機動戦士ガンダムU.C.0097 YUME IS BORN 作:擬態人形P
『シャングリラ近辺 ムサイ級ファルメルⅡ』
シャングリラから少し離れた所で、「ムサイ級」の母艦が3隻控えていた。その内の1隻は赤色に塗られており、他の薄緑の母艦とは区別がされている。
戦闘から離脱してきたRFヅダとギラ・ドーガ サイコミュ試験タイプはそこに帰還した。
今回の作戦で主君は、生き残る事はできた。しかし、先の戦闘で随伴のギラ・ズール7機を失っており、凱旋のムードは無かった。
「………ッ!」
機体を降りるなり、格納庫でクイーン・アズナブルはヘルメットを叩きつけた。
その仕草は兵を統べる者としては相応しくないが、心情を理解できるだけに、フェイトは何も言わない。
「姫、実戦、ご苦労様でした。」
「………「ピューリー」。準備はできているの?」
「はい。」
ピューリーと呼ばれた紫髪のロングの男が出迎えてくる。
クイーンは何とか感情を押し殺しながら応える。
その様子に彼はフェイトと同じように何も言わず、代わりに兵達に指示を出すと、RFヅダのコックピットに機器を繋げる。
「フェイト・ブレイド大佐の持ち帰った映像を信頼のある者にリークさせます。………姫の素性と共に。」
「これでネオ・ジオンとして、少しは大きくなるかしらね。」
「それが、死者への手向けになります。………まずは、しばらくお休みください。」
「……………そうするわ。」
クイーンは手を振って、フェイトを連れて格納庫を後にする。
「………申し訳ありません、姫。敵戦力を見誤りました。第三者の介入も予測できず。」
「遊んでた私が悪いからいいわよ。それに、ピューリーの言う通り、兵が増えれば死んだ人も報われるんでしょ?」
「そう思わなければ我々は連邦の圧力に屈するだけです。」
「ミネバのように?」
「そうですね………ミネバ・ラオ・ザビの「ラプラス宣言」とその後の行動は「ネオ・ジオン」にとって大打撃でしたから………。」
「案外、誘惑されたのかもね、男に。」
「笑えない話です。」
ジョークを交えて話すクイーンは部屋の前まで行き、扉に手を掛けて小声で言った。
「………ありがと。私を守ってくれて。」
フェイトの返事は聞かず、少女は部屋に入った。
――――――――――
『シャングリラ内ドック リン・ボウ内部』
「………ねえ、ビーチャ。私達、何で独房に入れられてるの?」
「そりゃ、プロモーション用のモビルスーツを勝手に持ち出したからな。」
「アンタは住み慣れてるねぇ。逆にヤザンさんは慣れてないんじゃないの?」
「ふん。貴様等のせいで酸いも甘いも理解してる。」
戦闘から数日。独断で戦闘に介入したユメ、ビーチャ、エル、ヤザンの4人はリン・ボウ内の独房に男2人と女2人でそれぞれ入れられていた。
別にユメは潔癖症では無いが、本当に我が家のようにくつろぐビーチャの姿などを見ていると、ゲッソリしてしまう。
「連邦ってのは規律を破る者には罰を与えるのが決まりなんだよ。その行為でシャングリラ内での争いを未然に封じられたとしてもな。」
「皮肉だねぇ………。でもまあ、早くシャワーくらいは浴びたいね。」
「浴びるのは銃殺刑という名の銃弾の雨かもな。」
「ヤザンさん、それ笑えない。」
何でこの3人はこんなにこの状況を楽しんでいるのだろうか?と疑問に思ったユメは、足音に耳を傾ける。見れば、ここの艦長であるガルハルトと市長であるチマッターが数名の銃を構えた兵士と共にやってきた。そして、チマッターは前に出ると、牢の中の4人に対し、深々と頭を下げる。
「この度はシャングリラを守って頂き誠にありがとうございます。そして、そんな英雄達に対して、こんな扱いをして申し訳ない。」
