この兄弟に祝福あれ   作:大豆万歳

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第31話

王城の謁見の間で義賊の捕縛に失敗したと報告を終えた俺達。

クレアは和真を追い出す口実ができたとばかりにネチネチと口撃したが、アイリスは和真の努力を評価してくれた。

しかし、どんなに頑張っても結果を残せなかったら評価されないのが大人の世界。俺達はそのまま王城を去り、アクセルの街に帰る筈だった。

 

「ねえ、帰るなら明日にしない?どうせならお土産を買いたいの。どうせ暇なんだし、王都で1日観光しながら良いお酒でも買って、それから帰りましょ」

 

アクアがそんなことを言わなければ。

結果、俺と和真は気分転換も兼ねて王都の散策。ダクネスとめぐみんは今日の宿を探し、アクアはゆんゆんを連れて買い物に向かった。

 

「気分転換しろって言われてもなぁ。どうすれば」

「あっ、陽樹さん。こんな所で奇遇ですね」

 

俺達は、背後から声を掛けられた。

そこにいたのは、魔剣使いのソードマスターこと、御剣響夜。仲間の女性が2名いたはずだが、今日は1人のようだった。

 

「久しぶりだな御剣。どうだ、俺が作った刀の調子は?」

「もう100点満点ですよ。これと魔剣グラムを使い分けて戦って、かなり腕も上がりました」

「それは良かった」

 

会話が弾んでいる俺の袖を和真がくいくいと引き、耳打ちしてくる。

 

「兄さん。この人、誰?」

「御剣響夜だよ。俺達と同じ転生者で、魔剣使いの」

「さ、佐藤和真。まさか僕の名前を忘れたのか?」

「悪い。人の顔と名前覚えるの苦手なんだよ」

 

少しも悪びれる様子を見せず、形だけの謝罪をする和真に御剣の頬がヒクつく。

しかし、気分を切り替えるために頭を振り、真面目な表情になる。

 

「ま、まあ。それよりもここで会ったのなら丁度良い。お2人に話があるんですが、この後予定はありますか?できれば、一緒に食事でも」

 

~野郎共移動中~

 

「「「いただきます」」」

 

──俺と和真、御剣の3人は街中のラーメン屋で食事をしていた。御剣曰く、この店の初代店長は日本からの転生者らしい。店の外見や内装の既視感からそんな気はしていたが。

 

「……で、話ってなんだよ?」

「アクセルの街に現れたデュラハンのベルディアを覚えているかい?君達が討伐した、魔王軍幹部だ」

「ああ。その後で高額の借金背負わされたからよ~く覚えてるよ」

 

それがどうした。と、醤油ラーメンを啜りながら和真が目で訴える。

 

「何でも、ベルディアはある調査のために魔王に派遣されたらしい。理由は、あちら側の予言者が『アクセルの地に大きな光が舞い降りた』と言ったとか」

 

そして、調査に向かったベルディアは討伐された。続いてバニル、ハンス、シルビアまでもが討ち取られたため、魔王軍は討伐に関わった冒険者パーティーを警戒しているとか。

……それってつまり俺達の事だな。

 

「その大きな光ってのは」

「派遣された時期を考えると、アクア様の事でしょう」

「魔王がアイツを警戒ねぇ。……普段の姿を知る身としてはどうもしっくりこねえ」

 

和真の言う通り、普段のアクアは低い幸運と知力のせいでトラブルを起こし、巻き込まれては泣きじゃくっている。しかし、それに目を瞑ればかなりの実力者だ。そもそも女神だし。

 

「それと、2人はご存知ですか?シルビアが討伐された時、赤い巨人と青い巨人が紅魔の里に現れたと新聞に載っていたことを」

「「……」」

 

俺と和真の反応を見て察したのか、やっぱりと御剣は小声で訊ねてきた。

 

「新聞には色しか載っていなかったんですが……変身したのはどの組み合わせですか?」

「……追加で焼き餃子注文して全部お前の奢りだったら少しだけ教える」

「すいませーん。焼き餃子1つお願いします」

「は~い。3番テーブルに焼き餃子追加ー」

 

注文をした御剣が伝票を自分の手元に寄せ、和真に目配せをする。

 

「俺がブルで、兄さんがロッソだ」

「成程。原典を考えると、2人にぴったりですね。それで佐藤和真。神器を手にしたということは、君も拠点を──」

「移すわけないだろ。こちとらステータスが貧弱な冒険者だ」

「そ、そうか。まあ、変身しなくてもある程度戦えるようにするという心構えは大事だ。僕も以前、君との勝負で魔剣を盗られた途端何もできなくなったからね」

 

