英雄伝説~飢狼の軌跡~   作:浅田湊

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暗躍

「随分とお早いお付きですね。私の方が待つかと思いましたが」

 

 ホテルへと向かうとそこには既にシャーリーとフィーの二人がロビーのソファーに座って私の到着を待っていた。

 これならば先にチェックインを済ませておく必要があったかもしれない。

 私は即座に部屋を二つ取ると鍵の一つを二人に渡した。

 

「意外と用心深い」

 

「どうしてそう思われるんです?」

 

「今、部屋を二つ取った。全部、端の部屋。避難口に近い」

 

 なるほど、随分な観察眼な事だ。

 まぁ、別段ここまで警戒する必要はないのだろうが、鉄血宰相がこちらの動きに気付けば確実に誰かを派遣して来る筈だ。

 追跡を巻く意味でもやはり、慎重に越した事は無い。

 

「癖でして……ところで、お二人は何か面白いものでも見つけられましたか?」

 

「小汚い悪党と馬鹿な窃盗団の情報を耳にしたくらいかな?」

 

「右に同じく。これ以上、深く関わる理由が見えない」

 

 なるほど。窃盗事件と人質事件の両方を既に知っている状態での彼女らの判断はまず、間違っていないだろう。この事件にここまでの情報では深くかかわる理由はない。

 だが、それでも私は関わりたい理由がある。

 あの娘がA級遊撃士になったのは理解したが、どの程度の実力になったのかと言う興味もある。はっきり言って、それが三割だ。

 しかし、それ以上に不可思議な点が興味を引く。

 

「確かにそうですね。こんな事件関わる理由もない。人質を取った挙句、せこせこと窃盗を繰り返して探してくれと言わんばかり。明らかな失策です」

 

「へぇ、解ってるじゃん。で、それでも関わる理由って何?」

 

「では、問題です。どうして、その飛空艇を狙ったでしょうか」

 

「飛空艇を狙った理由? 貨物、とか?」

 

 それも一つの答えではあるが、今回の一件では恐らく外れだ。

 飛空艇にはそこまで高価な品は乗せられていなかった。ついでに入手して来た貨物履歴からも判明している。恐らく、軍もこの程度は掴んでいる筈だ。

 だとすれば、何か。

 考えられるとすれば、乗客。

 人質にすれば、金が手に入るような人間がいた可能性。

 

「でも、そう言うからには人質を狙ったってのも違うって事か。なら、どういう事なの?」

 

「流石にここでは人目に付きます。場所を移しましょう」

 

 そう言って、ホテルの一室へと移動すると二人へとある資料を手渡した。

 乗客名簿と貨物名簿。

 その二つを視れば、明らかに狙うべき飛行艇を間違えているのは明らか。

 人質を取ったにしても、金にはならない。

 明らかに今回の行為は自殺行為だ。

 

「なるほど。コレは興味を持つわけだ。私もちょっと気になるなー」

 

「でも、おかしい。これが本当なら……」

 

「だから、確かめる必要があるんですよ。例え、カシウス=ブライトが乗っていなくとも、彼が乗っていたから襲われたと考えるなら何かあると思いますしね」

 

 帝国へはカシウスを誘き出す為の餌を撒かれた。

 そして、ここでの足止めに空賊を利用。

 まだ、あくまでも仮説に過ぎないが、それでも十分に確かめる余地はある。

 

「まぁ、貴女方二人は動かなくても結構ですよ。これは契約外ですから、一人で動かさせて頂きます。タダ働きは嫌でしょう?」

 

「契約中は命令なら従う」

 

「そんな面白そうな事、一人でやろうなんてずるいなー。私もまぜて貰わないと!」

 

「分かりました。但し、追加報酬はありませんよ」

 

「追加報酬はその空賊との殺し合いでしょう? だって、吐かせるならさ」

 

 血に飢えた目。その目を見ると、反吐が出る。

 だが、それをここで言い争った所で仕方ない。彼女がどういう道を歩もうが関係ない。あくまで、仕事の関係。敵同士になったなら、容赦はしない。

 まぁ、今は雇い主である私の命令に従って貰う。

 

「いえ、殺し合いはしません。今回は遊撃士に踊って貰います。その方が目立ちませんし、軍が動いている以上、あまり大事には出来ませんからね」

 

