「もう今年も終わりか~」
「あっという間だったね~」
年末の夜。俺と和真は屋敷の風呂に入り、一息ついていた。今年は色々なことがあり過ぎた。
魔王軍の幹部ベルディアの討伐で借金を背負い、機動要塞デストロイヤーの討伐でまた借金を背負い。更にテロリストの疑いをかけられた。それも何とか全て解決し、こうして年越しを迎えることができた。
「……兄さん」
「何だ」
「兄さんが
「わかった。そうだな……」
遡ること5年前の冬。
「ここが異世界か……」
女神アクアから転生特典を頂き、転送され駆け出し者の街アクセル。の、路地裏。まずはこの街で冒険者登録しなさいと言われた。登録にはお金がかかるらしく──
「これが登録料か。さてと、まずは登録場所でも探すか」
金をポケットに戻し、俺は冒険者登録をするための建物の探索を始めた。
そして探索すること10分ほど。
「ここか、この街の冒険者ギルドは」
かなり大きな建物で、酒場も併設しているのか、酒と食べ物の匂いが漂う。
食事目的ではないので、真っ直ぐ奥のカウンターへと向かう。受付は4人で、男女比は2:2。
その中でも俺は、眼鏡をかけた真面目そうな男性のところに向かった。
「冒険者ギルドへようこそ。本日は、どうされましたか?」
「冒険者になりにきました」
「わかりました。では、登録料1000エリスになりますが、大丈夫ですか?」
「はい」
俺がポケットから言われた通りの額の金を出すと、男性職員はそれを確認する。
そして、俺の前に免許証ほどの大きさのカードを差し出した。
「では。冒険者になりたいと仰るのですからある程度理解しているとは思いますが、改めて簡単な説明を」
~男性説明中~
「では、こちらの書類に身長、体重、年齢、身体的特徴等の記入をお願いします」
受付の男性が差し出した書類に、俺は自分の特徴を書きだす。
身長170cm、体重62kg、年は16、茶髪に茶色目で……
「はい、ありがとうございます。では、こちらのカードに触れてください。それで貴方のステータスが分かりますので、その数値に応じてなりたい職業を選んでください。経験を積むことにより、選んだ職業によって様々な専用スキルを習得できる様になりますので、その辺りも踏まえて職業を選んでください」
俺は内心少し緊張しながら、カードに触れた。
「…はい、ありがとうございます。サトウハルキさん、ですね。筋力、敏捷性、器用度、知力やや高め。生命力普通。おや、幸運と魔力が非常に高いですね。選択できる職業は《冒険者》、《戦士》、《アーチャー》、《盗賊》、《ウィザード》等があります。それと、特定の宗派に属せば《プリースト》にもなれますが、どれにしますか?」
そう言った職員が、各職業について簡単に纏めた冊子を差し出してくる。俺はページをめくってそれぞれの職業を確認し、考える。
元いた世界と違って、こっちは剣と魔法の世界だから魔法職に就きたい。でも、魔法の詠唱をかんだりして失敗して、ピンチになるなんてことは避けたい。ここは無難に《戦士》か《アーチャー》辺りにしておくか?しかし《冒険者》は全ての職業のスキルを取得できるというのも魅力的だし……
うんうんと悩みながらページをめくっていると、ある職業が俺の目に飛び込んだ。
・《傭兵》
【長所】ほぼ全ての武器を扱うことができ、距離を問わず戦える。
【短所】魔力を用いた攻撃手段を持たない。
ほぼ全ての武器を扱える、というのは、俺が貰った転生特典と非常に相性が良い。しかし、そのためのステータスが足りない。レベルアップしてステータスが上がれば転職もできるらしいし、ここは──
「《冒険者》で、お願いします」
「かしこまりました。では、《冒険者》サトウハルキさん。今後の活躍、期待しています」
《冒険者》と記された冒険者カードを手に取ったこの瞬間、俺の冒険者生活は始まった。
「何も無いな……」
訂正。開始1分で、俺の冒険者生活は1つの壁に当たった。
俺は武器や防具の類を持っていない。
さっきお手洗いに行ったときに、個室で能力を試してみたが、何も出てこなかった。物を収納したり取り出す能力だけで、スターターセットのようなものがない。ナンテコッタイ。
仕方なく、装備を揃える金を得るためのクエストはないかと探してみるが、どれも難易度が高いものばかり。昼間から酒場で冒険者達が酒を飲んでいると思ったら、こういうことだったか。筋力はやや高いらしいから、土木工事のバイトで金を稼ぎ……いや、違う!
