この兄弟に祝福あれ   作:大豆万歳

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これにて第2期前半終了





ララティーナの水着FOOOOOOOO!!!!


第14話

「キールのダンジョンに謎のモンスター?」

「うん。それで、最後に潜った俺達が何かやったんじゃないかって来たみたい。で、心当たりが無い、何でもかんでも俺達のせいにしないでくれって言ったら、帰っていったよ」

「そうか」

 

 念の為にと前置きし、和真が皆に心当たりがないかを再度訊ねる。まず、爆裂魔法絡みでないなら自分は違う、とめぐみんは答える。日頃から問題を起こしていないダクネスと、上級魔法の取得のために街を離れていたゆんゆんは除外。俺は基本的に街の外には出ないので違う。そして残るは……と、全員の視線がアクアに集中する。

 

「ちょっと、皆で私を疑い過ぎよ?寧ろ、あのダンジョンに関しては、私のおかげでモンスターは寄り付かない筈よ」

 

 『私のおかげ』。その一言に反応した和真が、詳しい説明を求めた。するとアクアは得意げに。

 

「ほら、あのダンジョンの奥のキールがいた部屋。あそこでキールを浄化する時の魔法陣を作る時に気合いを入れたのよ。本気に本気を重ねた、物凄い結界をね。だから、魔法陣は今もあの部屋に残って機能を発揮しているわ」

 

 と、言った。

 それを聞き、和真が小刻みに震える。

 

「……もう1回言ってみろ」

「な、何よ急に。言った通りよ。あそこには、私が本気で作った魔法陣が、今もその力を発揮しながらモンスターを寄せ付けないように」

「またお前かああああー!!」

 

 和真が頭を抱えて絶叫した。

 

 

 

 

「……なるほど。確かに謎のモンスターだ」

「キールの部屋は何処にあった?」

「ここ、ダンジョンの一番奥にあった」

 

 ダンジョンに着いた俺達は、入口から次々と現れるモンスターを遠巻きに観察する。

 大きさは膝の高さほど。白黒の仮面を被った人形が、二足歩行をしていた。

 モンスターの観察を続けていると、後ろから多数の冒険者を引き連れたセナが現れた。

 なぜ来たのかを問われた和真は、モンスターを放置するわけにはいかないと冒険者らしいことを口にして話を合わせた。

 

「そういうことでしたら、サトウさんもこちらをどうぞ。原因はまだ掴めておりませんが、何者かがモンスターを召喚しているという線が濃厚です。ですので、召喚者を倒し、魔法陣にこれを張ってください。強力な封印の魔法が込められた札です。召喚の魔法陣の中には、術者を倒してもモンスターを呼び続ける物がありますので」

 

 セナが和真に札を手渡し、貴方もよければと俺にも札を手渡している横では──

 

「何故かしら。私、この人形の仮面が生理的に受け付けられないわ。これを見ていると、どうにもムカムカしてくるんですけど」

 

 アクアが足元にあった小石を拾い、投げようと振りかぶる。

 それまではこちらに敵意を向けなかったモンスターは、石を投げようとするアクアへと、突如猛ダッシュして膝にしがみつく。

 

「あら?何かしら。甘えてるのかしら。何だか見てるとムカムカしてくる仮面だけど、こうして甘えられると段々と可愛く見えて……」

 

 瞬間、モンスターが大きな爆発音と共に跡形もなく消し飛んだ。

 後には、髪型がアフロになったアクアが地に倒れ伏していた。

 

「……このように、動いている者に取り付き爆発するという習性を持っていまして。冒険者ギルドでも対処に困っている状態なんです」

「それは非常に厄介だな」

「2人ともなんでそんなに冷静なのよ!」

 

 アクアが復活して半泣き状態になった。

 しかし困った。地上でこれだけの数いるのなら、発生源であるダンジョン内部はもっと凄いことになっているだろう。そんな中を、どうやって突破すればいいのか。

 ──と、俺達が悩んでいる最中、ダクネスが1歩前に出る。

 モンスターはダクネスに反応し、ダクネスの肩や脚にしがみつく。やがて人形は、アクアの時と同じように盛大に爆発──

 