「同感。影で情報収集に抑えるべき」

 

「流石、フィーさん。キャンディーをあげましょう」

 

「子ども扱いしないで欲しい」

 

 私を白い目でにらみながらも、貰った飴玉を舐め始める。

 彼女も傭兵とは言ってもまだまだ子供と言う訳か。

 ただ、これで大まかな方針は立った。

 問題はこの次。空賊の捜索。それから、飛空艇の捜索。

 どちらを優先するべきか。まぁ、やはり空賊か。

 

「では、私は散歩がてら霜降り渓谷の方を見て来ますので」

 

「こんな時間に一人で?」

 

 フィーの言いたい事も当然だ。

 もうすぐ日没。こんな時間に霧の立ち込める渓谷を探索するのは危険だ。

 地理に詳しくない以上、渓谷のような入り組んだ場所の探索は日の出ている時間帯が常。

 

「えぇ、面白いモノが見付かるかも知れませんから」

 

 でも、夜に窃盗を行っているならば、コソ泥の姿を確認する事が出来るかも知れない。

 それに、ある程度の身体を慣らす時間も取っておきたい。次はあの襲撃者の時のように致命傷を負うような真似は避けなければならないからだ。

 

「それで、なんでこっちなの? こっちの可能性もあるよね?」

 

 シャーリーが指差すのは地図にある鉱山跡。

 確かにそこにも何かはあるだろう。だが、そこならば何度も窃盗を侵していれば目に着いてしまうからだ。だから、有り得ない。

 あるとすれば、乗り捨てられた飛空艇と言った具合だろう。

 ただ、そこで人質を拘束している可能性は低い事を考えるならば、そこを押さえた所で証拠が残っているとは思えない。

 遊撃士でもない以上、そんな定石を踏む必要はない。

 私達がしているのは捜査でもなければ、人質奪還でもない。

 ただの情報収集だ。

 

「なんなら、そちら側に行っても構いませんよ。恐らく、何も出ませんから」

 

 私達に必要な物は。

 その言葉をわざと濁す形でそう締め括った。

 まぁ、この程度ならば暗に察する程度の事は出来るだろう。

 

「なるほど。確かに何も出ないだろうね。あるのはもぬけの殻だろうしさ」

 

「解っているのなら、聞かないで下さい。一応、ここに数日の食費を置いて行きますので計算して使って下さいね。一日で使うような事は無いように」

 

「これ、二人分?」

 

「えぇ、それで一人分とかどれだけ貴方達は高価な食事をするつもりですか?」

 

 手渡したのは五千ミラ。

 それだけあれば、数日は食べられる。ある程度の栄養が整った食事が。

 流石にまだ子供だ。栄養が偏れば、成長を阻害する。

 健全な精神は健全な身体に宿る。まずは食事からというものだ。

 

「流石にそれはない」

 

「そう言えばさ。私も魔物狩ったりしてもいい? 流石に腕が鈍るからさ」

 

「全く違う話ですか。マイペースですね。構いませんけど、目立つような痕跡は残さないで下さいね。貴方方の戦い方は猛々しいですから」

 

 フィーの導力銃は誤魔化しが利く。

 だが、テスタロッサになれば話は別だ。あれは独特な戦い方過ぎる為に目立つ。

 どう考えてもあの武器の切断面と同じになるような武器があるとは思えない。

 それに銃弾にしても、殺す為の物だ。出来るなら、使わないで貰いたい。

 こちらの後処理が大変なだけに。

 

「ちぇッ。まぁ、いいや。ところで、どんな武器を使ってるのか教えてくれない? 知ってた方がもしもの時に合わせやすいだろうしさ」

 

「導力銃」

 

「あぁ、私はハルバートね。見て分かると思うけど」

 

 どうするべきか。

 双剣。太刀。これらを使うが、この姿ではそれらは極力使いたくない。

 となると、やはりここはこれ以外に答えはないだろう。

 

「体術と糸です。それなりには鍛えていますから」

 

 嘘は吐いていない。

 実際にフェイとの模擬戦でも六割は勝てるようになっている。

 フェイの戦技には到底及ばないが、それでも体術で並みの相手なら圧倒する事も可能。

 故に真実を多分に含んでいる。

 