「無いなら作ればいいじゃないか」
そう思った俺は、直ぐに冒険者ギルドを出て、街の鍛冶屋を探した。
「ごめんくださーい」
「らっしゃい。……見ない顔だな、武器の購入か?」
俺は探していた鍛冶屋の中で最初に見つかった店に入り、声を掛ける。すると、店の奥から店主と思われる男性が出てきた。
俺は店主に事情を説明し、そのうえで鍛冶師になりたいと言った。すると店主は腕を組んで……
「構わねえが……お前さんの冒険者カードを見せてくれ。それで判断する」
「わかりました」
俺が差し出した冒険者カードに隅々まで目を通すと──
「筋力もこれだけあれば良いだろう。職業が《冒険者》だから、《鍛冶》スキルは俺が教えれば問題ない。合格だ」
「ありがとうございます」
頭を下げると、店主は二カッと笑いながら手を差し出してきた。
「俺の名前はモロトク。よろしくな、ハルキ」
「よろしくお願いします。モロトクさん」
俺は手を差し出し、固い握手を交わした。
「……とまあ、そんな訳で俺は副業で鍛冶師を始めたんだ」
「で、そっからは?」
そこから先は特筆して言うべきこともなく、冒険者と鍛冶師の二足の草鞋を履いて生活していたと話すと、和真が嫉妬と羨望の眼差しで俺を睨んできた。俺は激動の1年を送ったのに、と。
「ウィズと会ったのは?」
「《冒険者》だから魔法を誰に教わろうか考えていたら、ギルドの職員に紹介されたんだよ。俺が冒険者になって半年位だから、ウィズとはそこそこの付き合いになるな」
「ダクネスとは……ごめん、それは本人から直接聞く。そろそろ年越し蕎麦食べよ」
「そうだな」
俺と和真は揃って湯船から上がって体を拭き、寝間着に着替えて居間へと向かった。
同時刻、居間。
「ここに、こうです」
「では、王手だ」
「これで、回避します」
「言っただろう、王手だと」
「ああああ~っ!また負けましたああああ!」
ハルキとカズマが風呂に入っている間の暇つぶしに、めぐみんとショウギの対局を行っていた。アクアは酒をチビチビ飲みながら。ゆんゆんは、膝の上に座るちょむすけを撫でながら、私達の対局を観戦していた。結果は2戦とも私の勝ち。連敗中のめぐみんが何故勝てないのかと頭を抱え、悔しそうに唸る。
「もう1回!もう1回お願いします!次こそは勝ちますよ!」
「わかったわかった。今年の分は次で最後にしよう」
駒をそれぞれ配置し、先攻はめぐみんで3戦目を開始した。
「む~ん……」
「さ、めぐみんの番だぞ?」
「分かっています。ですから少し黙っててください」
めぐみんが盤面と睨めっこをしながら、駒の動かし方を思案する。そして閃いたのか、口元をにやりとさせる。
「そういえば、ハルキとはどういった経緯で知り合ったのですか?」
駒を動かしながら、めぐみんが訊ねてくる。時間稼ぎのつもりか?まあ、その位なら問題ないだろう。
「そうだな。あいつとの出会いは……」
めぐみんの駒を取りながら、あいつと出会った時のことを話し始めた。
今から3年前の春のこと。
「ねえダクネス。今日はどんなクエストを請けたい?」
「一番気持ち良いのを頼む」
「私達2人でこなせそうなクエストね」
私の注文をさらっと流した銀髪の少女の名はクリス。冒険者としての私の数少ない友人の1人で、仲間の1人だ。仲間ができるようにと毎日お祈りを続けていたある日、教会からの帰りに出会い、その場で意気投合して以来の付き合いになる。先程のやりとりも、
っと、請けるクエストを早く決めなければ。他の冒険者に取られてしまう。
「あ、すいません」
「いえいえ。どうぞ」
そう思った矢先、クリスが請けようとしたクエストが、他の冒険者と被ってしまったようだ。相手の冒険者は、そのクエストをクリスに譲り、他のクエストを探し始めた。
「クリス。クエストの内容は?」
「ゴブリンの退治。近くの森に住み着いた群れが確認されたんだって」
ゴブリン。
子供程度の大きさで、個体の力はそこまで強くない。しかし、ゴブリンは基本的に群れで行動し、手にした武器とその凶暴性で家畜や人を襲うモンスターだ。
そのゴブリンの群れに囲まれ、数の暴力で叩かれたら、私はどうなってしまうのだろうか。想像しただけで涎じゃない、身震いが止まらない。
「よし、それなら早速そのクエストを……クリス?」
「……」
クリスの顔を見てみると、顎に手をあてて何かぶつぶつと呟いている。
