英雄伝説~飢狼の軌跡~   作:浅田湊

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第一章消えた飛行船
再会


「意外にすんなりと行けたね。流石ってとこなのかな?」

 

「この程度、当然です。それより、お願いしますよ。ここは帝国とは違い、貴方方を我々が保護すると言う事は出来ませんから問題を起こす真似はしないで下さい。特に遊撃士の前では」

 

 帝国ではもみ消し工作など行えていたが、こちらではそうもいかない。

 確かに方法はない事もないのだが、それを行えば確実にこちらにいる事が鉄血の耳に筒抜けになる。そうすれば、わざわざお忍びで此方に来た理由がなくなってしまう。

 それにそうなれば、今回のターゲットにも警戒されるだろう。

 向こうは王国軍に身を置く。情報伝達は早い。

 

「分かってる。ヘマはしない」

 

「頼りにしてますよ。フィーさん」

 

 フィーに関してはイメージとしては忠犬。任務は忠実に熟して行きそうなのだが、問題はもう一人。戦闘狂のシャーリィ―だ。彼女がどれだけ自分を押さえられるかにかかっている。

 何せ、門をくぐる際にテスタロッサの検査の際も敵意を見せていた程なのだ。

 問題を起こす事はなかったが、それでも気が気でなかったのは事実である。

 

「なんか、私だけのけものみたいな空気なんですけど? 私だってそんなやたらめったら喧嘩を吹っ掛ける人間じゃないから」

 

「それでもですよ。ですが、この警戒態勢。やはり、あの道を使わなくて正解でしたね」

 

 今は使われなくなったハーメルとラヴェンヌ村を結ぶ道を利用する。

 そうすれば、わざわざ軍の目のない道を通れたのだが、恐らくそれをしていたら任意同行で拘束されてしまっていただろう。

 念の為、情報集めをするか。女だけ。これなら、多少は警戒心も緩むだろう。

 

「あの、すいません。何かあったのですか? この警戒態勢、普通ではないように思えるのですが……まさか、戦争でも始まるんでしょうか」

 

 戦争が始まる。

 これだけの警戒態勢。事情を知らない場合、一番最初に浮かぶのはソレだろう。

 何せ、帝国とリベール王国の間には深い溝がある。それを考えれば……。

 そんな問いに帰って来たのは意外な回答だった。

 

「あぁ、違いますよ。ここだけの話ですが、飛空艇が空賊に襲われて乗客も行方不明でして、それでピリピリしてるんですよ、気を付けた方がいいですよ。物騒ですから」

 

「空族ですか……それは、気を付ける事にしましょう。早く解決されて欲しいですね」

 

 空賊の飛空艇襲撃。

 帝国遊撃士協会襲撃事件。

 時期の重なりにもしやという考えも浮かぶのだが、考え過ぎだろうか。

 まだ、何の証拠もない。確信に至れるような何かが足らない。

 ただ、直感が二つに何かあるのではないかと囁いているだけだ。

 

「しかし、珍しいですね。帝国からの旅行者がわざわざ陸路を通ってリベールを訪れるなんて。普通、飛空艇を利用して……あぁ、もしかしてだから事件に関して知らなかったんですね」

 

「お恥ずかしながら……。それに、高い所が苦手なもので」

 

 それにしても、これからどう動くべきか。

 このまま王都へと向かい、そこで情報局に関する情報を得ようかとも思っていたのだが、ここにいても出向いてくれる可能性もある。

 入れ違いになる事だけは避けたいだけにここは悩みどころなのだがどうするべきか。

 少し、探りを入れてみる事にするか。こっちでの遊撃士がどの程度か見る事も出来るだろう。カシウス=ブライトなしにどの程度、使えるのか。

 見極めるにはいい材料だ。

 

「予定を変えますか。ボースに数日滞在するというのも悪くない考えですからね」

 

「どういう風の吹き回し? てっきり、すぐに王都へ向かうのかと思ったのだけどさ」

 

「ん、同感。ボースに残る意味はない」

 

 何と言えばいいのだろう。

 一言で言えば、勘。何かが起こるとするならば、見届ける必要があるだろう。

 関係がないならないでそれでいい。

 まぁ、これだけ厳戒態勢の中、情報を聞き出すのは無理そうだ。

 

「色々とありがとうございました。我々はボースへ向かいますので」

 

「えぇ、良い旅を」

 

 そう言ってホースへと続く道を歩き出そうとするのだが、何やらハーケン門の内部から大声が聞こえてくる。誰かと言い争っているのだろうか?

