この兄弟に祝福あれ   作:大豆万歳

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第23話

 翌朝。仕事に行くめぐみんの親御さんを見送った後のこと。

 

「なあ、なんで俺は表で正座させられてんの?ここはいつから奉行所になったの?」

「黙りなさい。この虫けらが」

 

 虫けらはあんまりだと、和真が腕を組んで仁王立ちするアクアに抗議する。

 

「聞いたわよ。寝ているめぐみんに悪戯をしようとしたそうじゃない。何か言い訳があるなら言ってみなさい」

「あのなアクア、俺だって健全な男の子だ。あんな状況に放り込まれたら抵抗するのは難しい。というか、同じ布団で女の子と寝ているのに、何もしないほうが失礼だと思う」

 

 そう熱く語る和真に、めぐみんが縄を持って告げる。

 

「縛り上げてオークの集落に放り込まれるか。今日1日観光案内で財布役をするか。好きなほうを選んでください」

 

 和真は無言で土下座し、財布を差し出した。

 どうやら和真への罰は決まったらしい。ならここからは自由行動か、そう思った俺の背中に。

 

「何処へ行こうというの?ハルキとダクネスもそこに正座なさい」

 

 アクアから声をかけられた。いや、俺が何をしたって言うんだ。

 

「あんた、昨夜ダクネスと同じ部屋で寝たっていうのに何もしなかったそうじゃない。折角相部屋になったんだから、やる事もやらないでぐっすり安眠するとか馬鹿なの?童貞拗らせて紳士面するのもいい加減にしてくれない?見ていて凄くイライラするんですけど」

「いやいやいや。そもそも付き合っているわけでもない相手と何をやれっていうんだお前は」

「何って、ナニに決まってるじゃない。言わせないでよ恥ずかしい」

 

 朝っぱらから言ってる時点で恥ずかしいもへったくれもないと思うんだが。ダクネスも同じように抗議する。

 

「そもそも、皆に聞かれてしまったらどうすればいい?とても気まずくなると思うんだが」

「めぐみんのお母さんが言ったでしょ。知らぬ存ぜぬを貫くって。ただ、夕飯に赤飯を出してそれとなくお祝いするくらいよ。というわけで、ハルキとダクネスは今日は外泊を」

「おおっと!何故かここに俺が署名したアクシズ教の入信書が」

「わあああああっ!」

 

 入信書を破こうとすると、アクアが泣き喚きながらそれだけは止めてと言う。何でもするからと懇願するアクアに、無罪放免を要求したらすんなりと通った。これから困ったときは、この手を使うか。よし覚えた。

 

 

 

 

 めぐみんとゆんゆんの母校『レッドプリズン』。

 

「そういえばめぐみん。私の書いた小説はどうだった?同居しているんだ、読んだんじゃないか?」

 

 是非とも聞かせてほしいと、めぐみんに迫っているのは、同級生の1人あるえ。例の小説の作者だ。

 本人は名乗る時に『紅魔族随一の発育』と口にしていたが、まさにその通りだった。何処とは言わない(おっぱい)が大きかった。

 ゆんゆんも年齢の割には大きい部類だが、彼女も中々大きい。何処とは言わない(おっぱい)が。

 それはもうめぐみんとは天と地程の差が──

 

「カズマ?」

「いいえ、何でもありません。めぐみん様」

 

 俺の考えを読んだのか、俺の鼻先に杖を突きつけてめぐみんが笑顔になる。だが、目は決して笑っていなかった。更に、瞳が紅く輝いていた。あるえと一緒にいた、ふにふらとどどんこは、あれがめぐみんとゆんゆんの仲間かとひそひそ話していた。

 

「それで、小説の感想でしたね。内容は悪くなかったのですが、登場人物にゆんゆんの名前を使ったのは駄目でしたね。そのせいで、ゆんゆんがとんでもない行動に出たので」

「そうか。ところで、そのとんでもない行動について詳しく」

 

 あるえは何処からともなくメモ帳とペンを取り出し、めぐみんにズイッと顔を近づける。めぐみんは圧が凄いから余り近づくな、とあるえの肩に手を置いて押しのける。

 

