この兄弟に祝福あれ   作:大豆万歳

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とりあえず原作1巻分出来上がっています。絆ボイスでも平常運転なララティーナ可愛い









無 名 の 王 強 す ぎ


第2話

「兄さん」

「おう」

「昨日のキャベツ狩りでレベルが2つ上がって6になりました」

「おめでとう」

「そして、クリスとのスティール勝負でそこそこの額の金を手に入れました」

「そうだな」

「そんなわけで、そろそろ冒険者らしい装備を揃えたいんだけど。鍛冶師の兄さんに高性能な装備を、それも格安で一式作ってもらいたいなーと思ってるんですが……」

 

 満面の笑みを浮かべながら揉み手してカズマがにじり寄ってくる。

 

「性能に比例して額も上昇するのが世の常だ。高性能な装備が欲しいなら、相応の金を用意しろ」

「……」

 

 和真が涙目で上目遣いをしてくるのが気持ち悪かったので、そっぽを向いて駄目だと伝える。

 

「おねげえしますだお兄様!どうか、どうか哀れな最弱職の弟に装備を恵んでくだせえ!!」

「おい馬鹿!汚いから離れろ!」

「靴でも便器でも何でも舐めますからああああ!」

 

 ばっさりと断られた和真が涙と鼻水を垂れ流して縋り付いてきた。ええい鬱陶しい!

 

「……お前の懐と今のレベルに見合った装備を店で選んでやる。それで良いな?」

「あざーっす!!」

 

 ~買い物中~

 

「ほう、見違えたではないか」

「ええ。カズマが、ようやくちゃんとした冒険者みたいに見えるのです」

「おっと、俺が今までどんなふうに見えたのか聞かせてもらおうか」

 

 所変わって冒険者ギルド。

 装備を整えたカズマを見て、めぐみんとダクネスが感想を述べた。

 和真が購入した装備は革の胸当てに金属製の籠手と脛当て。初期魔法を取得したので左手は何も持たず、魔法剣士スタイルでいくつもりらしい。本音を言えば鎖帷子や予備の武器も持って欲しいが、本人の体力と財力を考えて妥協した。

 因みに、今日のダクネスはキャベツ狩りの報酬で強化を依頼した鎧に代わり、俺の作った鎧を装備している。普段ダクネスが使っている鎧と比べてデザインは地味だがいいのかと聞いたところ、性能のみを追求したシンプルなデザインが気に入ったらしい。

 

「さて、カズマの装備も整ったことだし、早速クエストにでも行くか。ちょうどジャイアントトードが繁殖期に入っていて、街の近場まで出没している。それを……」

「「蛙はやめよう!」」

 

 提案を言い切る前に、アクアとめぐみんから全力で拒絶された。そうだった、2人は蛙に丸呑みにされたんだった。

 

「じゃあ、蛙以外で楽にこなせるクエストにしよう。このメンバーで初めてのクエストなわけだし」

 

 和真の意見に同意したダクネスとめぐみんが掲示板へ手頃なクエストを探しに行った。

 

「そうだ。和真、昨日聞きそびれたが、何で女神アクアがここにいるんだ?」

 

 それを聞いたアクアが、カズマの襟首を掴んで指差す。

 

「よくぞ聞いてくれました!このヒキニートったら、こっちに来る時の特典に私を指名したのよ?女神を物扱いするとか酷いと思わない!?思うわよね!?思うならこの罰当たり極まりない無礼者に裁きの鉄拳を振り下ろしてちょうだい!」

「人の死因を笑っておいてよくそんなことが言えるな!この穀潰しが!」

 

 穀潰しという単語にアクアがビクリとした。

 

「本来なら俺も、今まで通り強力な能力か装備を授かって、ここでの生活には困らなかったはずだ。そりゃあ、俺だって無償で神様から特典を貰える身で、ケチなんてつけたくない。それにその場の勢いとはいえ、能力よりお前を希望したのは俺自身だ。でも、俺はその能力や装備の代わりにお前を貰ったわけなんだが、今のところ、特殊能力や強力な装備と同等の活躍をしているのかと問いたい。どうなんだ?最初は随分偉そうで自信に満ち溢れていた割に、全く役に立ってない自称元なんとかさん」

