この兄弟に祝福あれ   作:大豆万歳

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佐藤陽樹の声は神谷浩史のイメージ


第3話

「そういえば、ハルキとダクネスのステータスを見せていただけませんか?カズマだけ見ているというのは不公平だと思うので」

 

 朝のギルド。目ぼしいクエストもなく、今日の予定をどうするか話し合っていた中で、めぐみんがそんなことを口にした。

 

「いいぞ」

「汚したりしないでくれよ」

 

 俺とダクネスは冒険者カードをめぐみんに渡す。めぐみんとアクアが自分の冒険者カードを渡そうとしてきたけど、内容が大凡想像できるので遠慮しておいた。アクアがめぐみんの横から覗くようにカードを見る。

 

「ふんふん。カズマの言う通り、ダクネスの硬さは凄いわね。パーティーに入れておいて正解ね」

「ええ。ハルキも傭兵特有の手数の多さで前衛から後衛までこなせ──!」

 

 急にめぐみんが目を見開き、カードをまじまじと見つめる。

 

「ハルキ。あなたは物理攻撃特化の傭兵なんですよね?」

「そうだ」

「だったら、この知力と魔力は何なんですかッ!?」

 

 カードを突き出し、身を乗り出すめぐみんの目は紅く輝いていた。

 

「紅魔族である私と同じくらいとか、巫山戯ているのですか!?これだけあればアークウィザードとして大成できるというのに、なぜ傭兵をやっているのですか!?」

「近づいて殴ったり弓で射抜くほうが早いから」

 

 そう答えると、めぐみんが俺の袖を掴んで引っ張ってくる。意外と力あるんだな。

 

「悪いことは言いません。今すぐアークウィザードになりましょう!そして、私と共に爆裂道を歩もうでは」

「『フリーズ』」

「冷やああああー!?」

 

 首筋を冷やされて悶えるめぐみんから和真がカードを取り上げ、俺とダクネスに返却する。

 

「それで、どうする?目ぼしいクエストが無いから、俺とアクアは土木作業のバイトに行く予定なんだけど」

「俺は工房で仕事だ。テイラーにキャベツ狩りの報酬で装備の強化依頼を受けているからな」

「でしたらハルキ、私の杖の強化もお願いできますか?」

「ああ。詳しいことは工房で聞かせてくれ」

「じゃあ、私はハルキの工房で適当に時間を潰していいか?」

「お構いなく。いつもの事だし、いちいち言わなくてもいい」

 

 

 

 

 そして、キャベツ狩りの報酬が渡される当日。

 

「ほれ、テイラー。ご注文の新しい盾だ」

「ありがとよ」

「筋力が上昇したようだから、少し大きさと重量を増やしてみたが、大丈夫か?」

「……ああ、これくらいなら大丈夫だ。あ、これ約束の金な」

「毎度あり」

 

 ギルドの隅で、依頼人のテイラーに依頼の品を渡していた。

 テイラーが仲間のもとに戻るのと入れ替わるように、めぐみんが俺のところに来た。

 

「はい、めぐみんは新しい杖だ」

「ありがとうございます。こちら、約束のお金です」

「どうも」

 

 俺から杖を受け取ると、めぐみんは目を輝かせ、杖を抱きかかえて頬擦りする。

 

「ハァ……ハァ……。た、たまらないです、たまらないです!魔力溢れるマナタイト製の杖のこの色、艶……。ハァ……ハァ……ッ!」

 

 マナタイトという希少金属は、杖に混ぜると魔法の威力が向上する性質を持っている。ある伝手を利用して手にした最高品質のマナタイトが混ざった新しい杖に、めぐみんは大層ご満悦のようだ。

 

「さ、カズマのところに行こうか」

「じゅるっ……え、ええ、行きましょう」

 

 涎を垂らし始めためぐみんを連れ、カズマのいるテーブルに向かう。

 キャベツ狩りで得た報酬は、均等に分けるのではなく、各々が捕まえた分をそのまま報酬にすることになった。それは、俺と和真に次ぐ収穫量だったアクアが言い出した事だ。

 

「ちょっと!5万ぽっちってどういうことよ!私がどれだけキャベツ捕まえたかわかってるんでしょうね!?」

 

 当の本人は、受付嬢のルナさんの胸ぐらを掴んで猛抗議の真っ最中だった。なので、俺とめぐみんはそれを見なかったことにして、カズマのもとに向かった。

 

「おっ、ダクネスの鎧、前よりも強化されたか?」

「ああ。報酬が良かったから、少し頑丈さと重さを増してみた」

「ハルキとカズマはどれくらい稼いだんですか?」

「俺は90万ちょい」

「俺は100万」

「「90!?100!?」」

 

