「すまないね。こんな時間まで残してしまって……」
「いえ、構いません。これが、仕事ですから」
猟兵団の不可思議な動きに合わせ、帝都庁に潜入して早三年。
ここでならば、帝都への出入りを監視できると判断して潜入したのはいいものの、ここまで四大貴族に目立った動きはない。
ただ、軍内部からの水蒸気を用いる旧式の戦車の納入申請など明らかに謎めいた動きはあるのは事実。問題は誰が何の為に猟兵団を動かしたかだ。
ジェスター猟兵団――活動を停止していた後の唐突の動き。
何を狙っているのか。
既に手を打ってはいるものの、裏で何者かが手を引いているのは明白。
それを明らかにしなければ、真の意味での解決はない。
だからこそ、急がなければならない。
その為に手近なカール=レーグニック帝都庁長官の姪を足掛かりに信頼を気付いて来たのだ。共和国人の血を引いているというバッシングに耐えながら。
「それにしても、君には色々世話になってしまったからね。あの娘の悩みにいち早く気付いてくれて、彼女の支えになってくれた。感謝してもしきれないよ」
「似た者同士だからでしょう。少なくとも、私はそう思いましたから」
妾と道具。
決して、同じ立場ではない。
利用価値があると思い、手を差し伸べた。だが、それ以上に現実に縛られ続けている彼女を見ていられなかったというのも事実なのだろうと思う。
会った事もない。今でもあの方を縛り続ける鎖。
そんな人物に重ねてしまい、自分らしくもなく腹が立った。
だから、貴族様を殴ってしまったのだろう。
「しかし、お蔭であの娘が思い詰めて自ら命を絶つのは避ける事が出来た。ただ、息子の貴族嫌いは加速してしまったがね……。そして、君の立場も危ういモノになってしまった」
「問題ありませんよ。慣れていますから」
手を止める事無く、作業を続ける。
四大貴族からの嫌がらせは日に日に増していくのだが、嫌がらせのレベルが低すぎて何とも感じないのが現状だった。
陰湿なのは事実であるが、四大貴族の傲慢さ。貴族としての振る舞いの愚かしさを知るにはいい機会であると共に、彼らと敵対する理由にもなる。
何より、こちらに鉄血宰相の目を向ける事により、今回の仕事をスムーズに進められた事を考えると都合が良かったとも取れなくもないのだ。
お蔭で彼らが帝都に潜る工作をするのに十分過ぎる策を講じる事が出来た。
「そうは言っても……!? 何事だ!」
何かあったらしく、扉を開けて帝都庁職員が駆け込んでくる。
夜更けの頃合い。この時間に何かが起こったという事は恐らくは……。
だが、どうする。この状況では私は動けない。怪しまれる。
「帝都の遊撃士協会支部が何者かの襲撃にあったと! 未確認ですが、猟兵団の姿を目撃したとの報告も流れて来ており……」
「猟兵団ですか……。ですが、遊撃士協会となれば治外法権とも取れかねない。不用意には手出しし辛い状況というわけですか。面白い事をするものです」
「なるほど。至急、遊撃士協会周辺住民には避難勧告を」
避難勧告――軍を動かすのは不味いと判断しての事だろう。
だが、どうして遊撃士協会を狙ったのか。
あそこを狙っても美味しい事は何もない。箔でも着くと思ったのだろうか。
全遊撃士を敵に回して生き残れるとは到底思えないだけにそんな馬鹿な依頼を受けた猟兵団の気がしれない。自殺行為だ。
だが、これではっきりわかった事がある。
鉄血宰相の思う壺。描いた筋書き通りに進んでいるという事だ。
恐らく、この襲撃後には帝国内部に遊撃士協会は存在しなくなるだろう。
その代わりとして、帝国内全土を管轄とする組織を作り上げる。そこを鉄血宰相の子供達に指揮させる事により、全土への影響力を強める。
いけ好かないが、自分は手を汚すことないその姿勢は一周回って感服してしまう。
