晩餐会から一夜明け、朝。
「まったく、カズマったら『面倒事に首を突っ込まないと死ぬ病気』にでも罹ってるの?こんな事に私達まで巻き込むなんて。仕方ないから協力してあげるけど、もう私の事をとやかく言えないわね」
「本当ですよ!これからは、私達の事を厄介事ばかり起こすトラブルメーカー呼ばわりはできませんね!まあ、私達は仲間なので勿論見捨てず協力してあげますが!」
今2人が言った通り、昨日の晩餐会が終わった後で、和真はこんな事を言った。
王都で噂になっている義賊を俺が捕まえる。
それを聞いた時、俺達は和真の正気を疑い、何か下心があるんじゃないかと問い詰めた。対照的に、これを聞いた貴族の方々は和真のことを素晴らしいと称賛した。だが俺達には分かる。和真は噂の義賊を捕まえて、それを理由に王城に滞在するつもりでいるんだろう。もしくは、それでアイリスに褒めちぎられたいのだろう。
そして、俺達はダクネスから王都にいる貴族の名前を聞き、その中から狙われそうな良い話を聞かない貴族の屋敷に向かっていた。
「──それで、真っ先にワシの所に来たのか」
ここはアクセルの街の領主こと、アルダープの別荘。
隣に護衛の男を引き連れ出迎えたアルダープは、不機嫌さを隠しもせず、遠慮なくダクネスの体を舐めまわすような熱い視線を送った。
そして視線は俺に移り、何やら敵意に満ちた視線を送られた。
「おい。昨夜ダクネスを怒らせた件で兄さんに詫びの1つもないとか面の皮が厚すぎやしませんかね?」
「な、何の事だ。ワシはダスティネス様の怒りを買うような事は何も言っていない。言いがかりは止めてもらおうか」
アルダープが慌てた様子で否定したので、和真がダクネスに訊ねる。
「ダクネス。お前からも何か言ってやれ」
「何を言っているんだ?」
訊ねられた本人は、首を傾げた。
「
どういう事だ。すかさず、あの時近くにいためぐみんとゆんゆんに訊ねる。しかし。
「私は昨夜の晩餐会であの人の姿を見かけましたが、ダクネスと会ってはいませんね」
「めぐみんの言う通りです。もしかして、和真さん達お酒を飲み過ぎたんじゃないんですか?」
「アクア。お前は──」
「バッチリ覚えているわよ。そこのおじさんが凄く失礼なことを言って、ダクネスを怒らせたのは」
「だよなあ」
どういう事だ?何で俺と和真、アクアの3人は覚えているのに、他の人間は覚えていないんだ?
俺達は全員揃って頭を捻る。魔法の類かとめぐみんとゆんゆんに確認するが、2人は知らないと否定。道具の類かとダクネスに確認するが、効果のせいで禁忌の品となっており、厳重に管理されているから違うらしい。
「で、ではダスティネス様。ワシの屋敷に気が済むまで滞在し、調査してみるのはいかがでしょうか。元より、ワシが賊に狙われると疑惑を抱いておられるのでしょう?」
アルダープの提案に、俺達は同意することにした。あいつの言う通り、義賊に狙われると思って調査に来たんだ。序に、今の状況に関する調査もやっておこう。
深夜。
「おいマクス!あれはどういう事だ!」
「ヒュー、ヒュー、な、何の事だい。アルダープ?」
とぼけた様子のマクスウェルを、アルダープは何度も蹴り上げる。
「とぼけるな!昨夜のワシの失言を無かったことにするために、ワシはララティーナと会っていなかったように捻じ曲げろと言っただろう!それが何だ!邪魔な鍛冶師とその弟、そして青髪のプリーストは覚えていたぞ!」
「ヒュー……、ヒュー……、そ、それはおかしいね。眩しい光を放っているのが覚えていても、酒のせいになるはずだったのに。皆が見なかった事にしていたから、集団心理が働いて捻じ曲げられたはずなのに。ヒュー……、ヒュー……」
マクスウェルは知らない。集団心理が働くから捻じ曲げられるだの、酒のせいになるだのと言ったのがアルダープだということに。
「わかったら、今すぐあの兄弟にお前の力を使って記憶を捻じ曲げろ!晩餐会の参加者と同じように!」
「ヒュー、ヒュー、む、無理だよアルダープ。もうあの兄弟に僕の力は通じない」
「ふざけるな!……まあいい。少し早いが、アレを使うとしよう。マクス!分かったらさっさと起きろ!仕事の時間だ!」
そして翌日。
本格的な捜査開始ということで、俺は屋敷を内部から観察していた。
「取り敢えず『聞き耳』」
床に寝そべり、耳を当てる。そして床を軽く叩き、音の反響で探す。
「…………ん?すいません。地下に大きな部屋みたいなのがあったんですが」
「それでしたら、ワインの貯蔵庫でしょう。良かったら、ご覧になりますか?」
「はい」
俺は使用人に案内され、地下のワイン貯蔵庫に来た。
再び、床に耳を当てて再度『聞き耳』を使用。
「あの~、何をされているのでしょうか?」