 めぐみんとダクネスが絶句する。

 俺と和真は突発クエストの報酬で、大金を手に入れた。

 そして、それを聞き取ったのかアクアが後ろに手を組んでにこやかな笑顔で近づいてきた。

 

「カズマ様ー!ハルキ様ー!前から思ってたんだけど、あなた達兄弟ってその、そこはかとなく紳士よね!」

「特に褒める所が思い浮かばないなら無理すんな。あと、この金の使い道は決めてあるから分けないからな」

「俺も同じく」

 

 先手を打った俺達の言葉にアクアが凍りつく。

 

「そんなああああ!私、クエストの報酬が結構な額になるって踏んで、この数日で手持ちのお金全部使っちゃったんですけど!ていうか、大金になると見込んで、ここの酒場に10万近いツケがあるんですけど!!今回の報酬じゃ、足りないんですけど!」

 

 半泣きで土下座をして懇願するアクアから、和真は全力で目を逸らす。

 

「断る。そもそも報酬に関して言い出したのはお前だろ。俺としては、ここで拠点を手に入れて落ち着きたいんだよ」

 

 通常、冒険者は家を持たない。

 そもそも冒険者というものは俺のように副業や拠点を持たず、あちこちを飛び回るものだ。

 アクアがいよいよ泣きそうな顔で和真の脚に縋り付く。

 

「カズマ、お願いよ、お金貸して!ツケ払う分だけでいいからぁ!そりゃあカズマも男の子だし、馬小屋でたまに夜中ゴソゴソしているの知ってるから、早くプライベートな時間が欲しいのは分かるけど!5万!5万だけでいいからぁ!」

「よしわかった!5万でも10万でもやるから少し黙ろうか!」

 

 そして、和真がアクアのツケの残りを支払い終えると、めぐみんが討伐に行きたいと言い出した。

 

「まあ俺も、ゾンビメーカー討伐じゃ、覚えたてのスキルを試せなかったもんな。ここは、安全で無難なやつをこなすか」

「だな」

「いいえ、お金になるクエストをやりましょう!ツケを払ったから今日のご飯代も無いの!」

「いや、ここは強敵を狙うべきだ!一撃が重くて気持ち良い、凄く強いモンスターを討伐しよう!」

 

 見事にバラバラだな。

 とりあえず掲示板に移動し、目ぼしいクエストが残ってないか探す。しかし……。

 

「……無いですね」

「いや、あるにはあるけど、どれも高難易度しか残ってないな」

 

 高難易度と聞いて目を輝かせるダクネスの手を押さえていると、ギルドの職員がやってきた。

 

「申し訳ありません。最近、魔王軍の幹部らしき者が、街の近くの小城に住み着いてしまいまして……。その影響か、この近辺の弱いモンスターは隠れてしまい、仕事が激減しております。来月には、国の首都から幹部討伐のための騎士団が派遣されるので、それまでは、そこに残っている高難易度のお仕事しか……」

 

 申し訳無さそうな職員の言葉に、文無しのアクアが悲鳴をあげた。

 

 

 

 

 あれから1週間。

 和真はめぐみんの日課とやらに付き合い、文無しのアクアはアルバイトに励み、ダクネスは筋トレのために実家に帰り、俺はいつも通り工房に籠って仕事をしていた。

 

『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってください!』

 

 街中に緊急のアナウンスが響き渡った。

 そのアナウンスを聞いて、しっかりと装備を調え、現場へ急行する。

 街の正門前に多くの冒険者が集まる中、そこに着いた俺は凄まじい威圧感を放つそのモンスターに身構える。

 そこにいたのは首無し騎士──デュラハン。

 リッチーのウィズと同じ上位のアンデッドの一種で、生前を凌駕する肉体と特殊能力を手に入れたモンスター。

 正門前に立つ漆黒の鎧を着た騎士は、脇に抱えていた自分の首を目の前に差し出し、小刻みに震え始めた。

 

「……俺の名はベルディア。つい最近、この城の近くに越してきた魔王軍幹部の者だが。……毎日のように!俺の城に爆裂魔法を撃ち込んでいた大馬鹿者は、誰だああああああ!」

 

 魔王軍の幹部は、それはそれはお冠だった。

 

 

 

 

「おい和真。どういうことか説明しろ」

 