「うむ。これくらいなら問題ない」

 

 したのだが、ダクネスには傷一つついていなかった。

 

「私が露払いのために前に出よう。カズマとハルキは私の後ろをついて来い」

 

 ダクネスが、そんなイケメンな台詞を吐いた。

 と、めぐみんが和真の袖を引き、自分はここで待機すると言った。狭いダンジョンで爆裂魔法は使えないから、しょうがないか。その代わり、大物に追われた際の切り札として何時でも魔法が撃てるよう準備してもらうことになった。ゆんゆんもここで待機し、俺達のうち漏らしを迎撃すると言った。

 そして、全ての元凶であるアクアは──

 

「それじゃあ、私もここで待ってるからね。ダンジョンへ降りる前に支援魔法をかけるから、3人とも気を付けて」

「お前も来い」

「嫌よ!ダンジョンはもう嫌なのよ!ダンジョンに入ったら、きっとまた置いて行かれるわ!それで、大量のアンデッドに追いかけられるのよ!」

 

 耳を塞いでしゃがみ、首を振って全力で嫌がるアクア。以前ダンジョンに潜ったのがよっぽどトラウマになってしまったようだ。

 しょうがないと和真はため息を吐くと、俺とダクネスの肩に手を置いた。

 

「……わかった。じゃあ、兄さんとダクネスに任せた」

「お前は来ないのか」

「俺も出来る事なら同行したいけど、この馬鹿が待機しているのをいいことにサボらないように見張ってるから。それに、貧弱な俺は万が一張り付かれたらネギトロになっちゃうだろうし」

 

 後者が本音だろうと指摘すると、和真は無言で顔を逸らした。

 

「じゃ、じゃあ、そういうことで。うち漏らしを仕留めるための武器を何か……」

「そこらの小石でも投げてろ」

 

 掌を返したようにモンスターを倒すなどと言う和真を冷たくあしらい、俺とダクネスはダンジョンに突入した。

 人数は俺とダクネスを含め、男女混合で20名ほど。先頭を突っ切るダクネスの後ろで俺はランタンを高く掲げてついていく。

 

「ハハハハハッ!当たる!当たるぞ!見ろハルキ!こいつらは私の剣でもちゃんと当たる!」

 

 俺の前を行くダクネスが、嬉々として剣を振り回しながら、攻撃を避けようともしない人形をバッサバッサと斬り伏せていた。

 当然ながら自爆による反撃を食らうのだが、ダクネスは頬と鎧を煤だらけにしながらも楽しそうに突き進んでいく。

 というか、今まで剣が当たらないことを少しだけ気にしていたのか。それなら、《大剣》スキルなり武器系のスキルなり取得すれば……いや、俺には無理だ。

 

『楯役として専念してくれるなら武器系のスキルを取らなくても問題ない』

 

 ──って、昔初めてパーティーを組んだ頃に口にしたからなぁ。

 しかし、連続した爆発を受けたにも関わらずダンジョンは崩れる様な素振りを見せない。名うてのリッチーお手製なだけあるな。

 

「お、おおい、ちょっと待ってくれ。もう少しゆっくり……」

 

 後ろから、他の冒険者の声が聞こえた。

 ふと振り返ると、ダクネスが闇雲に突っ込むおかげで後続と距離が空いていた。

 そして、ダンジョンの通路の横合いからは、次々と例のモンスターが飛び出して来ている。

 

「あああ、張り付かれた!おい誰か、コイツを剝がしてくれ!」

「おい馬鹿やめろ!こっち来んな!」

 

 あのモンスターの爆発はかなりのものだ。

 だが、ダクネスのような硬さやアクアの様な神具がなくとも、鎧に身を固めた冒険者なら死ぬことはないだろう。

 というわけで……!