そして顔を上げると、まだクエストを探していたらしい、先ほどの冒険者の手を引くと。
「ねえ君」
「ん?」
「私達とパーティーを組んでみない?」
場所は移り、ギルドに併設されている酒場の隅のテーブル席。
私の隣にクリスが座り、テーブルを挟んで冒険者が座っている。
革鎧と鎖帷子を身に纏い。背中には
名前はサトウハルキ。外見から、年齢はおそらく19歳前後。可もなく不可もなくな顔付き。しかし、鍛冶師をやっている影響か、鎧越しにも鍛えられた肉体の持ち主であることがわかる。
「パーティーを組みたい、というのは?」
と、その男はクリスに問いかけた。そしてクリスは、群れの規模が書かれていないため、自分達2人では手が足りなくなるかもしれない。もしかしたら、初心者殺しに遭遇するかもしれない。そこで、もう1人仲間が欲しいと思い、近くにいた貴方に声をかけた。と言った。
「あと、今回のクエストの結果次第では今後も同じパーティーとして活動したいと思っているんだけど……どうかな?」
「わかった」
「ありがとう。それじゃあ、早速行こうか」
そして私達3人は、ゴブリンの群れの目撃情報のあった森に足を運んでいた。
クルセイダーの私を先頭に、敵感知を使えるクリスが私の後ろで索敵を行い、ハルキは抜き身の曲剣、本人はカタナと呼んでいた剣で何時でも迎撃できるようにしている。
「どうだ、クリス。群れは見つかったか?」
「ん~……見つけた。左に曲がって直進して」
クリスの発言通りに進むと、ゴブリンの群れを発見した。
数はおよそ10匹ほど。それぞれが弓や棍棒、刃の毀れた剣などで武装し、木の実などの食料を探していた。幸い、こちらにはまだ気づいていないようだ。周囲にも初心者殺しはいない。……ならば!
「『デコイ』ーーーッ!」
先手必勝。私はデコイを発動させると同時に、ゴブリンの群れへと突っ込んだ。
相手も流石に気づいたのか、武器を手に攻撃してくる。
私も負けじと両手剣を振るうが、剣はゴブリンの体を掠りもしない。こうしている間にも、ゴブリン達が各々の武器で私を責め立てる。
「いいぞ!もっとこい!」
「ギャフッ!?」
私に弓を放っていた個体が、クリスのダガーで背後から心臓を貫かれて倒れた。
「グエッ!?」
私を棍棒で叩いていた個体が、ハルキのカナタで胴体を両断された。
そして、弓を持っていた個体を仕留め終えたクリスが合流し、残りの殲滅にかかる。
「これで全部か?」
殲滅を終え、カタナについたゴブリンの血を拭いながら、ハルキがクリスに訊ねる。クリスもダガーにこびりついた血を拭いながら、敵感知で周囲を探る。
「……うん。これで全部だよ。初心者殺しの気配もない」
「クエスト完了か」
「そうだね。さ、ギルドに帰ろ」
そして場所は再び、ギルドの酒場の隅のテーブル席。
「はい。これハルキの取り分ね」
「ありがとう」
「と、いうわけで。今回パーティーを組んだわけだけど……今後も、パーティーとして活動してくれますか?」
報酬を受け取ったハルキに、クリスが敬語で訊ねる。
ハルキは顎に手を当て、暫く思案すると。
「ああ。これからも、よろしく」
「いいの!?」
クリスの質問に、ハルキは首肯で答える。
「だって、自分からゴブリンの群れに飛び込んだり、スキルを取得してないから剣を振っても当たらないダクネスがいるんだよ?今までだって、それを理由にパーティー加入を断られたんだよ?それでもいいの?」
「楯役として専念してくれるなら武器系のスキルを取らなくても問題ない」
ハルキのその一言に、クリスは涙を浮かべながら手を取り、感謝の言葉を述べる。余程嬉しかったようだ。……つまり、私はそれだけクリスに負担をかけてしまっていたということか。反省しなくては。
「これからもよろしくね!ハルキ!」
「よろしく」
「おう」
「……というわけで、私とクリスはハルキとパーティーを組み、活動するようになったんだ」
「成程、それが2人の馴れ初めなのですね」
『馴れ初め』という単語に、一瞬動揺した。だが落ち着け、あれはめぐみんの作戦だ。私に精神的揺さぶりをかけて、勝利しようとしているのだ。流石は紅魔族。知力が高いだけはあるな。深呼吸をして心を落ち着かせ、お互いに駒を動かしていく。
「ねえダクネス。ハルキはどうやってダクネスの本名を知ったの?
