この兄弟に祝福あれ   作:大豆万歳

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FGO。復刻SW2の後は新イベが先か、第6章が先か。私はどちらでも一向にかまわん


第28話

あれから、ウィズの店が繁盛するという珍しい現象が続いている。そして遂に、王女様との会食の日がやってきた。

 

「よし、いいなお前達。相手は一国の姫君だ。……ハルキ。お前はこのパーティー最年長だ。お前が1番しっかりしてくれ」

「おう」

「カズマ。お前は何だかんだあって常識は一応あるから、あまり心配はしていない。だが、万が一にもやらかしたら……覚悟しておけよ?」

「わかってる」

「アクア。危険が及ぶような過度な芸は止めてくれ」

「は~い」

「ゆんゆん。相手が相手だから緊張するのは無理もないだろう。だから、話をする時は深呼吸なりしてからで構わない、落ち着いてくれ」

「は、はい!」

「最後にめぐみんだが……念のために身体検査をさせてもらう!ハルキとカズマは向こうを向いていてくれ!」

「ええっ!?なぜ私だけなんですか!?まあ、ダクネスがそこまで言うなら……」

 

ダスティネス邸にある、晩餐会用の大きな部屋。部屋に入る前に、俺達はダクネスに言葉をかけられていた。そして、めぐみんが身体検査を受けていた。

 

「今の内に深呼吸なりして落ち着いておくか?」

「だ、大丈夫です」

「アクア。お前、どんな芸をやる予定だ?」

「そうね~……お近づきの印に即興の似顔絵を、それも砂絵で仕上げようかしら。丁度良さそうな大きさの紙も持ってきているの」

 

そんなことを話す俺達の後ろでは。

 

「……何もないな。めぐみん、疑ってすまなかった」

「いくら私でも、時と場所と場合くらいは弁えますよ」

 

それを聞いて、ドレスの着付けからずっとついて来ていた使用人の人達がホッと胸を撫でおろした。

 

「……良かった。とばっちりで私達にまで被害が及ばなくて」

 

本当にご心配をおかけしました。

 

 

 

 

「では行くぞ。アイリス様の相手は主に私がするから、皆は食事でもしながら頷いてくれれば良い。その都度私が説明する」

 

言いながら、ダクネスが先頭に立ち扉を開けた。

そこは広く、そして派手過ぎないながらも高級感が醸し出されている晩餐会用の広間。

中は燭台に火が灯され、かなりの明るさを保っていた。

そして数名の使用人が、テーブルを遠巻きに囲み無言で待機している。

真っ赤な絨毯の敷かれたその部屋には、大きなテーブルの上に色とりどりの豪勢なご馳走が並べられ、テーブルの奥には、ダクネスやアクアと同じ、純白のドレスを着た少女が座っていた。

その少女の隣には前にダクネスが風呂場で言っていた、護衛兼教育係の女性が2人立っていた。

黒いドレスを纏い、ゴテゴテした指輪を複数装備している方は、おそらく魔法使いのレインさんなんだろう。なら、もう1人の白いスーツを着用した短髪の女性はクレアさんか。

そんな3人の傍に、俺達を連れたダクネスがゆっくりと歩いて行き。

 

「お待たせしましたアイリス様。こちらが我が友人であり冒険者仲間でもあります。サトウカズマとその一行です。さあ、5人とも。こちらのお方がこの国の第1王女、アイリス様です。失礼のないご挨拶を」

 

そう言って俺達に、真ん中の少女を手で指した。

金髪のセミロングに澄んだ碧眼。

気品の感じられる、どことなく儚げな印象を与える。ファンタジー世界における正統派お姫様な美少女。

 

「傭兵にして鍛冶師を務めております、サトウハルキと申します。どうかお見知りおきを」

 

お姫様とご対面するというイベントに直面した喜びに止まっていると、兄さんが一礼して自己紹介する。

 

「アークプリーストを務めております、アクアと申します。どうかお見知りおきを」

「アークウィザードを務めております、めぐみんと申します。どうかお見知りおきを」

「同じくアークウィザードを務めております、ゆんゆんと申します。どうかお見知りおきを」

 

続いてアクア、めぐみん、ゆんゆんの順に自己紹介をして一礼する。皆がしっかりとしているのが嬉しいのだろう。お姫様に見えない位置で、ダクネスはグッと拳を握りしめていた。

 

「冒険者にしてパーティーのリーダーを務めております、サトウカズマと申します。どうかお見知りおきを」

 

最後に、パーティーのリーダーである俺が、軽い自己紹介の後に一礼する。相手もある程度、俺達についての情報は得ているだろう。だから、包み隠さず名乗ることにした。リーダーである自分は、最弱職だと。

すると、アクアがダクネスに小声で耳打ちする。ダクネスは暫し考え、それくらいならと頷く。

アクアは例の紙を取り出し、指でなぞるように糊を付け、上から砂を振りかける。

そして完成したのは、白黒写真と見まがう精度で作られた砂絵。

 

「王女様にお近づきの印として、まずはこちらを」

 

どうぞと言うアクアから、王女様は砂絵を受け取る。

それを見た王女様は、驚きの表情を浮かべてクレアさんに耳打ちを。

 

「この短時間でこれほど見事な砂絵を……!素晴らしい、素晴らしいわ!褒美を取らせます!と、仰せだ」

 

クレアさんが、言いながらポケットから何かを取り出してアクアに渡す。

それは小さな宝石。それも、素人目に見てもかなり価値があるもの。

それを貰ったアクアが、綺麗な宝石を人差し指と中指で挟み、光にかざして嬉しそうに眺める中。

ダクネスが、王女様の右隣の席へと着いた。

そのダクネスの更に隣に兄さん、ゆんゆん、めぐみん、アクアの順に並んで座る

俺は王女様に手招きされ、左隣に座る様指示された。

大人しく俺をチラチラ見ながら、王女様はクレアさんに耳打ちする。

 

