エルフ「ウチの夫が黒騎士で最強な件について」   作:紅乃 晴@小説アカ

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黒騎士のお仕事

 

 

イオニア山脈。

 

フェルデニア大陸を北と南へ上下に分断するように連なる山々は、まさに天然の城砦とも言えた。

 

大陸の中央に横たわる山脈から東西。線引きされた魔族と人族の領域というものは、百五十年前からあまり変動していない。

 

百五十前に討たれた魔王が統治していた頃と比べれば、その国土の多くを人族に奪い返されたと言ってもいい。しかし蓋を開けてみれば、魔王が猛威を振るう前のパワーバランスに戻りつつあるというのが事実だ。

 

イオニア山脈がいわゆる天秤の支点と言える。その境目から人族が溢れても、魔族が侵略しても、バランスが崩れていると言えた。

 

そもそも、魔王がこの世界に体現する大きな理由は神秘や精霊の存続にある。

 

衛士がいる現代世界と、アルディスがいる世界は、コインの裏と表だ。

 

現代世界では廃退してしまった神秘性を維持するため、次元渡りで繋がる世界は神秘性が重要視されている。

 

精霊や神秘、自然界に司る神々の住む世界として、維持できなかった神秘の疎開先として、この世界は成り立っているのだ。

 

魔王の存在は、その本質を守り、維持するためである。天秤のバランスが崩れた際に現れては、人族の繁栄を一定水位に収めるために彼らに猛威を振るう。勇者はその逆を司っている。

 

これは一方の種族による行き過ぎた進化を防ぎ、現代社会のような科学技術の発展をさせないという意味合いがあった。

 

『人族しか存在しない世界』では、人はあくなき探究心を持って科学技術を反映させてきた。その結果、自らの首を締める結果に足を踏み入れることになっているが、それが許されるのも、一定知能をもつ種族が「人族」に限られる。

 

だが、この世界にはその知能をもつ種族が「人族」以外にも多くいる。高い知能をもつエルフや魔神族など、人族の地位を脅かす種族もいるのだ。

 

人の繁栄を許し、現代社会のような科学力を手に入れさせれば、存続できなかった神秘性を同じように吹き飛ばすことになるだろう。

 

世界の意思や、神々がそれを許さないかぎり、「魔王と勇者」というバランスを保つ機能は回り続けるのだ。

 

そしてそれは、互いの種族を絶滅させないという装置的な役割を果たす。

 

破壊と再生を繰り返すことで、それぞれが一定数の数を確保し続けられる。つまりは、存続する枠が保証されている。

 

魔王と勇者という構図は、この世界の縮図。

 

彼らの役割が存在する限り、神秘性をもつ世界は存続し、同時に神秘性を観測する人族と魔族も存在し続けるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その人族が最近では考えられないほどの力を身につけているということか」

 

 

エルフ国から南に千里(40Km)ほど。同じラーニエ地区内に位置する山間部には小さなドラフ族の集落があった。

 

復権したエルフ国の庇護下に加わるドラフ族。

 

彼らの頭に生える角は、人族からしては霊薬の原材料として高値で取引されるらしい。

 

実際には、そんな効能など存在しないのだが、宗教やら、人族の王のあくなき野望に駆り出された兵士たちからしたら、乱獲することに意味があると言ってもいい。ドラフの角というブランド名が一人歩きしたせいでドラフ族は乱獲に合い、数を激減させた。

 

絶滅寸前まで数を落とした彼らを保護し、エルフ族や他種族の援助を受けてやっと形成した集落だ。

 

 

「我々の位置がここだ。ドラフ族の集落はここ。この方角へ北上した位置には、すでに多くの人族が集まり、夜営をしているという情報がある」

 

 

巨木の上に設営された野営地の中で、黒甲冑を見に纏う俺は、地図を広げて説明してくれるエルフの戦士、『輝く髪の乙女「セレーナ・ヴァン・サレーネ」』の言葉を聞いていた。

 

彼女はエルフ王国の筆頭戦士の一人であり、主な任務は王国内の見回りと蛮行を振るう蛮族の交渉、撃退あるいは撃滅だ。

 

嫁であるアルディの話では、彼女が〝こちら側〟に来る前に支えてくれていた侍女だとか。相当な槍の使い手で、現在はこのような不足事態の迎撃隊長を務めている。

 

 

「数は多い。ドラフの戦士たちも協力してくれると申し出ているが、彼らの個体数にも限りがある。できるかぎり我々のみで対応したい」

 