「まあ、個人名は伏せますが。私の所属するパーティーには、『さっさと結婚しろ』と常々言われているバカップルがいるのです。その男性が小説でいうところの、ゆんゆんの伴侶となる相手の条件に合致していたのですよ。そして、族長の手紙の内容で慌てていたゆんゆんは小説の内容を真に受けて、その男性に子づくりを迫りまして。あやうく痴情のもつれでパーティーが解散するところでした」

「つまり修羅場だね、最高じゃないか。そしてありがとう。小説の良いネタになりそうだよ。……そういえば、そのお相手のお名前は?いや、次に送った時に同じようなことになるとまずいからね」

「名前はハルキ。ここにいる、カズマの実の兄です」

「年下の義姉(あね)ができるところでした」

「成程……」

 

 あるえはペンを走らせ、ホクホク顔でメモ帳を閉じる。次を楽しみにしていてくれ、とめぐみんに告げると、学校をクールに去った。

 

 

 

 

 その後、めぐみんと紅魔の里を観光して周り、『魔神の丘』に来ていた。

 めぐみん曰く、この丘の上で告白して結ばれたカップルは、魔神の呪いによって永遠に分かれることができないと大人気らしい。重い上にやたら怖い。ロマンもへったくれもないな。まあ、(のろ)いではなく(まじな)いと捉えればプラスになる……か?

 

「そういえばめぐみん。さっきここに来る途中で会った紅魔族の女の子のことだけど……」

「もしかして、めいつかさんのことですか?言っておきますけど、あれで年上ですよ。具体的な数字は言えませんが、ハルキよりも上です」

「マジで!?」

「ええ。付け加えるなら、あるえの姉です」

「そ、そうか。確かにどことなく似ている気はしていたけど。姉だったかぁ……」

 

 身長はめぐみんと大体同じくらいで、まごう事なき絶壁。初見だから妹と勘違いしたが、その逆だったか。いや、それは重要じゃない。

 

「彼女がなにか?」

「いや、何か腰の辺りに妙な物をぶら下げていたからさ。何かのマジックアイテムかなー、って思って」

 

 そう言うと、めぐみんが少し悲しそうに表情を曇らせる。

 

「……あるえ曰く。冒険者として活動していた頃の仲間の形見の品らしいです。10年ほど前に里に戻ってきて以来、石化魔法をかけて悪用されないようにしたうえで、毎日身に着けているそうですよ」

「お、おう。すまん」

 

 何も悪いことをしたわけではないのに、ついつい謝ってしまった。けど、あの造形。俺の記憶が正しければあれは間違いなく……

 

「……お?」

 

 思考に没頭するのを一旦止めて丘から里を見下ろす。

 俺達のいる丘は、里の全貌が良く見える。当然、里の横手側にあるめぐみんの実家に、黒い影が蠢いているのも見えた。

気になった俺が千里眼を使って目を凝らすと……

 

「おい!めぐみんの実家の近くに魔王軍が来ているぞ!」

 

 めぐみんの実家は里の隅、他の住宅とは離れた位置にある。そこに、魔王軍と思しき連中がコソコソ集まってなにかしていた。警報が流れないということは、里の人達は気づいていないということか。

 

「おやおや。性懲りもなくまた来たのですね。しかも正面からは敵わないからと、裏からこっそり攻めてきましたか」

「吞気に言ってる場合か!下に降りて、里の人達も連れて行くぞ!このままだと里に侵入される!」

 

 

 

 

「シルビア様!お下がりください!ここは我々がっ!?」

 

 ダクネスに途中から合流したゆんゆんを加えて里の観光を終えた俺達は、めぐみんの実家近くにある木柵を破って里に侵入してきた魔王軍と応戦していた。

 ダクネスは俺と魔王軍の間に壁のように立ち塞がって攻撃を防ぎ、俺は少し離れた位置から相手の肩や膝への狙撃で無力化させていた。俺達の目的はあくまで時間稼ぎ。後は和真達が帰ってきたら、里の人達を呼んできてもらう。

 

「2人とも、遅くなってごめん!応援を呼んで来たよ!」

「遅いぞ!いや、呼ばなかった俺達が言えたことではないけど」

 

