この兄弟に祝福あれ   作:大豆万歳

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対シルビア前半戦始まります。


第24話

 この騒ぎを聞いた俺達が布団を跳ねのけ、装備を整えていると奥さんが鍵を開けてくれた。ひょいざぶろーさんは、族長の家で寝泊まりしているアクアを呼ぶべく家を飛び出したらしい。

 

「『投擲』!」

「あっつうい!」

 

 開きっぱなしの玄関を飛び出し、視界に入ったシルビアにアルカンレティアで買った聖水入りの瓶を放り投げる。聖水を浴びたシルビアは和真の拘束を解くと、聖水を払うように手足を動かす。

 

「いきなりやってくれるわね!下級悪魔の皮で拵えたドレスがボロボロになったじゃない!けど残念ね、アタシは純粋な悪魔じゃないわ。結構痛かったけど、致命傷にはならないわ。でも、次に攻撃したら貴方の可愛い弟の命はないと思いなさいな!」

 

 半裸になったシルビアはそう言うと、和真にバインドをかけて名乗りを上げる。

 

「我が名はシルビア!強化モンスター開発局局長にして、自らの体に合成と改造を繰り返してきた者!そう、アタシはグロウキメラのシルビアよ!」

 

 ……紅魔族との交戦で、影響を受けてしまったようだ。そして拘束された和真はと言うと、シルビアの豊満な胸に後頭部をゆったりと沈めて寛いでいた。

 

「シルビアと言ったな!この家の者が、既に他の紅魔族を呼びに行った。ここに援軍が来るのも時間の問題だろう。そこでお前の胸に後頭部を埋め、幸せそうにしている仲間を置いて大人しく投降しろ!」

「おい和真。お前自分が何してるか分かってるのか?相手がいくら美人でも、そいつは敵なんだ。わかったら少しは抵抗を──」

「リア充は黙っとれ」

 

 和真は両足を軽く上げて組み、偉そうに椅子に座ってふんぞり返っているようなポーズをとる。無駄に器用な奴だ。

 

「おいそこのバカップル。お前らはいつになったら結婚するんだ。身分がどうのこうのと気にしているなら、さっさと既成事実をこさえてしまえ」

「なあ和真、お前何を言って」

「四の五の言ってないでダクネスを抱いてきて!今からでも後でもいいから、さっさとやることヤってきて!文句をぬかす連中の対処は俺達がするから!ほら早く!」

 

 シルビアに拘束された状態でジタバタしながら、和真が駄々をこねる。こいつは一体どうしたんだ。もしや、シルビアの豊満な胸に魅了された結果、今まで溜まっていたストレスが噴出してしまったのだろうか。でもな和真、胸ってのは大きければ良いもんじゃないんだよ。

 そんな和真を宥めるように、シルビアは和真の頭にそっと手を置く。

 

「どうどう。お兄さんとお義姉(ねえ)さんのことを思って言ったのでしょうけれど、一旦落ち着きましょう?」

「は~い♡」

「誰がお義姉(ねえ)さんだ!」

 

 ダクネスが顔を真っ赤にして叫ぶが、シルビアの耳には届いていないようだ。

 

「2人を想う気持ちはよ~くわかるけれど、急がせるのは駄目よ?結婚っていうのは、お互いの人生における大きなイベントの1つなのだから。焦らず、段階を踏んで進めないと悲惨なことになっちゃうものなの」

 

 その言葉に、ダクネスはシルビアを睨みつけ。

 

「魔族でありながら、人間の心がわかるかのような口ぶりだな。見た目と違って、随分長生きなようだな」

「ええ、分かるわよ。男心も、女心も」

 

 シルビアは当然だとでも言うように、続けた。

 

「だってアタシ、半分は男ですもの」

 

 シルビアの言葉に、その場の空気が固まった。特にショックが大きかったであろう和真は、目を点にしてシルビアの顔を見上げる。

 

「アタシ、キメラだから。貴方が大好きなこの胸も、後から合成してつけたのよ?」

 

 和真は顔を真っ青にして、ガタガタと震え始める。そんな様子なのを意に介さず、シルビアは和真が気に入ったと言って頬擦りする。

 

