エルフ「ウチの夫が黒騎士で最強な件について」   作:紅乃 晴@小説アカ

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鋼鉄のドラゴン殺し

 

 

 

ラーニエ地区の端。

 

エルフ国から北に向かった場所にあるダークエルフの拠点が人族に急襲されてから数刻。

 

白きエルフの王女「アルディス・フィン・ルィンヘン」との協定を結ぶべきかとそれぞれの部族長と協議をしている最中の出来事で、突如として襲来した人族の軍勢は瞬く間のうちに拠点を制圧。

 

ダークエルフの長である「オルフェニア」は、囚われの身でありながら侮蔑の目を向けていた。

 

エルフ国を中心に復興が進んでいるとは言え、人族の蛮勇による侵略は今もなお続いている。

 

白いエルフ族とダークエルフは、思想の違いや戦士としての誇り、種族間で和解する事なく、それぞれが独自の文化を築き上げてきた。しかし、ラーニエ地区の端に住うダークエルフの町が、千を超える軍勢に襲われたことは致命的だった。

 

 

「蛮族どもめ。夜襲とは…戦うための誇りすら捨てたか!」

 

「なんとでも言うがいい。貴様たちが俺たちに敗れたと言う事実は消えんがな」

 

 

魔族をゴミのように扱う男。それがオルフェニアが人族の部隊を率いる男に抱いた印象だった。

 

奥に控えていた部下たちが鎖と手錠で拘束されたダークエルフの女たちを部屋へと連れてきているのが見える。

 

 

「お前たちっ!!」

 

「この世は弱肉強食。敗北者となった貴様たちを好きしていい権利が俺たちにはあるよなぁ…?」

 

 

自分の部下たちを、卑猥な目つきで舐めるように見る人族。その視線がさらにオルフェニアの怒りを跳ね上げさせた。

 

 

「…ゲスが!!」

 

 

だが、オルフェニアの得意とする炎の魔法は封じられている。手枷に巻かれた強力な魔法封じが彼女の攻撃の意思を踏み躙っていたのだ。肉欲に塗れた男共は下賤な笑い声や歓喜の声をあげて、怯えているダークエルフの女たちを取り囲んだ。彼女たちが無作為に凌辱されることなど、火を見るより明らかだ。

 

 

「さて、目の前で同族どもが嬲られる様を見れば、その生意気な口もすぐに——」

 

「…どうなるんだ?はっきりと答えてもらおうじゃねぇか」

 

 

傲慢さがこもった軍の男の声をかき消すように、凛とした声が響き渡る。同時に人族の手によって固く閉ざされていたはずの扉が凄まじい勢いで吹き飛んだ。オルフェニアは、その扉の向こうから濃い血の匂いが流れてきたことに気がつく。

 

 

「ハ…ハーヴィン…さまぁ…」

 

 

同時に、巨大な切り口が袈裟方向に刻まれたの一人が、部屋に倒れ込んでくる。

 

 

「た、たすけ…鬼…鬼が…」

 

 

そう発して息絶えた兵士。死体と化したそれに目もくれず、硬いブーツの足音を奏でながら、巨大な戦斧を肩にかけた男が部屋へと入ってきた。

 

 

「よぉ、ハーヴィン大隊長殿?俺の元で泣きじゃくってたお前が大隊長とは恐れ入ったよ。しかし、まぁ聞いていたよりは歯応えの無い奴らだ。拍子抜けだぜ」

 

「ひぃ…き、貴様、裏切り者のフルメタル!!」

 

 

荒々しい肉体をエルフ特性の防具で包み、戦斧を担ぐ男は狼狽える大隊長を見てニヤリと笑った。

 

 

「オルフェニア様!!」

 

 

オルフェニアの側近であるダークエルフの女戦士も、開けられた入り口から玉座の間へと入る。その隣では男が肩から離した戦斧を一回りさせ、そのまま地面へと突き立てる。

 

その瞬間、辺りのすべてが震えた。

 

隣にいた側近の体がふわりと浮くほどの衝撃に、人族の大隊長と呼ばれた男の顔は青くなった。

 

 

「名乗らせてもらおう。エルフ隊切り込み隊長、ザックス・フルメタルだ」

 

 

またの名を、鋼鉄の竜殺し。

人丈の戦斧一本でドラゴンを討ち取ったと言われる人族の中でも伝説級の英雄。

 

そして、エルフ族に寝返った罪深き裏切り者とも侮蔑されるべき存在だった。

 