 

「ダクネスその調子だ!その調子でそっちを真っ直ぐ!ガンガンいこうぜ!」

「任せろ!ああっ、何だこの高揚感は!これが、これがクルセイダーの本来するべき役割ということか!」

 

 興奮気味のダクネスに続いて突き進み、ダンジョンの奥の通路の手前まで俺達は到着した。和真曰く、この奥にキールのいた部屋があるらしい。

 しかし、その部屋の前には胡坐をかいて、地面の土をこね、鼻歌交じりに人形を作る人影がある。

 ダンジョンには場違いな黒いタキシードに身を包み、白い手袋を付けたまま人形を作るそいつは、俺達を襲った人形とまったく同じデザインの仮面を被っていた。ということは、あいつがモンスター達の主か。

 人形作りに夢中なのか、ランタンを持っている俺達に全く気付いていないようだ。このまま潜伏スキルで通り過ぎることができればいいんだが、それで通過できそうな相手ではないだろう。

 

「そこで何をしている。その人形を作っているという事は、モンスター騒ぎの元凶はお前だな?」

 

 悩んでいる俺の横を通り過ぎて、ダクネスが大剣を抜いて構える。

 ダクネスの言葉でようやく気付いたのか、仮面の男はこちらを向き、ゆっくりと立ち上がる。

 

「……ほう、よもやここまで辿り着くとは。我がダンジョンへようこそ冒険者よ!我輩こそが諸悪の根源にして元凶!魔王軍の幹部の1人にして、悪魔達を率いる地獄の公爵!この世の全てを見通す大悪魔、バニルである!」

 

 とんでもない大物と遭遇してしまった!

 いや、冷静になって考えれば、それらしい兆候はあった。

 例えば蛙。あれは何かに怯えるように這い出てきたとセナは言っていた。その『何か』というのは、おそらく目の前にいるバニルのことだろう。

 ベルディアの時も、弱いモンスターが怯えて逃げだし、高難易度のクエストしか残っていなかった。

 

「おいダクネス、引き返すぞ。こいつは俺達ではどうにもできない!」

「女神エリスに仕える者が、魔王軍の幹部、それも悪魔を前にして引き下がれるか!」

 

 この石頭は!ここで頑固ぶりを発揮してどうする!

 そんなダクネスに、バニルは楽しそうに口元を歪めて言った。

 

「ほう。この我輩を倒すと?魔王より強いかもしれないバニルさんと評判の、この我輩を?しかし……そこの男と2人きりのダンジョンで、クルセイダーらしい活躍ができて喜びのあまり浮ついている娘よ。既知とはいえ、ダンジョンでは何が起こるかわからぬものだ。帰りが遅い汝のことが心配で、最近寝不足気味なそこの男のように、ダンジョンでは警戒を怠らないことだ」

「ふふふ、2人きり……!いいかハルキ!奴の言うことは嘘っぱちだ!この私が、そのような心持ちでダンジョンに潜るわけないだろう!だが心配をかけてしまったのは本当にすまなかった!」

「わかったから落ち着け」

 

 剣の切っ先をバニルに向け、顔を真っ赤にしてダクネスが顔を近づけてくる。

 興奮するダクネスの様子が面白いのか、バニルは笑い声をあげると。

 

「まあ落ち着くがいい。魔王軍の幹部とはいっても、城の結界の維持を任されているだけの、いわばなんちゃって幹部だ。我輩がこの地に来たのは、ベルディアを倒した人間の調査をせよと、魔王に命じられたからだ」

 

 俺とダクネスの脳裏に、自分の首を冒険者達の玩具にされたベルディアの姿が浮かんだ。

 

「そして我輩は、世間で言うとこの悪魔族。我らの最高の食事は、汝ら人間の放つ悪感情だ。汝ら人間が1人生まれる度、我らは飲めや歌えやの宴を繰り広げるだろう」

「本当か?お前の生み出した人形がダンジョンから出るせいで、俺達人間は大変困っているんだが」

「なんと。我輩はこやつらでダンジョンのモンスターを駆除していたのだが。そうか、ダンジョンの外に溢れ出しているということは、もうこのダンジョン内にモンスターはおらぬ、ということか。ならば、次の計画に移行するとしよう」

「……何を企んでいる?」

 

 俺の質問に、バニルは人形を土に戻しながら。

 