「シルビアさんシルビアさん。気のせいか、俺の尻に熱くて硬い何かが当たっているような……」

 

 和真の言葉にシルビアが。

 乙女チックに恥じらったと思おうと、とても誇らしげに言った。

 

「自慢のムスコよ!」

 

 和真は、白目を剝いて気絶した。

 

「させないわ!『ヴォミト』!」

 

 和真を助けようと駆け出した俺達に向けて、シルビアが魔法を放つ。魔法を受けて吐き気を催した俺達は、急いで別々の樹の根元に顔を向けて。

 

『おええええ……』

 

 吐いた。

 シルビアが使った魔法『ヴォミト』の効果は、かけた相手に胃の内容物を吐かせること。こんな効果をしているが、敵味方問わず使用できる支援魔法扱いのために魔法耐性が通じない。主な使用用途は、誤って毒物を口にしてしまった人に毒物を吐かせたり、モンスターに飲み込まれた仲間を救出するためにモンスターに仲間を吐かせるのに使われる。ただ、使用時の絵面が酷すぎることもあり、爆裂魔法に次ぐネタ魔法という扱いを受けている。

 

「皆さん、大丈夫で」

「はい、ゆんゆんはそこでストップしてちょうだい」

 

 一頻り吐いたところで駆けつけたゆんゆんを、アクアが止める。見れば、他の紅魔族の方々もそっと目を逸らしていた。

 

「『クリエイト・ウォータースフィア』!」

 

 アクアはまず、ダクネスとめぐみんの口に水の球体を放り込み、濯いで吐き出すように言う。2人が口の洗浄を終えると、俺の番が回ってきた。

 

「はーい、口開けてー。そこの茂みでペッしてきなさい」

 

 俺が口の洗浄を終えると、シルビアが向かうであろう場所、『世界を滅ぼしかねない兵器』が封印されているという地下格納庫へ来た。めぐみんの予想では、シルビアの狙いは中にある兵器のようだ。

 

「和真!無事か!?」

「う、うん。何とか、この通り」

 

 格納庫から出てきた和真は、何かを成し遂げたような、晴れやかな表情をしていた。

 

「シルビアを中に閉じ込めた!?ま、まあ、中の兵器は誰も動かせませんが……」

 

 和真の行動に幾分引いた表情のめぐみんとは対照的に、紅魔族の皆さんは和真を口々に褒め称える。

 

「なあ和真。ここって危ない兵器が保管されているんだよな。そんなところに閉じ込めて良かったのか?」

 

 俺の言葉に、アクアとゆんゆんがそうだそうだと言う。

 

「なーに、俺達にすら使用方法が解読できないんだ。シルビアにそれができるはずないさ」

「そうそう。もしシルビアが兵器を起動させたら、逆立ちで里を1周してやってもいい」

「帰って1杯やって寝るかー」

「ごめん、兄さん。今の里の人達の台詞でフラグが立った」

 

 和真の言葉を裏付けるように、地面が揺れ始めた。そして土が盛り上がり、周囲に飛び散る。土煙の中から姿を現したのは──。

 

「閉じ込めれば倒せると思ったようだけど、残念だったわねボウヤ!私は兵器だろうと何だろうと取り込んで一体化できる、グロウキメラのシルビアよ!」

 

 下半身を、巨大なメタリック色の蛇の胴体と化しながら。勝ち誇った高笑いを上げるシルビアだった。

 

「皆逃げるぞ!『魔術師殺し』が乗っ取られた!」

「『テレポート』!」

 

 紅魔族の悲鳴が上がり、何人かがテレポートを使用してどこかへ逃げる。

 

「おいめぐみん!『魔術師殺し』ってなんだよ?お前の言ってた『世界を滅ぼしかねない兵器』ってあれのことか?」

「いいえ。アレではない筈です。ですが、シルビアが一体化した『魔術師殺し』というのは同じくらい危険な物で──」

 

 顔を青くするめぐみんの言葉に、ゆんゆんが続ける。

 

「魔法が効かないという特性を持つ、私達紅魔族の天敵、対魔法使い用の兵器です!」

 

 何でそんな危険な物を紅魔族は今まで保管していたんだ!