和真の返答に、御剣はうんうんと頷く。あれを自分への戒めと捉える辺り、大分良い奴だな。

 

「ありがとう。おかげで良い情報を貰えた」

「いえいえ。陽樹さんにはお世話になっていますから、そのお礼です」

「お待たせしました。焼き餃子です」

 

 

 

──その日の夜。

宿で寝ていた俺は、不意に何者かの気配を感じて目が覚めた。隣を見れば、和真も同じように目が覚めたようだ。

 

「お。起きた」

「……なんだクリスか。用件なら兄さんに言ってくれ。じゃ、お休み」

「待ってよ!寝ないでよ!後で屋敷に侵入した事情を話すって言ったでしょ!?」

 

侵入者。もとい、クリスが布団に潜り込んだ和真を引っ張りだそうとする。

 

「クリス。もしかして、噂になっている義賊ってのはお前のことか?」

「そうだよ。それで、あたしが義賊をしているには深い理由があって」

「聞きたくない!聞きたくなーい!アルダープの屋敷で事情は聞かないって言ったんだ!わかったらさっさと帰った帰った!」

 

和真は布団に潜り込んだまま大声で喚き、ダクネス達を呼ぼうとする。

しかし誰も来なかった。

クリスは和真を引っ張り出すことを諦め、事情を語り始めた。

この世界には、神器と呼ばれる超強力な装備や魔道具が存在する。

神器と呼ばれるだけあって、それらの品は簡単に入手できない。

だが、それらの所有者には、ある共通点があった。

それは黒髪黒目の持ち主で、変わった名前をしている事。

 

「つまり、俺と和真が持っているルーブジャイロとルーブクリスタルや、御剣が持っている魔剣グラムのことか」

「うん。それがね、どういった経緯があったのか不明だけど、所有者がいなくなった2つの神器が、とある貴族に買われたらしいのさ」

「ほう」

 

貴族に買われた神器の片方の効果は、ランダムにモンスターを召喚し、対価も代償も無しに使役する事ができるアイテム。もう片方は、他者と肉体を入れ替える事ができる神器。

 

「それであたしの盗賊スキルの中に、レアなお宝の在処が分かる『宝感知』ってスキルがあるんだけどさ。そのスキルを使って、王都の家々を片っ端から調べてたって訳」

「それが、金を余らせた悪徳貴族の家ばかりだったのか」

「そう!で、侵入したのはいいけど、目的の神器は見つからない。前々から義賊っぽい事がやりたかったから、ついでに後ろ暗いお金は頂いちゃえってね!」

 

こいつはノリと勢いで義賊をやっていたのか。頭がちょっと痛くなった。

 

「じゃあ、神器目当てに侵入する理由は?」

 

それを聞いたクリスは、困った様な顔で頬の傷を掻く。

 

「ま、まあ、それについてはその内話すよ。で、ハルキ達が泊まっていた屋敷から凄いお宝の気配を感じ取ってね。忍び込んだらカズマに遭遇したの」

「凄いお宝の気配か。……もしかして、コイツのことか?ほら、和真も布団被ってないでクリスに見せろ」

「へ~い」

 

俺と和真はルーブジャイロとルーブクリスタルを取り出し、クリスに見せる。

 

「うん。2人が持ってる神器の気配も感じたよ。他に何か凄いお宝はあった?」

「そうだな……前にアクアが自分の羽衣は神器だとか言ってたから、それだと思う」

 

それを聞いて、クリスはがっくりと項垂れた。

 

「で、どうすんだクリス。俺と和真の持ってるルーブジャイロとルーブクリスタル、回収すんのか?俺も和真も本来の所有者じゃないし」

「う~ん……それは2人が持っててよ。でも、2人がそれを入手するに至った経緯だけは教えて」

 

俺と和真が紅魔の里での1件を説明すると、クリスはなるほどと頷く。

 

「仲間の遺品として保管しておく。その手もあったんだね……覚えておくよ。それで、ここからが本題なんだけどね。お城の方から神器級の凄いお宝の気配を感じたの」

「そりゃお城だから凄い宝の1つや2つあるもんだと思うんだけど……それで?」

「ほら。2人とも暗視スキルに潜伏や敵感知、聞き耳も持ってるよね。だから、協力してもらえないかなー、って」

「絶対に嫌だ!俺達に犯罪の片棒を担がせようとするんじゃない!」

「すまん。理由がどうあれ窃盗は犯罪だから俺も協力できない」

「カズマの薄情者!ハルキの頑固者!そんな事言わずに協力してよ!あの神器を回収できないと大変な事になるんだってば!」

「なら神器目的の理由を今ここで話せ。返答次第では協力するぞ」

「駄目だよ兄さん。兄さんが協力しようものなら、(ダクネス)の立場が悪くなる。クリス、お前のせいで友人(ダクネス)の立場が悪くなってもいいのか?」

「で、でも……!」

「わかったらさっさと帰れ!さもなくば覚えたてのバインドでお前を抱き枕にして寝てやる!」

「わ、分かったよ!今日のところは引き揚げるから!また明日相談に」

「『バイ……』」

「きょ、今日のところはこれぐらいで勘弁してやらー!」

 