 内容から考えるに『民間組織如き』ということは遊撃士協会と揉めているのだろうか?

 帝国よりは手を取りあっているイメージがあっただけに思わず、首を傾げてしまう。

 

「あぁ、モルガン将軍ですよ。あの方は大の遊撃士嫌いで有名で……」

 

「なるほど。ですが、個人的な好き嫌いを表に持ち出すべきではないと思うのですが、それ程までの仲違いと言う事は――軽々しく口に出来る話題ではありませんね」

 

 恐らく、軍と遊撃士間の問題と言えば、カシウス=ブライトの移籍だろう。

 軍内部のフットワークの重さ。簡単には動いて欲しくない軍内部の考え。

 それに対して、庶民の声を聴き動く遊撃士。なかなか、難しい問題ではあるのだろう。

 両者の意見が共に分かってしまうだけに思わず、溜息を吐いてしまう。

 だが、それ以上に頭を抱える事になってしまうとは思いもよらなかった。

 

「どうかしたの?」

 

 顔を引き攣らせる私に対し、フィーは首を傾げてそう尋ねて来た。

 上手く答えられない。その情報を猟兵に与えていいのか。

 だが、恐らくそれを告げた所で信じては貰えないだろう。

 あそこで弾き語りをしようとしている人間がまさか帝国の皇子だなんて……。

 しかし、どうして彼がここにいる。

 何か企んでいるのだろうか? ならば、探りを入れる必要があるのではないか。

 けれども、かと言ってアレと知り合いとは思われたくはない。その役割はお付きのミュラーだけで十分ではないか。

 私には関係が……ないとは言えないか。

 

「珍しい所でお会いしますね。相も変わらず、芸達者な事で」

 

「おやおや、帝国の歌姫がどうしてこのような場所に? よもや、僕を追いかけて来てくれたのかな? だとすれば、嬉しい限りなのだが」

 

「そんな訳ないでしょう? ただの休暇でこちらへ訪れただけですよ。一応、行っておきますが小父様から貴方の見張りを頼まれたわけではありませんのでご安心を」

 

「君も相変わらず、小父と仲がいいようだね。その内、妾にでもなるのかな?」

 

「いい加減にしないと、怒りますよ?」

 

 にっこりと笑ってみせると軽く手を動かす。

 すると、目の前のキザな男は宙を一回転し、地面へと叩き付けられた。

 一瞬の出来事に周りは言葉も出ない。

 だが、そんな中、シャーリーだけは面白そうに笑っていた。

 

「どうも、知り合いがご迷惑をおかけしました。その事に関しては誠にお詫び申し上げます。もしも、次に何かをやらかしたならば、身を持って教えて差し上げて下さい」

 

「相変わらず、見事な腕前だね。マリアン君」

 

「いえいえ、オリビエ様も少しはその癖を直されてはどうですか?」

 

 今は素性を知られたくない事を感じ取り、わざわざ偽名を使ってくれたのだろう。

 それは感謝する。だが、その起こす為に差し出した手を撫でるように握るのは何なのだろうか。もしかして、そういう性癖にでも目覚めたのだろうか。

 だとしたら……止めて欲しい。

 

「もしかして、あなた達は帝国からの旅行者かしら?」

 

「はい。ですが、最近物騒なようでこれからどうしようかと悩んでいた所で……。でも、遊撃士の方々と一緒なら無事にボースまで辿り着けそうですね」

 

「あら、今の技術を見る限り、それなりに腕は覚えがあるように見えるのだけれど?」

 

「所詮、付け焼刃ですよ。本物には敵いません」

 

 フェイクラスの相手になれば、掴ませてすら貰えないだろう。

 それに、女性三人旅。向こうも断る理由はないだろう。

 

「まぁ、そういう事にしておきましょうか。シェラザードよ。こっちがエステル。それから、ヨシュア。よろしくお願いするわね?」

 

 ヨシュア。

 いや、他人の空似か。あれだけ探して表舞台こんな場所にいる訳がない。

 確かに面影はあるが、きっと気のせいだ。そう思いたい。

 それに、ヨシュアがいるとすれば、ここにレオンハルトもいる筈なのだ。

 その陰が見えないという事は気のせいなのだろう。

 そして、出発した七名は何の問題もなくボースへと辿り着いた。

 私は遊撃士へお礼を述べるとボースマーケットへと入って良く。

 

「ふーん。色々なモノがおいてるけど、ちょっと高くない?」

 

