN 作:擬態人形P
『シャングリラ内ドック リン・ボウ内部』
戦いが終わって数時間後。ブリーフィングルームにて、ヤザンの前でレミオス達は正座をさせられていた。
ヤザン嫌いのエフィテマは憮然とした表情ではあるが、他のメンバーの表情は暗い。いずれも今回の実戦で失態を犯した者ばかりだったからだ。
「オレは傷口に塩を塗るような真似はしない。………言わなくても分かっている事を今更言う必要は無いだろう。だから、今回の戦闘でマズいと思った事は今この場で、自分達の中で反省しろ。」
ヤザンは腕を組みながら厳しい顔で言うと、一同を見渡した。
一歩間違えれば死人が続出したような状態だ。この先、ネオ・ジオンとの厳しい戦いが本格化する中でそれでは話にならない。ヤザンは戦闘狂だが、勝てない戦に出る程、バカでは無いのだ。
「………本当はお前達を戦場に送り出すのは認めたくない。だが、時間は待ってくれない。」
もうそろそろシャングリラに留まっているのも限界なのだ。
連邦の将校達は、ネオ・ジオンの残党が30バンチ後に集結する前にクイーン・アズナブルと名乗る者達を打倒しろと命令してきている。後は実戦で感覚を掴んでもらうしか無かった。
「オレから今言える事は以上だ。………疑問に思っている事があるなら質問を受け付ける。」
「じゃあ、いいですか?」
レミオスが手を上げたので、ヤザンが顎で発言を促す。
「部隊に被害を出さないようにするにはどうすればいいでしょうか?」
「答えは無い。」
「………と言うと?」
「部隊長がどんなに優れていても、部下が阿呆ならば被害は避けられない。そして、その部下の犠牲に一々心を縛られていたら、部隊長自身も阿呆になる。」
「……………。」
「レミオス、あの場でお前はマックを見捨てるべきだった。」
「ッ!?」
思わず立ち上がろうとするレミオスだったが、隣にいた他ならぬマックが腕を掴んだ。
それを見て、ヤザンは言葉を続ける。
「アレはマックの自業自得だ。それに対して身を挺して庇ったお前の行為その物が間違っている。」
「でも………。」
「部隊の頭が気絶したら誰が指示を出す?実際、結果的にキクハの暴走に繋がっただろ。オレは常にお前達を助けられるわけじゃ無い。そこを考えて動け。」
「……………。」
レミオスは何も答えられなかった。
部隊長としての心構えをこの男は持っている。だが、まだその器としては未成熟なのだ。本来ならば、もっとじっくりと育てていかないといけないとヤザンは思った。
「………他にあるか?」
「意見………ある。」
「エフィテマ?なんだ?」
それまで憮然としていたエフィテマがヤザンを見て手を上げた。
ティターンズ嫌いでもこういう場では公私混同はしないんだなと思いながら、ヤザンは顎で発言を了承する。
「シーサーは………戦線に出すべきじゃない。」
「う………やっぱり、オレはダメ………?」
落ち込むシーサーの姿を見て、ヤザンは嘆息する。
エフィテマの補助があったにも関わらず、間違えてヤザンを吹き飛ばそうとしたシーサーの技量には確かに不安要素が大きかった。しかし………。
「実戦に出なければいつまでも「ひよっこ」のままだ。エフィテマやアロードが頭を悩ませるのは仕方が無いが、長期的な目で見ていくしかない。」
「す、すみません………。」
「だが、努力はしろ。シミュレーターで何度も練習して実戦で戦えるレベルまで自分を鍛えるんだな。」
「は、はいい………。」
情けない声を上げるシーサーを見て、ヤザンはまた全体を見渡す。
「とにかくしばらくここで各自反省してろ。オレはユメ達と話をしてくる。」
そう言うと、彼はブリーフィングルームを後にした。
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「長くなりそうな反省会だねぇ………。」
「これでもかなり加減してやってるほうだ。独房に放り込みたいくらいだからな。」
部屋の外でビーチャの軽口に答えたヤザンは一緒にいるエルとユメを見る。
エルはビーチャと同じく苦笑いを浮かべており、ユメは不安そうにしていた。
「今回の戦闘で分かった。ネオ・ジオンの連中とやり合った際、今の時点でリスク無しで白兵戦ができそうな面子がオレとユメしかいない。」
「厳しい言葉だね。確かにヤザンさんの言う通り、アタシやビーチャはそこまでインファイトは得意としてないけれど………。」