 爆裂魔法という単語に皆が反応し、めぐみんに視線が集中する中、顔が青くなった和真に俺は事の経緯を訊ねた。

 何でも、めぐみんは1日に1回必ず爆裂魔法を使用することを日課にしていたらしい。爆裂魔法を使った後に街へ戻るまでの足代わりに和真が同行していたのだが、何処で日課をこなすか悩んでいたところに、お誂え向きな廃城を見つけ、そこで日課を済ませていたらしい。

 

「その標的が、あのデュラハンの城だったと?」

「だと思う。一応弁明しておくけど、俺達は何も悪くない。悪いのは、自分がいることを示す旗みたいなのを掲げなかったデュラハンだ」

 

 などと宣う和真の隣にいためぐみんは、デュラハンの前に出て対峙する。

 距離は凡そ10メートルほど。俺とカズマ、アクアにダクネスもめぐみんの後に付き従い、事の成り行きを見守る。

 

「お前……お前か!毎日毎日俺の城に爆裂魔法を撃ち込んできた大馬鹿者は!俺が魔王軍幹部だと知っての行いならば、正面から正々堂々と攻めてこい!そうでなければ、街で震えているがいい!何故こんな陰湿な嫌がらせをする!?この街には低レベルの駆け出し冒険者しかいなのは知っている!どうせ雑魚しかいないと放置していれば……ッ!頭おかしんじゃないか、お前!」

 

 連日の爆裂魔法がよほど応えたのか、デュラハンの兜が激しい怒りに震えていた。

 流石に気圧され、めぐみんは若干怯むが、肩のマントを翻し……

 

「我が名はめぐみん!アークウィザードにして、爆裂魔法を操る者!」

「めぐみんって何だ。喧嘩売ってるのか?」

「違うわい!」

 

 名乗りを受けたデュラハンに突っ込まれるが、めぐみんは気を取り直すと。

 

「我は紅魔族の者にして、この街随一の魔法使い。我が爆裂魔法を連日放ち続けていたのは、魔王軍幹部の貴方を誘き出すための作戦!」

 

 ノリノリでデュラハンに杖を突きつけるめぐみんの後ろで、俺達4人はぼそぼそと囁いた。

 

「なあ、あいつあんなこと言ってるぞ。毎日爆裂魔法を撃たないと死ぬとか泣いて駄々こねるから、仕方なく城の近くまで連れて行ったのに。いつの間に作戦になったんだ」

「というか、めぐみんの性格からしてもデュラハンがいてもいなくても問答無用で撃ち込んでたかもしれんな。我が力、思い知れ!とか言って」

「うむ。しかも、この街随一の魔法使いとか言い張ってるな。まあ、間違いと言えないこともないが」

「そこは黙っておいてあげましょうよ!今日はまだ日課をこなしてないみたいだし、後ろに沢山の冒険者が控えているから強気になってるのよ!今は黙って、このまま見守りましょう!」

 

 めぐみんの顔がほんのり赤くなっている。

 デュラハンはと言えば、勝手に納得したようだ。

 

「……ふむ、紅魔の者だったか。ならば、先程の奇天烈な名は、俺に喧嘩を売っていたわけではないということだな」

「おっと、両親から貰った私の名に文句があるなら聞こうじゃないか」

 

 デュラハンの言葉にめぐみんがヒートアップするが、どこ吹く風といった感じだ。

 まあ、街にいる駆け出しの冒険者なんて眼中にないだろうな。だって魔王軍の幹部なんだし。

 

「……まあいい。俺はお前ら雑魚にちょっかいをかけにこの地に来た訳ではない。この地には、ちょっとした調査のために来たのだ。暫くはあの城に滞在することになるだろうが、これからは爆裂魔法を使うな。いいな?」

「それは、私に死ねということですか?紅魔族は1日1回爆裂魔法を撃たないと頭がおかしくなって死ぬのです」

「なんだそれは!見え見えの適当な嘘をつくな!」

 

 見ればアクアは、デュラハンに噛み付くめぐみんを小さな声で応援していた。

 

「どうあっても、爆裂魔法を撃つのを止める気はないと?魔に堕ちた身だが、元は騎士だ。弱者を狩る趣味は無い。だが、これ以上城付近であの迷惑行為を続けるということは、相応の覚悟があるのだろう?」

 

 剣呑な気配を漂わせてきたデュラハンに、めぐみんは不敵に笑った。

 

「迷惑なのは私達のほうです!貴方が城に居座っているせいで、私達は仕事もろくにできないのです!そもそも、あの城にいる目印を何も出していなかった貴方が悪いのです!それでも爆裂魔法を撃つなと言うのならば、こちらにも手があります!というわけで、先生!お願いします!」

 

