この兄弟に祝福あれ   作:大豆万歳

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こっちの和真は、身内の目もあって規則正しい生活を送っています


第16話

 年が明けて1月経ったある日の朝、和真が言った。

 

「湯治に行きたい」

 

 と。

 和真曰く、魔王軍の幹部や大物賞金首との戦闘で疲れた心身を癒したいらしい。ただ、今は商品開発に忙しいから、それが終わってからにしたいと付け加えた。

 

「まあ、強敵との戦闘続きで疲れていたのは否定できないな」

「でしょ?というわけで、どっか良さげな温泉地を知らない?」

 

 和真が言うと、めぐみんが真っ先に手を挙げる。

 

「でしたら、水と温泉の都、アルカンレティアはどうですか?」

 

 めぐみんが言うには、アルカンレティアという都市は、プリーストを数多く抱えているために、魔王軍の者にとって戦い辛く、とても平穏とのこと。そして、その街は水の女神アクアを御神体として崇めるアクシズ教団の総本山らしい。

 和真はめぐみんの提案を聞き、即断即決した。

 

「で、でもカズマさん。アクシズ教徒の人達はその、ちょっと変わっている人が多いですよ?疲れをとるつもりが、余計に疲れちゃうかもしれないですし、別の場所に……」

「大丈夫だよ、ゆんゆん」

 

 ゆんゆんのアドバイスに、ハイライトの消えた瞳で答える和真は味噌汁を一口啜ると。

 

「今更奇人変人の類に遭遇しても、微塵も動じないさ」

 

 乾いた笑い声をあげる和真の様子から、かなり精神的にきていることを、俺達は察知した。

 

 

 

 

 春。

 雪解けの季節であり、冬の間に引きこもっていた冒険者達が活動を再開する季節。

 モンスター達が活発に動き回り、繁殖期に入る、そんな季節。

 

「じゃ、俺は仕事でちょっと王都のほうに行ってくる」

「行ってらー」

「クエストに行くのはいいが、死なないように気をつけろよ?」

「わかってるよ」

 

 俺達は何時ぞやのように、二手に分かれて行動していた。

 俺は仕事で王都に。和真達は、クエストを請けるためにギルドへ向かった。

 街のテレポート屋を使って王都に到着し、ギルド前。

 

「ハルキさん。こっちです」

「よう御剣。待たせたな」

 

 こっちも今来たところです、と、お決まりの台詞を言う御剣の目は、期待と興奮で満ち溢れていた。

 俺が王都に来たのは、拠点を王都(こっち)に移した御剣に、装備の強化をしたいと依頼されたから。前の刀を改造し、アダマンタイトとミスリルを合金にした刀身にして欲しいという注文を受けたのが、年明けから1週間ぐらいのこと。

 当時俺は、ある商談のための商品開発をしていたので、完成には時間がかかると言ったら「幾らでも待ちます」と言われた。あれは正直引いた。

 席についた俺は白布に包まれた物をテーブルの上に置き、中身を御剣に見せる。

 

「注文の刀だ」

「ありがとうございます」

 

 御剣は一礼すると、刀を手に取る。静かに抜刀し、刀身と鍔をじっくりと見つめ、感嘆のため息をつく。

 

「……ふつくしい……」

「仲間の2人はどうした?」

「彼女達なら、隣国でレベル上げをしています。僕と一緒だと、どうしても僕が一番多く敵を倒してしまい、彼女達のレベルが上がらないので」

「チート持ちってのも大変なんだな」

「ええ」

 

 御剣は苦笑しながら、刀を納刀して腰に帯びる。

 

「そうだ、ハルキさん、僕とクエストでも請けてみますか?というか、今のレベルはどの位ですか?」

「35を超えてるな」

「それだけあればここを拠点にしてもいいと思うんですが……」

「そう思ってここの宿で部屋を取って一泊したが、駄目だ。ここの夜景は明るすぎる。俺にはアクセルの街くらいがちょうど良い」

 

