まなびまなばせ   作:魚乃眼

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敵は我なり。





証言

 

 

 

 僕はロリコンじゃない。

 

 

 

 まず、これだけはハッキリと真実を伝えたい。

 だからこそ、今自分が置かれている状況に対して特別感慨を覚えるということもないし、僕と"彼女"の関係性はビジネスライクなものであり、それ以上でもそれ以下でもないんだ。

 

 

「はーっ、信用できるかってのー」

 

 自分から訊ねておいて僕の回答にまるで納得いってない様子の澤田は注文した海鮮ドリアを美味しくなさそうに食べながら言う。

 久々に昼飯を食いに誘ったらこれだ。

 

 

「君に言われるのは心外だが、いったいぼくの話の何処が信じられないって言うんだ」

 

「全部だ全部」

 

 ドリアに入っているエビをペッと吐き出しながら言葉を続ける澤田。

 この男、エビも貝も食えないクセにエキスがうまいとかいう貧乏くさい理由だけで海鮮ドリアを注文して具を残すなんて冒涜を平気でしてくれる。僕が親なら二度と注文するなと説教しているところだぞ。

 

 

「小遣い稼ぎで始めた家庭教師のバイト先がヨーロッパ系ハーフのJC。コミックLOでしか見た事ねえ設定だ、ファンタジーだ」

 

「僕の生徒が純粋な日本人じゃあないのが問題なのか?」

 

「違え。そんなコテコテな状況を享受してるお前がロリコンじゃねーわけねーだろって話」

 

 澤田はこちらの主張など聞く耳持たずといった様子。

 彼に再び一から十までを語ったところで同じような反応で終わるのは想像に難くない。それは無駄、時間の浪費だ。

 どうとでも思えばいいさ。僕は正真正銘、ロリコンじゃないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕の名前は 持館慎二(もちたてしんじ)

 ごく普通の大学生をやっている。

 大学へは実家から通っているため衣食住に困りはしないが、この歳だ。親からは当たり前のように自分の金は自分で稼げと言われお小遣いという名の不労所得を失った僕は何かしらのアルバイトをしようと考え、たまたま見つけた家庭教師の求人に応募したところトントン拍子で採用された。

 バリバリ身体を動かす職よりは自分に会っていると思うし採用してもらってありがたいはありがたいが、全国展開しているグループの割に採用担当者が適当な感じに見えたのが少し不安だった。

 その不安は現実の問題となって僕に襲い掛かる。

 僕は数学と社会なら問題なく指導できると言ったのに、派遣先に決まった生徒は英語の重点的な克服を希望しているという。

 高校時代のエピソードを聞かれ、自分を売り込もうとついオーストラリアでホームステイしたなんて話をしてしまったのが裏目に出てしまった。英語のできるやつと判断されたらしい、

 まあ、相手は中学生というのだからそこまでハードルは高くない。中坊相手であれば僕でも騙し騙しやっていけるだろうと自分へ言い聞かせ訪れた勤務初日。

 同じ県内でも少し離れればてんで馴染みのない土地を、地図アプリを頼りに移動して辿り着いた一軒家。覚悟を決めてインターホンを押す。

 

 

「すみません、家庭教師サクシーズの持館ですが」

 

『お待ちしておりました。すぐ伺います』

 

 インターホンの言葉通りすぐにドアが開けられ、生徒の母と思わしき女性が僕を玄関に招き入れる。 

 いわゆる美魔女というやつか、そのの女性は三十代後半の既婚者とは思えぬ若々しさで、その美貌の割には髪の手入れを怠っているのか放棄しているのか、腰まで伸びたロングの髪がふわふわ散らかっているのが印象的だった。

 そのままリビングに通され、軽く挨拶をする。こちらの自己紹介が済むと早速色々説明に入ろうかというところで、肝心の生徒がリビングに姿を現していない。

 

 

「それで、お子様はどちらに?」

 

「お恥ずかしい話なのですが、娘は先生に来てもらうことに猛反発しておりまして……部屋に呼びに行きますが、もしかしたら失礼な態度をとってしまうかもしれません」

 

