関所に夜が訪れる。静かな夜だ。衛兵たちが部屋の外を歩いている足音が聞こえて来るが、この辺りは国境に面しているわけでもない。比較的安全な場所なのだろう。
確かにいまだ例の空賊は捕まっていない。だが、飛行艇は帝国方面に逃げた筈だ。警戒も慣例的なモノと考えて問題がない筈だ。この国は帝国のように多くの火種も抱えていないのだから……。
「寝ないの? さっきからずっと何かを考えているみたいだけどさ」
「同感。私達みたいな傭兵と違って、そういうのに慣れてないと辛いよ」
「少し、整理したい事がありまして……。今回の空賊の事件が今後にどう響くのかを」
もしも、実験的な物であったのならばリベール王国情報部は何を目論んでいるのか。
人を操る技術。もしも、何かを企んでいるのならルーアンでも何かが起きる筈だ。
ただ、動きにくい。もしも、帝国内部であったのならば動きようがあるのだが――。
刃を交えたからこそ分かる。情報部の中心のリシャールという男は純粋なのだと、恐らく、彼もまた百日戦没で何かを感じ取り、国の為に動こうとしているのだろう。
問題があるとすれば、それ故に読みにくいという所だろう。
もしも、彼が純粋に国への憎しみで動いているのならジェニス王立学園を狙う筈だ。
今回の一件に関しても、最後にどういう終止符を打つつもりだったのかが読めない。まるで、リシャールという男とは別に意志が介在しているようにも思えてしまう。
そして、その思惑を第三者でしかなかった人間が介入し、僅かではあるが計画に修正を加える必要性を作ってしまったとするならば……。
いや、考えた所で待っているのは袋小路か。やはり、今は休む事を最優先にする必要が……。
「そう言えばさ、なんでマリアは帝国軍情報局なんかに所属しているの? 私らみたいな稼業の人間なら分からなくもないけどさ。十分に表でもやっていけるだけの知名度ある訳だし、危ない橋渡る必要なんかないんじゃない?」
「確かに気になった」
確かに帝国の黒の歌姫として蒼の歌姫であるヴィータ=クロチルダに並ぶ人気を誇っている。
朱い星座は猟兵団内部で資金調達部門があるだけにそちらの方面にも詳しいのだろう。確かに黒の歌姫という立ち位置は普通に生きていくだけには困る事はない。
帝国内重鎮とも『お友達』になれる為、それなりに融通も利く上にお貴族様とも親しくなれるので人脈作りさえ怠らなければ安定した生活が約束されているようなものだ。
「あぁ、なんていうんでしょう。世界を変えたいからとかそんな御大層な正論を述べるつもりもありませんし、私の正義を貫くとか大層な事を語るつもりもありません。なんていうんでしょう。真正面から聞かれると上手く答えにくいですね。強いて言うなら、無知である事が嫌だからでしょうか?」
国を変えたいのなら、テロリストになればいい。軍を変えたいなら軍に入ればいい。
戦いを求めるのならば、猟兵団に。情報局を選ぶ人間はそうそういない。私には彼らに必要だと思われる愛国心が欠如しているのだ。それどころか、個人という存在に対して執着もない。だからこそ、顔をいくらでも使い分ける事が出来る。恐らくこれも、自分を守るための処世術なのだろうが。
「無知。知る事がそんなに必要な事?」
フィーが何を聞きたいのかは薄らであるが理解出来る。
知らなければいい事は多い。知って後悔する事も多い。
特に情報局というのはそういう工作の数々を見てしまうのだ。国を守るという大義の為に何を犠牲にして来たのか。それが目に見えて分かってしまう。
ハーメルもその一つだ。リベール王国との戦争を穏便に片付けるという大義の為に存在を抹消された。
住んでいた住人も、何もかもが無くなった。
「知っていれば、被害を最小限に食い止められますから。被害は少なければ少ない方がいい。別に貴方方の存在を否定するつもりもありません。こうして利用していますから……。でも、認めるつもりもありません。無関係な人間を襲う暴力装置程に始末にを得ないものはありませんから」
私の返答に何かシャーリーが呟こうとするのだが、私はそれを止めた。
何かが聞こえたからだ。普通の人間には聞こえない程度の周波数だが、これは犬笛? こんな時間に?