 後は初心者からベテランまで相手にするなら駆け出しの街のほうが都合が良いとか、それらしい理由を口にする。一番の理由はサキュバスが経営する例の店だが、御剣には言わないほうがいいな。真面目そうな御剣のことだ、討伐に乗り出しかねない。

 

「じゃあ、俺は街に帰る」

「わかりました。それじゃあ、また仕事の依頼をする時にでも」

「ああ。またな」

 

 

 

 

 そして、翌日の朝。まだかまだかと来客を待っていた俺と和真の耳に、玄関の扉をノックする音が聞こえた。俺が扉の前に向かい、開けると──

 

「フハハハハハ!お早う、諸君!ろくな目利きの出来ぬポンコツ店主に代わり、目利きに定評のある我輩が商談に来た。さて、当店に卸す予定の商品が如何なる物品か、我輩とても楽しみである!……む?」

 

 そこにいたのは、怪しげな仮面を着けた悪魔、バニルだった。

 それを見て、アクアがゆらりと立ち上がる。

 

「ねえちょっと。どうやってこの屋敷内に入ったの?この屋敷の外には、あんたみたいな害虫が侵入して来れないように、神々しくも神聖な結界を張ってあるんですけど」

「ああ、屋敷を覆っていた薄っぺらい膜か。なんと、あれは結界であったか。あまりにも弱々しいものであったので、どこかの駆け出しプリーストが張った失敗作かと思っておった。いや失敬。超強い我輩が触れただけで、シャボン玉のように弾け飛んでしまったようだな」

 

 ソファーから降りたアクアは、バニルの目の前に立ち塞がり体をまじまじと見つめる。

 

「あらあら、そんな事言いながら、体のあちこちが崩れかかってますわよ。超強い悪魔さん。まあどうしましょう、確か地獄の公爵だとか聞いていましたのに、あんな程度の結界でこんなになるなんて」

 

 ニコニコと屈託のない笑顔を浮かべ、所々崩れかけたバニルの体のあちこちを興味深そうに指でつつく。

 和真は手を叩いてアクアとバニルの間に入る。

 

「はいはい、喧嘩なら後で他所でやってくれ。バニル、早く商談しようぜ」

「せっかちな小僧だ。『急いては事を仕損じる』という言葉を知らぬのか?」

「『善は急げ』とも言うんだよ」

「『悪』魔である我輩に、『善』は急げとは、な」

 

 和真の言葉に仕方ないとバニルは肩を竦めて絨毯の上の商品の鑑定を始め、かみつこうとするアクアの相手はダクネス達に任せることにした。

 

 ~悪魔鑑定中~

 

「うむ。我輩の見立ては正しかったようだな。これは売れる。間違いなく売れる。このコタツなる暖房器具も、ミキサーなる調理器具もな」

 

 興味深そうにバニルはコタツの布団をめくり、ミキサーをしげしげと眺める。

 

「では商談といこうか。1つは、商品が売れた利益の1割を支払う。1つは、これらの商品の知的財産権自体を売るか。これだけの物が、生産ルートが確立できれば、毎月100万エリス以上の収入が見込めるだろう。そして知的財産権だが、3億エリスで買おう。無論、金額は汝ら兄弟それぞれの額である」

 

 月々100万か、一括で3億か。

 バニルが提示した金額を聞き、

 

「俺は知的財産権を3億で」

「ほう!貴様は中々に決断が早いな」

 

 バニルは嬉々として懐から契約書のようなものを取り出し、ペンでサインする場所を指し示す。

 今後も商品が一生売れ続けるとも限らない。それに、怪我や病気で長期間金が稼げない間の貯蓄として、一気に貰っておこうと俺は思った。俺が契約書の内容を一言一句確認している一方で、和真は頭を抱えてうんうん唸っていた。

 

「うむ。商品の販売までには時間がかかる。どちらの支払い方法が良いか、決めるのはその時でも良いぞ」

 