「では、私は念の為に帝都長のご家族の安全確認を行いましょう。賊が何を企んでいるのか分からない現状では最悪の事態を想定して動く必要がありますから」
「いや、それは他の者にやらせよう。君はここで各方面との連絡を取ってくれたまえ」
「了解しました。それがご命令とあらば」
女性だからという理由でもしもの際に巻き込まれないようにという思いがあるのだろう。
余計なお世話と言いたいところだが、今は帝都庁の職員の一人。わざわざ、内功を操作して体格と顔まで変えて潜入しているのだ。命令とあらば、従わざるを得ない。
まぁ、元々動く予定ではなかったのだ。予定通りになっただけである。
主の無事を祈りつつ、指示通り各方面との連携を取る為に動き始めるのだった。
「どうかなさいましたか? 驚かれたような顔をされていますが」
おおむね、死んだとでも思っていたのだろう。
心臓を打ち抜いた。生きている筈がないとでも……。
「どうやってこの距離を移動したんです? それにあの傷は……」
「企業秘密です。女性は秘密のベールに隠れてこそ、輝くモノですよ」
からかうかのようにそう答えると懐から懐中時計を取り出して時刻を確認する。
襲撃から数えて二刻。そろそろ、彼らも動く頃だろう。狩りの時間だ。
問題は彼らが規定通りにそれが何者であったかを判断出来る材料を残してくれるかだが。
「それよりも、狙撃手がここまで近付かれるというのは死を意味すると聞いたのですが、随分と余裕そうな顔ですね? まさか、ここまで来ても逃げられるとでも?」
この距離であるならば、一発撃つよりも早く相手の手を切断できる。
こちらの間合いだ。もう一歩的にやらせはしない。
隠し玉を持ちえていなければなのだが……。出来る事ならば、穏便に済ませたい。
コレを抜いたからには手加減が出来ないのだから。
「狙撃手が顔を見られた挙句、こんな近くまで接近を許すなんて恥も良い所じゃない。これじゃ、“道化師”になんてからかわれるか……」
「それは投降の意志と考えてよろしいのですか?」
「――そんな負け犬じみたマネをする訳がないでしょう!」
そう叫ぶと、オーブメントのラインをなぞる。
敵意。そう判断し、発動前に切りかかろうとするのだが、刃が狙撃手に触れる直前にそのアーツは発現する。明らかに早過ぎる。異常だ。
咄嗟に身体を捻り、距離を取る。
コキュートス――水系のアーツで最強。
何とか完全な凍結は回避できたが、それでも凍傷を負った事には変わりない。
これだけ高位のアーツを短時間で発現させる。厄介な相手だ。
バカスカ高位アーツを打ち込まれてはたまったものではない。
だが、間合いに捉えているという事には変わりない。
ならば、それ相応の対応をさせてもらうだけだ。
そう判断し、太刀を構えた。
「その牙を持って全てをかみ砕け――“大蛇”」
九本に分裂した斬撃がうねり、狙撃手を囲み逃げ場を潰していく。
そして、彼女のいた場所へと襲い掛かると大きな音を立てて屋根が崩れ始める。
当然、崩壊した事により砂煙が辺りに立ち込める。ビルの屋上とは言え、流石にこれはやり過ぎたかとも思うのだが、その考えはすぐに吹き飛んだ。
背後から何かが飛来したからだ。
気配はまだ土埃の中にある。まだもう一人、いたという事なのだろうか?
伏兵? いや、だが……。
おかしい。それがマリアの抱いた思いだった。
跳弾させているにしても、反射角度が明らかにおかしい。
銃声すら聞こえないのだ。掠った時に感じた熱。肉が焦げる感触。
あれは明らかに通常の火薬銃では起こり得ない現象だ。熱を持ち過ぎている。
「余所見するような余裕があるんですか?」
気が付くと懐に入り込まれていた。
当然、即座に応戦するのだが、通らない。やられた。アースガードか……。
手に持っているのは小型の拳銃。間に合わないか?