 

 

 

 

「で、めぐみん。何で地下の格納庫にあんな危険な物が今まで保管されていたんだ?」

 

 他の紅魔族達と一緒に魔神の丘に避難してきた俺達の眼下では、ラミアの様な姿になったシルビアが燃え盛る炎を吐いて里を焼き払っていた。幸いなことに、紅魔族の多くは、テレポートの魔法を使える。そのため、人的被害は出ていない。

 

「その、非常に言いにくいのですが。……同じ格納庫にあった兵器を使って一度破壊した後、せっかくだから記念に残そうということで修理して、再封印を施したそうです」

「お前らのご先祖様は馬鹿か!?……いや、一度破壊したってことは、もう1度同じ手を使えばいいんだよな。その兵器は、今何処に?」

 

 毒を扱う場合は解毒剤も持ち歩くように、あの魔術師殺しを破壊した兵器も一緒に保管してある筈だ、と。和真は言う。

 めぐみんは首を横に振ると、言った。

 

「……残念ですが、魔術師殺しを仕留めたという兵器は、誰にも使い方が分からないのです。使用方法を記したとされている文献も残されているのですが、里の族長ですら解読不可能な文字でして……」

 

 どうしたものか、と和真は頭を掻く。

 魔法はまず通じない。

 長身のシルビアが小さく見えるほど巨大な、あの蛇のような胴体に巻き付かれればダクネス以外は圧殺される。

 

「どうする?和真」

「……兄さん、ダクネスと一緒にシルビアの注意をできる限り引き付けて。その間に潜伏で例の兵器を探し出して、使い方の書かれた文献を解読してくる」

 

 一か八かの賭け。自分の高い幸運があれば、乗り越えられるという和真の言葉に、紅魔族の方々が賛同する。どうやら彼らの琴線に触れたようだ。

 

「ねえ、魔王軍の幹部が暴れている真っ只中に飛び込むなんて危ない事、したくないんですけど!私の仕事は安全圏からの支援なんですけど!?」

「いいからお前も一緒に来い!俺1人じゃ探すのも大変なんだよ!」

 

 駄々をこねるアクアを連れ、和真は地下格納庫へ向かった。

 

 

 

 

「クソッ、どこだ!?せめて、手記か何かが見つかれば特徴もわかるんだけど……」

「ちょっとちょっとカズマ!凄いの見つけたわよ!」

 

 里の地下格納庫。

 アクアを連れてやって来た俺は、シルビアが開けた穴から中に入り込み、魔道具の山から目的の物を探していた。

 何を見つけたか訊ねると、アクアは嬉々として拾ったものを見せびらかした。

 

「じゃーん!日本のゲーム機よ!」

「はぁ!?おま、何でそんな物がここに……」

 

 アクアの手元にあるゲーム機を見た後で魔道具の山をしっかりと観てみれば、それは日本のゲーム機や、ソフトの入ったケースだった。ただ、そのどれもが微妙に歪んでいる。まるで、素人が無理矢理作り上げたようだ。どういうことだと考えていると、部屋の隅に手記の様な物を発見した。

 

「おい、アクア。ちょっと来い」

「どったのカズマさん?」

 

 俺が拾った手記は、日本語で書かれていた。それはつまり、この施設は俺よりも先にこの世界に送られた日本人が作った建物ということ。

 更に手記を読み進めていくと、犬型兵器のつもりが蛇型兵器になったとか、紅魔族が元は改造人間だったとか、けど感性は施術前からのものだとか、蛇型兵器に対抗できる兵器にレールガン(仮称)を作ったとか、お偉いさんが莫大な国家予算をかけて超大型兵器を作る計画を立てているとか、そんなことが書かれていた。

 俺はこの手記を書いた人間に心当たりがある。大物賞金首機動要塞デストロイヤーを作り出し、俺達が紅魔の里に来る少し前に請けたクエストで調査した遺跡の主と同一人物だろう。