「ん、物価が分かる訳じゃないけど、少し高過ぎる気もする」

 

 飛行船の運航中止。

 それによる日常品の不当な釣り上げ。

 少しずつではあるが、問題は刻一刻と大きくなりつつあるという事か。

 このまま続くようなら、取り返しのつかない事になりかねない。

 『最小限』の内に問題を摘み取る。それもまた必要な事なのだから。

 

「少し、自由行動にしましょう。夕方までにはホテルに戻って下さいね」

 

「ん。分かった」

 

「って、事はその間は何をしてもいいって事だよね?」

 

「えぇ、問題を起こさないのなら」

 

 二人を連れて探りを入れていれば、目立ってしまう。

 それだけに二人に自由行動を与え、一人でマーケット内を散策しつつ、話を聴いて回っているのだが、徐々に全容が見え始めて来た。

 南街区での盗難事件の頻発。治安悪化。

 空賊による飛空船襲撃。

 まるで、帝国のあの猟兵団のようではないだろうか?

 となると、空賊事件を追う事に十分な意味がある。蜘蛛の糸を手繰り寄せるようなものだが、それでもやらないよりはマシだろう。

 まぁ、遊撃士が民間協力者として手を貸す事を許してくれるか問題だが。

 でも、この辺りの地形を考えると飛行船を隠せる場所は限られる。

 霜降り渓谷か、ラヴァンヌ村奥の廃坑。

 どちらも位置的に正反対だが、どちらが当たりか。判断が難しい。

 ここは自力で探りを入れるとしますか。

 そう思いながら、この辺りの地理史を棚に戻すと隣で覗き込むようにしている視線に気付いた。もしかして、何かしてしまったのだろうか?

 いや、だが本は汚していないし、盗んだりもしていない。

 

「あの……私が何かしましたでしょうか?」

 

「つかぬ事をお聞きしますが、マリア=レベンフォード様でお間違いないでしょうか?」

 

「いえ、一度帝国の劇場の舞台に立たれている所を拝見した事がありまして……。自己紹介が遅れました。このボース市で市長を務めております。メイベルと申します」

 

 市長。

 つまり、先程の遊撃士に依頼を出していた人間と言う事だろうか。

 そして、ここにいると言う事は話し合いが終わり、こうして市場の様子を確認しに来た。

 そこで私を偶然見かけて声をかけたという所だろう。

 

「わざわざ、ご丁寧に。よもや、国を跨いで名前を知って頂けているとは思いもよりませんでした。ですが、今は休暇中ですのであまりおっぴらには……」

 

「それは申し訳ございません。ところで、よければボースマーケットの感想でもお聞かせ願えないでしょうか? 帝都に比べれば地方都市のようなものかもしれませんが」

 

「いえ、そうでもありませんよ。活気があり、こうして人々に愛された市長であるという事は素晴らしい事だと思います。貴族制は問題も多く抱えていますから」

 

 そう、即答するとにっこりと笑ってみせる。

 町が発展すれば、それだけ人も多くなる。

 だが、それだけが素晴らしい事だけではない。

 何より、この町もあの戦争から立ち直り、こうして栄えているのだ。それは素晴らしい事なのだろう。それはきっと、胸を張って良い事だと思う。

 

「あの戦争で大きな傷を負った筈です。今も尚、それは残っているのでしょうけれど、それでもこうして活気に満ち溢れ、笑顔が眩しい場所は凄く好ましい」

 

 こうして、きっと爪痕は消え去り、歴史の中で過去となる。

 そして、人々の記憶から記録になり、忘れ去られていくのだろう。

 嬉しい事でもあり、この不条理な世界を生きる中で必要な事なのだろう。

 だが、それがどうにも悲しくも思えてしまう。

 あの惨劇も過去へと成り果て、人々の記憶からも消え去ってしまうのではないかと。

 

「どうか、なさいましたか?」

 

「いえ、なんでもありません。それよりも、お仕事はよろしいのですか? 私などとおしゃべりをしていては仕事にも支障を来たすでしょう?」

 

「まだまだ、未熟な身。こうして、町を歩きそこで意見を聞く事も必要な事ですから」

 

 そんな会話をしていると、ゆっくりとこちらへ歩いて来る気配を感じ取る。

 

「こんな所におられましたか。メイベル市長――それで、そちらは?」

 

「えぇ、ここでお知り合いになった所なの。それより、どうだった? ハーケン門に向かった遊撃士の方が殆ど、情報を得られなかったみたいだけれど」

 

「流石に簡単には将軍も口を割っては頂けませんでしたが、少しばかり漏らしてくれました。ただ、どうやら捜索範囲は狭まっているようですが、操作は難航しているようです」

 

 しかし、遊撃士嫌いと言う話だったが、よく漏らしてくれたものだと思う。

 と言うより、私がここで聞いていてもいいのだろうか?

