この兄弟に祝福あれ   作:大豆万歳

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ダクネスのドレス。どちらかと言えばシンプルな原作のデザインが好みです。アニメのデザインも悪くはないんですけど。


第13話

「兄さん、何の設計図書く?」

「ミキサーとバリカン。それと笛付きやかん」

「了解。俺はまず炬燵からやってみる」

 

 ゆんゆんがパーティーに加わった翌日。居間のテーブルに紙を広げ、俺と和真はウィズの店に卸す商品の設計を行っていた。書く前に和真が質問してきたのは、お互いの商品が被ってしまうのを防止するため。

 

「カズマ、ハルキ、アクア。私は日課の爆裂散歩に行ってきます」

 

 設計図を書いていると、クエストでも出かけるような恰好のめぐみんが居間に入ってきた。

 

「ちょっと待ってろ。爆裂散歩に行くなら、俺も行くよ」

「いえ、カズマもハルキも作業中のようですので、帰りの足はゆんゆんにやってもらいます」

「ちょっとめぐみん。足って言わないでよ」

 

 そう言っためぐみんとゆんゆんが居間を出て、玄関に向かおうとしたところだった。

 

「た、大変だ!ハルキ、大変なんだ!」

 

 ゆんゆんとめぐみんの脇を通り抜け、1人の美女が飛び込んできた。

 それは清楚なイメージを与える高そうな純白のドレスを身に着け、白いハイヒールを履き、長く綺麗な金髪を1本の三つ編みにし、片方の肩から前に垂らした、何処かの令嬢。

 

「どうしたララティーナ、そんなに慌てて?」

「ララティーナと呼ぶな!……いや、まずはこれを見てくれ」

 

 言って、ララティーナがアルバムを突きつけた。

 

「何だこのイケメンは?死ねばいいのに」

 

 爽やかそうなイケメンが写っていたそれを、俺は両手に持って……。

 

「おいやめろ!見合い写真を破こうとするな!」

「お、おう、すまん。つい反射的に。てか、見合い写真ってどういうことだ?」

「そうだ!アルダープめ、己の息子を使うなどという小賢しい手を使ってきた!言う事を聞くと言ったが、無茶な要求をすれば、我が父に話を蹴られるだろう。だから私はああ言ったのだが」

「おいおいおい。このイケメンが、あの、豚と同列に扱うのも失礼な領主の息子!?遺伝子どうなってんだ……」

「はいはい、ちょっと待ってくださいねー」

 

 俺とララティーナで話していると、和真が間に割って入ってきた。

 

「兄さん、俺達抜きで話をしないで。皆ぽかんとしてるから。それと、こちらのお姉さんis誰?」

「硬いだけが取り柄の肉壁、ダクネスだ」

「肉っ……!」

 

 頬を赤くしながら、嬉しそうに悶えるララティーナの反応を見て、目の前の女性がダクネスであると理解したようだ。

 俺と和真はテーブルの上の紙と筆記用具一式を片付け、全員が席に着く。そして、ダクネスがここまで焦る理由を説明した。

 

「……なるほど。普段ならば、ダクネスのお父さんの持ってきた見合い話だから断れたけど、今回は、何でも言う事を聞くと約束している、あの領主からのお見合いです。ダクネスのお父さんも乗り気、領主も乗り気では、お見合いを断れないわけですか。ですが、領主がそこまで回りくどい事をして、ダクネスに執着する理由はなんなんでしょうか。それも、息子の嫁にしようという理由が分かりません。領主ほどの地位の人間がその気になれば、強引にでもダクネスを妾にだってできるでしょうに」

 

 めぐみんがそう言うと、ダクネスが俺に耳打ちしてきた。

 

「……どこまで話した?」

「何も話してないよ。ただ和真は、お前がどっかの令嬢なんじゃないかって推測していたぞ」

「そうか……」

 

 俺の言葉にダクネスが俯き。手を胸の前で組み、暫く指をぐにぐにした後言った。

 

「私の本名はダスティネス・フォード・ララティーナ。その……そこそこ大きな貴族の娘だ」

「「「「っ!?」」」」

 

 和真達が、無言で驚く。

 

「ダスティネスって……!そこそこじゃなく、滅茶苦茶大きな貴族じゃないですか!この国の王家の懐刀とまで言われている、あのダスティネス!?この街に居を構える!?」

 

