機動戦士ガンダムU.C.0097 YUME IS BORN 作:擬態人形P
宇宙の航海は順調だった。
シャングリラから30バンチへの旅は特に敵部隊に遭遇する事なくリン・ボウは真っ直ぐ進んで行く事ができた。
そんなある日の事、ブリッジでガルハルトはビーチャと話をする。
「流石にクイーン・アズナブルが声明を出してからジオン残党が集うまでには時間が掛かるか………。」
「どうだろうねぇ、艦長。シャングリラ方面に隠れている残党が少ないだけで、案外他の場所じゃあ、ぞろぞろと居る可能性だってあるんじゃないのか?」
「どうして、そう人を不安に陥れる事を言う、ビーチャ。」
「艦長っていうのは常に最悪のパターンを考えとかないといけないからだよ。これ、ブライトさんの教えの1つね。」
伝説の艦長とも言える「ブライト・ノア」の名前を出された事でリン・ボウ艦長であるガルハルトは思わず唸る。
チャランポランに見えるビーチャであったが、冷静に考えれば艦長としてはブライトの愛弟子とも言える存在であった。その言葉を軽はずみに流す事はできない。
「………30バンチで向かう過程で待ち伏せをされている可能性はどれ位だと想定する?」
「近づくにつれ格段に高くなるね。………だから、ヤザンさんはアロードとエフィテマに交代勤務でEWACジェガンによる索敵を行わせてるんだろ?」
「クイーン・アズナブルとの合流を目指すネオ・ジオン残党ともばったり遭遇する可能性も高くなるのか………。」
「そういう事。………ま、オレとしちゃ、多少機体の損傷とかのリスクを払ってでも早い内に遭遇しておいた方がいいと思うけれどな。」
「………そう思う理由は何だ?」
意外に血気盛んなビーチャの言葉にガルハルトは興味を示す。
彼が敵との交戦機会を望む理由を知っておきたかった。
「前のシャングリラでの実戦、見ただろ?」
「ヒドイ物だった………と答えればいいか。だが、正規兵とはいえ失敗はある。」
「そうだ。でも、リン・ボウに所属してからレミオス達はまだ「勝利の美酒」を味わってない。………って言い方じゃダメだな。もっと簡単に言えば戦闘に「自信」を持ててない。」
「確かに………ヤザン大尉もアレでは実戦で使えないと言っていた。」
ビーチャの話を聞きながらガルハルトは嘆息する。要はレミオス達にもっと実戦経験を積ませたかったのだ。
ハイエンド機と違い、グスタフ・カール等の量産機は交換用のパーツがある。整備のスヴェイヌ達の負担は増えるが、命と機体があれば、戦い続ける事ができるのだ。それを見越しての発言だった。
「それにな、只でさえこの艦のパイロットの数は少ない。………というか、ラー・カイラム級とはいえ、単騎でネオ・ジオンの大群を相手にするのはハッキリ言って無謀だ。」
「貴殿は、ネェル・アーガマで戦ったではないか、艦長代理。」
「あの艦は「ハイパー・メガ粒子砲」があったからだよ。ネオ・ジオンの主力偵察機である「アイザック」の射程外からぶっ放す事も可能な切り札なんだ。でも、ラー・カイラム級にはそれが無い。」
「近づかれたら頼りになるのはモビルスーツだけ………か。」
ガルハルトはヤザンの進言を思い出す。
彼はレミオス達全員をリン・ボウの護衛に回して、ヤザン、ユメ、エル、ビーチャの4人のハイエンド機だけで突入したほうがいいと言ってきていた。それだけ彼らの間に技量の格差があるのだ。
「オレの直感が正しければ、ヤザンさん。きっと30バンチに着く前に戦闘が発生したら、きっと思い切った事をやるぜ?」
「それは、一体………。」
「まあ、オレが指揮しているよりはまともなことだよ、多分。」
笑顔で肩を叩くビーチャに対し、ガルハルトは内心、更に不安になった。
――――――――――
「シミュレーターの成績が悪くなってる?エフィテマとアロードもかい?」
「あの2人は懲戒任務を終えたらすぐに休ませてるから分からん。だが、他の4人の戦績や動きのキレは明らかに落ちてる。」
シミュレーターを一旦、終えて通路で水分を補充していたヤザンの言葉にエルは頭を押さえる。
ここ数日、ヤザンは何度もレミオス達を鍛えていたが、その動きは良くなる所か悪くなる一方だった。明らかに前の戦闘の事を引きずり自信を喪失しているのが分かる。
「ある程度予想できてたとはいえ、ここまでとはね………。」