軍用犬の訓練というのは考えにくい。だとすれば、結論は一つしかない。
「どうかした?」
「犬笛です。少し、様子を見て来るのでシャーリーさんは少し大人しくしておいて下さい」
「私もいこうか?」
確かにフィーも同行して貰うほうが効率は良い。
猟兵団の方が夜間に目も利く。だが、現状はシャーリーが戦えない以上、ここで失うのは厳しい。
彼女ほどの戦闘狂ではないにしろ、ここは安全策を取るべきなのだろう。
何より、遊撃士に警戒をされたくない。
「一人で問題ありません。少し様子を窺って来るだけですから」
そう言って部屋を後にすると関所の外へと出る。気配を消して衛兵の目を盗んでいる為、外へ出た事に気付かれていないだろう。外は闇に包まれているが、その中を何かが走る足音が響き渡る。
犬なのだろう。ただ、足音から考えるに何かを背負っている。軍用犬。情報部の仕業だろうか?
崖に上り、その軍用犬の群れをやり過ごすと音のした方へと向かう。
随分と険しい道を通り、辿り着いた崖上にあったのは幾つもの大きな籠と小型の飛空艇。
そして、情報部の人間だった。
「情報部のようですが、今回は中核らしき人間の姿が見えませんね」
軍用犬の始末は遊撃士と衛兵で事が足りる筈だ。
ならば、ここでわざわざ情報部と事を構える必要性はない。
だが、何かを感じ取り、私は藪から飛び出し、前へと転がると体勢を立て直しながら双剣を引き抜いた。
気配を感じなかった事を考えると相当なやり手。そこらにいる雑魚とはどうやら格が違うようだ。
「やはり、現れましたか」
姿を現したのは湖畔でシャーリーと戦ったあの女。
事前情報が少ないが、彼女を破るだけの実力を持っている事を考えると手加減出来る相手ではない。
最初から全力で叩き潰すべきだろう。だが、どうやら先手を取られたらしい。
『炎城』
手に持つ刀を地面に突き刺すと地面から炎が噴き上がる。あの体力を奪う炎だ。僅かに腕に掠っただけでもあれ程の状態異常を与える攻撃。全身で受けるなど出来る筈もない。
しかも、今回はアーツを使えない。これ以外に方法がない。
最初から使いたくはなかったが、恐らく相手の武器も封印指定の古代遺物。なら、こちらも出し惜しみしている場合ではない。双剣を即座にしまうと右腕を引き抜いた。
「やはり、一筋縄ではいきませんか。これは深淵が私を組み込んだわけです」
蒼炎の能力は確かに体力を奪い、相手を捕縛する事が出来る。
しかし、本来のこの能力の使い道は別に存在している。神殺し。星杯騎士団が相手にするような人の力の及ばない存在を排除する為に作られた古代遺物。
それ故に攻撃形態もあるのだが、それを使うべきか迷っていた。
下等な神々であれば、これでも十分に倒す事が出来る。
だが、相手の古代遺物。あの禍々しい太刀。あの紅黒く輝くその刃は多くの持ち主を破滅へと追いやり、怪物へと姿を変貌させてきた餓狼。狂った神の末路。
それを自分の身体に取り込みながらも平常の精神を保てるとあれば、化物と言わざるを得ない。
シャーリー戦の時に使っていた『陽炎』を解除するとリシェルは妖炎を地面から引き抜き、構えた。
「魔弾を破ったのであれば、隠す必要はありませんか。執行者№Ⅳ 妖炎のリシェルと申します」
執行者。明らかに情報部の人間ではないという事。
そして、魔弾を破ったという言葉。つまり、こいつらは帝国の遊撃士協会を襲撃した主犯。
厄介な存在を釣り上げてしまったモノだと思う。執行者№があるという事はそれだけ大きな組織。
執行者が作戦を実行する実行者ならば、草案、総括を行う人間もいる筈だ。