「……も、元じゃないわよ……い、一応今も女神よ」

 

 シュンとなりながら反論するアクアに、カズマは更に声を張り上げ。

 

「女神?女神ってのはな、勇者を導いたり、魔王とかと戦って、勇者が1人前になるまで封印なんかして時間を稼いでいたりするんだよ!今回のキャベツ狩りのクエストで、お前は何をやっていた?最終的には何とか沢山捕まえてたみたいだが、基本はキャベツに翻弄されて、転んで泣いていただけだろう!?お前、野菜に泣かされるとか女神として恥ずかしくないのか!?この、蛙の餌になるか、宴会芸しか取り柄のない駄女神がぁ!」

「わ、わああああーっ!」

 

 俺の知らないところで苦労していたのか、思いの丈をぶちまける和真の口撃に、アクアはテーブルに突っ伏して泣き出した。

 しかし、アクアも顔を上げて負けじと反論を始めた。

 

「わ、私だって回復魔法とか回復魔法とか、あと回復魔法とかで役に立っているわ!なにさ、ヒキニート!じゃあ、このままちんたらやってたら魔王討伐までどれだけかかるか分かってるの!?何か考えがあるなら言ってみなさいよ!」

 

 ウルウルした上目遣いで睨みつけてくるアクアに、和真は鼻で笑って自分の頭を指差す。

 

「あるとも。俺には強力な装備や能力はないが、日本で培った知識がある。俺でも簡単に作れ、尚且つこの世界にない物を売りに出すんだ。受付のお姉さんが言っていただろう?俺は幸運が高いから、商売でもやってみないか、ってさ。だから、冒険者稼業以外で安定して金を稼ぐ手段を確保しておく。それでその金で、高い経験値を得られる食材を買って食べてレベルを上げるんだ」

 

 どうだと腕を組み、胸を張って渾身のドヤ顔を和真が披露する。

 しかし、何かを思い出したように腕を離して俺のほうを向いた。

 

「そういえば、兄さんってどんな特典をこいつから貰ったの?それらしい装備がないから、能力系?」

「それはそのうち説明する。だが和真、商売をするといったが、具体的に何をするんだ?」

「そこはまだ決まってない。というわけでだ、アクアも何か考えろ。この世界で一番楽に安定して稼げて、法に触れない商売を!それか、お前の唯一の取り柄の回復魔法を教えろ!スキルポイント貯まったら、俺も回復魔法の1つぐらい覚えたいんだよ!」

「嫌ーっ!回復魔法だけは嫌!私の存在意義を奪わないでよ!私がいるんだから別に覚えなくてもいいじゃない!」

 

 再びテーブルに突っ伏し、自分の取り柄にして存在意義を奪われまいと子供のように泣き始めるアクア。と、そんな俺達のもとにダクネスとめぐみんが帰ってきた。

 

「……何をやっているんですか?カズマの口撃力は結構えげつないですから、遠慮なく本音をぶちまけたら大概の女性は泣きますよ?」

「めぐみんの言うとおりだ。もしストレスが溜まっているのなら、アクアの代わりに私を罵ってくれても構わないぞ。クルセイダーたるもの、誰かの身代わりになるのは本望だ」

 

 2人の視線は、テーブルの上で泣き続けているアクアに注がれている。

 自分を擁護する声が聞こえたからか、時折顔を埋めた腕の隙間からこちらをチラチラと窺っているのがちょっとイラッとくる。

 

「それで、クエストのほうはどうだった?」

「ああ。ちょうど良さそうなクエストがあったぞ。それも、アクアが大活躍でき、レベルが上げられそうなクエストだ」

 

 プリーストは一般的にレベル上げが難しい。俺やカズマ、ダクネスのように前線で敵を倒したり、めぐみんのように強力な魔法で遠くから殲滅したりできない。そんなプリーストのレベル上げの標的は──

 

「なんでも、町外れの共同墓地にゾンビメーカーが現れたそうなんです。駆け出しの冒険者パーティーでも倒せる雑魚モンスターなのですが、どうしますか?」

 