 やってきた和真が大勢の紅魔族を連れて来たからか、魔王軍が顔を恐怖で青くする。

 そいつらを守るように、シルビアと呼ばれた大柄な女性が前に出た。おそらく、こいつが紅魔の里へ攻め込んでいる魔王軍を指揮している幹部なのだろう。

 

「わざと膝やら肩を狙っていたのは、応援が来るまでの時間稼ぎってとこね?でも不思議だわ。あれだけの矢を、一体どこに持っていたのかしら。見たところ、矢筒も背負っていないのに」

 

 シルビアは俺のことをジロジロと眺め、顎に手を当てる仕草をして考えている。

 

「……あらあら。考えこむのは止めたほうが良さそうね。後ろにこわ~い紅魔族が沢山いるんだもの」

「おっと。怖いのは紅魔族だけじゃないぞ」

 

 そう言った和真が、アクアとめぐみんを連れて俺の隣に来た。

 

「こいつはうちのアークプリーストだ。それもただのアークプリーストじゃない。お前の仲間のベルディアと、ハンスを単独で浄化した凄腕のアークプリーストだ」

「なんですって!?確かに、ハンスからの定期連絡は途絶えていたけど、その女が……!?」

 

 和真の言葉を聞き、シルビアが驚愕の表情を浮かべ、部下達がそれに合わせて後ずさる。アクアも自慢げに胸を張り、かかってこいと挑発する。

 

「しかも、お前が怖いと言った紅魔族の中でもめぐみんは最上位だ。なんせ、バニルと機動要塞デストロイヤーを討伐したからな」

 

 和真の言葉に、魔王軍と紅魔族の皆さんが騒めく。めぐみんの方も、満更でもなさそうに口元をニマニマさせていた。

 

「……貴方が彼女達のまとめ役みたいね。名前を教えてもらえないかしら?」

「……御剣響夜だ」

 

 こいつ、肝心な所でヘタレやがった。よりにもよって御剣の名前を名乗るか。そんなの直ぐにバレるに決まって……。

 

「ミツルギ!貴方が噂の魔剣の勇者ミツルギね!?ということは、腰の変わった剣が例の魔剣かしら?……男らしいイケメンって言われる割には、あまりパッとしない顔ね。でも、アタシの好みだから問題ないわ。じゃあ、隣のお兄さんはどなた?」

「俺の実の兄だ」

「やだ、兄弟揃って私の好みじゃないの!どうしましょう、どっちを選べばいいのか悩んじゃうわ~」

 

 あっさり騙されたシルビアは、和真に見逃してもらえないかと提案する。和真が上手いのか、シルビアが間抜けなのか。

 

「そうだな。このままやったら間違いなく俺達が勝つだろうが、ここでお前を倒しても、紅魔族の力を借りたみたいで後味が良くない。俺は今日のところは見逃してやってもいい。だが後ろに控えている紅魔族が見逃すかな!」

 

 そう言って和真が目を見開くと……。

 

「感謝するわミツルギ!私は魔王軍幹部が1人、シルビア!また会いましょう!……撤退!」

「逃がすな!『ライトニング・ストライク』!」

「『ライト・オブ・セイバー』!」

「捕まえて魔法実験の実験台だああああ!」

 

 シルビアが踵を返して逃げるのを、紅魔族達が追いかけていく。

 

「……魔王軍幹部、シルビアか」

「いい加減その演技を止めろ。気持ち悪いぞ」

 

 

 

 

 その日の夜。めぐみんの実家にもう1泊することになった俺と和真が風呂から上がって居間に戻ると。

 

「あれ?アクア達は?」

「ああ。アクアさんなら、族長の娘さんのところに泊まると言って、母さんと一緒に行ったよ。仲間外れでゆんゆんが寂しい思いをしているだろう、とね」

 

 居間に残っていたひょいざぶろーさんが、そう言った。更に、めぐみんは既に自分の部屋に行って寝たらしい。

 

「ダクネスは……」

 

 居間の隅に目をやると、寝こけているダクネスがこめっこの抱き枕になっていた。どういうことだと目で問いかけると、ひょいざぶろーさんはそっと目を逸らしてたらりと汗をかく。間違いない、奥さんの仕業だな。

 少し待っていると、玄関の開く音が聞こえた。そして足音が段々と近づいてきて──

 

「ああ、母さん。お帰」

「『スリープ』」

 

