エルフ「ウチの夫が黒騎士で最強な件について」   作:紅乃 晴@小説アカ

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長らくお待たせしました。
色々と設定を練り直すのに時間が掛かりましたが、物語を再構成して更新を再開しようと思います。

よろしくお願い致します。


序章
ウチの夫が黒騎士で最強な件について


 

 

 

フェルデニア大陸。

 

広大な自然と、大陸の中央に位置するバルジ湖から流れる豊かな水源を礎に、多くの文化や営みが栄えていた。

 

その大陸の各所には言い伝えが残されていた。

 

 

 

三百年に一度。

 

闇すら凌駕する力と混沌を撒き散らし、魔獣の大軍を率いて人々を破滅へと追いやる存在である「魔王」が蘇る。

 

魔王がもたらす闇は人々に暗澹たる恐怖と絶望を与え、世界の希望を断つと言われている。

 

相対するように、魔王と同時に世界の意思によって生み出される存在もあった。

 

それが「勇者」だ。

 

火と水と土と雷な女神たち。そして魂と神秘を授かり、神の祝福を受ける勇者は、魔王がもたらした試練を乗り越え、人々の意思の代弁者となり、魔王と闇を打ち払うと伝えられている。

 

フェルデニア大陸は、三百年というサイクルの中で、魔王による破壊と、勇者による再生を繰り返しており、人々はその揺籠との中で、悠久なる命の営みを繰り返してきたのだった——。

 

その勇者に立ちはだかる最後の敵。

 

黒騎士。

 

漆黒のフルプレートの甲冑に身を包んだそれは、現れれば魔王復活の前兆として恐れられ、人の形をした災厄と言い伝えられていた。

 

そして時は、最後の魔王復活から、百五十年を刻もうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——では、そのように」

 

 

イオニア山脈の麓に位置するラーニエ地区。

山脈の反対側に位置する巨大国家「アスレニア大国」によって支配されていたエルフ族の国が解放され、半年という月日が経った。

 

暫定政府として立ち上げられた議会の中、女王として即位した壮麗な彼女は簡潔な声をホールに響かせる。崩壊していた国としての機能は徐々にではあるが復興を遂げていた。

 

 

「各部族長へは今会議で決まったことを速やかに伝達するよう手配を」

 

 

部分的な修繕が加えられた城には大きな議会場があり、魔族間でまとめられた法案の詰めがエルフ族主導のもと急ピッチで進められていた。

 

近年横行する人族の蛮行は、エルフ族だけではなく、魔神族や竜人、ドワーフ族、そして小人族や獣人族にも影響が及ぼされていた。

 

エルフ国の復活を機に反撃は開始されているものの、非情とも言える侵略をアスレニア大国は続けており、今もなお領地内では人族とはぐれ魔族の争いが頻発している。

 

一勢力が持ち直しても、数で勝る人族による侵攻が続けば魔族が不利になるのは明白であった。故に、エルフ族女王は多種多族がひしめく魔族の団結力の強化を急いでいた。

 

青い眼差しのエルフの王女「アルディス・フィン・ルィンヘン」。

 

一度は王国から逃げた王女として非難されていたが、エルフ国復活のために奔走し、王族としての知識と能力を存分に発揮していた。そしてなにより、彼女の力の象徴として側には常に「漆黒」が仕えていた。

 

 

「ご苦労様でした。行きましょう、黒騎士さま」

 

 

議長席から立ったアルディス女王。

 

その言葉に「御意」と答えて付き従うのは、圧倒的な威圧感と王女の権力を象徴する黒の甲冑を纏った戦士——「黒騎士」だった。

 

種族間で争いが絶えない魔族を軒並み震え上がらせたのは、まさしく彼の力と言えた。

 

この世界での黒騎士は「災厄の前兆」とまで呼ばれる存在。魔族を従え、魔王復活の前準備をするべく現れる力の権化だ。

 

黒騎士を従える者。あるいは打ち倒した者には、世界を統べる権限が与えられるとまで言われる存在を、エルフの女王は従えている。

 

この事実だけで、足並みが揃っていなかった魔族が協力という席に腰を下ろすには充分であった。

 

魔王復活のサイクルの三百年。過去に復活した魔王の文献から推測されると、今はまだ百五十年余りしか経っていないというのに…。

 

 

なぜ、黒騎士はこの世界に現れたのか?