 そして手記によると、魔術師殺しに対抗するべく作られた兵器は物干し竿並みの長さの物体らしい。

 

「待てよ?どっかで見た気が……ああ!思い出した!おいアクア!例の兵器の場所が分かっ」

「ねえ和真。これちゃんと動くわよ。電池の代わりに魔力を使うみた」

「遊んでる場合かぁ!」

 

 俺はアクアの手からゲーム機を取り上げ、大きく振りかぶって放り投げた。

 

「返してよ!もうこの世界じゃ手に入らないお宝なのよ!?弁償して!街に帰ったら貰えるお金全部で弁償して!もう手に入らない希少価値を考えたら、3億なんて安いものでしょ!?」

「ゲームで遊んでる場合じゃねえんだよ!これが終わったら一緒に探してやるから、さっさと行くぞ!」

 

 そもそもあれは落ちていた物であって、こいつの物ではないんだが。それを言うと余計に騒がれるから、ここはグッと堪える。

 そして到着した、里にある服屋。店の庭には、鈍い銀色のライフルが、物干し台に鎮座していた。長さにしておよそ3mを超えるそれは、1人では担げそうにないのでアクアに手伝ってもらうことにした。後部には魔法を吸収する機構なのか、ゴテゴテした物が付いている。

 

ベネ(良し)。後はこれを紅魔族の下に持って行って……ん?」

 

 俺は胸騒ぎと同時に、違和感を感じた。

 先程まで聞こえていた破壊音が止んでいる。不思議に思って見渡すと、そこにシルビアはいた。

 俺達から遠く離れた場所で、シルビアは動きを止めてある一点を見つめていた。

 シルビアにバレないように慎重に移動した俺の目に飛び込んできたのは。

 

「……ゆんゆんは何をしているんだ?」

 

 見れば、ゆんゆんが大きな岩の上でガイナ立ちし、シルビアを睨みつけている。他の紅魔族は既に魔力を使い果たしたのか、ジッとゆんゆんを見守っている。

 一体何がどうなって今の状況になったのだろうか、俺の疑問は、次のシルビアの言葉とゆんゆんが突き出した物が解決した。

 

「確かに、貴女の冒険者カードのスキル欄には、空間転移魔法は記されていないわね。自分からテレポートで逃げられないことを教えるなんて、どういうつもり?」

 

 俺もシルビアと同意見だ。ゆんゆんは何でそんなことを、直ぐに逃げられそうにない場所でしたのだろうか。頭を捻って考えていると、隣から肩を叩かれた。

 そちらを見てみると、いつの間にか隣に来ていた兄さんとダクネス、めぐみんの3人が来ていた。

 

「和真、それが例の兵器か?」

「うん。ていうか、ゆんゆんを助けに行かなくていいの?」

「いや、私とハルキで助けに行こうと思ったのだが……」

「彼女は何かやるつもりのようですので、邪魔してはいけないと私達が止めました。大丈夫です、岩の周りの踏まれた草を見るに、既に助けは入っています。ここは見守りましょう」

 

 助けが入っている?それってつまり、光を屈折させる魔法で姿を見えなくしているということか?そこまでしてあるなら、何故見守るだけに徹しているんだろうか。

 めぐみんの言葉に疑問符を浮かべる俺の目の前で、ゆんゆんは片足を上げてピタリとバランスを取り。

 

「我が名はゆんゆん!アークウィザードにして、上級魔法を操る者!」

 

 ゆんゆんは、紅魔族の人々の注目を集めたまま。

 恥じらいを投げ捨てるようにマントを翻し、宣言した。

 

「魔王軍幹部シルビア!紅魔族族長の娘として……!紅魔族の族長となる者にしか伝えられていない禁呪を見せてあげるわ!」

 

 片手のワンドを高らかに掲げ、何かを小声で呟いた。

 それは、雷系の魔法だったのだろう。夜空を切り裂く蒼い稲妻が、ゆんゆんのバックに轟音と共に轟いた。

 そんな、ヒーローが現れた時のワンシーンのような光景を見た紅魔族の皆さんは、感動したように涙を流していた。隣のめぐみんに至っては号泣までしている。どういうこと?