「この距離でなら外しません。恨まないでくださいね。これが仕事なので……“毒蛇”」
衝撃波と共に辺りに肉片が飛び散った。
小型の銃とは思えない威力だ。内臓を丸ごと抉られた。普通だったならば、即死だ。
まさに、一撃必殺と言った所か。油断し過ぎたという所だろう。
少しばかり、古代遺物に頼り過ぎていたのかも知れない。
倒れる事無く、ギリギリで踏ん張ると頬を釣り上げて嗤う。
そして、空に向かって遠吠えをした。
「あれを喰らってまだ生きているんですか!?」
脇腹を大きく抉られている。
出血も酷い。それだけに、目の前の光景が信じられないのだろう。
まるで、その傷が何でもないかのように立ち笑っている姿が……。
しかし、あの時は厄介だと思ったが案外この『再生能力』というのは便利な物だ。幾つか注意事項はあるが、それさえ犯さなければまず死ぬことはない。
頼り過ぎて、古代遺物の意志に呑まれてしまえば終わりだが。
「あら、私を殺したいのであれば、この身体を一瞬で吹き飛ばす事ね。それから、種が分かれば手品とは怖くないのですよ?」
「どういう意味ですか!」
また、見えない何かが飛来してくる。
だが、理解してしまえば怖くはない。見えないのは、幻覚を視させられているからではない。元から見えないからだ。
そして、最初にコキュートスを使った理由。
それを考えれば、答えは簡単である。
床に太刀を叩き付けると土埃をあげる。これで、辺りの光をカットできる。
そうすれば、見える筈だ。見えなかったモノが……。
「あら、良く見えますね」
光――その三原色を混ぜ合わせると視認できなくなる。
それの応用と言った所だろう。恐らく、光線を発射し、コキュートスによってできた氷の破片に反射させて相手を翻弄する。
詰めが甘いのは初めての実戦だったからと考えると、上出来だ。
相手が私でなければの話なのだが……。
「ちっ……こっちはあんまり使いたくなかったんだけど、仕方ない」
土埃はまだ収まらないが、直感的に何か不味いというのを感じ取ると走り出す。
そして、土埃を抜けるとそこにはそこには先程までの狙撃銃とは明らかに違う火薬式の明らかに大きさのおかしい銃を一丁携えていた。
「トリガー解放。封印機構解放。不正ユニット接続を承認。対称を殲滅します!」
「ちょっと流石にそれをここで使うのは……」
無尽蔵に思える量の弾丸を吐き出すガトリング。
しかも、何やらこちらの知らない技術を使っているらしく全ての弾を切り裂いて受けていないにもかかわらず、身体が重い。
長期戦になれば確実にこちらが不利になる。
ならば、どうするか。
銃弾を受けるのもダメ。弾いてもダメ。
ならば、方法は一つしかない。
「銃弾を全て刃にあてる事無く、吹き飛ばす――なんて、出来るわけありませんからね」
銃弾の飛び交う嵐を抜けると太刀を右腕へと戻す。
カシウス=ブライトに使った技を試してもいいのだが、流石に博打過ぎる。
何より、殺してしまっては元も子もない。
まぁ、それ以上にまだこの太刀を自在に操れないというのが本当の理由なのだが……。
足に力を込める。神速とも言える速さで銃弾の暴風を掻い潜る。
「つくづく、自分が化物だって思ってしまいますね」
寄生した古代遺物はその身体を蝕み続けている。
再生能力も限界突破もその恩恵。いや、代償を支払った対価だ。
そして、使えば使う程に天秤はあちら側へと傾いて行く。
最後には自分もあの化物と同様に成り果てる。
そんな忌々しい呪いだ。
「終わりにしましょう」
姿勢を低くすると今度は此方が懐へと入り込む。
左足を踏み込む。右腕に力を込める。
「歯を食いしばりなさい。内臓が持っていかれるわよ!」
少女の身体へ拳を叩き付ける。