 生徒の母はややバツが悪そうに語った。

 猛反発、と聞くとこちらも身構えてしまうがよくよく考えれば当然の話だ。家庭教師など雇わずに済めばそれに越したことはなく、それでも雇うということは子供の向上心が人一倍強いかその真逆かしかない。

 娘を呼びに僕一人を残してリビングを後にする生徒の母。そんな彼女が娘を連れて戻ってきたのは出されたお茶のグラスが汗ばんできた頃だった。

 

 

「ほら、先生にご挨拶して」

 

 母親にそう促された娘の彼女は人間観察力が特別高くない僕でもはっきり読み取れるほど"不服"の二文字が顔に浮かんでおり、その容姿が日本人離れしていることもあって僕の心から平静が失われるのは時間の問題である。

 やがて彼女はぼそっと投げやりに。

 

 

「……オリヴィア」

 

 と自分の名前を告げた。

 こんな感じで、彼女に歓迎されていないというのは火を見るより明らかな状態であったが、こちらも仕事なので嫌だと泣き言は言えない。

 まず始めに学力の現状を知るという名目で最初の授業にかかると母親に告げ、いかにも年頃の少女といった感じの部屋で生徒と二人きりになった僕は適切なコミュニケーションを図った。

 

 

「本来だったら直近のテストを見せてもらったり、用意してきたドリルを早速解いてもらうところなんだけど、勉強ってのは嫌々やらせても効果が無いからね。少しお喋りしようか」

 

「お喋り……?」

 

 学習机の椅子に座る少女は訝しむような眼でオウム返しする。

 

 

「自己紹介の延長だよ。ちょっと名前を言い合ったぐらいの仲のやつに偉そうにされるのは僕だって気に食わない。最初に僕が自分のことを話すから、次に君のことを聞かせてくれるかな」

 

 とにかく最初はノーガード戦法、もしくは両腕を上げた降伏の姿勢で接しようと思った。

 そんな作戦が功を奏したのか彼女の家から帰る頃にはある程度打ち解けることができ、彼女の表情も穏やかなものとなっていた。少なくとも敵対心は薄れたであろう。

 帰宅した後は緊張が解けどっと疲れが押し寄せたが今まであまり感じなかった部類の達成感を得られ、長く続けてもらえるようにこちらも努力しようと思えた。

 

 

 

 で、週二回のペースをどうにかこうにか切り抜け一ヶ月が経過した。

 

 

「ねぇ、もっち先生は休みの日何してるんですか?」

 

 休憩時間に生徒からの何気ない質問。

 適当に答えてもいいが一応正直に答えておく。

 

 

「大学生は毎日が休みみたいなものさ。僕はなるべく平均的に講義を入れてるけどそれでも君たち中学生より早く家には帰れる。となると家でゲームしたり、遊びに行ったりかな」

 

 まあ最近はオリヴィアちゃんの授業内容を考えたりと家庭教師としての仕込みに多く時間を取られているが、それは口にするだけ野暮というもの。

 彼女の学力は当初僕が想定していたよりも遥か下のハードルであったが、元が低い方が学力向上は実感しやすい。小テストの点数が10点上がっただけで大いに喜んでいたのは微笑ましかった。

 僕の話で大学生が大層暇な生き物に思えたのかオリヴィアちゃんは心底羨ましそうに。

 

 

「あーいいなぁ。私ももっと遊びた~い」

 

「はは。家庭教師の僕が言うのもなんだけど、勉強だけが全てではないからね」

 

「遊びに行くって、一人でですか? それとも彼女と?」

 

「生憎と僕に彼女はいなくてね。街をぶらつく時は一人か友達と一緒のどっちかさ」

 

「ふぅ~ん……先生彼女いないんだ」

 

 それのどこが面白いのか、オリヴィアちゃんは妙にニヤニヤしていた。

 物事におけるきっかけなどというものは、大概どうってことのないことなのだろうが、まさしくこの会話がきっかけだったのだと後になって思い知ることになる。

 少なくとも、この時点での僕はロリコンじゃなかった。

 

 

 

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