「ああ。地下にトンネルを掘って、そこから侵入するんじゃないかと思いまして。それで、ちょっと聞き耳をたててみたんです。まあ、トンネルの類は無いようだったので、地下からの侵入はないでしょう」
「そうですか」
俺は地下室を後にし、『聞き耳』を発動したまま屋敷内を再び探す。
「ああ、ハルキ。そっちはどうだ?」
「まだ途中……ん?」
ダクネスと合流した俺は、キッチンの途中にあるこぢんまりとした部屋からの声に耳を傾けた。ダクネスに付いてくるように言い、部屋の前に到着。
『おい、そこまでだ。下衆な勘繰りは止めてもらおうか!俺にはな、仲間の守るという重大な役割があるんだ!あんたと一緒にするな!』
『それならここで寝泊まりせずとも、仲間が入浴している時にワシの監視をしていればいいだろう!お前の様な小僧にララティーナの裸を拝ませてたまるか!』
「……誰かいるのか?」
「和真とアルダープがいて、何か言い争いをしている。お前の裸がどうとか言ってたな」
瞬間、ダクネスが扉を開けた。
壁に貼り付けられた大きな鏡。それはよく見ると、マジックミラーのようになっていて、向こう側で浴場の掃除をしているメイドさんはこちらに気づいていなかった。
部屋の中にいた和真とアルダープはと言うと、ダクネスを確認すると同時に固まった。そしてお互いを指さし。
「「コイツが覗きをしようと」」
「ハルキ。やれ」
「仰せの通りに」
マジックミラーは粉々に砕け散った。
アルダープの屋敷に滞在して1週間。
その間、噂の賊は現れなかった。
「起きろ和真。交代だ」
「へーい……じゃあ、また1時間後に」
「ああ。お休み」
俺と和真は1時間交代で、屋敷内を見て回っていた。勿論、灯りを消して暗視スキルを使い、賊にバレないようにして。
俺は部屋で横になっていた和真を起こし、自分の部屋へ戻る。
明日にはこの家を出て、義賊の捕縛に失敗したという事でアクセルの街に帰ることになるだろう。
ようやく、和真を連れ戻すという目的を達成することができる。1時間後の交代に備えて、しっかりと寝よう。そう思って瞼を閉じて数分後。
「ダクネス!アクア!めぐみん!ゆんゆん!起きろ!」
1階からの物音に目を覚まし、パーティーメンバーを叩き起こしに行く。暗視スキルを持たないダクネス達のためにランタンを点けて、俺が先頭になって1階に降りていく。
あと5分とかいうベタな発言をしたアクアを布団から引きずり出したら怒られたが、知らん。寝ているお前が悪い。
「和真!無事か!?」
物音がした1階のキッチン。そこで和真はロープで拘束され、横たわっていた。
「う、うん。この通り。ただ、例の賊には逃げられた!」
ロープで縛られた和真は悔し気に嘯くが、相手が悪かったとダクネスは優しく接する。まあ、相手は厳重な警備を掻い潜って次々と貴族の屋敷を荒らしてきたプロだ。素人の和真じゃどうしようもならない。
「賊の人相は見たか?」
「怪しげな仮面を被った男だった」
ダクネスがロープを解こうとするが、バインドによるものなのか結び目がなく、中々緩まない。
「アクア。お前の魔法で解除してくれ」
「はいは~い。あ、でもその前にやっておきたい事があるから。その後で良い?」
和真に目で問いかけると、うんと頷いた。
するとアクアは和真に近寄り、和真がいない間にやらかしたことを洗いざらい白状した。具体的に言うと、和真の部屋を漁っている時にフィギュアらしき物を壊してしまったとか、和真の部屋で晩酌した時に酔った勢いで色々と物を壊したとか。
「ごめーんね!」
このタイミングで言う辺り、確信犯だな。
「い、いいさ。俺とお前の仲だ。帰らなかった俺が全面的に悪いんだしな!それより早く、拘束を解いてくれないか?」
アクアが拘束を解くために魔法を詠唱しようとした時、良い笑顔のダクネスが待ったをかけた。
「今、改めて気づいたが……」
「これは、また随分と楽しそうな状況ですね……」
──薄暗いキッチンに、騒ぎを聞きつけたアルダープが、護衛を連れて飛び込んできた。
「これは一体何事だ!例の賊が侵入したのか!?」
アルダープの視線の先では。
「ほら言ってみろ!ここ最近調子に乗ってすいませんと言ってみろ!この私に迷惑ばかりかけてごめんなさいと言ってみろ!恥をかかせてごめんなさいと言ってみろ!」
「ごめんなさいダスティネス様!迷惑ばかりかけてごめんなさいダスティネス様!恥をかかせてごめんなさいダスティネス様!」
「カズマの口からもう1度、あの台詞を聞かせてください!ほら、あの時の格好いい台詞を!私の爆裂魔法は何点ですか!?」
「止めろー!ああいうのは1回しか言わないから良いんだよ!何度も言わせるなよ恥ずかしい!」
「いいから言ってください!恥じらいなんか捨てて、さあ!」
「ふははははは!偶には逆の立場というのも良いものだ!さあ、続いては……」
「助けてアルダープ様ー!」
涙目の和真が、アルダープに助けを求めていた。