衝撃波は少女を突き抜け、彼女の背後にあった柵を歪ませ、吹き飛ばした。
だが、少女は微動だりしない。ゆっくりとガトリングが落下していく。
「やれやれ、なんとか勝てましたか。まだまだ、修行が足りませんね。私も」
そう言いながら、少女の武装を解除する。
魔弾というコードネームを持った諜報員。暗躍する組織。遊撃士協会。
帝国での活動を視野に入れるならば、貴族と鉄血の対立を煽るべきだ。ソレの方が都合がいい。だが、それを敢えてしなかったとなると、やはり狙いは……。
「狙撃手は押さえられたのね。こっちは逃げられちゃったけどさ」
「ギリギリでしたよ。ところで、彼らは共和国の諜報員だと思いましたか?」
「それはないと思うわね。そもそも、遊撃士協会と争う理由がない。露見して、自分達の立場が危うくなることを考えると普通はしないわよ」
「ですよね。となると、やはり陽動ですか……」
軍内部での怪しい動きを考えると、鉄血も今回の一件に何らかの形で関わっている可能性がある。となると、私の動きも封じられるかもしれない。
そもそも、彼らは私に関しても何らかの手を打とうとしていた節がある。
だが、それはあくまでもついで。そう考えるならば、帝国外部。
水蒸気機関の戦車の生産。何かが起ころうとしているという事か。
領土獲得を狙うならば、リベールもしくは共和国。
「それで、その子はどうするの? 出来れば、こちらに引き渡して欲しいのだけど?」
「それは出来ませんね。色々と吐いて貰う必要があります。もしかしたら、あの男への足掛かりになるやもしれません。それに、少し思う所があるので……」
猟兵を利用した。
百日戦没――あの一件が頭に過ぎる。
まさか……とは思いたいが、あの一件すらも今回の一件の準備段階だとすれば……。
いや、考え過ぎか。あの事になると少し、深く考えすぎる。
「まぁ、恐らくこれだけの騒ぎよ。近場で考えるとカシウス=ブライトをこちらに呼ぶでしょうね。遊撃士協会のメンツに賭けてこの騒動を収める為に」
「カシウス=ブライトですか」
カシウス=ブライト。Sランク遊撃士。剣聖。
もしも、リベールで行動を起こすのであれば必ず障害になる。
そこである事を思い出した。リベールで創設された情報局の中の猟兵団出身者。
確か、記憶が正しければジェスター猟兵団出身。
いや、だが外交カードにしては弱い。それを理由に攻め込めるとは鉄血宰相も思っていない筈だ。何より、戦車の発注の理由がない。あんな時代遅れを発注した理由が。
「少し、調べる必要性がありそうですね」
「調べるって何をするつもり? まさか、アンタ……」
恐らく、こちらの騒動は彼らによって収められる筈だ。それだけの大家は既に支払っている。ついでに依頼を変更するか。追加報酬を支払う事で。
恐らく、こちらの動きは監視されている筈だ。内部の連絡手段を用いれば、全て筒抜けになるだろう。敵と繋がっているとすれば、邪魔が入る。
だとすれば、部下は使えない。部下は……ね。
「少し、リベールの方まで足を延ばして見ようかと……。お土産話期待していて下さい」
「えっ? ちょ、アンタが動いたらロクな事がないでしょうが!」
「大丈夫ですよ。こちらは既に最強の猟兵団に動いて貰いましたから」
赤い星座と西風の旅団。
双璧を為す二つの猟兵団に同時に依頼を出した。報酬は獲得したジェスター猟兵団の首一つに付き追加報酬を支払うという形で前金で一億。
両方で二億。追加を合わせると三億近くまでなるだろう。
その全ての金額は貴族の裏帳簿から巻き上げたお金を流用しているので、自腹はゼロ。追加人員で初めて自腹を切る形になる。
何より、殲滅戦。ならば、標的が残っていてはその契約は終わらないのだ。