 

「ドラゴンスレイヤーのザックス・フルメタル…!?」

 

「あの伝説の英雄が…!?」

 

「へぇ、知ってもらっていて光栄だ。まぁ、嬉しくは無いがな」

 

 

どよめく軍勢を前に獰猛な笑みを浮かべ、風すら切り裂かんばかりに戦斧を構えたザックス。

 

たたらを踏む大隊長であるが、数は自分たちの方が有利だし、まだ〝奥の手〟もある。青くなった顔を奮い立たせ、余裕があるように愉快そうに笑って、たった一人で乗り込んできた戦斧の戦士を見下ろした。

 

いくら英雄豪胆とは言え、ここには千を超える軍勢がいる。負ける要素などない。

 

 

「馬鹿めが!ここをどこだと思っている!野郎共!!賊が入ってきたぞ!!女以外は全員殺せ!!」

 

 

ドスの効いた大隊長の声が響き渡った。

 

だが、その返事はこの部屋に残る部下のみであり、辺りは静まり返ったままだ。異変に気付いてすらいない大隊長に、ザックスは退屈そうにため息をついた。

 

 

「…言っただろうが、話に聞いていたよりは随分と〝歯応えがなかった〟ってな」

 

 

血濡れの戦斧。地面に突き立てられたと同時に床に落ちたおびただしい血液が、すべてを物語っていた。

 

このダークエルフの拠点に押し入った兵、およそ千人の命は、とうに尽き果てているのだと。

 

すでに残りの人族の軍勢の周りには、ザックスに続いて入ってきたエルフの戦士たちが取り囲んでおり、弓の先を突きつけている。

 

 

「あ、ありえない…この中には千人を超える傭兵がいたと言うのに…!」

 

「しらねぇな。千人だろうか万だろうが、俺に傷が付いてなければ何の意味もねぇ、あれじゃカカシの方がマシだな」

 

 

ザックス・フルメタルにとって、幾人、千、万の敵がいようが関係ない。こちらに刃を届けさせる強者が居ない時点で、その軍勢は雑兵の他にならないのだ。

 

 

「よくもまぁ、俺を利用してくれたな?ハーヴィンクソ野郎。一度殺すだけじゃ飽きたらねぇ…ここで地獄を…」

 

「ザックス。遊びはそこまでにしておけ」

 

 

怒気を纏うザックスの背後に重厚な甲冑が軋む音が響く。すばやく彼は体を横へ向けて、跪くように腰を下ろした。

 

入り口から現れたのは、漆黒の鎧とマントを翻した影。その姿を見た全員が戦慄した。

 

 

「漆黒の…甲冑…!!」

 

「き、貴様が、最近エルフ族が息を吹き返した原因…災厄の黒騎士…!!」

 

 

玉座の間の入り口に立つ黒騎士を見下ろし、大隊長は息を呑んだ。ほう、なかなかに肝の座った男…それか、黒騎士の力を知らぬ愚者か。

 

 

「我を前にしてそこまで吠えるか、下郎」

 

 

すでに黒剣を手に持つ黒騎士が一閃を放つ。

 

ダークエルフたちの頭上に光が走ったと同時、彼女らを慰め者にしようと集まっていた兵たちの肉体が下半身を残してすり身と化した。

 

その人外的な力を目の当たりにして、事態を把握したのか、ついに奥の手を出すために大隊長は声を張り上げた。

 

 

「お、おい!!奴を出せ!!」

 

 

奥から大きな足音ともに、人からはかけ離れた巨体を持つ影が現れる。少し離れた場所からでも分かるその巨体は、唸り声を上げながら引きずっている棍棒を振りまわし、咆哮を上げた。

 

 

「これはこれは…」

 

「はっはっはっはぁっ!!見ろ!!この豪胆たる巨人を!!ジャイアントオーガーだ!!しかも、ただのオーガーではない!!厳選されたオーガーを交配させて生まれさせた特別性だ!!それに、質の良いダークエルフもたんまりと食わせたからな…!!」

 

 

オルフェニアの眼に畏怖と怒りが映る。あの巨大な化け物に何人もの同胞が食われたのだ。だが、硬い皮膚と発達的な力。魔法と弓を得意とするダークエルフたちでは歯も立たない相手。

 

ふむ、と黒騎士が顎先に手を添えた。

 