酒をチビチビ飲んでいたアクアが、話しかけてきた。大分顔が赤くなっているアクアを見て席を立ったゆんゆんが、コップに水を注いで持ってきた。アクアはそれを受け取り、一気に飲み干す。
「いや、ハルキは何もしていないぞ?ただ、偶然そうなっただけで──」
ハルキが私とクリスのパーティーに加わってから季節は移り変わり、冬。
「(……そろそろ大丈夫だろう)」
宿の部屋で、何をするわけでもなく外を眺めていた私は、ハルキが住み込みで働いている鍛冶屋に向かった。
年に1回、応募した技術者が各々の作品を持って王都に集まり、それを貴族達が査定する会がある。この時、一定の基準(作品にかけられた金額)をクリアした者には、上から第1級、第2級といった具合に階級を得ることができる。階級を得た者には、貴族達が査定の時に決めた金額がそのまま賞金として授与される。
そしてハルキはそれに応募した。結果は第2級技師に認定。それが今日、本人に伝えられる。それを伝えるのは、街にいる貴族……つまり私の父、ダスティネス・フォード・イグニスだ。場所はおそらくギルドだろう。そして、用事も終えて、賞金を受け取ったハルキが鍛冶屋にいるだろう。そう思い、私は鍛冶屋の扉を開けた。
「ハルキ、結果は──」
「おや、ララティーナ」
鍛冶屋に入った瞬間、私は固まった。
鍛冶屋にはハルキと、店主のモロトクさん。そして、護衛を連れた私の父がいた。
「どうして」
ここに来たのか、そう聞かれるよりも早く私は父の手を掴み、鍛冶屋を出て路地裏に移動した。
「なぜお父様が鍛冶屋にいたのですか!?」
「いや、その、サトウハルキという少年に結果の伝達と賞金を授与に──」
「それが何故鍛冶屋でなのかを聞いているのです!普通はギルドでするべきでしょう!?」
「うむ。私は少し前に、ギルドで彼に伝達と賞金の授与を行った。そして、娘の装備を何か作ってもらえないかと、仕事の依頼のために、あの鍛冶屋に場所を変えたのだが……」
何と間の悪い。鍛冶屋に来る途中、万が一にも私の身分がバレないようにとエリス教会で祈ってきたというのに。先ほどの私の行動で、おそらくバレてしまっただろう。
「実は、あのサトウハルキという鍛冶師は、私の冒険者仲間でもあるのです」
「ほう、彼が」
「はい。しかし彼は、私の本名と身分を知りません」
「そうか……ララティーナ。もしや、自分の本名と身分を知られるのが、嫌なのか?」
「いいえ、知られるのは別に問題ありません。ただ……」
私に対する接し方が、対等な仲間から、貴族の令嬢に対するものに変わるのではないか。それが嫌だと私は言った。冒険者のダクネスとして活動している間は、同じパーティーの仲間として接してもらいたい。私は俯きながら、父にそう言った。
「大丈夫だ、ララティーナ」
父は私の肩に手を置き、顔を上げるように言った。
「彼は、お前が貴族の令嬢と知っても、態度を変えるようなことはしないだろう」
これでも人を観る目には自信がある、と。私の不安を払拭するように、父は言った。
そして、1ヶ月後。
「ここがハルキの工房かー」
「ちょっと街の中心から離れているが、中々良い場所じゃないか」
場所は街の郊外。それなりの広さがある石造りの工房は、元々別の鍛冶師が使っていたらしい。
不動産屋曰く、前の持ち主の実家は農家で、身内に不幸があったために工房を売り払い、実家に戻って農業をして生活することにしたらしい。
「じゃあ、取り敢えずそこに座ってくれ。クリス、ダクネスいや、ララティーナ」
工房内を見て回っていると、椅子代わりの木箱を置いたハルキに呼びかけられた。反射的に私は肩をビクッと震わせ、ハルキに促されるままに座る。クリスは怪訝そうに座り、私とハルキを交互に見る。
「さて、ダクネス。この間貴族の人がお前のことをララティーナと呼んでいたが、あれはどういうことだ?」
「あの人、ダスティネス・フォード・イグニスは……私の父だ」
ダスティネスと聞いたクリスは驚き、対照的にハルキは頭に疑問符を浮かべていた。そんなハルキにクリスは、私の家が『王家の懐刀』或いは『盾の一族』と呼ばれる名家だと説明すると、
「懐刀なのか盾なのかはっきりしろ」
と文句を言われた。私達にそれを言われても困るのだが。そして次に、私の本名の可愛らしさに食いついた。
