機動戦士ガンダムU.C.0097 YUME IS BORN 作:擬態人形P
「で、そのクイーン・アズナブル様が言うには、志を共にする者は地球連邦軍の罪の地である「30バンチ」跡地に集えってわけね。」
リン・ボウのブリッジにて、ビーチャは苦々しい顔でガルハルトと話をしていた。
声明文がそう表現しているのは、ネオ・ジオン鼓舞の為の膨張だから………というわけでも無い。「30バンチ事件」と呼ばれる事件は、地球連邦で以前結成されていた「ティターンズ」と呼ばれる部隊が起こした凶悪事件だったからだ。
「G3ガスによる反連邦政府デモの鎮圧………。その為だけに1500万人の住民が虐殺された。機能を停止したコロニーは荒廃し、ミイラ化した死体が漂っているとか………。」
「エゥーゴ結成の起源となった事件なんだっけ?………そこがネオ・ジオンのアジトの1つになってる可能性があるって事か。」
「そうだ。我々はそこに向かわなければならない。」
ガルハルトは溜息を付く。
当たり前だが、ティターンズ全ての者がこの作戦に賛成したわけでは無い。むしろ反対する者が大半なのだ。
「戦後のティターンズに所属する者達は周りの対応もあって、この事件を始めとした自らの組織の凶悪行為にトラウマを植え付けられる者も多かった。この艦で言えばキクハもそうだな。当時、優秀だった故にティターンズの見習いだった。」
「そいつはヒドイ話だな。………んで、その跡地がネオ・ジオンの一派のプロパガンダに利用されていると。」
「トラウマを植え付けられている者の傷口に塩を塗るような行為だ。」
「……………。」
ガルハルトの言葉にビーチャの顔が少し険しくなる。
「なあ、艦長。アンタの言葉はティターンズ視点から見ているような感じだ。あまり言いたく無いが、その被害にあった一般人や戦ったエゥーゴとかの組織の事は考えてるのか?」
「いや、すまん。そういうつもりは無かった。」
「もしかして、グリプス戦役では………。」
「ティターンズでは無い。エゥーゴに所属していた。だが………。」
ガルハルトはそこで一瞬言いよどむ。ビーチャは何も言わずに待つ。それが合図となったのか、軽く息を吐くとガルハルトはビーチャに質問をする。
「………そもそもティターンズ発足となった事件は何だと思う?」
「事件?U.C.0084にジオン残党を掃討する事が目的だったんじゃないのか?」
「小規模だが、ジオン掃討を目的とした組織は以前からあった。………前後関係を考えれば予測はできる。U.C.0083のコロニー落としだ。」
「成程、あの事件か………。」
「そして、そのスペースノイドの行為は、人が持つ黒い感情を爆発させる「起爆剤」になった。」
「??」
「大切な者を一瞬にして奪われた者はどうする?」
「………艦長?」
「等価を求めるのだ。大切な者を奪う。それで自分の均衡を保つ。つまり、求めるのは「生贄」だ。」
「おい………艦長。」
「聞こえるのだよ、女子供の悲鳴が。私の仲間の軍人達が、欲望の赴くままにジオンの民の心を「蹂躙」していく様が!」
「艦長!」
「見ている事しか出来なかった!呆然としている事しか出来なかった!いや、違う!私は「黙認」していたのだ!私もまた「怒り」に囚われてあの暴虐に加担して!!」
「落ち着け!おっさん!!」
独白へと変わるガルハルトの肩を、ビーチャは揺さぶり何とか彼を落ち着かせる。周りを見ると、クルー全員が見ないふりをしていた。いや、してくれていた。これが初めてではないのだ。
「………悪かったよ、艦長。アンタの言いたい事は分かった。」
「いや、こちらこそ申し訳ない。………そうした経緯があるから私はエゥーゴに付いた。だが、その罪の意識は消えない。それと同時に理解してしまえるのだ。ティターンズに付いてしまった事で後悔を抱えてしまう者達の感情も。」
「そっか………。」
ビーチャは改めて悟る。何処の組織もドス黒い物は抱えているのだと。その一部の黒い染みは全体に広まり、関係者達を苦しめてしまっているのだと。
「だから、ビーチャ・オーレグ。この場で改めて貴殿に問いたい。」
「ん?」
「あの子は何だ?」
「……………。」
真剣なガルハルトの言葉を受け、ビーチャは脳裏にユメ・ビアンノの姿を浮かべる。
戸籍上はビーチャ・オーレグとエル・ビアンノの養子。その実態は地球連邦軍大佐であるロック・ホーカーが保管していた強化人間である。
「本当に………それだけなのか?」
「それだけしか本当に分からないんだ。データが抹消されてたからな。今回の追撃任務に参加するようにしたのは、ユメの素性を確かめに行く絶好の機会になるとエルと話したからだ。」
「確かに軍属にならなければ、軍の情報に近づく事はできないだろう。だが、あの子は………。」
「幼いから戦闘に参加させるなって言いたいんだろ?でも、ユメは望んでるんだ。自分の居場所を。」
「居場所………?」
「悲しい話だが、オレ達じゃ懐いてくれなくてね。」
少し自嘲気味に言うビーチャの言葉に、今度はガルハルトが神妙な顔を見せる。
「ユメは自分の居場所を探している。だから、オレ達はユメの背中を押してやりたいと思って………。」
「その為に………何度も人殺しをさせるのか?」
「戦争にその道理は通じねぇよ。それに、戦力が足りてないんだ。ユメの力は必要になる。何よりユメが先に進む事を望んでるんだから、従ってやるのが「親心」だろ?」
「……………。」
寂しそうな笑みを浮かべたビーチャを見て、ガルハルトは少し悲しい物を覚えた。
――――――――――
「……………。」
ブリッジに入る扉に手を掛けた状態で、ユメはずっと押し黙っていた。
エルだけでなくビーチャにも自分の考えは見透かされていた。心の中にズケズケと踏み込まれたくないのに………だ。
(何で私の心はあの2人に読まれてしまうんだろう………。)
2人はニュータイプとしての能力は低かった。だからユメと感応を起こすことも無いはずだ。何か面白く無かった。
(このモヤモヤは私の素性が分かれば解決するのかな………。)
ユメは静かに水色の髪をなびかせながらその場を後にする。
(私の「居場所」を見つけられれば………。)
そう信じるしか無かった。