エルフ「ウチの夫が黒騎士で最強な件について」 作:紅乃 晴@小説アカ
二つの月が夜空に輝く。
しっかり寝静まった深夜に、俺は家出を敢行した。
ガチャガチャと音が鳴る黒騎士の甲冑は収納魔法を使って脱いでいる。普段は黒騎士の姿で城内をうろついてることや、外見を少し変える魔法も施しているので、特に勘づかれることなく城を後にすることができた。
エルフ特有の耳に変化させたのが若干違和感ではあるが、黒騎士が堂々と家出なんてすれば嫁に見つかって強制連行間違いなしだし。
一応、アルディやセレーナ宛に置き手紙もしてきたから目的を終えて帰ってくれば怒られるのと数発殴られる程度で済むことを願うばかりだ。
ダークエルフの拠点を襲った人族の話がやけに引っかかる。確かに、魔王復活前に人族の文明が高まり、雑種族であるオーガーやゴブリンを兵器化、交配させることにより強い個体を作り出すと言った技法は過去にも存在する。
しかし、今はまだ魔王が復活する頃合いでも無いし、人族が目覚ましい技術発展をするきっかけは、大国間での戦争が起こってからだ。
戦争による技術進歩と、人族の和解、しかし憎しみあいで起こった戦争のエネルギーを収めることができずに、そのまま魔族のいるイオニア山脈の向こうへと進出していくのが、魔王復活の引き金になることが大半の要員だ。
だが、フェルデニア大陸の東側を二分する大戦は起こっていない。にも関わらず人族は目覚ましい技術発展を遂げているのだ。
軍勢を率いていた男の言った言葉。
人族の中で現れたか稀代の錬金術師。
少なくとも、その錬金術師が一連の騒動の鍵を握っていることは間違いない。早々に処理をしなければかなり不味いことになりかねない。錬金術師一人の影響とは考えにくいが、どう考えても生かしておくのは危険すぎる。
それに魔族側でも不審な点が見られる。
魔王復活の際に解放される四天王の宝玉が紛失していることだ。黒騎士の持つステータスがその事実をはっきりと示している。
本来なら、魔王復活前に黒騎士として転移する俺が、四天王を呼ぶために炎と風と水と雷の四宝玉を封印から解くという手筈を踏むのだが、それが何者かによってすでに達成されているのだ。
魔王復活に伴い、魔族が力を増すのもそれが原因だ。つまり、今は魔王復活タイミングでもないのに、魔族側がやたらといきり立っているということになる。
エルフやドラフ、ダークエルフなどは人側に近い性質を持っているため影響を受けにくいが、イオニア山脈から西の奥地へと進むと野性が高い魔族が多い。竜人族や獣人族、魔神族などがそれに当てはまる。彼らが影響を受け、好戦的になっているとすれば、いよいよもって魔族側でも収拾がつかなくなる。
俺がアルディを置いて国を離れる理由は二つ。まずは西側の街に向かい封印が解かれた四宝玉を再封印すること。そして次に、人族側にいる錬金術師を探し出し、彼を抹殺することだ。
勇者の英雄譚とは程遠い旅路になるが、終われば本来の百五十年頃の技術レベルに落ち着き、こちらの世界の異変は解消されるはずだ。
せっかく国を持ち直したアルディや、危険を冒してまで彼女を迎えにきたセレーナを危険な目に合わせるわけにはいかん。
そう固く決意し、俺は単身でエルフの国から抜けてきたというのに…。
「ほら!やっぱりここに来た!おーい、旦那さまー!」
「嬢ちゃんの言った通り、ほんとにきたな」
城を一望できる小高い丘の頂上あたりに、ぴょんぴょんと跳ねるアルディ。
そして隣にはエルフ軍の切り込み隊長であるザックスと、最近彼に指南を受けているダークエルフのリーリエが待っていた。いやまて何でお前らここにいるの!?
(どういうつもりだ!?)
(嫁である私を出し抜けるとでも思ってたわけ!?嫌な予感がしたから寝たふりして様子を見てたら案の定抜け出すし!机の上に置き手紙までしちゃって!!)
アイコンタクトというテレパシー魔法を使って頬を膨らますアルディと口論。あかん、こうなってる以上、コイツは是が非でも折れるつもりないやつだぞ!
(なぁアルディ、考え直せ!悪いとは思ってるけど、お前は女王だろう!?)
(はぁ?!女王なんてクソ業務と嫁としての立場、どっちが大事かなんて聞くまでもないでしょ!?だいたい衛士と同じ世界に帰るんだから、未練もへったくれもないわよ!!)
それでいいのか、エルフの女王。女王以前に私は女なのよ!このバカっ!とまで付け加えられる。見た目ニコニコ顔なのに心底はらわた煮えくり帰ってるやつだぜコレェ。女っていくつも仮面持ってるのね!
ところで黒騎士の俺は単身で調査とかで何とかなるだろうけど、流石に女王を不在にさせるのは不味くないか?
