王女様との会食から、数日が経過した。
あの後、王都の方から手紙が届いた。内容は、和真を客人として招いたから、暫く王城に滞在してもらうとのこと。
それを読んだダクネスは頭を抱え、めぐみんとゆんゆんは不安のあまり最近寝不足気味。アクアはというと、和真が不在なのをいいことに部屋を物色したり、和真の部屋で晩酌をしたりとやりたい放題だった。特にベッドの下や箪笥の裏を念入りに物色していたのは見なかった事にしよう。
「おーす。ウィズはいるかー?」
そして俺は、ある相談のためにウィズの店にやってきていた。
「ポンコツ店主はおらぬぞ。鎧娘の裸体をどさくさに紛れて拝んでおくべきだったと後悔している男よ。店に籠ってばかりでは体も鈍るだろうと言って、最低限の食事代を持たせて外出させた。今頃、この大陸で最も深いダンジョンで暴れまわっていることだろう」
「お黙り!」
俺の右ストレートをバニルはひらりと躱し、店の扉に「商談中」の看板を掛けて施錠する。そしてカーテンを閉め切り、時計と南京錠を合わせたような物をドアノブにセットした。
「なんだそれ、魔道具か?」
「うむ。これは、一定時間部屋の音が外部に響くのを防ぐ魔道具である。主に、こういった商談や夜の営みに使われるな。1つどうだ?」
「いらん。ていうか、俺が商談目的で来たってよくわかったな」
「我輩は見通す悪魔である。貴様があのポンコツ店主の所在を訊ねたのも、商談を邪魔されたくないからであろう?」
否定はしない。もしいたなら、日を改めて商談に来たけど。
「話が早くて助かるよ。商談っていうか相談なんだけど、俺がこっちに来て開発していた物があってさ……」
俺は鞄からパーツを出し、テーブルの上で組んでいく。バニルはというと、俺の一挙手一投足をジッと見ている。そうして俺は、以前和真に見せた
「こいつらの説明はいるか?」
「いや。貴様がこれらを組んでいる間に、少々貴様の過去を見せてもらった」
だからこそ。そう言ったバニルは、両手を組んで×にする。
「これは我輩と貴様だけで済ませて良い案件ではないな。国の上の者と話をつけるべきである」
「やっぱりか」
「うむ。この『銃』なる武器だが、これは非常に便利であるからこそ、非常に危険な代物である。弓ならば引き絞り、その状態を維持するための筋力が。魔法ならば階級に比例して長い詠唱と身振り手振りが必要になる。だが、これにはそんなものはない。弾を込めて狙いを定め、引き金を引くだけで射程圏内の物体を傷つけ、破壊することができる。強いて言うならば、反動に耐えるための鍛錬が必要なことと、使用時の大きな音が欠点であることか。まあ、大きな音は使い方次第では利点にもなるな。そしてこれの製造、使用、販売について免許制にし、付随して細かい法規定を定めるという貴様の考えを、我輩は強く支持する。これの利便性と危険性を理解しない愚か者共のせいで、貴様が責められるのは困るのでな」
「美味しい悪感情を製造するのがいなくなるからか?」
「そう捻くれたことを言うでない。貴様が大事なビジネスパートナーだからである。加えるなら、使うに相応しい舞台が整うまでは量産しておくが吉であるぞ」
俺の問いに、バニルはまさかと言った風に答える。
「じゃあ、この爆弾は?」
「これは似たようなアイテムとして爆発性のポーションが存在する。だが、管理の容易さならばこちらの方が上か。ポーションとして出回っている物はどれもこれも非常に繊細だが、こちらは湿気に気を付ければ問題なかろう。……まあ、詳しい話は日を改めてからにしよう。こちらも準備があるのでな」
「わかった。俺も少し考えとく」
俺は銃を解体し、鞄に戻す。
「しかし、良いのか?仮にもアクシズ教徒である貴様が、我輩とこのように商談を行っても」
「良いんだよ。
「確かに」