「だと思った。歩幅が一定。その上、重心がぶれない」

 

「ふーん。でも、何か違うんだよな。勘でしかないけど」

 

 勘。

 怖い相手だ。

 そんなあやふやな物で嘘を見抜いて来るのならば、厄介この上ない。

 今回は味方で良かったと思う。出来る事ならば、このまま此方に引き摺り込みたい程だ。

 まぁ、それは恐らくは無理なのだろう。どう考えても首輪を付けれるような連中ではない。野生であるからこそ、真価を発揮できるタイプの人間だ。

 

「まぁ、いいか。多分、嘘だとしても見抜けそうにないし」

 

「なら、聞かなければいい」

 

「いやいや、聞いてみたらもしかしたら教えてくれるかもって思うじゃない。けど、私は今回はパスかな。あんまり、遊べそうにないしさ」

 

 戦闘が出来ないから、今回の探索はパスしてここに残ると言う事か。

 目がない分、何をしでかすか分からないが、ここは信じるとしよう。

 

「では、フィーさんはどうします?」

 

「私も今回は残る。こっちの方が心配だから」

 

「ありがとうございます」

 

 フィーさんの心遣いにお礼を言うと私はホテルを後にする。

 行き先は予定通り、霜降り渓谷なのだが街道を歩いていると右の視界が霞み始める。

 左の視界がはっきりしている事から考えるに、前回の戦闘での後遺症が今になって表れたという事だろう。時間が経てば回復するだろうが、戦闘中に突然起こらなかった事は幸いだろう。何より、雑魚相手に慣らす時間もある。

 

「両目を封じる事により、心眼を得たという剣士の話も聞いた事ありますし、そういう遊び心があってもいいかもしれませんね」

 

 夜の街道。それだけ、魔物も活発に活動している。

 どうやら、遊撃士が退治し忘れた魔物までいたらしい。

 しかも、どうやら怒り狂っている辺り、中途半端に殺してしまったのだろう。

 仕事が雑。いや、まだまだ未熟と言うべきか。

 

「しかし、どうしましょうか。面倒な相手ですね」

 

 放置してもいいが、それでは被害が出るのは免れない。

 別段、それでもいいのだがこういうのを見捨てられないのは甘過ぎると言われる由縁だろう。フェイや他の部下は恐らく、そんな私だからこそついて行くのだと言いそうだが。

 

「使える武器はこの鍛え抜いた身体と全てを切断する糸とその他諸々。この闇の中で相手は此方に気付いていない今なら、奇襲は可能。では、始めますか」

 

 大きく息を吸い込み、吐き出すと音もなく駆けだした。

 そして、一気に右腕をその魔物。サンダークエイクの固い鱗へと叩き付ける。

 その突然の奇襲にサンダークエイクは宙に浮く身体を仰け反らせるが追撃はしない。

 逆に距離を取る。理由は簡単だ。

 次の瞬間に、辺りが白い閃光に包まれるのが解っていたからだ。

 サンダークエイクの持つ電撃を辺りに撒き散らす攻撃。ワールドシェイク。

 直撃すれば、こちらの視界を封じられる。何より、電撃。次の一手が遅れる可能性もあるのだから、そう易々と受けていいものではない。

 しかし、少々厄介な敵になりそうだ。

 恐らく、群れのボスだったのだろう。どうして、ボスだけを残すような真似をしたのか。

 まぁ、どちらにしろ鋼糸を使えば、こちらも感電する。なら、体術で決めるしかない。

 

「フェイならさっきの一撃で終わらせるんでしょうけどね。まだまだ、未熟です」

 

 音もなく近付く為に勁の流れを最低限に調整しているからとは言っても、流石にさっきの一撃で固い鱗を打ち抜けなかったのは痛い。

 言い訳をするならば、私は剣士であり、拳士ではない。とでも言えばいいのだが、それでもやはり悔しさはある。

 せめて、この状態でも龍撃程度は打ち込めるようになりたいものだ。

 まぁ、死線を何度も潜り抜けている生粋の拳士であるフェイと比べるのがそもそもの間違いなのだろうが……。って、こんな事を考えている余裕は余りなかった。

 

「仲間を呼ばれる前にさっさと仕留めますか」

 

