エルフ「ウチの夫が黒騎士で最強な件について」   作:紅乃 晴@小説アカ

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竜殺しと黒騎士と

 

 

 

ダークエルフを救出してから数週間。

 

北にある拠点を経由して、難民となったダークエルフたちを国内に迎え入れてからは、やれ難民救済の措置だとか、やれ難民用の食糧の確保だとか、ダークエルフたちへの仕事の斡旋に、人数管理、衛生面の補償だとか。

 

やることが色々とあって大変であったが、ダークエルフたちも以前のような刺々しさは無く、忙しなく動き回るエルフ国の文官たちにも協力的に動きてくれた結果、徐々にではあるが落ち着きは取り戻しつつあった。

 

 

「もっと腕の引きを早く!どこに攻撃したいか丸わかりだぞ!!」

 

「くぅ…このぉ!!」

 

「そうだ!!その負けん気を活かせ!!力がなければ何も出来ないということを忘れるな!!」

 

「でええい!!」

 

 

 

鉄と鉄がぶつかり合う訓練所。

いやはや今日も良き訓練日和ですな。

 

目の前で繰り広げれるのは、北方地方の防衛を終え、ダークエルフたちの護衛を機に国内に帰還したザックスが、ダークエルフ女王の側近兼護衛である女戦士、リーリエに稽古を付けている光景であった。

 

戦士の誇りが強いダークエルフ族であるリーリエが、人族であるザックスから稽古をつけてもらうという、なんとも異様な光景であったが、これには訳がある。

 

ダークエルフ族長であるオルフェニアが、戦士たちへ訓練を受けるよう指示を出したのだ。

 

黒騎士に求婚した件もあって、アルディは最初はものすごッッッく渋っていたが、国の危機の際に逃げることしか出来なかったら自身の経験もあってか、その願いを承諾。

 

結果、ダークエルフで生き残った精鋭たちが、エルフ国軍に出稽古に来ているというわけだ。

 

というか、なぜに全員女なのか。

 

名簿と参加メンバーを見た時は思わず卒倒しそうになったぞ。

 

いや別に女性を贔屓しているわけではないが、男女比率を考えろと言いたい。戦士たちを運用していたダークエルフ軍の人事課に問い合わせたくなる。まぁ、部族長間で運営していたみたいだから人事課とか無いんだろうけど。

 

その分、王国軍は他の魔族の戦士たちよりも統率され、高度な運用をされている。

 

師団や小隊はもちろん、汎用性に優れた一般陸兵、隠密作戦に優れた特殊兵、射撃や投擲に優れた砲兵、そしてそれは部隊を円滑に支援する支援部隊まである。

 

すべては、現代社会で兵站に関する知識を学んだアルディのおかげだ。

 

この規律と規範に則った部隊運用を行うことで、蛮行押せ押せで来ていた人族の勢いを押し返したという部分もある。

 

神秘を重要視する世界で、それは神秘性を冒しているのでは無いかと不安視する俺であったが、実家に問い合わせてみるとギリギリセーフらしい。

 

三百年単位で見れば、規律や規範などコロコロと変わる。

 

事が終わればアルディも、俺とともに帰還する予定なので、この現代的な兵士の運用法はオーパーツの如く廃れていくだろうとのこと。

 

 

「どうした!!その程度では人の俺すら倒せんぞ!!」

 

 

立ち回るダークエルフの戦士たちの攻撃を易々とはじき返すザックス。彼もまた、元を辿ればエルフ族側では無い人間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

次元渡りでセレーナが俺たちの世界へとやって来て、彼女の願いからアルディと共にこの世界に帰ってた頃。

 

まず着手したことは国の復興だった。

 

その為には、エルフ国を壊落させた人族をすべて排除する必要があった。当時のエルフ国跡地にできた場所は、それはもうひどい場所となっていた。

 