相当な大組織。これは国一つの問題ではないのではないだろうか。面倒だ。
「やれやれ、鉄血宰相が裏で絡んでいると思ったら見当違いの物を引き当ててしまいましたか」
まぁ、その可能性も考慮していたがこの様子。互いに協力し合っているようには見えない。
あの男の事だ。利用できなくなったら切り捨てる筈。腹の中の探り合いと言った所か。
アーツによる補助もない。どこまで行けるか分からない。ここは一時撤退するべきか。
分が悪い。敵の情報は手に入った。それを持ちかえるのも諜報の仕事だ。
『滅鬼』
リシェルが真正面から斬りかかってくる。
だが、いまだに炎への対処法が見えない。それだけに私は受けることをせず、距離を取る。
餓狼を抜いた事により、一時的に身体能力は上がっている為に避ける事に関しては問題がない。
敵の情報は手に入った。ここは一旦引く。それを敵は許してはくれないだろう。帝国での遊撃士協会襲撃に関与していたのならば計画の成就の為に私を何としても排除しておきたい筈だ。
振りかぶった炎は何もない地面を焼いている。時間をかければかける程に此方が不利になる。
その上、血染めのシャーリーが遅れを取った相手とあれば一筋縄にはいかないだろう。
あの刀剣。八葉を習得した人間が利用している刀に酷似しているが、その割に風の剣聖やカイウスのような凄味を感じられない。東方から流れて来た?
「いきなり斬りかかってきますか。節操のない女性は嫌われますよ」
「なら、こちらも言わせて頂きましょう。ここは戦場ですよ」
そう告げた瞬間、リシェルの姿が消えた。
当然、餓狼を構えどこから攻撃が来ても対処できるように。火花が散る。咄嗟の判断だ。感覚だけで対応できたからいいが完全に見えていなかった。まただ。また、右眼が見えなくなっている。
恐らくリシェルはその事に気付いている。だからこそ、右の死角を突いて来た。
「わざわざご指名という事でしたから期待していたのですが、戦闘はこの程度ですか」
次元が違う訳ではない。勝てない相手ではない筈なのあが、届かない。次第に追い詰められていく。
もう引けない。背後にあるのは燃えさかる炎。前へ踏み込む以外に道はない。
一か八か。大技に賭けるしかない。
『大蛇』
斬撃は捻じ曲がり、リシェルへと向かう。
だが、それをなんでもないかのようにいなすとリシェルは剣を鞘へと納め、駆け抜ける。
言葉が出ない。完敗だ。身体が冷たくなる。どうやら、呪いの再生能力も無効化されているらしい。
だが、同時にそれは人として死ねるという事だ。それはそれでよかったのかも知れない。
いや、それでいいのか? こんな所で終わって。分からない。分からない。分からない。
気が付けば口の中に甘味が広がっていた。
「雰囲気が変わったと思ったら獣にでも堕ちましたか」
向月で確実に息の根を止めたと思っていたのだが、どうやって復活したのか斬った感覚は確かにあった。
その上、不意打ちだ。咄嗟に対応できず、右腕の肉が噛み千切られている。神経がやられていないのがせめてもの救いだが、右腕の回復に専念しなければ厄介だ。
「無駄だと言っているでしょう!」
当然、右腕を庇う受け方をしてしまう。これまでの太刀筋から考えても受けきれる。そう思っていたのだが、技ですらないただの太刀を振る動作で身体を吹き飛ばされる。
もしも、先程と同じような技術でここまでの力を発揮されていたら倒れていただろう。
一筋縄ではいかない。そう判断すると『炎城』を解き、『陽炎』を発動させる。
それと同時に噛み千切られている右腕の部分に青い炎を纏わせ、回復に専念する。