 驚きの声を上げるめぐみんに、ダクネスが小さな声で肯定する。

 

「なに!?じゃあ、ダクネスの家の子になれば毎日ゴロゴロ贅沢三昧できるって事!?」

 

 見当外れな事を口走るアクアに、ダクネスは戸惑い。

 

「ダクネスお前……!普段、うむ、とか、そうだな、とか堅苦しい、真面目な騎士みたいな口調なのに!本名はララティーナなんて可愛らしい名前だったのかよ!?」

「兄弟で同じ反応をするな!」

 

 ララティーナが赤い顔で、涙目になって大声を上げた。

 そして、ゆんゆんはと言うと。

 

「ゆんゆん!しっかりしてください!」

 

 脳が処理落ちを起こしたのか、白目を剝いて気絶していた。

 めぐみんは往復ビンタでゆんゆんを復活させると、ゆんゆんに深呼吸で落ち着くように促し。

 

「まあ、確かに驚きましたが、ダクネスはダクネスです。私にとってのダクネスは、超硬くて不器用なクルセイダーで大切な仲間。それだけの事です」

 

 めぐみんの言葉にゆんゆんが同調するように頷き、ダクネスは嬉しそうな表情を浮かべ……。

 

「……ん、これからも、よろしく頼む……」

 

 そう言って、安心した様に微笑んだ。

 

「じゃあ、これを持ってダクネスのパパを説得しないとね」

「ああ。何か理由をでっちあげ、これを丁重に相手に返して、こういった理由があるのでと謝って、何とか父を説得してみようと思う。だから、ハルキについて来てもらえるとありがたいのだが……」

 

 ダクネスがそう言うが、俺としては一度お見合いを受けるべきだと思う。そして、そのまま寿退社すれば、親御さんも安心してくれるだろう。だが、ダクネスがいなくなった俺達のパーティーはどうなる?この間の蛙討伐の時のようなことになるかもしれない。攻撃が当たらない点に目を瞑れば、ダクネスという壁役の有無は大きい。……これは究極の2択だな。さて、どうするか……いや、待てよ?

 

「なあダクネス。このお見合い、受けてみたらどうだ?勿論、ただ受けるんじゃなく、家の名に傷がつかない程度にこのお見合いをぶち壊して、相手から断るように持っていくんだ」

「……詳しく」

 

 俺の提案に、ダクネスが食いついた。

 

「仮に今回の見合いを断ったとしても、親御さんが次のお見合い話を持ってくるかもしれない。その度にダクネスが断り続ければ、そのうち業を煮やして強硬手段にでるかもしれないだろ?そこで、今回のお見合い話をぶち壊せば、親御さんも次に持ってくる見合いの話は慎重になる筈。それに、この話を蹴ってもあの領主が無理難題を吹っかけてくるかもしれない。だったらお見合いを受けるべきだと思うんだが……どうだ?」

 

 俺の提案に、ダクネスがサムズアップで答える。

 

「それだ!それでいこう!それが上手くいけば、もう見合い話が持ち上がる度に、一々父を張り倒しに行かなくて済む!」

 

 親御さんのためにもこいつを寿退社させるべきじゃないだろうか。

 

「……兄さん、親御さんのためにもここは……」

「言うな」

 

 そして。

 

「ほ、本当に?本当にいいのかララティーナ!本当に、本当に見合いを前向きに考えてくれるのか!?」

「本当ですお父様。ララティーナは此度、このお見合いを受けようかと思いますわ」

 

 場所は変わり、街の中央通りに位置するダスティネス邸。その屋敷の中で、ダクネスの親父さんはダクネスの手を握り、興奮して言ってきた。

 しっかし似合わん。普段の姿を知っているせいで、令嬢として振る舞っているダクネスの言動に笑いを堪えるのが精いっぱいだ。

 

「おや。ララティーナ、ハルキ君を連れて戻ってきたのは何故かな?」

 

 親父さんはダクネスの言葉にうんうんと頷くと、後ろにいる俺と目が合った。

 

「今回のお見合いが成功した暁には、身分の違い等から、もうララティーナお嬢様に会うことはできません。ですので、仲間を任せられる相手か拝見するべく、代表として自分が参りました」

 