奴隷売買から凌辱、一番酷かったのが滋養強壮があると謳われてエルフ肉の売買が行われていたという。偵察中にその惨状を知ったアルディがその場で嘔吐するほどの人畜っぷり。

 

それを黙って見ていれる訳がなかった。

 

セレーナの案内の元、抵抗する僅かなエルフの戦士たちと合流した俺たちはすぐに行動を起こした。

 

異世界で黒騎士一族から学んだ魔法を扱うアルディと、災厄の化身と呼ばれる黒騎士を筆頭に、国中をひっくり返す勢いで行われた人族への反撃作戦。

 

勢いを取り戻したエルフ族の反乱に、過去の勝利にあぐらをかいていた人族が敗走したのは必然だった。

 

そんな中、エルフたちの管理を一任されていた兵士長、ザックス・フルメタルだけは違った。

 

彼はこの地を統治するために派遣された人間であった。エルフ側から見ればこの地獄を築き上げた戦犯者の一人に過ぎない。

 

同じような主犯格が逃げようとし、ある者は金で逃れようとし、ある者は命乞いをして生き延びようと画策したが、俺とアルディは、その全てをねじ伏せた。

 

エルフの戦士たちに取り囲まれながら、ザックスは単身戦うことを選んだ。

 

明らかな物量差があると自覚しながら死ぬつもりのない目と闘志を漲らせて、誇り高い在り方を示したのだ。

 

錆び付いた人丈の戦斧。しかしその豪腕から放たれる一撃はまさに旋風。

 

セレーナ率いるエルフの戦士たちを凪いだザックスは、先陣にいた俺と一対一の戦いを挑んだ。

 

その勝負は一瞬。

だが残したモノは大きかった。

 

振り下された戦斧の刀身は黒剣により砕け、屈強な肉体には袈裟斬りの瀕死の一撃を打ち込まれる。

 

だが、斬った瞬間にわかった。

この男はこの程度では死なないと。

 

感や思考では無い。古より刻まれた「黒騎士」の本能がそう叫んだのだ。

 

 

『良い戦士だ。時代が違えば、別の形で出会いたかった。名を聞かせてくれ』

 

『…ザ…ザックス……ごほっ…ザックス・フルメタル…だ…』

 

 

血を吐き出しながら言い切ったザックスは、そのまま大の字に倒れる。その瞬間に、体から黒い煙が立ち上ってゆくのが見えた。

 

人族の最後の一人である彼へトドメを刺そうとするエルフたちを止めて、俺はアルディに頭を下げてザックスを治療するよう頼んだ。

 

俺が感じ取った黒騎士としての違和感の正体は、意外なほどに早くわかった。

 

なんと彼は、百五十年前に魔王を倒した勇者パーティーの子孫だったのだ。

 

アルディと共に、フルメタルという名を父と母に伝えると、母が「え、戦士くんの名前じゃない?」と即答したのが決まり手だったわけだ。

 

勇者と魔王の因縁は強い力を持っている。

 

魔王がまだ目覚めていない今、勇者がこの世界に現れることはないが、彼を支えた戦士や魔術師の子孫はこの世界にいるのだ。

 

俺が感じ取ったものが何よりの証拠。

 

ザックス・フルメタルは、勇者パーティ「戦士」の子なのだ。

 

ちなみに母は、元勇者パーティの女騎士である。戦いの最中に父と恋に落ち、なんかやかんやあって入籍した結果、現代社会で俺の母として生きることを決めたようだ。

 

国が人族から解放された当時は、ザックスを見せしめに処刑にするべしと関係者全員が考えていた。それはアルディや俺でもどうすることもできなかった。

 

だが、解放されたエルフの民からザックスの処刑反対という声が多く出たのだ。

 

彼は、曲がりなりにも勇者パーティの子孫。

 

正義感が強いザックスにとって、エルフたちの不当な扱いは同じ人間でも目に余るもの。

 