「故に、我が呼ばれた…というわけか」

 

 

甲冑越しに出すくぐもった声。ガチャガチャとと鳴る手装甲を重ねて腕を組む俺に、セレーナは当たりを見渡してから指先で魔法陣を描いた。

 

 

「安心しろ。ここには私とお前しか居ない」

 

 

あ、そう?そう言われて俺は堅苦しい物言いをやめて、頭部の甲胄をボックスという不可視の保管庫へと収納する。

 

 

「悪いな、セレーナ。正体を見られるのは…な」

 

「わかっている。王女との約束もあるしな」

 

 

彼女との出会いは、なんと現代社会だ。

 

アルディが次元渡りで王国から脱したのち、遅れてセレーナが次元渡りを用いてこちらの世界へとやってきたのだ。

 

人族の蛮行の数々や、魔族の多くが傷つき、中には絶滅の危機に瀕している、と訴えた彼女はアルディに王権復興を求めたのだ。

 

国へ戻ることを決意したアルディ。

もちろん俺もついて行くと決めていたが、それに驚いたのはセレーナだった。

 

というより、アルディと結婚していたことにもかなり驚いていたようだが、赤の他人、それも人族の男を共に連れて行く義理はないとかなり最初は警戒されたっけ。

 

 

「その結果、黒騎士の力を見せるためにエルフ族の山に谷を作ったのはやりすぎたと、今でも私は思っているよ」

 

 

だって、黒騎士だって信じなかったのそっちじゃーん。俺悪くないもん。

 

抗議の言葉に、セレーナは呆れたような目を向ける。その谷も今ではエルフ国の輸出入路として大活躍してるんだからいいじゃないか!ノーカンだよ!!ノーカン!!

 

 

「とりあえず、衛士には何とかして人族の進行を阻止して貰いたい。手段は任せる」

 

「良いのか?〝手段は問わない〟で」

 

「……なるべく、目立たないようにやってくれ」

 

 

あいあい了解。

そう言って俺は再び黒甲冑を身につける。

 

野営地から出ると、屈強なドラフの戦士や、セレーナ以外のエルフの戦士たちが姿勢を正して挨拶をしてくる。

 

いやはや、なんとも不思議な気分だ。

 

黒騎士と言えば、魔王の側近。人族に味方するはずのエルフやドラフから敬られることなどないと言うのに。

 

刺さるような視線を黒甲冑でシャットアウトして、俺はセレーナたちの案内の元、人族が集まる場所へと到着した。

 

 

「この先にいる…待て、情報より数が多くなってある…。奴らは本格的にドラフ狩をするつもりだな」

 

 

草木を分けて見た先には、おびただしい量のテントと松明の火が見える。ひーふーみー…ざっと見ても千はくだらない。

 

まったく。あれほどの軍勢が百にも満たないドラフ族の集落に殺到すればぺんぺん草すら残らない廃墟へと様変わりするだろう。

 

 

「しばし、ここで待っているがいい。〝すぐに済ます〟」

 

 

ドラフ戦士たちや、エルフの戦士たちの引き止める声を聞き流して、俺は草木をかき分けて人族の野営地へと足を踏み入れる。

 

まだ夜だからか、黒甲冑を身につけた俺に気付いていない人族。その中には前祝か酒を頼んでいる人相の悪い奴らもいる。

 

ふむ。

ここからだな。

 

俺は背中に携えた黒剣を引き抜く。

 

黒騎士…黒乃宮家に代々引き継がれてきた黒剣「ゼスフィカルド」。

 

 

「よっこらせっと!!」

 

 

錆と刃こぼれを知らぬアダマンタイトの刃を一振りさせただけで、剣圧と斬撃が目で見える形となって飛ぶ。俺の目先にあったテントがダース単位で消しクズと化した。

 

 

『な、なんだ…あの暗い影は!!』

 

『て、敵襲!!敵襲!!』

 

 

視界の先にした酒を煽っていた男たちごと消し飛ばした斬撃。

それを見た的が慌てふためいたように大声を上げる。

 

おっと、騒ぎを起こすなと言われていたな。

なら、やることはひとつだ。

 

 

「これは中学の頃にやってたゲームの技からヒントを得た技!!獅子十二連斬!!!相手は死ぬ!!」

 

 

単に高速で十二回斬撃を飛ばしているだけである。

 

型も道理もない物理万歳な攻撃であるが、その斬撃音が放たれた瞬間、眩い閃光と衝撃波があたりを駆け抜けた。

 

悲鳴を上げる間も無く、人族の野営地が消し飛び、土煙がなくなった頃には千以上あった人族のテントの全てが消え去り、向こう側に見えていた山に、大きなクレーターができていた。

 

うひょー、思いつきで打ち込んだ技だが中々の威力。うむ!これは人に向けて打つ技ではないな!