「企むとは失敬な。髪型を変えた鎧娘のドレス姿に、内心ときめいていた男よ」

「ちょっと待て!その場で見てきたような言い方をするんだ。……お前もモジモジするな!」

 

 隣で、ちょっとだけ頬を染めてチラチラ見てくるダクネスが鬱陶しい。

 

「我輩にはな、とびきりの破滅願望があるのだ。何時から考えたか思い出せぬほど、遠い昔からな。それは、とびきりの悪感情を食した後、華々しく滅び去りたいというものだ。そして、ある時ふと思いついたのだ」

 

 そしてバニルは熱く語りだした。

 ダンジョンを手にし、各部屋に部下の悪魔を待機させ、更に苛烈な罠を仕掛ける。そこに挑むのは歴戦の冒険者達。冒険者達が挑戦を繰り返し、いつか自分のいるダンジョン最奥にたどり着く者が現れる。そしてバニルは冒険者との激闘の末に倒され、背後に宝箱が現れる。冒険者達がそれを開けると中には『スカ』と書かれた紙切れ。それを見て呆然とする冒険者を見ながら、バニルは滅びたい。……だそうだ。

 

「どうだ。素晴らしいと思わぬか?」

「挑戦した冒険者達が可哀そうだから、止めてくれ。本気で」

「ハルキの言う通りだ」

 

 俺とダクネスにフッと笑い、バニルが言った。

 

「我輩の友人は、この地で店を経営していてな。そこで働かせてもらい金を貯め、それを元に、友人の力で巨大ダンジョンを造ってもらうつもりだったのだ。だが、このダンジョンの前を通りがかった際に主がいないことに気がついてな。もうこのダンジョンで良いかと考え直し、居座ったのだ」

「……まあ、あんたの目的は分かった。これ以上あの人形を作らないなら俺から言うことは特にない。だから、ちょっとどいてくれ。後ろの部屋の魔法陣に用があるんだ。そこの部屋にある魔法陣を消しに来たんだよ」

 

 そう言って魔法陣のある部屋に向かおうと1歩踏み出した瞬間。

 

「小僧。なぜ我輩の後ろの部屋に魔法陣があることを知っている?しかもご親切に消してくれるとは……ちょっと失礼」

 

 バニルは俺の発言が気になったのか、左の瞳を赤く輝かせて俺を見つめる。……って、しまった!魔法陣のことを口にしたのは不味かった!

 

「…………フッ」

 

 俺が止める間もなく、何かを見通したらしいバニルが、乾いた笑い声をあげた。

 

「フハハハハハッ!何という事だ!汝らの仲間のプリーストが、この迷惑な魔法陣を作りおったのか!大悪魔たる我輩ですら立ち入れぬ魔法陣を作るとは、そのプリーストはもしや……!」

 

 ヤバい。こいつを刺激してしまったようだ!

 

「見える、見えるぞ!魔法陣を張ったプリーストと冒険者の小僧が取っ組み合いをしているのが見えるわ!」

 

 大方、『やることがない』とか言ってサボろうとしたアクアを和真が注意して、そうなったんだろう。出来る事なら今すぐ引き返し、和真とアクアの襟首をひっつかんでここまで連れてきてやりたい。

 

「さあ、その男との賭けに負け、どんな要求をされるのか気になり、先ほどから色々と持て余し、期待し、ずっとモジモジしている娘よ」

「持て余してもいないし期待もしていないしモジモジもしていない!適当なことを言うな!言うなあああ!」

「そして、この件が終わったらこの娘にどんな要求をしてやろうかソワソワしている男よ」

「ソワソワなんてしていない!していない!大事なことだからもう1度言う、ソワソワなんてしていない!」

「そこを通してもらおうか!なあに、『人間は殺さぬ』が鉄則の我輩だ。ああ、人間は殺さぬとも。……人間(・・)はな!こんな迷惑な魔法陣を作りおって!1発きついの食らわしてくれるわ!」

 

 こいつ、見通す悪魔とか言ってたな。まさか、アクアの正体が女神であると気づいたのか!