「まあ、ダクネスの家が凄いということはわかった。じゃあ、本名じゃなくて偽名で活動している理由は?」
「同じ仲間として対等に扱って欲しいから、貴族であることを隠していた。正直、仲間に何か隠し事をするのは少々が良心が傷んだが」
ハルキとクリスも心当たりがあるのか、私から目を逸らした。何を隠しているのか聞きたいところだが、それはまたの機会にしよう。
「いいか、ダクネス。お前の身分が何であろうと、ダクネスが大事な仲間であることに変わりはない」
「そうだよ」
ハルキの言葉に、クリスも同調するように頷く。
「だから、いつも通り対等な仲間として接するから、安心してよ」
タイミングが良かったのか、後ろの窓から顔を出した太陽が重なり、クリスに後光が差していた。私は、反射的に片膝をつき、深々と頭を下げる。
ありがとうございます、女神エリス様。私は、本当に良い仲間に巡り会えました。
「というわけで、私がダスティネス家の令嬢だということを、ハルキとクリスは知ったんだ」
「ふ~ん」
普通過ぎてつまらんといった風にアクアは酒を注ぎ、杯を傾ける。まだ飲むつもりか。
「成程、親との顔合わせも済ませてあると」
続いて、めぐみんがそんなことを言った。
「な、なあ、めぐみん。なぜ先程から『馴れ初め』とか『顔合わせ』とかいう言い回しをするんだ?」
「なぜって、お2人がデキてるからそう言っているだけです」
「待ってくれめぐみん。私とハルキは冒険者仲間であって、男女の関係ではない」
私がそう言うと、めぐみんとアクア、ゆんゆんまでもが、驚愕に目を見開いた。
「ハルキが工房を構えてから、寝食を共にしていたのでしょう?」
「ああ」
「この間、ハルキがダクネスの髪に慣れた手付きで手を加えたでしょう?」
「ああ」
「「「つまり2人はデキているんでしょう?」」」
「違う!!!」
私が大声をあげて驚いたのか、ちょむすけがゆんゆんの膝から飛び降りた。
「ああ、ちょむすけ。おいでおいで。お~よしよし、驚かせてすまなかった」
「なぁ~」
ちょむすけを抱き上げて優しく撫でると、気持ち良さそうに目を細める。
こうしている間も、私とめぐみんは対局を続ける。精神的揺さぶりで負けるなど、あってはならない。
「ですがダクネス、女にとって命とも言える髪に、異性が手を加えることを許可するということは、そういう風に捉えられるものなのですよ」
「ええ。実際、街の冒険者の間で賭けになってるわ。2人の子供は男子か女子か。人数は。婿入りか嫁入りかetc.」
どうしてそんなことになってしまったのか。膝から崩れ落ちてしまいそうになるのを必死で堪える。
「いいか皆、そもそも私とハルキには身分の違いというものがある。だから、皆が想像するような関係になることは有り得ない」
「身分の違いがなければいいんですか?」
その時、私に衝撃走る。
そして想像する。街の何処かで家を買い、そこで暮らす。子供は男女どちらか1人。やがて子供がすくすくと成長して……って、何を考えているんだ私は!
私は頭を左右に振り、雑念を振り払う。
「めぐみん。仮に身分の違いがなくとも、私のようなデカい筋肉女よりも、めぐみんのように小柄で華奢な女性のほうを選ぶだろう。だから、私とハルキは男女の関係になれない」
「……まあ、ハルキの女性の好みを知っているわけではありませんから、何とも言えませんね。王手です」
「なぁっ!?」
盤上を見てみれば、私は絶体絶命の危機に瀕していた。卑怯なとめぐみんを睨むと、勝ち誇ったような笑みを浮かべためぐみんがふんぞり返って私を見下ろす。
いや、まだだ。まだ起死回生の1手はあるはずだ。私は頭を全力で回転させ、思案していく。そして、そのために何をするべきか策が浮かんだ。私はそのために駒を……
「にゃっ」
「「「「ああーっ!!」」」」
動かそうとしたら、ちょむすけが盤上に飛び乗り、駒をぐちゃぐちゃに動かして丸くなった。
場を沈黙が支配する。当のちょむすけは、どうしたの?と顔を上げて首を傾げる。
「……とりあえず、この子は後でお風呂の刑ですね。勝負は年を越してから再びするということで」
「そうだな。そろそろカズマとハルキが上がる頃だろう」
3戦目はなかったことになり、そのままハルキ達が居間に来るのを私達は待った。
ハルキを師事した鍛冶師の名前は、ロシア語で金槌という意味です。
次回。
そうだ、アルカンレティア行こう