 ひょいざぶろーさんが崩れ落ちた。帰ってきた奥さんは、めぐみんを小脇に抱えたまま笑顔を浮かべて。

 

「ハルキさん、カズマさん。皆を部屋まで運ぶのを手伝って頂けますか?」

「「イエス、マム」」

 

 そして、俺とダクネスにあてがわれた部屋。

 

「すぅ……」

 

 雨除け用のマントを体に巻き付け、布団で寝ているダクネスの隣で俺は横になっていた。アクア達は執拗に俺とダクネスを相部屋にしたがるが、俺とダクネスの関係はあいつらの目にどう映っているんだろうか。

 確かに、工房で一緒に寝泊まりなんて普通にしていた。それにしたって、間にクリスを挟んで更に人1人分の距離を開けていた。飯だって、外で食うより安く済むからと料理スキル持ちの俺が基本的に作っていた。クエストの時は当然として、それ以外で用がない時は工房で仕事して、ダクネスはそれを黙って見ているか、クリスと街を散策していた。たまには外の空気を吸えと言うダクネスに、工房から引きずり出されることはあったけど。

 それだけで男女の仲だと言われるだろうか?そもそも言い出したのは誰なんだろうか?噂を流しそうな人間を、知り合いの中からリストアップして推測してみる。

 

「商店街のおばちゃん達。クリス。モロトクさん。街の冒険者。……ダメだ、心当たりが多くてわからん。でもダスティネス家の誰かということはないな、うん」

 

 噂を流しそうな知り合いが割と多かったので、考えるのを止めた。

 

「……ん……」

 

 スリープが解けたのか、ダクネスが目を覚ました。横になったまま部屋を見渡し、最後に俺と目が合う。

 

「ああ、そうだった。私はまた、ゆいゆいさんのスリープで寝てしまったんだ」

 

 騎士として情けないとか、状態異常耐性にもスキルを割り振ろうとか言いながら、ダクネスは寝ぼけまなこを擦る。

 

「なあハルキ。昨夜はそこまで寒くなかったから良いが、今日は布団に入ったほうがいいぞ」

 

 こっちに来いと、ダクネスは俺の分のスペースを空けて手招きする。

 

「……いいのか?」

「お前の体調が最優先だ。だから、さあ」

 

 お言葉に甘えて、と。畳んだマントを部屋の隅に置いて、深々と頭を下げて布団に入る。

 

「あ、でも枕が1つしかない」

「……お前が枕を使ってくれ。その代わり、私はお前の腕を枕にする」

「お、おう」

 

 俺が左腕を横に広げると、そこにダクネスが頭を置く。感触からして側頭部を乗せているようだ。このまま見て確かめたら、絶対目と目が合って凄い気まずい空気になる。というか、ダクネスの体温を至近距離で感じているもんだから動悸が凄いことになっている。

 

「ハルキ、耳が赤くなっているのだが」

「気にするな」

「そ、そうか……」

 

 ダクネスの吐息が直に耳にかかる。鎮まれ、鎮まるのだ、我が分身よ。街に帰ったらサキュバス=サンのお店で思いっきり発散するから、それまで我慢するのだ。いくら相手が黙っていれば美人の体現者で、俺好みの外見であっても手を出してはならんぞい。

 ちょっと言動がおかしなことになっているな。そうだ、素数を数えて落ち着こう。2、3、5、7……。

 

『魔王軍襲来!魔王軍襲来!既に魔王軍の一部が、里の内部に侵入した模様!』

 

 俺が素数を数え始め、3桁の素数を数えようとしたところに、そのアナウンスは流れた。




補足
・めぐみん、自室に入ってすぐに窓から逃亡して族長宅へ向かう→アクアを送り届けたゆいゆい、それを読んで待ち伏せ→めぐみん、母親と遭遇しスリープ
・めいつか:紅魔族随一の脚本家。10年ほど前にパーティーを組んでいた冒険者が流行り病で亡くなり、彼の遺品を持って帰郷。元々文才があったので、脚本家の道を選んだ。彼女とパーティーを組んでいた冒険者は、黒髪黒目の変わった名前の人物であったらしい。名前の元ネタはあるえの中の人の名前の読み仮名を音訓変更
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