 俺はダクネスに促されて1歩前に出て、そんな台詞を言う。

 そんな俺を見た親父さんは、顎に手をあてて何か考えると、ついてこいと手招きしてきた。俺は親父さんの後に従い、部屋の隅に移動する。

 

「……ハルキ君。ララティーナの仲間である君に、私から1つ依頼をしたい」

「何でしょうか?」

「ララティーナはああ言っているが、娘が何か粗相をすると、私の父親の勘が告げている。だから君には、娘のフォローをしてもらいたい。勿論、報酬は相応の物を用意しよう」

「お任せください。全てはお嬢様のため、そしてダスティネス家のため」

「うむ。頼んだぞ」

 

 俺は親父さんと手を組むことにした。すまん、ダクネス。これも全て、お前の幸せのためだ。

 

 

 

 

 ──屋敷玄関の前に使用人達がズラリと並ぶ中、ダクネスと親父さんの両名が玄関前の真ん中に立つ。

 執事服に着替えた俺は、ダクネスの隣に控えるように立ち、見合い相手の到着を待っていた。

 

「しかし……。お前が見合いを受けてくれるなんて、本当に嬉しいよ……。アルダープから話を持ち掛けられた時は何事かと思ったが、聞けば、お前は断らない筈だと言う。アルダープはともかくとして、息子のバルター殿は良い男だ。幸せになるんだぞ、ララティーナ」

 

 ダクネスへ、にこやかに笑いかける親父さん。

 だがそれに、ダクネスはきっぱりと。

 

「嫌ですわお父様。ララティーナは、見合いを前向きに考えると言っただけです。……そして考えた結果、やはり嫁入りなどまだ早いとの結論に達しました。もう今更遅い!見合いを受けるとは言ったが、結婚するとは言っていない!ぶち壊してやる。見合いなんて、ぶち壊してやるぞ!フハハハハハ!」

 

 演技の必要はなくなったとばかりに、ダクネスが本性を現した!

 この馬鹿(へんたい)、肝心なことを忘れてやがる!

 

「はしたない言葉遣いはお止めください、お嬢様。先方に嫌われてしまいますよ」

 

 俺の言葉に、ダクネスと親父さんがハッとこちらを見る。

 そして、発言の真意を汲み取ったダクネスは怒りで顔をしかめ、親父さんは良いぞと親指を立てる。

 

「ハルキ、どういうつもりだ!さては、裏切るつもりか!」

「裏切るも何も、今の自分はダスティネス家の臨時執事。お嬢様が幸せになられることが、1番の望みです」

 

 そう言った瞬間、ダクネスに襟首を掴まれた。顔が赤くなりはじめたダクネスが、恨めしそうに俺を睨んでいる、そんな時だ。

 玄関の扉が開き、そこからあの写真の男が現れる。周りにはお付きの者を連れて。

 ダクネスが、先手必勝とばかりに、男の方に向かって歩きながら言い放つ。

 

「よく来たな。お前が私の見合い相手か!我が名はダスティネス・フォード・ララティーナ。私のことは」

「お嬢様!足元にお気を付けて!」

 

 俺はダクネスのスカートの端を踏み、床と熱烈なキスをさせた。

 

「手助けをしてくれるんじゃなかったのか!?」

「『家の名に傷がつかない程度に』ってのを忘れてただろ」

 

 俺がダクネスの暴走を止めた後。

 怪我をしていないか確認したいと言って、別の部屋に俺とダクネスはいる。見合い相手のほうは、親父さんが相手をして時間を稼いでいる。

 

「悪評が立って嫁の貰い手がなくなれば、心置きなく冒険者稼業を続けられる。勘当させられるのも覚悟の上だ。それでも必死に生きようとクエストをこなし続け、いつしか名が売れ始めた私は、魔王軍の手先に捕らえられ、組み伏せられ……っ!私はそんな人生を送りたい!」

「とうとう言い切ったなお前」

 

 およそ親父さんには言えない願望を口にしたお嬢様は、更に続ける。

 

「大体、ああいう男は私の好みではないのだ。父が持ってくる見合いには、大概碌な男がいない」

「内面を知らないから何とも言えないが、中々の優良物件じゃないか。親父さんもああ言っていたんだし」

 

 その言葉に。ダクネスはあの男の説明を始めた。

 