「お前等は撃ちあいができるだけまだマシだけれどな。だが、特に市街戦になる30バンチ内部でアイツ等を前に出したら確実に死ぬ。」
エルと話しながらヤザンは腕を組む。
ビーム・サーベルの扱いならば、レミオス、マック、キクハの3名もセンスはある。だが、まだまだ間合い等の技量が追い付いていない為に、手練れがいるネオ・ジオン兵相手では不利になる事は必至だった。
そう考えると、どうしてもヤザンやユメの負担が増える。ゼク・ツヴァイもリ・ガズィ・カスタムもそこまで接近戦に特化した機体でないのもそれに拍車を掛けていた。
「ヤザンさんは………少数精鋭で30バンチに潜り込んだほうがいいって考えてるの?」
「鋭いな、ユメ。アイツ等は艦の護衛に回して、この4人で突っ込んだほうが生存率は高い気がした。………艦長と後で相談するつもりだ。」
ユメは思う。
ヤザンは今、相当頭の中で色々な考えを巡らせているのだと。彼は只の野獣じゃない。味方に対しては彼なりの優しさを見せてくれるのだと。
(やっぱり、ビーチャやエルよりも人間できてるよね………。)
ユメは溜息を付いた。
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『30バンチ内部 ムサイ級ファルメルⅡ』
「………で、懲戒任務の末に見つけたのが、推進剤を使い切って漂っていたザクⅢと、この男ってわけね。」
ムサイ級ファルメルⅡにて、クイーン・アズナブルはフェイトとピューリーを横に従えながら、足を組んで玉座に座っていた。肘を付いて見下しているのは、ガクガクブルブルと震える巨漢の男。シャングリラ近辺での戦闘から逃げてきた「バザード・ディオンヌ」であった。
「こ、この度は生死の境目を彷徨っている所を助けて下さり、誠にありがとうございます!つきましては………。」
「私達、アンタの割り込みで、3名兵士を殺されてるんだけれど?」
ガシャッ!とフェイトとピューリーが黙ってバザードに銃を向ける。
それに恐怖を覚えたバザードは思わず早口になる。
「あ、謝ります!申し訳ありませんでした!私の不徳の致すところで………!」
「それ、私に言う事じゃないでしょ?」
「墓の前で土下座します!頭を地面にこすりつけて何度も謝罪します!だから………だから、命だけは!!」
「はぁ………。」
クイーンはやりきれない思いになる。
あんな豪胆な演説を行っていた男の正体が、こんなビビり症だったのだ。これでは、この男に殺された3人の兵士達の魂が浮かばれない。
「本当、どうした物かしらね………。」
「命だけは!命だけはーーーッ!!」
「ピューリー、ザクⅢから戦闘データは取った?」
「はい。連邦の新型モビルスーツ達のデータは取りました。」
「感想は?」
「ベテランと素人の差が激しかったですね。」
「そう………。」
「ベテラン」の方に、恐らくこないだ戦ったリ・ガズィ・カスタムやゼク・ツヴァイも混ざっているだろう。
そう感じたクイーンは、間違いなくこの2機が中心となってこの30バンチに来ると悟った。
「ま、データは役に立ちそうだし、ここまで頭を下げてるから許してやってもいいかしら?」
「正気ですか、姫?」
フェイトの言葉にクイーンは手をひらひら振りながら答える。
「懐の深さを見せるのも将の器でしょ?」
「あ、ありがとうございますーーーッ!!」
「た・だ・し。」
喜ぶバザードに対し、クイーンは不気味な程に無邪気な笑顔で宣告する。
「アンタ、私の「下僕」ね。」
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『シャングリラ内ドック リン・ボウ内部』
「では、これよりリン・ボウはネオ・ジオン残党討伐の任務を遂行する為、30バンチ跡地へと向かう。各員、総力を挙げて挑むように!」
ガルハルトはそう言うと、クルーに向けて指示を出した。
「出港!!」
リン・ボウのエンジンが点火し、開かれたハッチから徐々に宇宙へと巨大な艦が顔を出す。ハッチ内部では、市長のチマッターを始めとしたシャングリラ関係者が敬礼をしていた。ガルハルト達乗組員も、敬礼をし、シャングリラを後にする。
これが、彼らにとって長い旅の始まりであった。その旅の終わりに手にする物は………今の時点ではまだ誰も分からなかった。