人族が自慢げに言っていた言葉。厳選されたオーガーを交配させたとか。実に興味深い。その技術や知識を一体どこで学んだのか。この時代では考えられない人族の繁栄のヒントになるかもしれない。

 

 

「さぁ!オーガーよ!!こいつらを捻り潰して……」

 

 

オーガーの咆哮に一切の興味すら持たない黒騎士。恐怖に支配されたダークエルフたちが悲鳴を上げる最中、黒騎士の隣にいた戦士が駆けた。

 

巨大な戦斧を目にも留まらぬ速さで振り抜くと、大隊長が豪語していた〝ジャイアントオーガーだったもの〟が、遙か後方の壁へと叩きつけられた。

 

 

「歯応えがねぇ、と言ったはずだぜ?」

 

 

速すぎた一閃は、オーガーの下半身を残して、上半身をミンチにしていた。

 

恐る恐る振り返ると、その先には肉体すら原型を保てずに、真っ赤な血のりが付着した壁だけが見えた。

 

 

「い、一閃…振るっただけで…」

 

 

情けない声を出す兵たち。呆けたように見るダークエルフ。それを他所に、黒騎士が剣を構える。

 

 

「さて、奥の手も潰えたようだ。ならば、今度はこちらの番だ」

 

 

極光を纏った一閃が振り下ろされ、千にも登る軍勢の悲鳴は、たった一夜の中で掻き消えて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダークエルフの女王から求婚されました。そして断りました。終わり。

 

事の一部始終を報告して、俺はやっとシャワーを浴びることができた。もうまぢ無理疲れた。

 

北のダークエルフが襲撃を受けたと知らせを受けて、高速機動ができるセレーナや他の部隊とともに北へ向かうことになったのが昨日。

 

押し入る敵を千切っては投げ、千切ってはなげ。全てをねじ伏せて到着したら、北付近で人族と交戦していたエルフ族の部隊が知らせを受けて先鋒として突入した後だった。

 

蹂躙された場内を抜ければ、切り込み隊長であるザックスが敵首領の元へと到着しており、あとはなし崩し的な感じ。

 

人族の軍勢を率いていた大隊長が、オーガーの交配という中々なワードを口にしていたので、生け捕りにして事情聴取。

 

最初は口を噤んでいたが、両手を指先からスライスすれば面白いほどよく喋ってくれた。

 

こちとら悪の黒騎士だぜ。ヴィランムーブはお手の物よ。

 

なんでも話によれば、人族の中で稀代の錬金術師が生まれているのだとか。

 

ほぇー、まぁ有益な情報なのかしらね。

 

んで、オーガーの交配方法だとか、効率の良い人海戦術や兵器を発案しまくってる結果、人族の躍進的な進出が行われているようだ。

 

満足した情報を引っ張り出したあと、人が主食のゴブリンの巣に簀巻きにした大隊長を放り込んで撤退。

 

ダークエルフ族も、相当な痛手を負っていたため、一度エルフ族の元での保護下に入ることとなった。

 

んで、その内容を詰める議会の終わり際に事件発生。

 

 

「我の夫とならぬか?黒騎士」

 

 

はい、この一言でアルディがブチギレしたのは言うまでもなく。エルフって案外嫉妬深いのよ。アルディが特殊なだけかもしれないけど。

 

え?嫌ですけど?とオウム返しのように女王の求婚を断ったにも関わらず、青筋を額に浮かべてらっしゃるアルディ様。おお怖、近寄らんとこ。そんなことが許されるはずもなく、一から十まで説明要求されたのちに、寝室へと連行されました。

 

ええ、艶かしい肉付きの女性はアルディだけで充分ですので、どうぞお引き取りくださいお願いします。

 

とりあえず、女王求婚事件を終えた俺は、寝室で眠るアルディを置いて、一人黒騎士としての職務を全うするのだ。

 

 

「黒騎士」

 

 

エルフ族の城内を歩いていると、共に戻ってきたエルフ族の切り込み隊長であるザックス・フルメタルが話しかけてきた。

 

しかも鎧と愛用してある人丈ほどのアックスを携えながら。

 

 

「手合わせを願おうか」

 

 

えー、やだ。

 

その言葉を聞かずにザックスは俺の退路を塞ぎ、訓練用の広場へと歩んでゆく。

 

あの、報告書を出したいんですけど俺は…。

 

そんな悲しい言葉など受け入れられないまま、俺とザックスは数えることが億劫になる模擬戦に勤しむことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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