 この現状。恐らく、情報部が動いてくれるのだろうがなんだろう。

 掌で踊らされているような気分は……。

 

「そうだ。一応、紹介しますね。こちらはA級遊撃士のセレナさん。今回のボース市での事件を個人的に捜査して貰っているの」

 

「A級――サラさんと同じですか。大陸でも有数の人間であるという事ですね。こんな所でお知り合いになれるなんて光栄です。私の事はマリアンとでもお呼び下さい」

 

 偽名を名乗ると握手をする事を避け、小さくお辞儀をした。

 しかし、まさかあの時に拾った子が遊撃士になっていようとは……。それもA級。

 その年でそれ程の実力を認められたのならば、行く行くは壁を超える事も出来るかも知れない。それはそれで面白い事になりそうである。

 

「ところで、マリアンさんは旅行者の方でしょうか? この辺りでは見かけないですが」

 

「はい。帝国から旅行で参りました。しかし、飛空船が使えないとなるとここからの移動もままならない。早く解決して欲しいモノです」

 

「確かに。ここで足止めを喰らう旅行者もいるのでしたら、早急に事件を解決する必要がありますからね。とは言っても、なかなか情報も集まらない現状でして……」

 

「なるほど。では、助言でも。木を隠すなら、貴女ならどこに隠します?」

 

「森でしょうか? 同じ木々があるなら、見分けがつきませんから」

 

「確かに見分けは着きませんが、私ならば町に隠すでしょうか? そこに在る筈がないと言う盲点を突けば飛行船のような大きなモノを隠して置けると思いますから」

 

「私もそう思います。この場合、廃坑なんてどうでしょう? 近くに使われなくなったそのような場所はありませんか?」

 

 私の言葉にセレナは即座に地図を開く。

 そして、ある地点を指差した。

 私が推理していた場所。ラヴァンヌ村奥の廃坑だ。

 

「確かにここに捨てられた廃坑がありますね。それに、ここにわざわざ足を運ぶような人間は少ない。ここなら隠せるかもしれません」

 

「ですが、同時にそこに人の動きがあれば近くに村もある手前、目立ってしまう。恐らく、そこには犯人はいないでしょうね。もぬけの殻と言った所でしょう」

 

「となると、考えられる場所は……移動距離も考えるとボース周辺のどこか。ピストン輸送したとしてもそう遠くにはいけない筈――」

 

 ここまでヒントを出せば彼女ならばすぐに答えを見出すだろう。

 しかし、遊撃士か……。出来れば、普通の人生を歩んで欲しかったのだが。

 彼女が選んだ道。それはそれとして受け入れる必要があるのだろう。

 それにその事に関して私が口を挿む権利はない。

 

「それから、もしも空賊が盗難事件を起こしているのならば、この近辺を根城としている可能性は高い。目撃情報の少なさから考えると絞れるのではないでしょうか?」

 

「霜降り渓谷でしょうか? あそこならば、霧で覆われている上に切り立った崖も多いですから十分ありえますよね?」

 

「これは私の個人的な推理ですから……。情報も少ない現状で頼りになるか」

 

 そうは口にするものの、恐らくその推理は八割がた当たっているだろう。

 ただ、それでは裏にいる人間を釣り上げる事は出来ないだけに微妙な所なのだが……。

 犯人を捕まえた所で裏にいる人間の尻尾きりで終われば意味がない。

 引き摺り出す為にはもう少し泳がせたい所なのだが、遊撃士はそうは言ってられないのだろう。その辺りが意見の食い違いというものだ。

 いや、事件の大小で対応を変えようとしている私の方が愚かなのだろうが……。

 

「では、私はそろそろ。待ち人がいますから」

 

 そう言うと私はセレナとメイベルと別れると待ち合わせのホテルへと向かい、部屋を取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。完全に行方を晦ませたか。流石の手腕だな」

 

「閣下、やはりあの者を信用し過ぎるのはいかがなものかと」

 

「恐らく、現状の雲行きを読み、最善の解決策を求めて動いたという所だろう。その落としどころが帝国にとって旨みがあるかは別だがな」

 