だが、それが仇となった。見抜かれていたのだ。同時に二つの炎を使う事が出来ない事を。
「力を奪われない事を分かってるんなら怖くねェよな!」
子供がはしゃぐように振り回される太刀なのだが、その剣撃の重さに受ける事も出来ず反撃の糸を掴めずにいた。何もかもがおかしい。何だ。この嫌な感じは……。
直感を頼りに再生を中断し、出血を止めるに留めると目を閉じ、深く息を吸い込んだ。これ以外にも辺りに何かが隠れて様子を窺っている。ならば、炙り出すだけだ。全てを焼き尽くす。
「我が深淵に刻まれし劫火よ。煉獄の炎をここに再現し、全ての罪を打ち滅ぼさん。焼き尽くしなさい。炎獄煉城網!!」
『炎城』とは比べ物にならない劫火。妖炎の異名に相応しき、その力を解放した結果だ。
一度でも火が燈れば全てを焼き尽くすまで消える事はない。神ですら焼き尽くす事の出来る我が一族に伝わりし古代遺物の真なる一撃。流石にコレを喰らえば闇夜に紛れている方も……。
身体が自然と動いた。投擲された槍を弾き飛ばす。
だが、それが限界だ。元々この力は莫大な精神力を持って扱えるものだ。そう何度も使える物ではない。
どうやら乱入者の目的はここで相対したアレのようだ。なら、追っ手は来ないだろう。
「流石に星杯騎士団の位階持ちと単騎で渡り合うつもりはないのでここは引かせて頂きましょう。それで構いませんか? レイン=シャネル」
星杯騎士の中でも異端中の異端。聖痕を持ちながらも位階を持たない彼女をこんなに早く切って来た事は予想外だった。いや、先程の変貌したあの帝国軍の人間を見れば当然か。
彼女自身、目的は我々ではなくあの帝国軍の人間の持っていた古代遺物が狙いなら……あの悪名高き破戒僧らしい仕事と言えなくもない。神殺しの槍を保有する彼女らしい仕事だ。
「逃がすと思ってるのって言いたいけど、こっちの処分もあるし、今回は見逃してあげる」
あれだけ私が苦戦していた相手を手玉に取り、地面に組み伏せその喉元に聖槍ロンギヌスを突き付けていた。
星杯騎士がいるという事は正騎士もどこかに紛れ込んでいる可能性が高い。その上、帝国の情報部。白面にしてはとんだババを引いたモノだ。はっきり言って知った事ではないのだが。
深淵も道化師もこんなそうそうにこの女がどういう理由であれ絡んでくるのは予定外だった筈だ。いや、教会ですらも予想できていない可能性もある。
しかし、帝国軍情報部と星杯騎士団が揉めるとなればそれはそれで好都合だ。アレ自体が帝国外部に絶大な影響力を持ち、実質的に情報局をまとめ上げているのも事実。それを考えれば――。
そう結論付けると足早にその場を後にする。気紛れで見逃されたようなものだ。気が変われば面倒な事になる。
闇夜に紛れるように姿を消すとそのまま部隊に合流して基地へと帰投しようと考えるのだが、その道の真ん中で足を止めた。今度は破戒僧とは別の意味で面倒な相手が現れたからだ。
「やぁ、大変だったね。まさか、彼女がこんな早々に介入して来るとは予想外だったよ」
「そうですか。しかし、彼女が乗り出して来るのに戦力の増強は見込めないのなら今回の計画は仕切る人間を変えるべきなのではないでしょうか? 失敗しますよ」
明らかに白面には荷が重過ぎる。人望もないのだ。最悪、味方に切られて計画の途中にという事もあり得る。
前々からあの性格の悪さは生理的に受け付けられなかった。しかも、幻燈計画まで私の役回りは回って来なかった筈なのに急きょ呼び戻され、あの男のサポートと来たモノだ。虫唾が走る。
「まぁ、計画が失敗しても目的の物が手に入ればいいからさ。余計な事をしてくれなければいいんだけどね」