 と、ダクネスが、こちらに距離を詰めるバニルに大剣を突きつけた。

 

「アクアに危害を加えると言うのなら、引くわけにはいかない!」

「石を通り越してアダマンタイト頭な娘よ。見通す悪魔が保証しよう。今すぐその男と帰れば、2人共誰にも邪魔されることなく、お互いが期待する要求を果たすことができるだろう」

「いいかダクネス、甘言に惑わされるなよ」

「誰が惑わされるか!ハルキこそ、時と場所を考えろ!」

 

 俺とダクネスの様子が面白いのか、バニルは手を後ろの部屋に向けると。

 

「お互いに異性として興味がある癖に、身分の違いやらパーティーでの人間関係やらを理由に一線を超えられぬ小心者どもよ!なんなら我輩を通した後、魔法陣の張られた部屋で『ご休憩』でもして帰ればよい!」

 

 バニルの一言に、俺とダクネスはキレた。

 

「ふざけんな!その部屋はな、キールと貴族のお嬢様のお墓なんだ!」

「そこでそのようなことができるかあ!」

「……つまり、ここでなければ『ご休憩』しても良いのだな?」

 

 バニルの発言に、俺達は無言で固まる。

 

「「…………ハッ!?」」

 

 我に返ってバニルを見ると、バニルは無言でニヤニヤと笑って俺とダクネスを交互に見ていた。

 これ以上は俺達の精神的にも良くない。早急にこいつを倒そう!

 先手を取ったのはダクネス。剣を構えて何度も斬りかかるが、バニルはそれをヒョイヒョイ躱し、愉悦そうに笑い声をあげる。

 

「なんだ、威勢の割には攻撃がスカばかりではないか!……む?あの男はどこへ消えた?汝よりも、あやつを警戒すべしと我輩の第六感が告げておるのだが。確かに気配はある、だが何処へ……?」

 

 ダクネスが斬りかかると同時に俺はランタンを地面に置き、壁に張り付いて潜伏スキルで姿を隠していた。

 

「何処を見ている!お前の相手は私だ!」

 

 ダクネスが横薙ぎに剣を振るうと、バニルは大きく後ろに飛びながらダクネスを煽る。

 俺が待ち構えていた所に、背を向けて。

 潜伏スキルを解除すると、バニルの左肩を掴み、逆手に持ったダガーをバニルの後頭部に突き刺す!

 

「ガッ!?」

 

 ダガーを引き抜くと、バニルは膝をつき、タキシードと共に体が砂のように崩れていった。

 

「……見事、だ……」

 

 後には、砂と仮面だけが残されていた。

 

「……まさか。私達がこいつを」

「待った。それ以上言うと碌なことにならない。取り敢えず、奥の魔法陣を消そう」

「そうだな」

 

 ~清掃中~

 

「……これで消えたか」

「ああ。部屋の隅まで綺麗にな」

 

 俺とダクネスはランタンで部屋全体を照らし、魔法陣が消えていることを確認する。

 

「この封印の札。どうしようか?」

「そこはセナと相談して決めよう。もしかしたら、このまま貰えるかもしれないな」

「だといいな」

 

 と言い、俺とダクネスが部屋を出ると、足元から。

 

「お勤めご苦労!」

「うわっ!?」

「ハルキ!?」

 

 唐突に声が聞こえ、続いて何かが俺の顔に飛びつき、張り付いた。

 

 

 

 

「討ち取ったとでも思ったか?残念、仮面(こっち)が本体でした!」

 

 仮面の張り付いたハルキの口から、そんな言葉が飛び出す。いつもと違う口調、まさか、バニルに乗っ取られようとしているのか?なんとうらや、非常にマズい展開なんだ!クルセイダーでありながら、仲間を庇えないとは!