「それに、俺にとって神も悪魔も等しく信仰対象だし」
瞬間、バニルが固まる。しまった、いくらバニルでも今のは頭にくるよな。
「悪い、バニル。今のは」
「暫し待たれよ。今、茶を淹れる」
バニルに促されるまま、俺は暫く待つ。すると、バニルがお茶の入ったカップを2つ盆に載せて戻ってきた。
「小僧。今の発言について詳しく。言っておくが、我輩は怒ってなどいないぞ」
「……本当だろうな」
「本当だとも」
だから話せとバニルに催促されたので、俺は口を開いた。
「まず、俺のいた国では数えきれないくらい神がいるって言われててな。それで、俺は他の神話や宗教の神様もその内の1柱として信仰していたんだ」
「ほう」
「それで、俺のいた世界の悪魔っていうのは大体が神様だったのが、何らかの理由でその座を追いやられた存在だったりするんだよ」
「ふむ」
「それを知った俺は、こう思った。『人によって神と悪魔の定義が変わるなら、両方共信仰しよう』ってな」
「かなり発想が飛躍したな。ならば、貴様が信仰する
「俺達人間の常識が及ばない、畏るべき存在かな。そして神は無償で
「つまり我輩達悪魔は、あの忌々しい神々のように貴様ら人間の常識の及ばぬ存在であると?」
「命が残機制の時点で常識外れだぞ」
俺がそう締めくくると、バニルは顎に手を当てて天井を見つめる。そして考え込むこと数分。
「……小僧。いや、サトウハルキよ!」
バニルは急に顔を近づけて、俺の左手に熱烈な握手をしてきた。
「我輩は貴様のことが気に入った!」
「そ、それはどうも」
「我輩は今まで様々な人間を見てきた。その中には熱心を通り越した狂信者や、
「俺のどこが狂ってるんだよ」
「真の狂人とは、自らが狂っている自覚を持たぬものだ。神も悪魔も無差別に信仰するその姿勢、狂っている以外に形容する言葉はない!」
そういうものなんだろうか?今度和真と話し合ってみるか。
「そして!新たな価値観という刺激を提供してくれた礼に、我輩から助言を授けよう!心して聞くがよい!」
するとバニルは、俺の手を放すと芝居がかった身振り手振りで告げた。
「近いうちに、貴様と絶賛両片思い中の鎧娘が、未来の
俺が王城にやってきて、1週間が経った。
「……さて、そろそろ時間かな」
そろそろメイドのメアリーがシーツを替えにやってくる頃だ。
だが、そう簡単にシーツを替えさせるわけにはいかない。
彼女には簡単に仕事をこなせないよう、様々な妨害をする。
今日もアイリスは習い事があるだろうから、それが終わるまでメイドさんを揶揄って暇つぶしでもしていよう。
──やがて俺の予想通り聞こえてきた、ドアをノックする音。
「おはようメアリー。だがそう簡単に、俺がシーツを取り替えさせると思うなよ?さあ、手早くシーツを取り替えて他の仕事に取り掛かりたいのなら」
「何をさせるつもりなんだ?」
──部屋に入っていたのは、ビックリするほど真顔のダクネスだった。後ろを見れば、呆れ顔の兄さん達の姿が見えた。
「そ、それはその、えっと……」
「どうした、言ってみろ。それとも、言えないような恥ずかしいことをさせるつもりだったのか?」
「ゆ、許してください……!って、なんでダクネスがここにいるんだよ!?この部屋は俺の聖域だ!誰の許可を得て入って来てんだ!」
開き直った俺の言葉に、ダクネスは眉間に皺を寄せて声を荒げる。
「お前を連れ戻すためだ、この大馬鹿者が!アイリス様は座学の真っ最中だ。分かったら今の内に帰るぞ!めぐみんとゆんゆんはな、お前がまた何かトラブルに巻き込まれたのではないか心配するあまり、寝不足気味なんだぞ!」
「べべ、別にそこまで心配してはいませんよ!?たまたま夜更かしする日が続いただけです!」
「めぐみんったら酷い!紅魔の里から帰ってからカズマさんと何だか良い雰囲気になってるのに、心配じゃないって言うの!?」