「何とも言えませんね。しかし、道化師が早々にこちらに来たという事は猟兵団は壊滅という事ですか」
「まぁ、流石に二大猟兵団を相手にしたんじゃ酷い有り様だったよ。まぁ、でも警戒はしないといけないから組織の立て直しなんかで少しの間は拘束できそうかな。情報局の方に関しては猟兵団を動かす事で自らが表舞台に出て来るのを避けた上に自分達の発言力を高めるのに利用された形だけにちょっと癪だけどね」
帝国方面での作戦行動はある一点では成功し、別の局面。今後の帝国での計画を考えれば失敗といった具合なのだろう。やはり、彼女はあの場で仕留めておくべきだったかもしれない。
「一ついいですか? 彼女を一度確実に仕留めたのですが、そこから息を吹き返したあげく豹変した事を確認しました。彼女は一体、何をしたんです? あんなものは有り得ない」
見た限り、ただの古代遺物というにはいささか納得がいかない点が見受けられる。まるで、何かの意志に身体を乗っ取られていたかのようだ。理性も技術も失った。ただの獣に成り果てたかのような。
「流石に僕にもわからないかな。ただ、深淵が言うには僕達が求めてる女神の至宝とは異なる力とは言ってた気がするよ。まぁ、D∴G教団が研究してた古代遺物らしいんだけど資料も紛失してるし、定かではないんだけどね。彼女の話を聞いた限りだと君の力に似て非ざるって所かな」
妖炎――その真意は暴れる神々を討ち滅ぼす炎が宿った魔剣だ。
その刀そのものに意思はなく、ただ刀として使われる道具。これまでの担い手にもあそこまでの豹変をした人間がいるとは聞き覚えがない。ただ、引っかかるのは豹変した瞬間に私の炎の特性を見抜いた事だ。
知っていたというべきなのだろうか? 以前にこの担い手が戦った事がある相手?
ますます理解に苦しむと思ったのだが、一つだけ心当たりがない事もなかった。
執念。いや、怨念というべきかもしれない。ただ、憎しみだけが宿り神々へと突き立てる牙になった。
どちらにせよ、今後も目の前に現れるのだとすればその力を完全に物にする前に仕留めなければならない。
「まぁ、恐らくは星杯教会に処分されるでしょうけどね」
そう道化師カンパネルラに告げると闇の中へと姿を消した。
「…………私らはこれからリベールに向かって色々とする。以上って作戦指令すら無茶苦茶だー」
この書き方はフェイが作った物ではなさそうだ。恐らくは帝国内部の情報網を管理している帽子屋だろう。
にしても、適当――しかも相方が襲撃犯。明らかに気が気でないのは確かだ。下手したら私は死ぬのではないだろうか。こんないたいけな小市民をそんな獰猛な獣の前に差し出すなど気は確かとは思えない。
「私に何をさせるつもりですか」
「別に。逃げたいなら逃げればいいんじゃないかなー。私じゃ貴女を止める力はないしね。言っておくけど、私は情報局内部の情報なんて持ってないし、彼らからしたら利用価値も低いから人質としての価値はないわよ」
言ってて悲しくなるが事実だ。実際、私はしがない監察医。遺体を解剖して死亡した原因を突き止めるだけだ。従軍医として軍と共に行動した事もない為、銃器の使い方すら怪しい。魔物に対する抵抗力など本当に一般人程度。いや、日陰にいた人間。引きこもりという事を踏まえればそれ以下だ。
気付くと目の前に小銃を突き付けられていた。どうやら、フェイの奴。連れていくからと言って武装解除をさせていなかったらしい。死んだら枕もとで永遠と陰口を言ってやろうか。
「撃ちたければ撃ちなさい。抵抗はしないわよ。痛いのって嫌いだしさ。やるなら一撃でおねがいね」