「一緒に来ますか? フェイも今は帝都庁で動けないので歓迎しますよ?」
「残念だけど、私は襲撃の対処と後始末があるから……あんたがかき乱した分もね」
「頑張って下さいね。それから、そろそろここから離れた方がいいですよ? 頃合いでしょうから」
気絶している少女を拾い、サラと共に屋上から飛び降りる。
それと時を同じくして、屋上へと軍の人間が流れ込んでくる。
恐らく、この辺りも避難勧告が出され包囲網を固めて来るだろう。面倒事に巻き込まれるのは御免だ。この顔を使い辛くなる。
そう判断すると、途中地下へ降り、合流地点へと向かうのだが、そこは既に一触即発の状態で思わず頭を抱えてしまう。
「へぇ、アンタが西風の妖精ね。まさか、こんなにちっこいとは思わなかったよ」
「それは依頼された仕事の内には入らない」
「いいじゃん。それに相手の力量が分かった方が、合わせやすいしさ。仕事中」
それは絶対に違うだろう。
そう言いたげな眼差しで見つめられているのを軽く無視してライフルを向ける。
頭が痛い。だが、ここは冷静に止める必要がある。
「その辺りにして貰えますか。少し、予定が変わりました」
「ありゃ、邪魔が入ったか。それで、お姉さ……ん?が依頼主でいいのかな?」
「そうなりますね。マリア=レベンフォードと申します。以後、お見知りおきを」
「知ってる。帝国の歌姫の一人。まさか、こんな場所で会うとは思わなかった」
「筋肉の使い方も不自然だし。お姉さん、普通にしてる方が強いんじゃない?」
なるほど、血染めのシャーリィの二つ名の通り、扱い辛そうな子だ。
そして、西風の妖精の方が表情から何を考えているのか読み取れない。
工作が行える人間を貸して欲しいとは言ったが、使い辛そうなのを貸して来たものだ。
ただ、あれだけの大金を払ったのだから使える人間を寄越したと信じたい。
「それは追々。それで、今後の事なのですが、我々はリーベルへ向かいます」
「えっ? 私は暴れられるって聞いて来たのに!」
「そんな話、聞いてない」
「依頼目標は変わっていませんよ。猟兵団の殲滅。実は、お一人ほどリベール王国情報部の中にいるのです。殲滅船と言うのならば、彼も仕留める必要があるでしょう? でなければ、支払うのは前金のみ。任務は失敗と言う事になりますね」
「人が悪い。最初からそれを利用するつもりだった」
「よく言われます。恐らく、シャーリィさんの望む戦闘を与えられると思いますよ? もしも、私の推測が正しければトカゲの尻尾ではなく、本体も垣間見えるでしょうから」
「ふーん。まぁ、いっか。それで、その抱えてるのは何なの?」
「あぁ、これですか。これは……」
落ち合う予定なのだが、まだ来ないのか。
流石にここで目を覚まされても厄介なだけにどうにかしたいのだが……。
そう考えていると、背後から誰かが近付いて来る足音がする。
「お待たせしました。少しばかり、帝都庁内部で立て込んでおりまして……それで、状況はどのように?」
「不明。ただ、何か外部で起ころうとしている。それで、俺はこの二人を連れてリベールへ飛ぼうと思う。流石に情報局内部の人間を使えないだろう?」
「了解しました。すぐにその手筈を。それで、ソレは?」
「襲撃者の一人だ。恐らく、実行犯に繋がる手がかりとでもいうのか? どうにかして、情報を吐かせてほしい。ただ、丁重にな?」
そう言うと、抱えていた少女をフェイに引き渡す。
これで彼女が鉄血の手に渡る事はないだろう。ついでに情報も。
あとは情報局の目を掻い潜り、リベールまで辿り着けばいいのだが、どのルートも目立つ事を考えるとやはり徒歩がベストか。
問題はハーケン門をどうやって突破するかなのだが……。