 ゾンビやゴーストを始めとしたアンデッド族だ。ファンタジーでよくあるが、アンデッドに回復魔法を使うとダメージになる。それはこっちの世界でも同じだ。

 

「俺は賛成だ。和真は?」

「右に同じく。アクア、お前もいつまでも泣いてないで、会話に参加して……」

「……すかー………」

 

 アクアは泣き疲れて眠っていた。子供かこの女神は。

 

 

 

 

 町外れにある丘の上。

 そこには、お金の無い人や、身寄りの無い人がまとめて埋葬される共同墓地がある。

 この世界の埋葬方法は土葬だ。今回の討伐対象のゾンビメーカーは、質の良い死体に憑依し、手下代わりに数体のゾンビを操る。

 墓場から少し離れたところで夕食を済ませ、現在の時刻は深夜を回った頃。

 

「……そろそろ来る頃だな」

「ねえカズマ、引き受けたクエストってゾンビメーカー討伐よね?私、そんな小物じゃなくて大物のアンデッドが出そうな予感がするんですけど」

「おい、そういうフラグになりそうなことは言うなよ。不安になってくる」

 

 今日はゾンビメーカーを1体討伐し、取り巻きのゾンビを土に還す。そして街に戻る。これがクエスト達成のために和真の立てたプランだ。計画以外のイレギュラーに遭遇した場合は、即刻逃げることになっている。

 敵感知スキルを持つ和真を戦闘に、俺達は墓地へと歩いていく。

 

「……敵感知に引っかかった。いるぞ、1体、2体、3体……4体?兄さん、ゾンビメーカーの取り巻きって2、3体じゃなかった?」

「ゾンビメーカー本体の数も含めば、そんなもんだと思うぞ」

 

 俺と和真で話していると、墓地の中央で青白い光が走る。妖しくも幻想的な光は、大きな円形の魔法陣になった。その魔法陣の隣には、黒いローブの人影が見えた。

 

「あれは……ゾンビメーカー……ではない……気が、するのですが……」

 

 自信なさげに呟くめぐみんの隣で、ダクネスは無言で大剣を構える。

 

「兄さん、《聞き耳》お願い」

「わかった」

 

 《聞き耳》とは、敵感知と同じ感知系のスキルで、足音や呼吸音などで敵を発見する。山やダンジョンで遭難した人を探す時に重宝されるスキルだ。和真の敵感知と違って数まではわからないが、応用すれば音の反響で暗い遺跡の構造を把握したり、音の違いを聞き分けてピッキングなんかもできる。

 俺が《聞き耳》を使うと、ゾンビのうめき声に紛れて魔法を詠唱する声が聞こえた。それは、とても聞きなれた声で──

 

「あーーーーっ!」

 

 突如叫んだアクアの声に、俺は両耳に手を当てて蹲る。音を利用する 《聞き耳》はスキルの性質上、大きな音に弱い。今アクアがやったように至近距離で大声で叫ばれると、良くて耳鳴り。悪くて鼓膜が破裂する。

 アクアはそのままローブの人物に向かって走り出し、和真はその後を追っていく。

 

「…………?………!?」

 

 俺の肩を掴んで揺さぶってくるダクネスの表情と唇の動きから、俺の身を案じていることはなんとなくわかったので、サムズアップで答える。

 とりあえずあのバカは1発ぶん殴ってやろう。俺は怒りを脚に乗せ、アクアのもとに駆け寄っていった。

 

 

 

 

「あはははははは、愚かなリッチーよ!自然の摂理に反する存在、神の意に背くアンデッドよ!さあ、私の力で欠片も残さず消滅するンケンシュタイナー!?」

 

 駆け寄ってきた兄さんはアクアに跳びついて頭を両腿で挟み、そのままバック宙の要領で体を反らし、アクアを地面に叩きつけた。兄さんの見事なリバースフランケンシュタイナーに、俺たちは称賛の拍手を送る。

 