部屋の窓を開け放ち、半泣きのクリスはそこから飛び降りた。そして和真は窓を閉めて施錠し、大きなため息の後に言った。

 

「……街に帰ったらエリス教に入信しよう」

 

幸運と言い難いここ最近の出来事を思い返した和真は、布団に潜り込んで目を閉じた。

そして祈るように手を数秒組み、目を閉じた。

俺はクリスが義賊をやっていることがバレないことを祈り、布団に潜り込んだ。

 

『魔王軍襲撃警報!魔王軍襲撃警報!現在、魔王軍と見られる集団が王都近辺の草原に展開中!騎士団は出撃準備!今回は魔王軍の規模が大きいため、王都内の冒険者各位にも参戦をお願い致します!高レベル冒険者の皆様は、至急王城前へ集まってください!』

 

──狙いすましたように鳴り響いた警報のせいで、俺は起こされた。

 

 

 

 

夜明けの王都に鳴り響くアナウンス。

それと同時に、静かだった宿が騒がしくなった。

 

「2人とも起きてるか!?今のアナウンスは聞いたな!?直ぐに装備を調えろ!」

「今やってるからちょっと待ってろ!」

 

慌てた声と共にドアを叩くダクネスに、ドア越しに返答する。まあ、実際は防具着るだけでいいんだけどな。武器は見えないだけでいつも持ち歩いている。

 

「和真。お前も来るか?」

「やだ。せいぜい中レベル冒険者の俺はお呼びじゃないだろうし、王都には腕利きの冒険者が揃ってるから」

「……わかったよ。ダクネスには俺から伝えておく」

 

行けばよかったと後悔しても知らないぞと釘を刺し、部屋を出てダクネス達の部屋へ。そこでは……。

 

「いやー!どうして私がそんな危険地帯に行かなきゃならないの!?私は王都に遊びに来たの!行くなら私抜きで行ってちょうだい!」

「我儘を言うな、アクア!魔王軍との戦いなのだぞ、回復魔法の使い手は幾らいても足りないのだ!」

 

アクアをベッドから引きずりだそうとダクネスが苦戦し。

 

「ゆんゆん、私達は城には行かず、先に魔王軍のとこへ向かいましょう!戦いが始まり人が入り乱れての乱戦になっては私の魔法は使えませんからね!一番槍は私の物です!貴女は爆裂魔法を放った後の足をお願いします」

「駄目よめぐみん!ここは王都の騎士団と冒険者さん達に合わせて行動しないと!」

 

ゆんゆんがめぐみんの説得を行っていた。

 

「ダクネス。手伝おうか?」

「頼む」

「離しなさいよこの両片想いバカップル!私は絶対にここから1歩も出ないんだから!」

 

どちらに加勢するか悩んだ結果。俺はダクネスと2人がかりでアクアをベッドから引きずり出すことにした。

 

「ダクネス!俺がアクアの指を離すから、引っ張り出したら抑えつけてくれ!」

「わかった!」

「お願い止めて!朝食のウィンナー1本ずつ分けてあげるから!また明日にして!」

「明日にはアクセルの街に帰っているから無理だな」

「ハルキの言う通りだ。さあ、大人しく出陣しようか」

「聞いてください、ゆんゆん。『戦場に到着した王国軍が見た物は、無残に壊滅した魔王軍と、悠然と立ち去ろうとする魔法使いだった……』と、こんなのがやれる絶好のチャンスなのですよ?」

「た、確かにすごくカッコイイけど……」

「そうでしょうそうでしょう。今私と行けば、友達である貴女はその光景を特等席で見ることができるのですよ?」

「と、友達……!」

 

混沌とした状況の俺達の耳に、ドアが勢いよく開く音が届いた。

 

「皆、国の危機に何やってんだ!今こそ俺達の出番だ!行くぞ!」

 

いつの間にか完全武装状態になった和真が、らしくもない事を口にして自分達も出撃すると言った。まーた何か企んでやがるな。




あと2回で王都辺編終了(予定)
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