 恐らく、クレア・リーヴェルトが最も気にしている部分はそこなのだろう。

 マリア=レベンフォードは帝国にとっての答えを出すよりも、今後の大陸の情勢を鑑みての動きを起こす傾向に見られる。

 今回の猟兵団の一件も早急に手を打つ為に同じ猟兵団を動かしたのがいい例だろう。

 お蔭で事態は予定よりも早く解決してしまい、本来予定していた帝国内の遊撃士協会の排除の計画が僅かながらではあるが狂ってしまったのは事実である。

 だが、それでも狂いは僅か。修正は可能。

 その程度で斬るというのは惜しい人材であるのも確かであった。

 

「ならば、余計に貴族側に着く可能性も考えられるのでは?」

 

「それはない。アレはもっと狡猾に動く。四大貴族程度にアレをどうこうは出来んよ。アレの忠義の根源は憎しみだ。下手に触ればそれに焼かれる事になるからな」

 

 ハーメルの一件。

 帝国内部の現状。

 これまでの行動。

 それらから判断すれば、アレは帝国を憎んでいる。だからこそ、帝国に身を置いているのがアレなのだ。恐らく、内部から変える為。同じ悲劇を繰り返さない為とでもいうのだろう。

 現実主義かと思えば、理想主義者。

 それが奴の正体。それを理解していない貴族に首輪をはめる事など不可能だ。

 

「ですが、閣下。帝国以外に着く可能性は……」

 

「ないともいえん。だからこそ、せめて帝国に繋ぎ止めようとしていたのだが、どうにも上手くいかなくてな。いくつか、縁談を用意して見たのだが全て丁重に辞退されたよ」

 

「え、縁談ですか?」

 

「あぁ、あの手の輩を繋ぎ止めるには最もな案でな。穏健派の貴族も合わせて用意していたのだが、断られたよ。一言、『そのような感情は既に持ち合わせておりません』と言ってな」

 

「そう……ですか。では、皇子の方はどういたしましょう? リベールへ向かったという報告もありますが……。念の為、誰かを向かわせましょうか?」

 

「なるほど。まぁ、無視しても構わんと言いたいところだが、恐らくアレの向かった先もリベールの筈だ。だが、現状の動きから見てアレは副官を付けていない」

 

 フェイ=リン。

 共和国出身の情報部ですらその素性を完全に掴めきれない人間。

 判明しているのは裏社会の出身で共和国の情勢に精通しているというくらいだろうか。

 ただ、情報部内部でもその姿を完全に把握している訳ではなく、常に何らかの諜報活動に出ているという事に建前上なっている。

 その為、情報部内部でも存在を実しやかに疑われているのだが……。

 

「本当に存在しているのでしょうか? レクターの話でも顔を知らないとの事でしたが」

 

「だろうな。恐らく、そういう輩なのだろう。アレもそうだが、“諜報活動”を専門としている以上、その手の技術は必要不可欠だ」

 

「ですが、ならば余計に同行していないとは……」

 

「だからだよ。アレの事だ。帝国内部の情勢に変化があれば、即座に動けるように用意している筈だ。その監視役と言った所だろう。私ならばそうする」

 

 ある程度、居場所も見当がついている。

 動きを見渡せる場所は限られる。軍属は入りにくいが、帝都庁ならばどうだろう。

 あそこの職員を一人一人調べるのは難しい。そもそも、管轄が違う。

 だからこそ、それを理解し、私が今は手が出せない場所と言う事を知っているならばあそこ以外には考えられないだろう。

 

「閣下ならばですか。――随分と高く買っておられるのですね」

 

「それは君も同じなのではないかな。だからこそ、アレを危険視するのだろう?」

 

 即座に返答はない。

 それはその事を認めているという事なのだろう。

 児童誘拐事件の際には緊急事態を招いたモノの、その後の迅速な対応。及び、事後処理は十分に称賛に値するモノだった。

 帝国と共和国の間を取り持ち、教会や遊撃士の動ける状況を作ろうとしていたならば、後二年は遅れて被害はさらに増えていただろう。

 だからこそ、敵対はしたくない。出来る事ならば、身内に引き入れたい。

 

「そうだ。君に一つ頼みたい事があるのだが、いいかな?」

 

「なんなりとお申し付けください」

 

 その返答に大きく頷いて見せると彼女にある指令を下すのだった。




ようやく、空の軌跡本編に絡んで行けます。
一応、猟兵の二人にも活躍して貰う予定なので楽しみにしておいてください。
最新話、ちょっと置いてみて少し頭の中にあったのと違ったので削除しました。
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