 

「皆見たよな!?ゆんゆんがようやく覚醒したぞ!」

「ああ!見たとも!」

「俺の教えたことっ、しっかり活かしてくれて……っ!自慢の教え子だよ、ゆんゆん!」

 

 紅魔族の人達には、今のは飛び切り格好いい演出に映ったらしい。

 今の一連の過程で、孤立気味だったゆんゆんは、里の住人達に本当の仲間だと認められたようだった。

 ……それはつまり、1人のまともな少女が、堕ちてしまった瞬間というわけである。

 後日冷静になって思い出したら、恥ずかしさのあまり死のうとするかもしれない。そうならないように、美味しいご飯を食べさせたり、優しく接したりして慰めてあげよう。

 

「……それで?奥義だの必殺技だの言って結局逃げる、口だけの紅魔族の代表の貴女の禁呪を早く見せてくれない?」

 

 ジッと自分を見つめたままのゆんゆんに焦れたシルビアが挑発する。しかし、ゆんゆんは動かない。

 シルビアが這いずって近づき始める。しかし、ゆんゆんは動かない。

 溜めるように、シルビアは体を沈める。しかし、ゆんゆんは動かない。

 そしてシルビアが飛び掛かると、ゆんゆんは一瞬早く岩から飛び降りて駆け出した。

 そんなゆんゆんを、今まで散々紅魔族達にからかわれ、逃げられたために怒りで目を血走らせたシルビアが。

 

「逃がさないわよ。逃がさないわよ。逃がさ……っ!?」

 

 狂喜しながらゆんゆんを追いかけようと、飛び乗った岩の上からゆんゆんを追いかけようとしたシルビアが、何かを見つけたかのように動きを止めた。

 どういうことだと目を向けると、ゆんゆんが駆けた先の何もない空間から、2人の男女が現れた。

 ぶっころりーと、女性の名前をめぐみんに聞いたところ、そけっとという名前らしい。

 どちらかが光を屈折させる魔法で姿を隠して近づき、術を解除したようだ。つまり、もう片方はテレポートを何時でも使えるようにしているわけで……。

 

「ちょっと、待ちなさ」

「『テレポート』!」

 

 シルビアが待ったをかけるのも虚しく、ゆんゆんはテレポートで姿を消した。

 

 

 

 

 これは酷い。シルビアに同情を禁じ得ない。

 紅魔族が固唾を飲んで見守る中、シルビアが、カタカタと震えだした。

 

「……フフッ。アーッハッハッハッ!揃いも揃って口だけの根性無しばかりじゃない!何が最強の魔法使い集団紅魔族よ!こんなのに今まで苦戦してきた自分が馬鹿らしくなってきたわ!」

 

 体を震わせて哄笑するシルビアから離れたところに隠れていた俺達は、レールガンによる狙撃の準備をしていた。

 聖水でダメージが通るなら、アクアの破魔魔法の出番だ。こいつを圧縮してぶっ放す。狙撃役は俺がやる。撃った時の反動のことを考えたら俺の方がいいだろう。和真がやったら肩が死ぬかもしれない。

 

「『セイクリッド・エクソシズム』!」

「『狙撃』!」

 

 アクアの放った破魔魔法がレールガンに吸い込まれ、俺が引き金を引き絞る!

 ……しかし、何も起こらなかった。

 

「あれっ?何で?」

「何処かに安全装置(セーフティー)があるのか?」

 

 俺と和真でレールガンを隈なく観察してみるが、それらしい機構は見当たらない。まさか、長いこと物干し竿として使った結果、パーツが故障してしまったか?それとも紅魔族じゃないと扱えないとか?

 どういうことだと考える俺と和真の隣では、魔法が吸い込まれるのが面白いのか、アクアが何度も破魔魔法を唱えている。

 

「あらあら、そんなところで何をしているのかしら?」

 

 アクアが魔法を使ったことで、俺達の位置がバレたのか。

 

「なあに、それ?随分と面白そうな物を持ってるじゃない!」

 

 シルビアが血走った目でこちらに狙いを定めた!