「別に最終的に謝礼金とか貰えれば別に構わねえよ。………で、どうだ艦長さん。」
「………ビーチャ・オーレグだったか。貴殿の言う通りになった。」
ガルハルトは手に持った小型モニターの画像を4人に見せる。すると、シャングリラのテレビ中継で映ったヅダが、リン・ボウのモビルスーツや連邦のプロモーション用のガンダムを次々と破壊する姿が捉えられていた。そして………。
「つい昨日、付け加えられた映像がこちらだ。」
今度はモビルスーツのコックピットからの視点が映る。連邦の機体のマシンガンを躱しながら、同じように機体やガンダムを破壊する様が出ていた。
「この映像………あのヅダから?」
「ジャーナリストとかにリークして全世界に中継するように広めたんだよ。自分達の「功績」だってね。」
ユメの疑問にエルが答える。それにガルハルトが頷き、更に告げる。
「この映像と共に声明文が届いた。真なるネオ・ジオンを統べるのはシャア・アズナブルとハマーン・カーンの娘「クイーン・アズナブル」だと。」
「………そいつは流石に予想外の言葉だな。」
ハマーンという言葉にビーチャとエルは考え込む仕草を見せる。ヤザンも少し、何か引っかかる物を感じていた。
「あのシャアとハマーン・カーンの間に隠し子か。その情報に信憑性はあるのか?」
「「上の指示」では無いというのが答えだ。だが、これが真実かどうかは関係ない。ネオ・ジオンにとっては、「血統」という名の人柱が立っただけで脅威になるからな。」
「ネオ・ジオンの動きが活発化するって事か。」
「活発化するとどうなるの、ヤザンさん。」
「世界各地でテロ行為が増える他、そのクイーンとやらの元に兵が集う。下手すればまた大戦になるかもな。」
「……………。」
淡々と語るヤザンの言葉にユメは黙り込む。
ヤザンは………いや、ビーチャもエルも、この大きな流れを読んでいたのだ。一応、コロニーを守る為という理由で先の戦いには介入していた自分であったが、そんな凄まじい事になるとは思っていなかった。
「………で、ここからが本題だが。」
「リン・ボウ各員は、速やかに嘗ての英雄達を正規兵として雇用し、クイーン・アズナブル一派を討伐せよ………ってか?」
「………ビーチャ・オーレグ。何故、私の言葉を取る?」
ニヤニヤと語るビーチャに対し、ガルハルトは頭を抱える。
プロパガンダの為の観艦式を滅茶苦茶にされた上に、逆にネオ・ジオンとしてのプロパガンダに利用されたのだ。ここまでコケにされて、地球連邦の頭の固い将官達が黙っているわけが無いとユメ以外の3人は予測していた。
「久々の宇宙の旅か………昔の血が騒ぐね。」
「フン。ここの正規兵共じゃ不安で仕方が無い。やるからには鍛え直すぞ。」
「ユメの乗った機体は勿論、あのハイエンド機、使ってもいいよな?」
「……………。」
牢のカギが開けられ、4人は外へと踏み出す。
この瞬間から、彼等はリン・ボウの正規兵へと変わっていた。ユメは不思議な気分になる。自分が、こうして地球連邦軍の一員として戦う事に。
「とにかく、詳細を話すから付いてこい。………色々と前途多難そうだ。」
肩を落とすガルハルトを見ながらユメは隣のエルに聞く。
「ねえ、エル。」
「なんだい?」
「………本当にコロニーを守る為だけに、みんな戦ったの?こうなる事、予測してたんでしょ?」
「そうだねぇ。ヤザンさんは戦場が恋しいって言ってたし、アタシ達は里親探しかな?」
「里親?」
「アンタの。………自分の素性、知りたいでしょ?」
「……………。」
まるで心の底を見透かされているような優しいエルの瞳を、ユメは直視する事ができなかった。