「アイツ等に素質が無いわけじゃ無い。長所は存在するんだ。だが、経験の無さが短所しか見せていない。」
淡々と言ったヤザンは水分補給をするとそのパックを備え付けのごみ箱に捨てて、腕を組む。野獣と言われる彼であったが、珍しく悩んでいるようだった。
「そもそもこの艦には何が足りないと思う?」
「………母艦とパイロットの人数。」
「そうだ。数で劣るからこそ、個の力が無ければオレ達はネオ・ジオンの圧力の前に屈する。」
「今のネオ・ジオンの状況を考えると、立場が逆転しているのは皮肉でしかないねぇ………。」
数でも機体性能でも負けるネオ・ジオン残党がここまで戦ってこれたのは、熟年のパイロット達のレベルの高さによるものが大きい。
その彼等に数で負けている以上、機体性能を最大限まで引き出して単騎無双の状況を作るしか無かった。
………まあ、連邦の将官が今回の事にかっかせず、もう少し柔軟な対応を考えて、「クラップ級」や「ジェガン」と言った増援を幾らか送り込んでくれればいい話なのだが。
「んで、どうするんだい、ヤザンさん。何か考えあるんだろ?」
「アロードからの連絡を待つ。………それ次第だな。」
ここでヤザンは初めて二ヤリと笑った。
そして………。
『懲戒機より艦に伝達!艦の右側面にチベ級と思わしき影あり!敵艦もこちらに気付いたのか、モビルスーツが発進してきてます!』
丁度そこにアロードからの緊急通信が入った。
――――――――――
「敵の種類は何だ、アロード!」
『AMX-006………ガザDです。』
敵の機体をブリッジで聞いたガルハルトは怪訝な顔をする。
ガザDは可変モビルスーツで高機動のモビルアーマーになれる。だが、その関節部分はガザCから強化したとはいえ脆弱な部分があり、そこまで強力な機体というイメージが無かった。
「本当にそれだけか?」
『分かりません。ガザDは15体出てきてます。もしかしたら戦況によっては後3体何か別の機体が出撃するかもしれません。』
「戦況を考えればクイーン・アズナブルとの合流を考えるネオ。ジオン兵だな。だが、ガザDを主力にしなければならない程戦況が圧迫しているとは………。」
冷静に考えればシャングリラ近辺で戦ったザクⅢの部隊も合わせ、彼等は何処から来たのだろうかとガルハルトは考えさせられる。
そこにパイロットスーツのビーチャがやってきて話しかける。
「このサイド1の全てが連邦に忠誠を誓ってるわけじゃないって事だ。スペースノイドにしてみればネオ・ジオンを影から支援している所もあるってワケ。」
「成程………って何で貴殿がここにいる!?出撃だろ!?」
「ヤザンさんの「特訓」………というか、「荒治療」だってさ。」
ビーチャは驚くガルハルトに対し、格納庫のモニターを映すように言った。
――――――――――
「オレ達だけで敵部隊を………?本気で言ってるんですか、ヤザンさん!?」
『本気だ。アレくらいの敵、お前達で倒してみろ。』
「でも………。」
『できないのか?30バンチはネオ・ジオンが集ってる。これくらいの敵を片付けられないと使い物にならん。』
「……………。」
レミオスは押し黙る。
分かっている。頭では十分、分かっているのだ。だが、本当に自分は部隊長の器なのだろうか?そう考えると………。
「ヤザンさん、オレは………。」
『通信でのサポートくらいはしてやる。』
「オレは………。」
『やろうぜ、レミオス。』
「マック?」
レミオスは別の通信からの声を聞く。
マックは強気の表情で語りかけてきた。
『ヤザンさんはオレ達をコケにしてるわけじゃ無い。むしろ、オレ達は試されてるんだ。これから先、使えるかどうか。だから、ここで示さないといけない。』
「オレは………部隊長だと思うか?」
『思うさ。………でないとお前を抜いて部隊長の座を奪いたいなんて考えねえよ。』
マックは最後に前の戦闘では悪かったと言うと通信を切る。
レミオスはヘルメット越しではあったが頬を叩く。そして操縦桿を握る。
「みんな………今はまだ情けない部隊長だが、付いてきてくれ!」
レミオスはそう言うと、カタパルトからの出撃を機体のチェックをしていたスヴェイヌ達に知らせた。
今回ばかりはヤザンにもユメにもエルにもビーチャにも頼れない。いや、頼らずに済むように。彼等を困らせないように。
「レミオス・フルハーソン!グスタフ・カール、出ます!」
彼は決意と共に勢いよく発進した。