「あの男の名はアレクセイ・バーネス・バルター。領主の息子とは思えないできの、住民達の評判も良い爽やかな男だ。恵まれない人々に配給を行い、父親の悪政によく進言をしては、軌道修正させているそうだ。人柄も良く。誰に対しても怒らず、家臣が失敗しても決して叱らず、なぜ失敗したのかを一緒に考えようと持ちかける変わった奴だ。そして非常に努力家であり、民のために知識をつけようと、日々勉学に励んでいるらしい。更に最年少で騎士に叙勲されるほどの剣の腕前も持つ。まさに完璧を絵にかいたような男だ」

 

 ……うん。

 

「凄く良い奴じゃないか」

「あんな男のどこが良いんだ!?貴族なら貴族らしく、常に下卑た笑みを浮かべていろ!対面した時の、私を見るあの曇りなき真っ直ぐな視線はなんだ!もっとこう……よく風呂上りで薄着の私にハルキが向けてくる、舐めまわす様ないやらしい視線で見られないのか!」

「そんな目で見て無い!風邪ひかないか心配しているだけだ!」

 

 無罪を訴える俺に、ダクネスは尚も続ける。

 

「部下が失敗しても怒らない?馬鹿が!失敗したメイドに、お仕置きと称してアレコレやるのは貴族の嗜みだろうか!」

「お前は今すぐ全世界の貴族に土下座しろ。特に親父さんには念入りに土下座しろ」

 

 だがダクネスは、俺のツッコミなど気にせず、いよいよ我慢ならないと言った風に拳を握って力説した。

 

「そもそも私の好みは、あの様な出来る男ではないのだ!外見はパッとせず、体型は細くても太くてもいい。私が一途に思っているのに、相手を思いやる言動で他の女性を誑かすような、質の悪いのがいいな。年中発情してそうな、しかしそれを表に出さないむっつりスケベであることは必須条件だ!借金があればもっと良いな!そして借金を完済すべく体に鞭を打って働き続けて完済し、気が緩んだことで箍が外れ、私をその場で押し倒して1晩中食い荒らし、夜明けとともにこう言うのだ。『あー……スッキリした』……んんっ……!!」

 

 

 

 

 

「──では、改めて自己紹介をさせて頂きます。アレクセイ・バーネス・バルターです。アレクセイ家の長男で、父の領地経営を手伝っております」

 

 落ち着いたダクネスが席につき、お見合いは始まった。相手のバルターは写真通りのイケメンで、服の上からも鍛えているのが分かるくらいに筋肉がつき、程よく締まっていた。

 そんなバルターは穏やかな笑みを浮かべ、自己紹介を終えると一礼する。

 ダクネスの隣には、俺が不自然なくらい近くに立つ。

 バルターはそれを少し気にしたようだが、親父さんが何も言わなかったので口には出さなかった。

 

「私はダスティネ・フォード・ララティーナ。当家の細かい紹介は省きますわね。成り上がり者の領主の息子でも知っていてとうぜ、んんんんっ!?」

 

 いきなり失礼なことを言いかけたダクネスの首を、背後からフリーズで冷やす。

 

「ど、どうされました?」

「い、いえ。その、バルター様のお顔を見ていたら気分が悪、くうーーっ!」

 

 場所を変えて耳の裏を冷やす。

 

「お嬢様は、今朝からバルター様とお会いになるのを楽しみにしておりまして、少々舞い上がっておられるのです」

「そ、そういえば顔が赤いですね……。い、いやお恥ずかしい……」

 

 言いながら俺は顔を少し近づけ、ダクネスだけに聞こえる小さな声で囁いた。

 

「……おいお嬢様。これ以上いらんことを言ったら、もっときついのいくぞ」

「……ご、ご褒美だ……」

 

 当家のお嬢様は、何時だって、ブレない。

 そして場所は移り、屋敷の庭。これ以上父親がいれは邪魔だろうと言って親父さんは席を外し、俺達は庭に出ていた。そして去り際、親父さんは俺に『頼む』と囁いていった。

 広い庭には大きな池があり、今の季節は冬だというのに、品種改良でもされた高級種なのか、色とりどりの花が咲き乱れていた。

 

「ララティーナ様は、ご趣味は何を?」

 

 バルターが、見合い定番の当たり障りのない質問をする。

 

「ゴブリン狩りを少々ぐっ!?」

 

 迂闊なことを口走るダクネスに、横から肘で脇腹を突く。

 と、先ほどから不自然にダクネスに近い俺に、バルターが苦笑しながら小首を傾げた。

 

「……随分と仲がよろしいんですね?」

 

 しまった。俺がダクネスの評判を下げる要因になってどうする。

 見合いに来て、目の前で見合い相手と執事がくっついていれば、面白い訳がないない。

 どう誤魔化そうか考えていると、ダクネスが俺を見てニヤリと笑った。

 何を言うつもりだ……?