 

「おっと、汝らの悪感情。大変に美味で(ダクネス!封印の札を拾って貼り付けてくれ!)ぬう、我が支配力に抗うとは、何という精神力の持ち主。では、ちょいと出力を上げて(あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!)」

 

 バニルに乗っ取られまいと、ハルキは壁に向かって拳を叩き込む。しかし、所々でバニルの支配力が勝っているのか、拳が壁に当たる直前で動きが止まった。

 なんて見ている場合か!私は気持ちを切り替え、封印の札を探す。そしてそれは、バニルの残骸である砂の上に乗っていた。恐らくバニルが張り付いた時、衝撃で落としたのだろう。

 札を拾って砂を払い、私はハルキにこちらを向かせて、仮面に札を貼り付ける。

 

「(よし、このまま俺ごとバニルを持っていくぞ!)」

「ああ!」

 

 ハルキと共に、私は来た道を逆走して地上に向かう。途中で他の冒険者とすれ違ったり、バニルがハルキの肉体を乗っ取るべく力を強めて足を止めたりした。

 

「ハルキ、もう直ぐ地上だ!頑張れ!」

「(おう!)」

 

 もう直ぐ地上ということは、自分が浄化されることだと察知したバニルが、ハルキの脚を1歩後ろに下げようと試みる。そうはさせまいと、私はハルキを担ぎ、そのまま階段を駆け上がる。そして、地上に飛び出すと──

 

「『セイクリッド・エクソシズム』!」

「びゃあああああああ!」

 

 私達の体が白い炎に包まれ、バニルが悲鳴を上げた。そして私の肩から転げ落ち、そのままゴロゴロとのたうち回る。

 一部始終を目撃したカズマがアクアに抗議するが、人間に無害な魔法だから大丈夫だとアクアは答えた。

 

「アクア!ハルキは今、魔王軍の幹部に体を乗っ取られそうになっている!こいつは悪魔だ!お前の得意分野だろう!」

 

 魔王軍の幹部という単語に、皆がざわめく。

 アクアは恐る恐るハルキのほうに少し近づく。

 そして手を仰ぐと、臭そうに顔を顰め、鼻を押さえる。

 

「臭っ!ええ間違いないわ、このゲロ以下の臭いは悪魔の臭いよ!ハルキったらエンガチョね!」

 

 言われている当のバニルは、フラフラと立ち上がりアクアを見据える。額を見れば、封印の札が削れ落ちていた!さっきのたうち回ったのはこのためか!そして仮面に手をかけ、剝がそうと力を入れるが、仮面は微動だにしない。

 

「小僧!大人しくこの手を離せ!このまま無理矢理剝がせば、汝の顔の皮も剥がれ(知るかぁ!)」

 

 どうやら、バニルはハルキの体を乗っ取るのを諦めていないようだ。冷静に考えてみれば、ハルキの体はそこそこ優良物件なのだろう。悪魔の弱点である光に属する魔法への耐性は低いが、それを補う機動力をハルキは有している。加えて、何処に持っているのかわからないほどの大量の武器を持ち歩き、距離を問わず戦うことができる。ここから逃げ出し、遠距離からアクアを狙い撃つなんてことをバニルは考えているのだろう。

 

「やめろ!やめるのだ!これ以上は」

 

 ハルキが僅差で勝利したのか、仮面が徐々に剥がされていく。

 

「(ぬおりゃあああ)あああああ!」

 

 そして、聞こえてはいけない音と共に、仮面は剥ぎ取られた。それに伴って小指の爪ほどの皮膚が額から剝がれ、出血していた。ハルキに捕まっているバニルは、再びハルキを乗っ取ろうと抵抗しているが、ハルキも必死でこれを掴んでいる。

 

「おいバニル。お前、過去を見通せるらしいな?」

「如何にも。我輩は見通す悪魔。その者の過去とこれから来るであろう未来を見通すことができるぞ」

「……なら、1つ俺から頼みがある」

 

 ハルキの一言に、皆が驚愕に目を見開く。それを気にも留めず、ハルキは続ける。

 

「大悪魔であるこの我輩に頼みとな?だが、物事には対価というものが存在する。汝の願いと、用意している対価は何だ?」

「願いは、俺の弟が魔王軍の手先でないことをこの場で証明すること。対価は、お前の破滅願望の成就だ。嘘の証言をしたらこの話は白紙にして、アクアの魔法でお前を浄化する」