 まあ、アクアはアークプリーストで女神だからデュラハンにぶつけるのは悪くない判断なんだが……あれだけ盛大な啖呵を切ったと思えばこれか。

 言われた本人もノリノリでデュラハンの前に出ると、ブルース・リーのようなポーズでかかってこいと挑発する。

 

「ほう。プリーストではなく、アークプリーストか。俺は仮にも魔王軍の幹部の1人。こんな街にいる低レベルのアークプリーストに浄化されるほど落ちぶれてもいなければ、対抗策を持っていないわけでもないが……ここは1つ、紅魔の娘には少し苦しんでもらうとしよう」

 

 デュラハンはアクアが詠唱するより早く、左手の人差し指をめぐみんへと突き出した。

 すかさずデュラハンが叫ぶ!

 

「汝に死の宣告を!お前は1週間後に死ぬだろう!」

 

 デュラハンが呪いをかけるのと同時に、俺はめぐみんの襟首を掴んで後ろに隠した。

 

「なっ、ハルキ!?」

 

 めぐみんが叫ぶ中、俺の体が一瞬だけ黒く輝く。

 俺は試しに傭兵のスキル《仕切り直し》で解呪を試みるが、効果はないようだ。

 

「兄さん、大丈夫!?どこか痛いとかない!?」

「……なんともない」

 

 だが、デュラハンはこう叫んだ。

 1週間後に死ぬ、と。

 呪いをかけられた俺にアクアがぺたぺたと触る中、デュラハンは勝ち誇ったように宣言する。

 

「その呪いは今はなんとも無い。若干予定が狂ったが、仲間同士の結束が固いお前達冒険者には、むしろこちらのほうが効くだろう。よく聞け、紅魔の娘よ。お前の大切な仲間は、お前の行いのせいで1週間後に訪れる死の恐怖に怯え、苦しむ事になる。そう、お前の行いのせいでな!これより1週間、仲間の苦しむ様を見て、自らの行いを悔いるがいい」

 

 デュラハンの高笑いにめぐみんが青ざめる。

 

「そして紅魔の娘よ!その男の呪いを解いて欲しくば、俺の城に来い!城の最上階にある俺の部屋まで来ることができたなら、その呪いを解いてやろう!……だが、城には俺の配下のアンデッドナイト達がひしめいている。ひよっ子冒険者のお前達に、果たして俺の所まで辿り着くことができるかな?」

 

 デュラハンはそう宣言して哄笑すると、街の外に停めていた首の無い馬に乗り、そのまま城へと立ち去って行った。

 

 

 

 

「ちょっと待てめぐみん。何処に行って、何をするつもりだ」

 

 1人街の外に出ようとするめぐみんのマントを掴み、和真が訊ねる。

 

「今回の件は私の責任です。ちょっとあの城に行って、あのデュラハンに直接爆裂魔法を叩き込んで、ハルキの呪いを解かせてきます」

 

 めぐみん1人で行ったところで何もできないだろうに。

 

「なら俺も行こう。アンデッドナイトの相手は俺に任せてくれ」

「いいえ、物理特化職である傭兵のハルキに、アンデッドナイトの相手は荷が重いでしょう。街で待っていてください」

 

 泣きそうな顔で俺を見てくるめぐみんの前に、カズマが回り込む。

 

「まあ待てって、めぐみん。兄さんは鍛冶師だ。なら対アンデッドモンスター用の武器だって用意しているんだろう?」

「売るほどあるぞ」

「じゃあ、何も問題はないな。あと、2人が行くなら俺も行く。俺も毎回一緒に行っておきながら、幹部の城だって気づかなかった俺にも責任の一端はあるからな」

「だったら、守りは私に任せてほしい」

 

 和真が頬を掻きながらそう言い、ダクネスが名乗りを上げると、街の冒険者が俺達の周りに来る。

 

「待てよ、ハルキが行くってんなら俺も行くぜ」

「お前には何だかんだ世話になってるからな、恩返しの1つぐらいさせてくれ」

 

 そんな中、俺の隣に不意にアクアが現れて──。

 

「『セイクリッド・ブレイクスペル』!」

 

 魔法を唱えると、俺の体が淡く光った。

 

『……えぇ?』

 

 俺達が呆然とする中、アクアは胸を張って嬉々として言ってきた。

 

「この私にかかれば、デュラハンの呪いの解除なんてお茶の子さいさいよ!どう、どう?私だって、たまにはプリーストっぽいでしょう?」

『…………』

 

 この場にいる全ての冒険者が、曖昧な表情で沈黙した。




スキル説明
仕切り直し:自身にかかった様々な状態異常を解除できる。
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