 

「ええ。このハルキという執事とは特別仲が良く、毎日一緒におりますの。食事もお風呂も一緒、勿論、夜寝る時も……ううっ……!」

 

 ダクネスの言う通り、俺とダクネスは寝食を共にする仲ではある。但し、冒険者仲間としてな。いやそれよりも、こいつの羞恥心の基準はどうなっているんだ。

 

「…………ええいまどろっこしい!こんな事、いつまでもやっていられるか!」

 

 何を思ったか、ダクネスは着ていたドレスの裾を思いっきり引き裂いた。俺が素早く上着を脱いでダクネスの腰に巻き付ける間、視線を逸らしたバルターにダクネスが大声で。

 

「おい、バルターと言ったな!クラスは騎士なのだから剣は使えるのだろう!私のクラスはクルセイダーだ。今から修練場につき合ってもらおう。そこでお前の素質を見極めてやる。さあ、ついてこい!」

 

 巻き付け終えると、ダクネスが俺をびしりと指さす。

 

「見ろバルター!上着を巻き付けるどさくさに紛れて尻や太股を撫でまわす。貴族たるもの、それくらいやってみせろ!」

 

 撫でまわしていません!ちょっと指先が触れただけです!

すると、バルターはダクネスと向き合い、言った。

 

「……実は、ここには父に押し付けられた今回の見合いを断るためにやって来たんです。……でも、貴女を見て気が変わった。どこにでもいる貴族の令嬢とはわけが違う。流石は王国の懐刀の一人娘だ。豪放にして、それでいて自分の言葉に恥ずかしがる可愛い一面もある。そして物事をハッキリ言える清々しさに、下々の執事に対する、上からではない、同じ様な目線で接するその態度。僕は貴女に興味が湧いた」

 

 そして修練場に移動し、試合開始から30分以上経過──

 

「も、もういいでしょう!もう勝負は見えている!何故諦めないんですか貴女は!」

 

 終始優勢であるはずのバルターが、切羽詰まった声をあげる。

 実力自体はバルターが上で、ダクネスの木刀はバルターに掠りもしない。当然だよな、ダクネスは防御系スキルにスキルポイント全部つぎ込んでるし。

 

「どうした、遠慮などせずどんどん来い!徹底できる強さを見せろ!」

 

 汗にまみれ頬を火照らせながら吠えるダクネスを見て、バルターは木刀を投げ捨てた。

 そのまま両手を上げて降参する。

 

「……参りましたララティーナ様。僕の負けです。技量では勝っていても、心の強さで負けました……。これ以上貴女を打つことはできません。……貴女は、とても強い人だ」

 

 傍から見れば、固い意志を示したダクネスに折れた、ような感じだ。だがダクネスの内面を知っている身としては、素直に喜べない。

 

「なんだ、終わりか。つまらん。……ハルキ!男とはこう戦うものだと、バルターに見せてやれ!」

 

 そう言ったダクネスが、俺の足元に木刀を投げてきた。

 どうやら最近抑えていた性癖に、バルターとの打ち合いで火がついてしまったようだ。

 

「わかったよ。どうせお見合いは失敗だ。それに、あんたはララティーナの悪い噂なんて流さないだろう」

 

 俺は執事としての振舞いをやめ、木刀を片手にダクネスと向かいあう。

 

「よし、こいハルキ!実を言うと、お前とはこうしてやり合ってみたかったのだ!さあこい!初撃はなんだ?拳か?蹴りか?それと」

「『フリーズ』!」

「えっ!?」

 

 ダクネスの頭から爪先を物理的に冷やしてやった。そんな俺を見て、バルターは驚いた。

 

「木刀を握っての試合で、普通は魔法は使わないかと……」

 