そんな彼は、秘密裏にエルフたちを保護し、拉致されたエルフの奴隷売買を阻止し、エルフ族を守るために水面下で奔走していたようだ。

 

ザックスがいなければ、エルフ国の地獄絵図はもっとひどい物になっていたに違いないと、エルフの民たちが声を上げたのだ。

 

最終的にザックスの処遇について、女王に復帰したアルディに委ねられ、そして彼女はザックスの性質を見極めるよう俺に言ってきたのだ。

 

復讐に燃えるエルフ族の反対を押し切ってザックスを救ったのは俺だ。だから彼をどうするかを決断する責任があると。

 

牢獄に繋がれたザックスに問いかける。

 

このまま人として処刑されるか。

エルフ族のために、戦士として力を振るうか。

 

その問いかけに彼はしばらく沈黙する。

包帯姿のザックスは、黒甲冑を身につける俺を真っ直ぐに見据えて答えた。

 

 

『エルフ族にした非道の数々を償う責任が俺にはある。それと同時に思うこともある』

 

 

彼は全く闘志が折れていない目でニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

『アンタなら、俺の渇きを潤す事ができる』

 

 

そう言って彼は、エルフ族に従属する事を決めた。

 

誓いを反故すれば呪いで死に至る魔術が施された書面に血判を押したザックスは、すぐにその頭角を魅せた。

 

その豪胆たる力強さでエルフの戦士たちを凌駕する彼は、ついにはエルフ族斬り込み隊長として部隊を率いることになり、危険性が一番高い任務へ赴くようになった。

 

最初は下賤な人族と見下していた戦士たちも、今ではザックスを指揮官と認識しており、彼の命令を聞かぬの者はいないほどだ。

 

この世界はどこまでいっても力こそ正義。

強ければ強いほどその力に惹かれるのだ。

 

 

 

 

 

 

アルディと共に調べた結果、ザックスが本質的な〝洗脳〟を受けていたことが後になって分かった。彼を切った時に流れ出た黒い煙のような魔力が、その証拠とも受け止められる。

 

しかし彼に施されていた洗脳魔法は高度な刷り込み式の術式であり、解呪されれば術式を消し去り消滅すると言うトラップ付きだ。

 

施された洗脳跡は残るため、エルフによって狩られた人族の幹部全員に痕跡が見受けられたことと、昏睡状態であったザックスにも施されていた形跡があったこと。

 

本能的な魔族への嫌悪心を増大させる洗脳術式とアルディは解析するが、そんな洗脳を受けていてもエルフ族を守るために争ったザックスが屈強なのか、それとも勇者パーティーの戦士の末裔だからなのか。

 

しかし、それゆえの人となりなのだろうと思う。

 

最初は「人如きに」と、勇んでいたダークエルフの戦士たちも、ザックスの豪胆さの前に今ではすっかりおとなしくなっていた。

 

そんな中でも粘るのが、ダークエルフ女王の側近であるリーリエだった。多くの戦士が脱落する中、彼女は死に物狂いと言っても良い形相でザックスの訓練に食らいついている。

 

まぁ、実力から見れば天と地ほどの差があるが、問題はそこではない。

 

それほどの力の差を見せられながら、挑む勇気があるリーリエが強いのだ。

 

 

「歯応えのない連中だ。これなら北方の化け物鯨の方がよほど鍛錬になる。なぁ、黒騎士どの」

 

 

リーリエをしごき倒した後、そう言って武器を携えながら、ザックスがにこやかな笑みを浮かべてくる。

 

やめて貰えませんかね?

 

そんな心の声を知ってから知らずか、大きな手でバシバシと俺の肩を叩いた。

 

その目はこう言っているのだ。

 

 

『次は貴様の番だ』

 

 

彼の持つ戦士としての本質、強者との戦いの渇きを満たすために、俺は今日も今日とて剣を握る。

 

とりあえずしばき倒せば言うこと聞くだろ。

 

 

 

 

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