 俺直筆のサインが書かれた契約書を手に、バニルは立ち去ろうとしたところで足を止めた。

 

「小僧。我輩が見通したところ、湯治に向かうようだな」

「あ、ああ」

「日取りは何時だ?」

「えっと、来週から、3泊4日のつもりだけど」

「ふむ……」

 

 バニルは顎に手を当てて何か考えると、それにウィズも連れていってほしいと頼んできた。

 

「ウィズを?」

「うむ。対価は、そうだな……ポンコツ店主の分の金はこちらで全額負担し、当日人数分の部屋が空いているであろう宿を教えよう。どうだ?」

「いや、別にいいけど……何でウィズを?」

 

 和真に問いかけられたバニルは、何処か遠くを見つめる。

 

「我輩の体は土塊である故、肉体的な疲労は感じぬ。だが、精神的な疲労はどうにもならんのだ……」

 

 そしてバニルは、苦労のほどを語るように、それはそれは深いため息をついた。

 

「……わかった。ウィズには少し世話になったし、遅めの恩返しってことで」

「感謝する」

 

 

 

 

 そして、翌日。

 旅行の予定を話し合っていた俺達は、意見が対立していた。

 

「あのな和真。幾ら同じパーティーでも、節度は弁えないと駄目だ。だから、男女で部屋は別々にするぞ」

 

 俺の意見に、ダクネスとウィズが同意する。

 対する和真はというと──

 

「断る。ウィズ、めぐみん、ゆんゆんの3人。俺とアクア。兄さんとダクネス。この部屋割りは天地がひっくり返っても譲らない」

 

 和真が言うと、そうだそうだとアクアとめぐみんも言っている。

 まず、アルカンレティアまでの移動手段。これはかなりスムーズに決まった。

 『走り鷹鳶』という、岩や鉱物のような硬い物にぶつかるギリギリのところで躱す、チキンレースと呼ばれる求愛行動をとるモンスターがいる。そして、うちのパーティーには硬さなら右に出る者はいないダクネスがいる。春になり、繁殖期を迎えたこのモンスターの群れに万が一遭遇しようものなら、ダクネス目掛けて飛び込んでくるため、戦闘間違いなしだ。

 更に、移動にかかる時間を考えると、夜中にアクアに引き寄せられたアンデッドの群れがやってくるだろう。

 それらを考慮し、移動手段は馬車ではなく、ちょっと料金は上がるがテレポート屋を利用することになった。皆馬車旅を楽しみたかったようだが、他の乗客に迷惑をかけるくらいなら、と我慢した。かく言う俺もその1人。

 続いて宿。ここについてはバニルが見通したからいいとして、部屋割りをどうするかで意見が別れ、今に至る。

 

「だいたい、何でお前らは俺とダクネスを意地でも同じ部屋にしようとするんだ」

 

 俺が言うと和真は嫉妬に満ち溢れた目で俺を睨み。

 

「黙れ、両片想い拗らせたバカップル。四の五の言わずに同じ部屋に泊まれ。そんでもって既成事実をこさえろ」

 

 和真が言うと、アクアとめぐみんは口を揃えて「さっさとくっつけ」と言う。

 

「あ、あの。カズマさんのお気持ちはわかります。けど、ハルキさんの言う通り、節度を弁えて男女別にするべきかと……」

 

 ウィズが手を挙げながらおずおずと、冒険者としての経験が長いということで意見を述べた。

 

「ゆんゆん。貴女はどうなんですか?男女別ですか?それとも男女混合ですか?早く決めてください」

 

 めぐみんに言われ、ゆんゆんがビクッと震える。

 ゆんゆん曰く、どっちの意見も正しいから、判断に困って頭を抱えているらしい。和真の意見のどこが正しいのか聞かせてもらいたいものだ。

 俺達の視線が集中してオロオロし始めたゆんゆんは、10分程悩みに悩んだ末……決断した。

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