 知ったことか。こちとら生き残るためなら手段を選ばない冒険者。武器でも魔法でも駆使して生き延びなきゃ飯が食えない。

 そしてダクネスはとても……

 

「いいぞハルキ!そうだ、男たるものこういう容赦の無さも必要だぞ、バルター!」

 

 嬉しそうに体を震わせていた。

 そして木刀を振り回し、俺に襲い掛かってきた。

 

「どうしたハルキ!なぜ攻撃してこない!さっきのような攻撃で、この私を攻め落としてみせろ!」

 

 勢いは良いが、見当違いの方向を狙ったり、距離感を見誤っていたりと攻撃を避けるのは簡単だ。ただコイツ、当たらないだけで筋力だけは凄い。そのせいか、木刀の風を切る音で恐怖を煽られる。

 

「『スティール』!」

 

 俺はダクネスの木刀を盗み、二刀流で構える。

 

「おいダクネス。1つ賭けでもしないか?俺とこうして戦っているのは、禁欲生活と今回の件で色々溜まってるんだろ?ここは、勝ったほうが相手に1つだけ、何でも言うことを聞かせられるってのはどうだ?」

 

 そう言うと、ダクネスが骨を鳴らして拳を構えて応じる。

 俺とダクネスはジリジリと距離を詰め、そのまま睨み合う。

 

「しっ!」

「くっ!」

 

 先手はダクネス。右で牽制(ジャブ)を放ち、一拍置いて左フック。ジャブは木刀を楯代わりに防ぎ、フックはバックステップで回避する。空を切った拳の高さからして、肝臓を狙っての一撃のようだ!殺意高すぎィ!

 

「ふん!」

「甘い!」

 

 俺は負けじと右の突き、左の払いを繰り出すが、どちらもダクネスに木刀を掴まれた。

 

「私を誰だと思っている?お前の攻撃パターンは熟知している!」

 

 ダクネスは自信満々に言うと、そのまま割り箸感覚で木刀をへし折った。

 俺は刀身の折れた木刀を手放すと、ダクネスの袖と襟首を掴む。

 

「は?」

「貰ったぁ!」

 

 俺は一本背負いでダクネスを投げ飛ばす。ダクネスは受け身をとり、反撃に転じようとするが、それよりも早く。

 

「さあダクネス!抜けられるなら抜けてみろ!」

「くそっ!このっ……!」

 

 俺はダクネスに覆いかぶさるように、縦四方固めを極める。

 ダクネスが俺の背中に手を回して引き剥がそうとするが、無駄な足搔きだ。この技に力づくは通用しない!

 

「どうなされましたララティーナお嬢様?ご自慢の筋肉は冬眠中ですか、ララティーナお嬢様?」

「ララティーナと呼ぶなぁ!」

 

 俺を剥がそうとするダクネスが吠え、俺は剥がされまいと力を籠めていると。

 何かが落ちて割れる音に俺とダクネスは気づき、そちらの方を振り向いてみる。するとそこには──

 

『……』

 

 タイミング()く現れたダクネスの親父さんと、引き連れてきた使用人達が、ぽかんと口を開けて固まっていた。

 

「……ハルキ君」

 

 無表情になっているダクネスの親父さんに見下ろされている俺は、現状を振り返ってみる。

 修練場には、見合い相手のバルター。そいつの目の前で、俺はダクネスを押し倒している。……大体わかった!

 

「これはどういうことかね?」

 

 俺はダクネスから素早く離れ、流れるような動作で誠心誠意の籠った土下座を披露した。

 その後、俺とダクネス、バルターの3人がかりで事の経緯を話して親父さんを説得し、何とか事なきを得た。

 ついでに、俺の素性もバルターに明かされた。もっとも、バルターは俺が執事じゃないことを最初から気づいていたらしい。

 当のダクネスは、修練場に常備しているポーションで怪我を治し、別室で着替えている。応接間に通された俺とバルターは、ダクネスが来るのを待っている。

 

「……娘は、元々人付き合いが苦手でなあ……。それは、身内の者に対してもそうだった。ハルキ君、付き合いの長い君はそうではないかもしれないが、最近パーティーを組んだという弟君達に、あまり自分の事を話していなかったんじゃないか?」

「ええ」

 

 基本的に無口だし、口を開けばろくでもない発言ばっかりだったけど。

 