 群れを作られれば、それだけ時間がかかる。

 無駄な労力はあまり好きではないし、調査する時間が短くなってしまう。

 そうなれば、色々と見逃してしまうかもしれない。

 少しばかり小細工にはなるが――。

 自分のレンジに持ち込む為にもう一度走り込むが、相手もそこまで馬鹿ではない。

 先程の放電は辺りの様子を確かめる為。そして、何かが何かが近付く様な反応があればそれに対応して電撃を再び辺りに振り撒く。

 恐らく、サンダークエイクはその電撃を確実に浴びせる事に成功し、焼き殺したと思っただろう。辺りには先程の倍以上の高い電位で放電された為に辺りの草が黒く焦げ付いている。普通の人間が喰らっていたならば、感電死していただろう。

 そう、普通の人間が喰らっていた羅の話だが。

 

「大隊の放電時間は分かってるんだ。あとは次の放電までの間を突けばいい」

 

 固い鱗と鱗の隙間。魚の重要機関。鰓。

 上空から強襲するとその僅かな隙間へと右腕を突き刺し、ピンを抜き取るとそのままその場を後にする。

 終わったからだ。

 サンダークエイクも何が起こったのか理解する事は無いだろう。

 どうやって、あの雷撃を乗り越えたのか。自分がどうして、死んだのか。

 まぁ、何をしたかといえば簡単な話だ。

 糸を使って木の上に上り、電撃を回避。

 その後、上から強襲。鰓の中に爆破物を叩き込み、内部から爆破した。

 本当ならば、爆破物は取って置いて基地捜索に利用したかったのだが、まぁ仕方ない。

 長々とやれば、拳で鎮める事が出来たのだろうが、鱗も固い。見合うだけの代価が見いだせない。何より、これは多分遊撃士の仕事だ。

 他人の仕事をかっさらう程、暇をしている訳でもないのだ。

 忙しい。忙しい。

 そんな事を考えながら、霧の立ち込める渓谷へと入るのだが、歩き回った所で特に怪しい所は見当たらない。

 見つけたのはベアズクローという薬草くらいだ。

 奥に行けば、まだ何かがありそうではあるのだが、雰囲気であちら側は違うと言うのが分かる。どう考えても、空賊のレベルでどうこう出来る魔物ではない。

 となると、こちら側のどこかにあるのだろうが、渓谷の下に降りるのは流石にやりたくない。なんというか、戻って来れそうにない。

 だとすれば、怪しいのはこの崖くらいだろうか?

 ロッククライミングをして、崖を上る。面倒。

 そもそも、そんな方法でしか行けないような場所に基地を作るだろうか? いや、作らない。もしも、基地があるとすれば何か仕掛けがある筈だ。

 どうにかしたら、この崖が開いて道が現れるみたいな。

 

「動きそうではあるんですけどね。内側からの操作だけに反応するんでしょうか?」

 

 それにこの先に何かあるのは確かだろうが、使われた形跡が見えない。

 やはり、飛空艇を利用した別の経路があるのだろうか? だとすれば、やはり爆破しての侵入は無理だ。下手に刺激すれば、飛空艇の乗客の命がない。

 やっぱり、崖を上る以外にないか。

 崖をよじ登ろうとした瞬間、僅かではあるが飛空艇の独特な音が聞こえてくる。

 それが意味しているのはここが正解だったという事だ。

 崖をよじ登ると辺りを確認するが、階段らしきものは見えない。

 と言う事は、やはり崖を切り出した遺跡と考えるべきか。

 

「しかし、警戒がなってませんね。これでは、ザル以下ではないですか」

 

 糸を伝い、横穴から侵入すると空賊の飛空艇らしきものの型番をメモしつつ、そう呟いた。これでよく飛空艇襲撃が成功したモノだ。

 恐らく、カシウス=ブライトは乗っていなかったのだろう。

 そうでなければ、おかしい。まぁ、一応内情も少々探っておきますか。

 足音を消しつつ、基地内を歩いていると丁度いいカモを見付ける。

 

「さてと、ようやく仕事らしい仕事になりましたね」

 

 そう呟くと、懐から取り出した針をその哀れな子羊に突き刺した。

 一撃。それで動かなくなったのを確認すると、身包みを剥ぎ、それに着替え始める。

 

「まぁ、勁の操作でこの程度なら……。では、始めますか」

 