 

「させるかぁ!」

「待てぇい!」

「どきなさい!うっとおしい!ねえ、ボウヤ!貴方が持っているそれを置いていきなさい!アタシの勘が、それがとっても危険な物だって囁いているの!」

 

 足止めをしようとちょっかいをかける紅魔族を無視して、シルビアが俺達を追いかけてくる。

 和真が抱えるレールガンがヤバい物だと分かったらしい。

 そして和真は、顔を青くして逃走スキルをフル活用していた。

 

「逃げても無駄よ、サトウカズマ!そして聞きなさい、紅魔族!今日からアタシがあんた達の天敵よ!世界中の何処に逃げても、必ず見つけ出して根絶やしにしてやるわ!世界中の何処に集落を作っても、必ず潰す!」

 

 燃え盛る里中に響く大声で、シルビアが宣言した。そして紅魔族達を挑発するが、特に気にする様子もなく、誰1人として応じようとしなかった。

 光の屈折魔法を使ってのゆんゆんとの連係といい、テレポートの使い方といい、彼らは本当に頭が良いのだろう。ベクトルがちょっとおかしいだけで。

 

「それはちょっと聞き捨てなりませんね。紅魔族の天敵を名乗るのであれば、私の魔法に耐えてからにしていただこうか」

 

 どこが逆鱗に触れたのか、割と沸点の低いめぐみんは突然逃げるのを止め、シルビアに杖を向ける。

 それを見たシルビアが動きを止め、舌なめずりをして笑みを浮かべる。

 

「あら、さっきから影の薄いお嬢ちゃんじゃない。そういえば、貴女が魔法を使うところをまだ見ていなかったわね?」

 

 得意な魔法は何だと、シルビアの挑発的な言葉に、めぐみんは冷静に答える。

 

「そういえば、自分から名乗るのは初めてでしたね。我が名はめぐみん。紅魔族随一の魔法使いにして、貴女を殺す者です」

 

 めぐみんの名乗りに、シルビアは口の端を三日月状に吊り上げる。

 

「アタシを殺す者ですって?随分大きく出るじゃない」

 

 他の紅魔族の様にテレポートで逃げる腰抜けと思ったのか、シルビアはからかうような声で話す。

 というか、マズくないか。めぐみんには、爆裂魔法しか使えないことを隠すように何度も言われてきたのに。まさか、使うつもりなのか?それで倒せる確証もないのに。

 やはりと言うべきか、和真が説得しようと口を開く。

 

「なあ、めぐみん」

「カズマ。いつもは私達の尻拭いをさせてばかりですが、今日は(・・・)私が(・・)貴方の(・・・)後始末を(・・・・)つけますよ(・・・・・)

 

 それを遮るように、めぐみんは言った。

 

 

 

 

 俺達はめぐみんの爆裂魔法の威力を知っている。

 紅魔族が見守っているこの位置は、巻き込んでも爆風を受ける程度の距離だ。

 魔法に巻き込まれても死なないのなら、躊躇することなく使うだろう。

 

「皆逃げろ!シルビアからできるだけ離れろ!」

 

 俺はそう呼びかけるが、紅魔族の方々は演出の1つと捉える。吞気な連中だな。再度俺が呼びかけるが、紅魔族の方々とシルビアは笑い出すだけだ。駄目だこいつら、早くぶっ放して思い知らせないと。

 もう知ったことかと、俺は兄さん達と共にめぐみんの隣に立つ。そう、ちょうどゆんゆんの隣辺りに。

 

「ゆんゆん!何時の間に戻って来たんだ!?」

「え、えっとその。……皆さんのことが心配になって、めいつかさんとあるえに頼んでここまで、コッソリと……」

 