 

仕事という技実験を終えて戻ってきた俺を、ドラフの戦士やエルフの戦士たちは、ドン引きした顔で見つめていた。

 

え、なに、後ろに誰かいる?人族の生き残り?全員の視線を追うように後ろを見るが何もない。あるのは蹂躙した焼け野原だけだ。

 

 

「さ、さすがは黒騎士様です」

 

「たった一振りで人間たちを屠るとは…」

 

 

十二回振ったんだけどね。引きつった笑みを浮かべてそう言う戦士たち。うむうむ、そうであろう。なんて言ったって俺は歴代最強の黒騎士なのだからなHAHAHA!もっと崇めるがいい。

 

 

「やり過ぎだ、馬鹿者!!」

 

「申し訳ありませんでした」

 

 

野営地に戻ってセレーナに呼び出された俺は、甲冑姿のまま彼女へ誠心誠意が体から溢れ出る謝罪をする羽目になった。

 

いや、正直な話。あそこは黒騎士の脅威を存分に見せつけながら人間たちに恐怖を植え付けるべきだと考えていたわけですよ。まぁ植え付ける前に一切合切吹き飛びしちゃったわけだけど。

 

 

「ほう、反省している様子が見えないようだが?」

 

「次は手加減するから…お許しを…お許しを…」

 

 

ていうか黒騎士ってなんなの。

手加減しなきゃやってられないポジなの。

 

勇者サイドの負けイベントのときと、勝ちイベントの待遇の差が半端じゃないよね。

 

勇者に負かされるイベントとか、勇者の前に出された段階でほぼ瀕死なのよこっちは。防御力、攻撃力ダウンのデバフをこれでもかと言うくらい付与された挙句、スタンや毒もランダムで付与されるというぶっ壊れ仕様。それでも勝っちゃいそうになるから手加減してるとか、黒騎士の標準スペック高過ぎて本当に草。

 

人族殲滅するために手加減するとか、日本語としておかしくないですかね?

 

 

「まったく…なぜこのような男と姫は結婚してしまったのか…」

 

「ひとえに愛だね!」

 

「その口に槍を叩きこんでやろうか?」

 

 

突きつけられた手製の槍を押さえながら「ごめんなさい」と、口だけは動かす。うん、目がまじだから勘弁してほしい。

 

まったく、と槍を下ろしたセレーナはドラフ族との交渉もあった。ここから先は彼女たちの仕事だ。黒騎士はクールに去るぜ。

 

野営地から出て行く最中、ふとセレーナは振り返った。

 

 

「王女からの伝言だ。まっすぐ城に帰ってなさいとのことだ」

 

「わかってるよ」

 

 

甲冑を被ってから、テレポート魔法でエルフ族の城へ向かう準備に入る。

 

俺がここにきたのは、たしかに嫁であるアルディのこともあったのだが、人族の異常な勢力拡大の裏どりをすることも目的の一つだ。

 

魔王が復活する前に、人族が魔族への蛮行に走る傾向はこれまでもあったが、今回は特殊すぎる。あまりにも早いのだ。百五十年なんて、人類も魔族も平和な時代が続いてなきゃ可笑しい。

 

それも人族の襲撃は用意周到で、計画的だった。そこが引っかかる。この世界の統治レベルでは考えられないほどの練度を、すでに人族は持ち合わせているのだ。

 

その原因を探るため、当初はアスレニア大国やエヴロビ共和国、地方都市など、様々な施設や行政区へと潜入して情報収集にあたっていた。

 

そうなると、一週間まともに帰らなかったり、帰っても深夜や朝方ということもあってか、すっかりアルディが拗ねてしまい、今では人族の重要都市に潜入することが禁止されてしまったのだ。くぬぬ、さすが俺の嫁、人の弱みを知っていらっしゃる。

 

「ちょっとそこのコンビニまで」感覚での外出すら制限されてあるため、調査については難航しているが、嫁に寂しい思いをさせてしまうわけにもいかない。

 

とにかくボチボチもやって行くとしよう。

 

家族サービスというのも大事だしね!!

 

 

 

 

 

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