 転がる裸の男を担ぐと適当な部屋へと放り込む。

 針で仮死状態にしている。正しい対処方法をしない限り、目覚める事は無い。

 まぁ、対処法を知っているような人間がここにいるとは思えないが。

 

「乗客はどこでしょうかね。制圧をしてもいいんだが、流石に我々の存在の形跡を残す愚行はしたくないですからな」

 

 空賊の服に身を包んだマリアは乗客の監禁されている部屋を探し出す為に行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

「これが昨日の時点での被害状況です」

 

「そう、死者は出てないと思ったんだけど一名か……しかも、貴族の子じゃない」

 

「いやぁ、夜中に叩き起こされて検死って大変でしたよ。銃弾を浴びてグチャグチャになった肉塊から情報を探しましたからね。まぁ、まず間違いないと思いますよ」

 

 帝国遊撃士への被害状況の確認と共に、こちら側の把握している被害状況の報告。

 これも帝都庁に勤めるものの職務としてここにいる。まぁ、それを利用させて貰っているのも事実だが……。まぁ、完璧な仕事だ。

 

「一応、確認する? 貴族が引き渡せってうるさいけどさ。けどさ、私って検死官じゃなくて医者なのよね。その辺り勘違いしないで欲しいわ」

 

「いや、止めておくわ。次の攻撃がいつあるか分からないしさ」

 

「分かりました。では、すぐに親族へと引き渡す手続きに入ります。しかし、運がないですね。傭兵団の襲撃するところに居合わせて口封じなんて……怖い怖い」

 

「まぁ、痛みを感じる暇もなく死ねたのは救いじゃないかなー。最初の一撃で即死みたいだし、良かったとは言えないけどね」

 

 まぁ、相手はサラ=バレスタインだとしても、現状を考えればその目で確認する余裕はないか。大陸最強の傭兵団が動いているとは言え、次の襲撃がいつあるか分からない。

 それだけに持ち場を離れられないという所なのだろう。

 しかし、予想外の乱入者が現れる。てっきり、こちらに現れるとは思っていなかっただけに思わず舌打ちをしてしまいそうになったほどだ。

 

「念の為、その遺体の確認をさせて頂いても構いませんか?」

 

 そこにいたのは、鉄血宰相の子供達の一人。確か……。

 

「アイアンメイデンだっけ? いやぁ、親近感湧くよ。私の職場って男の影ないからさ」

 

「だれが、鉄処女ですか? 私に対する嫌味ですか?」

 

「ぷっ! アイアンメイデンって――いや、確かに間違ってないわね。アイアンブリードの一人だから、そっちも固くなっちゃったのかしら?」

 

「噂のお固さは生粋だったって事ですねー」

 

 

「今まで、色々と言われてきましたがここまで言われたのは初めてですよ。クレア・リーヴァルトです。今は休暇に入る前に報告書をまとめる為に確認に参りました」

 

 この時期に休暇? その言葉にフェイはその真意を疑う。

 猟兵による襲撃。ならば、子供達を使ってでも威厳を賭けて潰しにかかってもおかしくはない。メンツを保とうとするのが貴族の考え方だ。

 まぁ、鉄血宰相は貴族ではないにしろ、ソレに乗って来ると思っていた。

 だが、その状況下で優秀な部下に休暇を与える。

 何か裏があってもおかしくはないと思われても仕方がない。

 

「アイスメイデンでしたっけ。お噂はかねがね。お会いできて光栄です」

 

「こちらも、帝都庁で様々な嫌がらせに遭いながらも完璧に仕事を熟してみせる共和国人の貴女の事はよく存じております。随分と優秀な方だそうで」

 

 共和国人と言う事もあり、監視がついていたという事か。

 まぁ、予想通りだがどうする? ここは此方側の領分。突っぱねる事も出来る。

 貴族が要望で書類を通して、遺体は安置所にないと言ってしまえば終わりだ。

 そうすれば、何か裏があるのではと疑われるだろうが。

 

「一応、これが今回の死者です」

 

「貴族――まだお若いのに」

 

 社交界デビューしてこれからという年齢だ。

 そう思うのは無理はない。これから、ようやく始まるというのに。

 

「ところで、彼女がこの場に居合わせて原因はなんだったのでしょう」

 