 背後の森に目を向けると、木陰からこちらに手を振る2人の人影があった。

 ゆんゆんが何時の間にか来ていたという予想外の事もあったが、今はめぐみんに集中しよう。

 俺はレールガンを足元に置き、メイスを貸してと兄さんに手を差し出す。

 兄さんはメイスを2つ取り出し、1つを俺に渡す。

 逃げようとするアクアの両脇にゆんゆんとダクネスが立ち、腕を掴んで抑える。

 そんな俺達のやり取りを見て、めぐみんは小声でありがとうございますと呟く。

 そして始まった詠唱。紅魔族の方々はその詠唱を聞き、めぐみんの発言が演出ではないことを察して逃げ出し始める。シルビアは何が起こったか分からず、辺りを見回してた。

 詠唱も終わりを迎える頃、めぐみんから湧き上がる魔力の流れと、紅魔族の反応により、シルビアもようやく身の危険を感じたようだ。

 

「や、やれるものならやってみなさい!炸裂魔法でも、爆発魔法でも、それがどんな上位魔法でも!魔術師殺しと一体化した今のアタシに、撃ち込めるものなら撃ち込んでみせなさい!」

 

 シルビアが、顔の前で両腕を交差させて声を張り上げる。

 めぐみんが紅い瞳をカッと見開き、全ての魔力を込めて魔法を唱えた!

 

「『エクスプロージョン』ッ!」

 

 圧倒的な魔力が膨れ上がり、それがめぐみんの杖の先から放たれる。

 

「なっ!?」

 

 何の魔法が放たれたのか理解したシルビアの顔が恐怖で歪み、めぐみんが放った閃光は、一直線にシルビアへと──!

 ……向かう事なく、足元のレールガンの後部へと吸収されていった。

 

『ゑっ?』

 

 あまりの出来事に、俺達だけでなくシルビアや紅魔族も声を上げた。

 それと同時に、魔力を使い果たしためぐみんが崩れるように倒れこむ。

 

「ビビらせやがってこの糞餓鬼がァ!」

 

 怯えさせられた腹いせか、男言葉になったシルビアが、怒りで顔を歪ませて目の前まで迫って来ていた。

 怖い!超怖い!

 

「畜生!元はと言えば、これを物干し竿に使うから壊れて……」

 

 こんなことになったんだ、と言おうと足元をふと見ると。

 レールガンの側面に、『FULL』の文字が点滅していた。

 俺は手記に書かれていた、レールガンがどのような兵器なのかを思い出した。コイツは魔力を圧縮して撃ち出す兵器だということを。

 なんて事はない、ただ撃ち出すのに必要な魔力が足りなかっただけなんだ。

 咄嗟にそれを拾った俺は、めぐみんの上半身を起こして支え、レールガンを握らせる。

 

「カズマ!?」

「1発だ、めぐみん。1発で決めるぞ」

 

 めぐみんの指を引き金にかけ、俺はレールガンの照準をシルビアに向ける。

 

「今だ!めぐみん!」

「っ!?」

 

 俺の合図と共にめぐみんが引き金を引くと、強烈な反動と共に、眩い光が放たれる。

 それはシルビアが咄嗟に持ち上げた銀の尻尾を貫き、シルビアの胸に大穴を開けた。

 それでも衰えを見せない光は、紅魔の里の裏手に広がる霊峰にまで突き進むと山の一角に直撃し。

 眩い光と爆音と共に、その一角を消し飛ばしていた。

 俺が、熱で変形したレールガンの残骸を落とすと同時に、シルビアの巨体が重い音と共に大地に沈む。

 

 

 

 

 ここは何処なのかしら。

 周りは紫色の靄が立ち込め、目の前には大きな川が流れている。足元を見てみれば、手のひらサイズの小石が大量に転がっていた。

 ああ、つまりここは……。

 

「おーい!こっち来いよ!」

「シルビアー!お前も来ちまったのか!」

 

 対岸から、アタシに向かって手を振る影が2つ。

 片方は、何かを抱えていることから、デュラハンのベルディアね。

 もう片方は、随分小さくなってしまったけれど、デッドリーポイズンスライムのハンスね。

 ここは、あの世とこの世の境目。アタシの命は、今終わりを迎えようとしている。

 ……そんなことはさせないわ。

 

「「シルビア?」」

 

 アタシには、まだやらなきゃいけない事があるのよ!ここで終わる訳にはいかないわ!

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