「貴方が、魔剣の勇者ミツルギの話していた人ね?さあ聞かせて、貴方の話を、と仰せだ。……私も聞きたいものです、あのミツルギ殿が一目置くという貴方の話を」

 

ミツルギはどうやら、国の上の方じゃ結構有名のようだ。

さて、向こうはかなり期待しているようだ。俺もそれに応えるとしよう。

 

「かしこまりました。では……」

 

 

 

 

会食が始まり、それなりの時間が経過した。

和真は、王女様にこれまでの冒険話をした。最初に、最近の話題としてシルビア討伐の件を。続いてハンス、機動要塞デストロイヤー、ベルディアと話を進めた。そしてダクネスは、和真がやらかしはしないか神経を尖らせている。

 

「貴方が紅魔の里でシルビアを倒すときに使った魔道具。いえ、神器と言うべきでしょうか。それを手にしたというのなら、王都へと拠点を移すのですか?と、仰せだ」

 

来た。さあ、どうする。お前は何と答える?それも無礼と受け取られない程度に。

 

「……ええ。確かに、自分は紅魔の里で新たな神器を授かりました。しかし、力とは使うものであり、使われるものではありません。兄はある程度レベルも上がり、戦闘経験を経ておりますが、自分は違います。最弱職の冒険者で、戦闘経験も乏しい。運も実力のうちとは言いますが、運だけの男ではいられません。ですからレベルを上げ、戦闘経験を積んだ後に王都へ拠点を移すつもりです」

 

と、もっともらしい事をキメ顔で言う和真。ダクネスは、王女様の表情を窺う。

王女様は、クレアさんに耳打ちする。

 

「自分を客観的に評価し、目標のための努力を怠らない。謙虚で、向上心溢れる姿。素敵です。と、仰せだ」

 

どうやら、相手からは高評価のようだ。ダクネスは、ホッとした様な表情で食事を再開した。

そして、皆が食事を堪能し、歓談も一通り終えると。

 

「まさか、あの魔剣の勇者のミツルギ殿に勝った事があるとは……。よろしければ、私と手合わせをしていただけますか?」

 

クレアさんが、和真に近づいてそんなことを言った。

少々お待ちくださいと和真は言い、ダクネスに修練場を借りていいか訊ねる。ダクネスは少し考え、良しと頷く。

 

「自分でよければ。ただ、食事を終えたばかりですので、少し時間を置いてもいいですか?」

「ええ。ありがとうございます」

 

そして場所を変えて、修練場で。

 

「ダスティネス卿。その、今のは……」

「違うのです!実は──」

 

耳まで真っ赤になって肩で息をするクレアさんと、床に突っ伏している和真。めぐみん達は大きなため息をつき、レインさんは質問の言葉に迷い、アイリス様は目を点にしていた。

修練場に来た和真は、クレアさんと手合わせすることになった。と言っても、怪我しない程度に力を抑えて。

まず和真は、御剣との戦いの再演とばかりにスティールを使用。

そして和真が掴み取ったのはクレアさんの……下着(パンツ)だった。

怪訝な表情をしていたクレアさんは、スーツの違和感に気づいて耳まで一気に赤くなり。和真は悟りを開いたような遠い目で下着(パンツ)を握りしめていた。

クレアさんは声にならない悲鳴を上げて木刀を振り回して和真を滅多打ちにし、ボコボコにされた和真が床に倒れて今に至る。肩で息をしているのは、肉体的な疲労ではなく精神的な疲労によるものだろう。

 

「アクア。和真に回復魔法かけてやってくれ」

「はいは~い」

 

ダクネスの必死で説明をBGMに、アクアは和真の体と心の傷を癒す。

和真が復活する頃には、ダクネスも説明を終えて、2人が納得してくれたようだ。

 

「搦め手にも警戒すべしと良い勉強になりました。ありがとうございます。と、アイリス様も仰せです」

「ありがとうございます!アイリス様!」

 

苦笑しながらそう言ったレインさんとアイリス様に、ダクネスは深々と頭を下げた。

 

 

 

 

「──さて。では我々は、これで城に帰ると致します」

 

レインさんがそう言う隣では、アイリス様が興味津々といった表情で和真を見つめている。

 

「アイリス様。また城に参じた時にお話ししましょう。その時には、様々な冒険譚を携えて参りますので」

 

ダクネスがそう言ってニコリと笑うと、アイリス様もはにかんだ。

レインさんはテレポートの詠唱を始め、クレアさんが賞状と何かの袋をダクネスに渡した。音からして、宝石か貴金属の類が入っているようだ。

 

「これはかたじけない事です。……では、アイリス様。どうかお体にお気をつけて……」

「それでは、またいつの日か」

 

めぐみん達もバイバイと手を振る。

 

「それじゃあ、王女様。またいつの日か、俺の冒険話をお聞かせに参りますので」

 

そう言って和真も、アイリス様に手を振ろうとした、その時だった。

レインさんが魔法の詠唱を終える中、アイリス様は和真の腕を取ると。

 

「何を言っているの?」

 

アイリス様は不思議そうな表情を浮かべたのが見えた。

 

「『テレポート』!」

 

レインさんの声と共に、アイリス様達は光に包まれる。そして──

 

『…………ゑ?』

 

和真が忽然と姿を消した。




運命(誘拐)からは逃げられない。抗えない。

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