「ダウト!私とカズマはあくまで同じパーティーの仲間です!勘違いも甚だしい発言は止めていただこう!」
めぐみんに詳しい事を聞きたいところだが、ゆんゆんと口論になってしまったからそれはまた今度にしよう。
「なあ、和真。お前、バニルと商談してるの忘れてないよな?大金が舞い込んでくる機会を、自分から捨てるのか?ここにいつまでも滞在できるって保証もないんだ。なら、ここはダクネスの言う事を聞いて、大人しくアクセルの街に帰ろうぜ?」
「ハルキの言う通りだ!ついでだ、アクア。お前からも何か言ってやれ!」
「そうよ、カズマったら自分だけお城暮らしなんてズルいわ!魔王軍の幹部を倒したのは皆で協力して成し遂げたんだから、私にだってお城暮らしする権利があるわ!」
「すまない。アクアは少し黙っていてくれ」
ダクネスはアクアを押しのけ、1歩前に出てくる。
「おっ、やるってのかお嬢様?言っておくが、俺は意見を曲げるつもりはない。このお城でアイリスと面白おかしく暮らすんだ。泣かされたくなかったら帰った帰った!」
「……いいだろう。お前には、いつかキツイ仕置きをしてやろうと思っていたところだ。皆、すまないが部屋の外で待っていてくれ」
ワンピースのドレスのみを身に纏ったダクネスが、武器も持たずそんなことを言う。
それを聞いて兄さん達が部屋を出る中、俺は勝ち誇って笑みを浮かべた。
「本気で言ってんのか?武器も防具もないその格好で、俺に勝てると思ってんの?おっと失礼。お前は攻撃系のスキルを取得してないから武器があってもなくても同じか。しかも今日はヒラヒラのワンピース姿なんだ。俺のスティール1発で大惨事だぞ」
「やってみろ」
ダクネスはきっぱりと言い放つ。
「……お前分かってんの?そんな薄着じゃ、スティール3発で全裸だぞ?いくら俺でも、兄嫁を剥いて裸にすることに多少の躊躇いはあるんだ。な?今なら勘弁してやるから……」
「やってみろと言っている」
俺の言葉を遮ってダクネスが1歩踏み出す。
「お、おい。冗談だよな?本気でやるぞ?」
「だから、やれるものならやってみろと言っている。但し、剝いた分だけ骨を折られる覚悟があるならな」
「……念のために聞くけど、それって1本とか2本程度だよな?」
俺が訊ねると、ダクネスが俺の左腕を指さした。
「まず1枚剝いたら、左腕の骨を全てへし折る。2枚剝いたら更に両脚、3枚剝いて全裸にしたら追加で右腕の骨を全てへし折ってやる」
そう言うダクネスの目は本気だった。そして俺の膝が恐怖を通り越して、笑い出した。
「だ、誰か助けてー!兄さーん!めぐみーん!ゆんゆーん!アクアー!」
俺は必死で部屋の外に助けを求めて呼びかけるが、誰も来ない。そうしている間にも、ダクネスがじりじりと近づいてきている。
「アイリスー!助けてー!」
「お兄様!」
早めに今日の座学が終わったのか、アイリスが部屋に飛び込んできた。そして俺とダクネスの間に割って入り、俺を庇うように両腕を広げる。
「……」
アイリスは何も言わず、涙目でダクネスを見上げて体を小刻みに震わせる。それを見て、ダクネスが狼狽える。流石のダクネスも、アイリスには弱いようだ。
「……アイリス様、どうかお聞きください。この男はアクセルの街に屋敷もあり、それなりに名の売れている冒険者なのです。かの街にはこの男の友人もおり、行方をくらませれば心配する者もおります。かく言う私達も、この男を心配してここにやって来たのです。……なのでどうか、この男を解放してやってはいただけませんか?」
アイリスはそれを聞き、悲し気な表情で少し考えると頷く。
「……そうですね。我儘を言ってごめんなさい……」
そんなことはないぞアイリス!お前はこのお城の最高権力者で、まだ多少我儘を言っても許されるお年頃なんだから!