「ほほう。具体的には、いかなる方法で我が願望を叶えるつもりか?」

「うちに爆裂魔法を使えるアークウィザードがいる。それで華々しく散ってみないか」

「ふぅむ……」

 

 アクアがいつでも魔法を放てるように構え、皆が見守る中、バニルが思案する。

 

「……うむ。それならば良し!では、そこでこちらを見ている検察官の娘と冒険者の小僧。こちらへ来い。それと、離してはくれまいか?安心するがよい、我輩はそこなチンピラプリーストと違い、1度約束したことは絶対に守るぞ」

 

 チンピラと呼ばれたアクアが激怒し、魔法を放とうとするが、めぐみんとゆんゆんが取り押さえて宥める。

 そうしているうちにカズマとセナがこちらに来て、バニルもタキシードを身に着けた体を再構築させる。

 

「では、始めるとしよう。そう構えずともよい。少し汝の過去を覗くだけである」

 

 そう言ってバニルは瞳を赤く輝かせ、カズマの顔をじっと見る。

 

「……おっと。確かに、魔王軍の幹部と交流はあるな。だが、これは……」

 

 セナがそれは誰だと訊ね、カズマは顔から一瞬で血の気が失せた。

 

「ベルディアだ。この小僧とそこの紅魔の娘は、ベルディアが拠点にしていたと知らず、毎日のように廃城に赴いては、爆裂魔法の標的にしておった。そしてベルディアの堪忍袋の緒が切れ、抗議するべく街に来ておるな」

「……それだけですか?それ以外にも何かありませんか?」

「何も無い。しかし、これを交流と捉えるとは、汝はかなりの変わり者であるな」

 

 カズマの顔を覗き込むようにバニルが顔を近づけ、カズマの隣にいたセナは顎に手をあてて悩んでいた。そんなセナには目もくれず、バニルは満足したように笑むとこちらから離れる。

 

「さて、約束通り、小僧の無実は証明した。さあ、そこの紅魔の娘よ!汝の爆裂魔法で我輩の命を派手に散らしてくれまいか」

「待ってください!今の発言ではとても証明したとは……」

 

 めぐみんが爆裂魔法を打つべきか悩んでいるところに、セナが待ったをかけた。バニルはそんなセナを見て一言だけ告げた。

 

「……では、我輩から1つ助言を授けよう。汝、自らの良心に従い、成すべきことを成すが良い」

 

 その言葉を聞いて、セナは少し悩んだが、覚悟を決めたような表情で頷いた。

 

「めぐみん。やれ」

 

 カズマの指示を受け、めぐみんは詠唱を開始した。

 両手を広げ、自らの死を受け入れるような姿勢のバニルに爆裂魔法が炸裂し。ダンジョン前に盛大な爆発音が轟いた。

 

 

 

 

 バニルと遭遇した数日後。

 

「冒険者、サトウカズマ殿!」

 

 ギルドの受付の前で、他の冒険者の熱い視線を浴びながら。

 

「貴殿を表彰し、この街から感謝状を与えると同時に、嫌疑を掛けた事に対し、深く、謝罪を──」

 

 そう言って、俺に深々と頭を下げるセナから、俺は感謝状を受け取った。

 俺達は、魔王軍のスパイ疑惑が晴れた。表向きはセナの調査の結果ということになっているが、実際はあのバニルの証言によるものだ。

 そして、今回のコロナタイトに対する対処法が、ランダムテレポートしかなかったことから緊急避難の適用が認められ、一転して無罪になった俺は、遅ればせながらデストロイヤー戦での賞金を受け取れることになった。

 これで、死刑に怯える必要もないし、借金返済の目処も立った。この後は、賞金の額を伝えられ、受け取る流れになっている。

 

「兄さーん。まだー?」

「ちょっと待ってろ」

「……」

 

 皆の注目を集めるテーブル席では、兄さんに背中を向けて耳まで赤くなっているダクネスと、櫛で梳いたダクネスの髪を結い上げる兄さんがいた。髪を結い上げると、今度は前髪を摘まんで一房立てると、指に塗ったワックスで固める。