「娘は、クルセイダーになっても1人きりでなあ……。毎日エリス教の教会に通いつめ、冒険者仲間ができますようにと、エリス様にお願いしていたのだよ。そんなある日、教会からの帰り娘が、初めて仲間ができた、友達ができた、盗賊の女の子と仲間になったと喜んで……。それから1年くらい経った頃か、傭兵の男性、つまり君が仲間に加わったと言ったのは」

 

 盗賊の女の子とは、クリスのことだろう。流石は女神エリス。うちの食っちゃ寝ばっかりの駄女神とは大違いだ。

 

「うちは、家内を早くに亡くしてなあ……。それから、新しい妻を娶らず男手で、甘やかしながらもとにかく自由に育ててきた。……それが、悪かったんだろうなあ……」

 

 しんみりと言う親父さん。

 親父さんが言っているのは、ダクネスの性癖のことだろう。

 自由に育て過ぎたから、束縛されたがる娘に育ったんじゃないかと。

 いや、あれは生まれついての性癖だと思いますよ。

 

「ララティーナ様は、男勝りですが素晴らしい女性だと思いますよ?ハルキ君がいなければ、僕は本気でララティーナ様を妻にもらいたいと思っています」

 

 バルターは何を言っているんだ。

 ダクネスはただの仲間だ。

 アレな言動に目をつむれば、どちらかと言えば好みではある。

 だが、俺とあいつには身分の違いがあるし、あの性癖に死ぬまで付き合うのは骨が折れる。

 そんなわけで、まともな男に大事にされるというなら俺は全力で相手を応援する。そう、目の前にいるバルターとか。

 

「んー……ちょっと何言ってるか分かんないです」

 

 俺の言葉を聞き、バルターは、まるで隠さなくてもいいとでも言うかの様に。

 

「いいんだ。君の方が、ララティーナ様を幸せにできるだろう。君達の信頼関係はしっかり見せてもらったよ。君達は、お互いに愛し合っているんだろう?」

 

 それはない。ダクネスとは愛し合っているとか、そんな関係じゃない。

 俺はバルターの言葉に首を横に振り、全力で否定する。

 

「ふふ、ははははっ!」

 

 親父さんが突然笑い出した。

 これ以上なにかあるのは勘弁してくれ。

 

「ハルキ君、これからも娘をよろしく頼むよ。アレが馬鹿なことをしでかさない様、見張ってくれ。頼む」

「は……はい」

 

 どうせ、冒険者仲間としてだろう。それなら別に構わない、今までとやることは同じだからな。

 

 

 

 

「まったく。これでは、素直に最初から見合いを断っておいた方が良かったではないか」

「それはこっちの台詞だ。領主から俺達を庇ってくれたのは助かったけど、これからは何かあったらまず俺達を頼れ。皆、お前が帰ってくるまで心配していたんだぞ?」

「よく言う。父と結託して、積極的に結婚させようとしていたではないか」

 

 それはそれ、これはこれです。だから頬を抓るな。凄く痛い。

 ダクネスは深々と溜息と吐くと、ハッと何かに気が付いた様に手を離した。

 

「そういえばハルキ!先ほどの勝負だが、お前に押し倒された私が負けということでいいのか?」

「あー……多分、そうなるな」

「で、ではこの私にどんな要求をするつもりなんだ!?教えてくれ!」

 

 ダクネスは言いながら、頬を染めて期待に満ちた眼差しで俺を見つめる。

 そういえばそんな約束したな。何をさせようか。

 俺は顎に手を当てて考えながら歩き、ダクネスがチラチラと俺を見てくる、そんな屋敷までの道中で。

 

「ハルキさん!ダクネスさん!ここにいたんですか!」

 

 ゆんゆんの声が聞こえたので、思わず振り返る。ゆんゆんは俺とダクネスの方に全力で駆け寄って来た。

 

「どうしたゆんゆん、そんなに慌てて」

「大変です!例の検察官のセナさんが、屋敷に向かっているんです!今度こそカズマさんを逮捕するとか息巻いて!」

 

 青ざめた表情で、慌てながら言ってきた。




ラストに至る経緯
和真達、ダクネスと陽樹が心配なので屋敷で待機→ゆんゆん、気分転換に街の散策→途中、セナを発見→ゆんゆん、屋敷に全力で帰り和真達に報告し、陽樹とダクネスを探しに再び街へ
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