俯いていたアイリスは、ふと顔を上げてダクネスに。
「ねえララティーナ。それならせめて、今晩だけでも……。お別れの晩餐会を開いてはいけませんか……?」
おずおずと申し訳なさそうに、上目遣いで言ってきた。
貴族や王族の晩餐会。
それは、とても華やかで、豪勢で。
「「モグモグモグモグ……」」
会場に用意されたご馳走をモリモリと頬張るアクアとめぐみんを見て、俺達一般人には場違いだと理解した。
俺達も、一応は城から借りたスーツやドレスで着飾り、外見的には溶け込んでいるように見えるが、醸し出す雰囲気と佇まいのせいで、明らかに浮いていた。
会場の隅では、数名の雇われバーテンダーが、客に合わせたカクテルを作っていた。アクアはどこからか引っ張ってきたテーブルをそこに持って行き、兄さんに食べ物をあれこれ持って来るように言って飲み食いしていた。俺の兄さんは給仕じゃないんだが。
そして俺の隣ではめぐみんが料理を頬張り、口元に付いたソースやドレッシングをゆんゆんが拭っていた。めぐみんのこういうところ、妹のこめっことそっくりだな。
いつもならこんな状況になる前に、すっ飛んでくる勢いで止めに来るのがいるんだが……。
「ダスティネス卿。パーティー嫌いの貴女が、こういった催しに参加するとは珍しいですね!いや、今宵の晩餐会に参加して良かった!こうして、お美しい貴女の姿を拝見する事ができたのですから!」
「ダスティネス卿、お父上のイグニス様はお元気ですか?私、若いころにイグニス様に仕えていた事がありまして……」
「ああ、ダスティネス様!今宵貴女に会えた事を、幸運の女神エリスに感謝いたします!貴女様の美しさは噂に聞いておりましたが、まさかこれほどとは……!」
ダクネスは貴族連中に囲まれ、歯の浮く様な賛辞を浴びせられまくっていた。
ダクネスはと言えば、流石にこういった事には慣れているのか、穏やかな微笑を湛えながら、数々のお誘いをやんわりと断っている。
「皆様お上手ですこと。パーティーには不慣れな身なもので、どうかお手柔らかにお願いしますね?」
キールの浄化をするアクアを見ていた時のような感想が頭に浮かんだ。
穏やかな女性を装っているが、頬の辺りがピクピクしている。
実は結構無理をしているのかもしれない。
「ここにいたのか、ダクネス。人気者じゃないか、ダクネス。今日は特にドレスが似合ってるじゃないか、ダクネス?」
ダクネスは不意に冒険者としての名前で呼ばれて驚いたのか、含んでいたワインが変な所に入って咽たようだ。
「すまん、ダクネス。ついいつもの呼び方で呼んじまった。ここでは俺もダスティネス様って呼んだほうがいいか?」
「え、ええ」
口元をハンカチで拭っていたダクネスに訊ねると、外面の良い微笑を湛えたまま答えが返ってきた。
「ダスティネス卿。もしや、そちらの方が噂の……?」
「はい。私の冒険者仲間の1人です」
「初めまして。サトウカズマです」
ダクネスに続いて自己紹介し、一礼する。
「……そういえば、ダスティネス様は婚約者はお決まりですか?もしお決まりでないのなら、貴女様の下の名を呼べる幸運な者として、是非名乗りを上げたいところですが……」
「いや、ここはずっとダスティネス家に見合いの申し込みをしてきた私に、先手を譲って頂かなくては……」
そして話題は変わり、各々が見合いを申し込んだりしてダクネスを口説きに来た。彼らはお互いを牽制しながら、この場を離れる気はないようだ。金持ちでイケメンだからか、よっぽど自分に自信があるらしい。相手のダクネスは表情にこそ出していないが嫌そうだ。
仕方ない、ここは今日のために誰にも言わなかったとっておきのネタを暴露してやろう。その時だった。
「──ここ近年、次々と多大なる功績を上げているダスティネス様には、もっと相応しいお相手がいるだろう。少なくとも、貴公らでは話にならん」
そんな不遜な事を言いながら、突然割って入ってきたのは、忘れたいと思っていた男だった。
毛深く、そして頭の薄い、前よりも横に少し大きくなった気がする中年男。