「最後に目撃した方は少し夜風に当たって来ると話していたと」

 

 やはり、そこを突いて来るか。

 鉄血の子供として優秀さを誇っている事はある。

 夜間に出歩いていた理由は気になる筈だ。それは今後の被害者を減らす対策にもなる。

 

「そうですか……」

 

「あぁ、言っておくけど逢引きとかじゃないから。一応、検死した私に言わせれば、身体に他者の体液は見られなかった。胃の残留物から考えて、バーによった形跡も見られない。ただの散歩って考えるのが筋じゃないかな?」

 

「確かに、検死官の言う通りかもしれませんね」

 

「いや、だから……私、医者だから! たまたま、他に出来る人間がいなかったから私が検死しただけで……そこの所、結構重要なんだけど」

 

「ところで、休暇ってどこに行くわけ? 男漁り?」

 

「そんなふざけた事する訳ないじゃないですか。人をなんだと思っているんです?」

 

「あの……私の話は無視ですか……」

 

 アイスメイデンの休暇。

 ただ、これでフェイがここから動き辛くなったのも事実。

 これは鉄血宰相からの牽制と見てもいいだろう。恐らく、こちらの動きを読んだ上で自由に動ける駒を作った。ただ、使うなら案山子男辺りを使えばもっと有意義になったのだと思うのだが……あぁ、あれは別件で動いているのか。

 ただ、やり辛い相手である事には変わりない。

 

「仕事一筋という感じですかね。化粧もあまりされないようですし、男関係も希薄。ただ、一度でも男にはまると尽くすタイプと見ました。まぁ、求めるレベルが高そうですが」

 

「……本当に分析する? 普通」

 

「何名かお知り合いでも見繕いましょうか? 一方通行の恋慕というものも良い物ですよ?」

 

「なんですか……それは勝者の余裕というものですか?」

 

「いえ、結婚とかそういうのは考えていないので……私はあの方の事を思うというだけで満足と言うだけの話です。その先を求めていませんから」

 

「いやー。その余裕が勝者の余裕だと思うんだよね。って、何? この女子会みたいな空気は! 今は仕事中だよね!」

 

「あら、意外ね。貴女がツッコミ役に回るなんて。さっきから、ボケてばかりなのに」

 

 私の言葉にクレアは怖い笑みを浮かべている。

 あぁ、これは遊び過ぎたか。ただ、これで大体の事は把握できた。上出来だろう。

 そう思ったのだが、予想外の事態へと進展する。

 

「そうですねー。なら、紹介して頂きましょうか?」

 

「……………はい? 今、なんと?」

 

「ですから、是非とも殿方を紹介して頂こうかと思いまして」

 

 どうする。帝都市長でも紹介するか?

 いや、それはない。いや、だがここで引けば負けを認めたに等しい。

 誰か紹介出来る人間をと思ったのだが、目ぼしい人間がいない。

 流石にシャルを紹介するのは完全に鉄血に恩を売る形になってしまう。

 ただでさえ、向こうからの縁談がうるさいと言っていたのだ。

 

「楽しみにしてますね。では、直接遺体の確認に向かいましょうか」

 

「はぁ、了解。但し、私の指示には従ってよね」

 

 クレアは検死の結果を自身の目で確認する為に遺体安置質へと向かう。

 残されたフェイの頬を引き攣らせる表情にサラは苦笑いを浮かべる。

 

「いや、アンタって私以上にあの子嫌いよね」

 

「好きか嫌いかで聞かれたら、嫌いなのでしょうね。中途半端な部分が気に喰いません」

 

「中途半端……まぁ、あれよ。いつだって女は乙女ってやつよ」

 

「それ、自分で言っていて悲しくないですか?」

 

 サラはフェイの言葉に顔を真っ赤にする。

 それから私の肩を掴んで来るが、気にしない。

 問題は検死の方だ。性格はアレだが一応は優秀だ。恐らくはばれないだろう。

 ただ、動くに動き辛い状況にリベールで動くシャルの下へと駆けつけられないと決断を下すと、その答えを申し訳なく思うと同時に次の一手を考えるのだった。




削除した話とはガラリと変えました。
クレアさんが弄られキャラになりつつありますが、好きなキャラです。
意外とポンコツなイメージですが……。
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