(そこはセレーナが上手くやってくれるわ。衛士のことも単独調査の名を受けた隠密ってことにしてもらってるし、私はその奥さんってことで)
人の心を読むのやめてもらえませんか?あ、ダメ?そっか!というかセレーナにもバレてるわけなのか。ご丁寧に身分まで作っていただいて。こりゃ帰る時にマジで殺されかねんぞ。
アルディもとりあえず変身魔法をかけてるけど、そばかす作ってるくらいで外見はほとんど変わってない。まぁ服装がエルフの正装からバリバリの山系女子の格好になってるからバレんだろう。普段の女王然した陥落など見る影もない。ハイキングに行くわけじゃねぇぞ…。
「で?なんでお前たちもここに来てる」
そう目をやると、遠征用の装備と持ち運ぶにはかなり労力が掛かる戦斧を担いでいるザックスが、少し疲れた様子で答えてくれた。
「まぁなんだ。俺はセレーナ嬢からそこの嬢ちゃんの面倒を見ろと言われてな。任務も無いんだから暇だろって」
いいか?この女性に何かあってみろ。貴様の脳天を私の槍が貫くから覚悟して護衛するんだな。いいか?絶対にだぞ。そう凄まれて仕事を押し付けられたとか。
「あれはマジな目だったな」と遠い目で言うザックス。うん。本当にしそうだからなぁ、セレーナって
「で、俺が宿舎に戻って荷物をまとめてるところをコイツに見られたわけだ」
「オルフェニア様も世界を見てこいと後押ししてくれました!!フルメタル隊長殿と共に任務につけるのは光栄です!」
ビシィッと敬礼で挨拶するリーリエ。ダークエルフ自由すぎない?族長もあんな感じだし仕方ないんだけど。アルディ曰く、リーリエはザックスにお熱らしいので共に旅するのは問題ないらしい。
いや、問題しかないんだけど。ええい、ツッコミ役が足りん!!
「じゃあ、この四人で冒険パーティね!回復や補助魔法なら私に任せなさーい!」
「斥候や後方支援、ナイフ戦なら私にお任せを!!」
「じゃ、前衛は俺だな。殴れる距離に入ればなんとかなる」
俺が頭を抱えている間にパーティ構成まで決めていかれてる件について。一目でタンクポジのザックスが前衛。斥候と弓矢などの後方支援にリーリエ、そしてバックグラウンドにアルディといった感じだ。
いざとなれば黒騎士様とエルフ女王の地獄コンビワンパンで終わりますからね。
「というわけで、貴方は中距離でオールラウンダー的なポジションで」
「あーもう好きにしてくれ」
「それじゃ、しゅっぱーつ!!」
そう掛け声を出して、ザックスとリーリエが合いの声をあげる。前途多難な出発となったが、とにもかくにも調査を始めなければ話は始まらない。
まず最初に目指すのは、エルフ国があるラーニエ地区から南へ。ドラフ族の集落より先。
フェルデニア大陸の水源であるバルジ湖のほとりに位置するトワシュトラ地区だ。
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アスレニア大国、首都バルブクス。
五人の聖者からなる大国は、軍事力にも優れ、首都であるバルブクスには巨大な建造物が立ち並んでいる。
その首都中央に位置する行政府。宮殿のような建造物の最深部に降りた神官は、緊張した表情で〝稀代の錬金術師〟と向かい合っていた。
イオニア山脈を超えた先に展開していた部隊が次々と討ち取られているという報告だ。
実際問題、古くからある地下坑道を開拓してイオニア山脈の向こう側への道を作ったはいいが、魔族領土である西側の情報があまりにも少なかった。
送り込まれたのは〝陽動〟のため、現地調査という名ばかりの荒くれ者たち。大国の軍にとって何ら痛手にならない者たちだ。彼らが討たれているというだけでも、西側の魔族たちが大国側を受け入れようとするつもりは無いと言うことが分かる。
こちらの手駒はすでに次の段階へと進んでいるとも知らずに、魔族は西側に侵攻する荒くれ者たちを討ち取るのに必死だ。
報告に来た神官を下がらせ、錬金術師は机の上に置いていた古びた本をパラパラとめくった。
「そうか、黒騎士が現れたのか。なら、この本は正しかったわけだね」
誰もいない研究室でぽつりと呟く。
とりあえず、第一目的はクリアだ。まだ先だと思っていたが、災厄の前兆は現れた。なら次は世界の破滅を呼ぶ存在…「魔王」。四宝玉の封印もすでに解除している。まもなく、魔族の力も膨れ上がってゆくだろう。
「そうだとも。魔王を倒して世界を平和にしなきゃあ」
だって僕は、この世界の〝主人公〟なんだからね。
ニヤリと口角を釣り上げる錬金術師。
彼の…前世の名は斎藤佑樹(サイトウユウキ)。
神のいたずらによって、この世界に送り込まれた〝異世界転生者〟だった。