「ちょっと!どうして私に技をかけるのよ!しかも受け身が難しい危険なやつ!」

「聞き耳使ってる横で大声で叫ぶからですよ」

「だって!リッチーが私達の街の墓場に現れたのよ!?めぐみんだって、そんなのが現れたら驚くわよね!?」

 

 頭を押さえながらアクアが抗議の声を上げる中、兄さんは半透明になって消えかかっているリッチーに近づく。

 

「おーい、ウィズー?大丈夫かー?」

 

 倒れているリッチー──ウィズの顔を覗き込むように屈み、肩を揺さぶる。

 

「知り合い?」

「ああ。街で小さいマジックアイテムの店を営んでいてな。仕事柄ちょっとした付き合いがある」

 

 俺と兄さんで会話をしている間に、半透明になっていたウィズはくっきり見えるまで戻り、涙目でフラフラと立ち上がる。

 

「え、ええ、何とか、大丈夫、です……。というか、どうしてハルキさんがここにいるんですか?」

「ゾンビメーカー討伐クエストを受けて、こいつ等とここに来たんだよ。カズマ、一応挨拶しておけ」

「は、はじめまして。サトウカズマです」

 

 俺が挨拶をすると、ウィズは目深に被っていたフードを上げる。外見は20歳くらいで、髪は茶色。俺たちと比べて肌が青白い。リッチーって言うからには、ゾンビやスケルトンを禍々しくしたような外見を想像していたんだが。

 

「はじめまして、ウィズと申します。貴方のことは、ハルキさんからお聞きしています」

 

 どうせクリスみたいなことを言われるだろうから、そのへんのことはスルーしておこう。

 

「それで、ウィズはここで何してるんだ?魂を天に還すとか言ってたけど、アクアじゃないが、リッチーのあんたがやる事じゃないんじゃないか?」

「ちょっと!こんな腐った蜜柑みたいなのと喋ったら、兄弟揃ってアンデッドが感染(うつ)るわよ!どきなさい!そいつにターンアンデッドをかけるから!」

 

 俺の言葉にアクアがいきり立ち、ウィズに魔法をかけようとする。

ウィズは兄さんの背後に隠れ、怯えたような困った顔をした。

 

「そ、その、私は見ての通りリッチー、不死者の王(ノーライフキング)なんてやってます。アンデッドの王なんて呼ばれますから、私には迷える魂達の声が聞こえるんです。この共同墓地の魂の多くはお金も身寄りもないために碌な葬式すらしてもらえず、天に還ることなく毎晩墓場を彷徨っています。それで、一応アンデッドの王な私としては放っておけず、定期的にここを訪れ、天に還りたがっている子達を送ってあげているんです」

 

 ……感動した。

 なんていい人なんだ。

 

「それは立派なことだし、善い行いだとは思う。でも、そういうことは街のプリーストに任せるべきじゃないか?」

 

 俺の疑問に、言いにくそうにするウィズの代弁をするように。

 

「残念ながら、街のプリーストは拝金主義者ばかりでな。コレのない人は後回しにされるんだ」

 

 兄さんが親指と人差し指で輪っかを作って見せる。それで察したのか、全員の視線がアクアに集まる中、当の本人はバツが悪そうにそっと目を逸らす。

 

「じゃあ、これからはアクアが墓地の除霊を定期的に行ってことでいいか?本人も暇を持て余しているようだし。ウィズも今まで人を襲ったことはないし、これからも襲わないんだろう?」

「はい」

「アクアもそれでいいな?」

「……私の寝る時間が減るけど、やるわよ。迷える魂を浄化するのは私の仕事だから」

 

 そっぽを向き、嫌そうな言い方で頷くアクアと、柔らかい笑顔で頷くウィズ。

 結果として、ウィズのことを見逃すことになった。

危険なモンスターを放置することにめぐみんとダクネスが抵抗感を示したが、彼女の性格と経歴から危険性は低いと判断したのか最終的には同意してくれた。

 そしてウィズは、ここで会った縁とお礼も兼ねてカズマに名刺を渡した。そこにはウィズの家の住所と、お店の営業時間が書かれていた。

 

「アクアの目の届かないところに保管しておけよ」

「わかってる」




ハルキの現時点での年齢は22歳です。

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