 

「よし、できた。じゃ、行くぞララティーナ」

 

 本名で呼ばれて、ビクッと反応するララティーナお嬢様。他の冒険者も兄さんに同調してダクネスのことをララティーナと呼んでからかう。

 あの後、兄さんがダクネスに要求したのは、言うことを聞かせる数を2つに増やすこと。それで要求したことは、ダクネスの本名の書かれた紙をギルドの掲示板に張ること。それと、俺達が賞金を受け取る日に、他の冒険者の前で髪型を変えるというもの。プルプル震えるダクネスにアクアが自分の名前に自信を持てと100%善意の言葉を投げかけ、めぐみんは笑うのを必死で堪えながらダクネスの肩に手を置いていた。因みに、俺達のパーティーメンバーであるゆんゆんはというと……。

 

「本当にいいのか?」

「はい。デストロイヤー戦に私は参加していなかったので」

 

 デストロイヤー戦に参加していないという理由で賞金は受け取れず、他の冒険者と一緒に俺達を見ていた。

 

「──では続いて!サトウ殿への賞金授与に移ります」

 

 セナが言葉を続けると、ギルド内が一転して静かになる。

 そして、俺達の借金と領主の屋敷の弁償金を機動要塞デストロイヤーとバニル討伐の報酬から差し引いた値。4千万エリスが進展された。パーティーのリーダーである俺がずっしりと重い袋を受け取ると、ギルド内に激しい喝采が巻き起こった。

 

 

 

 

 翌日。俺と和真は、ウィズ魔道具店に来ていた。

 キールのダンジョンで、バニルは言っていた。この地で、友人が店を経営していると。そして和真は以前、ウィズの知り合いに金を稼ぐのが上手な者がいるとも聞いたらしい。以上のことから、バニルの言う友人とは、ウィズのことなんだろうと思い、俺と和真はここに来た。

 仕事とは言え、ウィズの友人を倒してしまったことを報告したら、どんな顔をするのか想像しながらドアを開けて店に入ると──

 

「へいらっしゃい!ウィズ魔道具店へようこそ!我輩は、先日よりここでバイトとして雇われた通りすがりの見通す悪魔、バニルである!以後お見知りおきを」

 

 タキシードの上にエプロンを身に着けた、新顔の店員に俺と和真は言葉を失った。

 

「カズマさん、聞きましたよ!バニルさんの証言で、スパイ疑惑が晴れたとか!おめでとうございます!」

「いやいやいや。何でバニルがここにいるんだよ!爆裂魔法食らって死んだ筈だよな!?」

 

 カズマの問いかけに、バニルは自分の仮面の額を指さす。

 

「我々悪魔の命には、残機がある。そして我輩はあの爆裂魔法で1度死んだ。ゆえに、今ここにいる我輩は、二代目バニルという事だ」

「「なめんな」」

 

 口を揃えて即答する俺と和真を、ウィズは宥めてくる。

 

「バニルさんは、前々から魔王軍の幹部を辞めたがっていたんですよ。なので、1度滅んで、夢のために再び蘇ったみたいです。今のバニルさんは、既に魔王城の結界の管理をしていません。なので、とても無害なはずですよ?」

 

 友人に会えて嬉しいのか、ウィズがニコニコしながら言ってきた。

 本当に無害なんだろうか?悪感情を頂くために何かやるんじゃないかと、棚の品を整理整頓しているバニルを注意深く見る。

 そして、整理整頓を終えたバニルは俺のほうを見るとスッと近づき。

 

「汝、遠い彼方の地よりやって来た男よ。遠くない未来、汝とあの鎧娘に抗い難い試練が訪れる。その試練は強大で、汝は自らの力のなさを実感するだろう。それまでに、我らと商売に協力するが吉と出た。……良い話があるのだが、お1つどうか?」




バニル戦ですが、言葉で相手を誘導するという悪魔らしさを強調するためにこのような展開にしました。
次回は陽樹とダクネスの過去話を少しする予定です。
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