「了解いたしました。それと、こちらがハーケン門を超える為の書状です。それがあれば徒歩でも越えられるかと」
「はぁ、相変わらず仕事が早い事で……では、行きますか」
事が事だけに早めにリベール王国へと踏み入れたい。その為、すぐにでも出発したい。
手を打つならば、早い方がいいからだ、だが、シャーリィがソレを止めた。
「へぇ、そっちがやる気なら、容赦しないよ」
「ん。囲まれたみたい」
「やれやれ、今夜は面倒事ばかりですね。仕方ありませんね」
そう呟くと、四人はそれぞれ武器を構えた。
「どうやら、捜索隊は全滅したようね」
「予定外だけど、カシウス=ブライトを引っ張り出せた事を考えると失敗ではないかな? 問題は雲隠れをされた後に彼らがどこに向かったかだけどね」
予定外続きだ。
まさか、赤い星座と西風の旅団が出て来るとは思わなかった。
その上、目的の一人は雲隠れ。事態鎮圧への時間も大幅に短縮される。
計画に修正が必要なのは明白だ。
「白面の慌てふためく姿には興味はないのだけど、剣帝に貸しを作っておくのは悪くないわね。きっと、利子をつけて返してくれるだろうし」
「まぁ、それもいいけど盟主の目的であるアレは手に入れなければならないからね」
「分かってるわ。それで、これが彼女の今後の日程よ。あの娘、ガードが堅いから苦労したのよ。でも、彼女の部下に関しては全くもって情報がなかったわ」
手渡された封筒に入っていたのはスケジュールだった。
今日から半年間のフリー。そして、ハーケン門通行許可証を先程、習得したという情報。
つまり、向かった先がリベール王国である可能性があるという事だ。
「君は彼らが僕らの動きを読んでこの動きをしたと思うかい? 彼女、鋼のお気に入りだけど、一番近くで見ている君から見てどう見えるかな?」
「危険視するには十分過ぎるけれど、やり方によっては此方に引き込めると思うわ。ただ、問題はどう考えてもワイスマンとは馬が合わない事だろうけど」
「なるほどね。まぁ、元々計画通りに行きすぎていた訳だし、多少の障害があった方が燃えるっていうしね。この事は白面には黙って置く事にするよ」
「あら、酷いわね。でも、そうした方がいいと思うわ。やりようによってはとは言ったけど、最悪の場合は今後も敵対するという未来もあり得るから」
最も面倒な可能性だ。
鋼が認めるだけの実力者が今後も執拗に結社を追いかけるとなれば、教会異常に厄介な存在として立ちはだかるだろう。
教会のような柵が少ない分、厄介だ。
「修羅にも成りきれず、理にも辿り着けない。でも、迷い子とは違う。先に目を付けたのは私なのだから、あまり他人には手を付けられたくはないわね」
「意外に気に入ってるんだね」
蒼の深淵が剣帝以外にご執心な様子に少しだけ驚いてしまう。
ただ、鋼からの報告があるように古代遺物の所有者。そして、彼女が保有するそれが女神の至宝と相対する存在である以上は警戒は必要だろう。
万が一、女神の至宝を破壊されては目も当てられない。
「まぁ、何やら破戒僧も動いている。その上、既に執行者の一人が敗れちゃった以上は人員の補充も仕方なしかな? 白面には申し訳ないけど」
破戒僧とマリア=レベンフォードが繋がっているのは既に掴んでいる。
彼女が動いたという事は破戒僧もリベールへと訪れる可能性を意味している。
だからこそ、彼女を押さえられるだけの人間を更に派遣する必要があるのだが、流石に使途が動ける筈もない。となると、執行者で足止めするのが関の山か。
「確か、一人いたわよね? 魔女が」
「あぁ、彼女か。確かに彼女なら――妖炎なら彼の副官も勤まるだろうしね」
こうして、新たに追加で執行者が派遣される事になった。
妖炎と呼ばれる魔女が。