「理解に苦しみます。それとも、私が撃てないとお思いですか?」
「いいや。そんな甘っちょろい事は思ってないよ。撃ちたければ撃てばいいと思っているだけだから」
あちら側にいたのならば殺しくらいなれているだろう。狙撃手だった事を考えれば目の前で直接手を下すのは初めてになるのか。あの人は撃たれても生きていたみたいだし。
ただ、こうして銃を突き付けられて思うのだがやはり人の死を見過ぎて来たのが理由の一つなのだろう。
目の前に直面して、感じるのは私の番が来たのかという見当外れの感情なのだ。
「でもさ。貴女はソレでいいの? 無抵抗な私なんかを殺して矜持が傷付かないのかなーってね。それにさ。何を思ってあんなことをしようと思ったのかは分からないけどさ。そんなに世界が嫌いなら他人に迷惑かけないで欲しいね。今すぐその銃で自分の頭を打ち抜くべきよ」
「お前達に私の何が分かる……」
「さぁ。なら、逆に聞くけど貴女に私達の何が分かるの? それと同じよ。もしも、私達の目的が知りたいなら着いて来ればいいんじゃない。あの人の大法螺に乗せられて付き合ってる大馬鹿共が本当にバカなのか、理想主義者なのかを確かめさせてあげる」
ここまでよく口が回るモノだと思う。
銃を突き付けられながらも減らず口。自分を尊敬してあげたい。
しかも、どうやらその言葉に納得してくれたようだ。まぁ、傍から見てれば大佐に関しては理解に苦しむ人間ではある。どちらかといえば、誤解を受けやすい人間だ。いや、自分から誤解を受けるように調整しているというべきかもしれない。あの場にいる連中は何かを失った奴らが大半なだけにどこか歪んでいるのだ。
「わかりました。今はその口車に乗りましょう……」
「大いに乗りなさい。大船に乗ったつもりでいればいいわ。もしかしたら、ドロ船かもしれないけどね」
「それだと沈んでしまうんですが……。はぁ、本当に先が思いやられる」
先程まで死んだ目をしていた少女の目に少しずつ生気が宿り始める。
それと同時に私に対する評価が急降下しているような気もしなくもないが気にしない。気にしたら負けだ。
そんな下らない雑談をしながら再開した飛空艇に乗り込み、適当な席に座っていると隣に乗客が座った。度も長いのだ。少しぐらい世間話を交える程度に挨拶くらいはしておくべきだろう。
そう判断して、挨拶しようとするのだがその隣の席の住人に苦笑いを浮かべる。
「あーえっと、鉄仮面! て、なんでこんな所にいるのよ。アンタ、髭の直属の部下なんだからお金あるでしょう! 私みたいな仕事が多いだけで薄給の日陰仕事と比べ物にならない位に」
「鉄仮面ではなく、アイスメイデンで――違う! クレア・リーヴァルトです。先日、確かにそう教えさせていただいたはずですが……」
クレア・リーヴァルト。鉄血宰相の子供達。
大佐がわざわざ向かったリベールにこの女がどうしているのか。いや、それ以上に今この状況。隣にいる襲撃者の事の方が心配だ。やばい。やばいどうする。変に勘繰られると後々が面倒になってしまう。
「相変わらずですね。前々から思っていましたが、人の名前はちゃんと覚えた方がいいですよ。同じ職場の同僚として少し恥ずかしいです」
「同じ職場? 確か、遺体安置所で働いている方に……」
「最近、新しく配属された奴よ。私が休暇取らない上に無能だからこうして監視役として着いて来た訳。まぁ、艇の良い厄介払いってやつよ。職場には平穏を。私には騒動を。あぁ、ムカつくわ」
話をこちらに乗せて来てくれただけにそう言って適当にあしらうと飛空艇の中で気が気でない時間を過ごすのだった。