「これはこれはアルダープ様、また辛辣なお言葉で……」
俺に濡れ衣を着せて処刑しようとした、アクセルの街の領主だった。屋敷は吹き飛んだから、どっかで別荘暮らしでもしてるのだろうか。あれでも金持ちの領主なんだし。
「ではアルダープ様。ダスティネス様に相応しい御方とは、一体どなたで?聞いた話によれば、貴方はダスティネス様にご執心だったとのことですが、まさか……」
と、ダクネスを口説いていた貴族の1人が皮肉混じりに訊ねる。
「無論、ワシではない。ああ、ワシの息子でもないぞ?以前のダスティネス様ならいざ知らず、今となっては家格は元より、個人で挙げた功績の面においても、ダスティネス様と釣り合う男など1人しかおらぬだろう?」
自信に満ちた表情で、アルダープが勿体つけて言い放つ。
ああ、アルダープの言う通りだ。
「兄さんの事か」
俺の発言に、貴族連中は怪訝そうな表情を浮かべる。
「サトウカズマ殿、貴方のおっしゃった『兄さん』とはどなたですか?」
「ああ。あそこで青髪の女性の給仕みたいなことをしている男性のことです。名前は佐藤陽樹。俺のパーティーでは、ダスティネス様との付き合いが1番長いですね」
『ほうほう』
貴族連中が食いついた。よし、いいぞ。言いそびれていたアレを、言う時が来た。アルダープが何か言いたそうにしているが、無視だ無視。
「兄さんは副業で鍛冶師をやっているんですが、工房を構えてからはダスティネス様と1つ屋根の下寝食を共にしておりまして。最近では一緒に風呂に入り、同じベッドで寝るほどの仲まで進展したんです。俺も何年かすれば『和真叔父さん』と呼ばれるのかと、それを楽しみにしているんです」
「そのようなことはありません。確かに私は彼と長く寝食を共にしていた事は認めますが、それは宿代を食費に回そうという仲間の提案を受けたからです。風呂とベッドの件もちょっとした賭けに負けたときに命じられただけのことですわ。ええ、私と彼は冒険者仲間です。それ以上でもそれ以下でもありません」
ダクネスは息継ぎなしに、しかも早口で俺の発言を否定した。貴族連中も、ダクネスの気迫に屈して無言で首を縦に振り続けた。
「ダスティネス様のおっしゃる通りだ」
アルダープは、それに便乗して口を開いた。そして続けた。
「そもそも、冴えない鍛冶師風情が大貴族の令嬢と恋仲になるなど有り得んだろう」
それは、兄さんとダクネスの間には身分の違いがあるという事を伝えたかったんだろう。
だけど、選んだ言葉が悪かった。
周囲を見れば、アクアはグラスをテーブルに置いて自分に強化魔法をかけて拳を握りしめ。
兄さんは投げナイフを取り出して構え。
めぐみんとゆんゆんは口の中の物を飲み込んで詠唱しようと口を開き。
俺はアルダープの身ぐるみを剥いでやろうと右手をかざそうとした。
けど、止めた。
「アレクセイ・バーネス・アルダープ」
何故なら。
「今の言葉をもう1度言ってみろ」
ダクネスが見たこともないくらいに怒っていたから。
瞳から光が消え、無表情になったダクネスが放つ殺気がヤバい。恐らく、残りの魔王軍幹部と魔王にダクネスが『死ね』と言ったら、本当に全員死ぬかもしれない。もしかしたら、バニルの残機の99%をひと睨みで消滅させるかもしれない。
そして、俺達の周囲には謎の空白があり、円形に形成されていた。
さっきまでダクネスを口説いていた貴族連中は、いつの間にか姿を消していた。会場にいる人間は全員、ダクネスから目を背けている。会場もシーンと静まり返っている。
「あ、あれは、その……」
アルダープはと言うと、恐怖で顔を真っ青にし、歯をカチカチと鳴らし、滝のような汗をダラダラと掻いている。高そうな衣服は所々に汗でシミができ、股間の部分もじんわりとシミが広がっていた。
「……し、失礼しました!」
アルダープは深く頭を下げると、逃げるように会場を去っていった。そしてダクネスの殺気が治まると、何事もなかったかのように晩餐会は進んでいった。
ダスティネス卿、キレた!!