 

なぜ、エルフの王女が黒騎士を従えているのか?

 

 

ある者は語る。王女が魔王と契約をし、黒騎士の力を手に入れたと。

 

ある者は囁く。黒騎士に命を捧げることで、彼女は黒騎士を従属させている。

 

ある者は言う。王女こそが世界を統べる「魔王」なのだと。

 

その全てが偽りであろうと、答えであろうと、誰にも分かることはない。

 

 

ただひとつ言えること。

 

 

それは、王女に逆らう者は、確実に〝漆黒の災がもたらされる〟と言うことだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っっかれたぁあああーー!!」

 

 

防音の魔法が施された自室に入ると同時に、私は身に纏った王族の衣装を雑に脱ぎ去って、最寄りのソファへと身を投げ出した。

 

あぁ、ひんやりとした牛革のソファ。議会で火照った体を冷やしてくれる。その感覚が今でも大好き。これこそやめられない、止まらないというやつでしょう。

 

 

「…せめて部屋着に着替えろ。ほぼ全裸でソファに寝転ぶんじゃない」

 

 

ソファで存分にだらける私に、先に自室に入っていた黒騎士が兜を脱いで呆れた目を向けていた。いいじゃないの、種族間で小競り合いばっかりしている彼らの折り合いもつけながら頑張って法案を纏めたんだから。

 

口を尖らせながら不満な態度で返す私に、彼は脱ぎづらそうな甲冑をカチャカチャと奏でながら、指先で魔法陣を描いた。すると、あっという間に鎧は消し去り、いつも見慣れたTシャツとスウェット姿に。

 

 

「『衛士』もお風呂上がりに下着姿で出てくることもあるじゃん」

 

 

そう言われるとぐぅの音も出まい。黒騎士こと『黒乃宮 衛士』はエルフ王族伝統のほぼ全裸に近い私のドレスを片付けながらため息を吐いた。

 

 

「俺は尻丸出しでソファに寝っ転がったりしない」

 

「魅力的なお尻に興奮した?」

 

「さっさと起きないと洗面所に叩き込むぞ?」

 

「はーい」

 

 

とりあえず体も解れたし、タオルを持って私は洗面所へと入った。正確に言うと、ここはエルフ王国の城の中。けれど中身は全くの別物だ。

 

そう。

 

ここは4LDKのマンションの一室を、魔法で再現した住まいだ。住めば都とは日本人はいい言葉を考えるものですね。

 

自動湯沸かし器から溢れる適温のお湯を知れば、泉から汲み上げてきた冷水に戻ることなんて出来ない。ガス火力のコンロを知れば、薪から炊いた釜に戻る事なんて不可能。体に悪いこと承知で塗りたくっていた虫や花から抽出した着色剤で塗る化粧なんて、化粧落としや乳液を知れば笑止千万。

 

この世界は便利に溢れている。

文明の知恵万歳。化学の力こそ正義なのだ。

 

ささっとお風呂から上がれば、台所でフライパンを振るう衛士。今日は彼が料理当番。エルフ族の薄い生地よりも遥かに暖かい寝巻きを身につけソファで寛ぎ、テレビを付ければ他愛もないバラエティ番組が放送されていた。

 

すると、出来上がった簡単な炒め物をお盆の上に乗せた衛士がやってきた。すっかり使い慣れた自分用の箸や、お茶碗を配膳して、私たちは手を合わせる。

 

 

「では、いただきます」

 

 

これが私と衛士……エルフ王女と黒騎士の日常だった。

 

 

 

「ウチの夫が黒騎士で最強な件について」

「お前は何を言ってるんだ?」

 

 

 

 

 

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