「盗賊職は鋼鉄製のワイヤーを、アーチャー職はフックロープ付きの矢を用意して待機!頑丈な奴らは後衛を守るために楯としてその場で待機!魔法使い職はヒュドラを湖から引き離したら、兎に角魔法を撃ってくれ!」
「カズマさーん!!早くして、早くしてええええ!!」
「ダクネスはヒュドラの正面で囮スキルを使ってくれ!お前の硬さが勝負の決め手だ!」
「任せろ!硬さなら誰にも負けない!!」
「アクアは支援魔法を使ったら、基本的に大人しくしてろ!怪我人が出たら適宜回復魔法を使え!」
和真が指示を出し終えると同時に、水際に立っていたダクネスがスキルを発動。
「『デコイ』ッ!!」
並みの冒険者が食らえばひとたまりもないヒュドラの8本首による猛攻を、ダクネスは顔を顰めながらも受け止めた。
「「「「『バインド』ッ!!!!」」」」
ヒュドラの首が1か所に集まった瞬間、盗賊職のワイヤーがヒュドラの首を結束させる。続いて放たれたアーチャー職のフックロープ付きの矢が、ワイヤーに引っかかる。
フックが引っかかったことを確認した冒険者達が、ロープの端に取り付いて引っ張り出す。
このまま更に湖から引き離し、ヒュドラの逃走を防止させる。
「『ライト・オブ・セイバー』!!」
ゆんゆんの放った魔法を合図に、魔法使い達の魔法がヒュドラを襲う。同時にそれは、俺と和真の行動開始の合図でもある。
「行くぞ、和真!」
「うん!」
拳を2度打ち合ってハイタッチし、ジャイロを突き出して叫ぶ。
「「オレ色に染め上げろ!ルーブ!!」」
『ウルトラマンタロウ!』『ウルトラマンギンガ!』
「纏うは火!紅蓮の炎!」「纏うは水!紺碧の海!」
『ウルトラマンロッソ、フレイム!』『ウルトラマンブル、アクア!』
「「先輩の力、お借りします!」」
身長を等身大まで抑えて、俺と和真は変身した。
「『ゼロツインスライサー』!」
「『ワイドショットスラッガー』!」
「『ザナディウムソニック』!」
「『ギャラクシーセイバー』!」
「あれがハルキの言ってた力か!」
「こっちも負けてないわ!『ライトニング』!」
「『ファイアーボール』!」
そして空に舞い上がり、遠距離攻撃主体で戦う。仲間の攻撃に巻き込まれないために、できる限り高いところから。魔法使い職の冒険者達も、俺と和真に負けじとヒュドラに攻撃魔法を叩き込んでいく。
「『ストビュームバースト』!」
「『アタッカーギンガエックス』!」
「『エナジーイグニッション』!」
カラータイマーが鳴り始めたことから、2分が経過したと判明した頃。俺、和真の順にオーブリングNEOを使用して、ヒュドラに攻撃を放った。既に魔力切れになった魔法使い職は後方に下がり、残るはゆんゆんとめぐみんの2名。
「おい!ヒュドラの傷が再生してないぞ!?」
冒険者の1人が指摘したように、ヒュドラの体に先程の攻撃による大きな傷跡ができていた。
そしてヒュドラは湖の底に逃げようとしているようだが、傷だらけの体に重い鎧を装備した冒険者達の抵抗もあって思うように動けないようだ。
「めぐみん!フィナーレだ!」
「良いんですか!?」
「思いっきりやってくれ!」
それを聞いためぐみんはヒュドラに杖を向ける。めぐみんの爆裂魔法に慣れた冒険者達は、耳を塞いで避難している。
「『エクスプロージョン』ッ!」
めぐみんの杖から放たれた閃光が、俺達の猛攻を受けたクーロンズヒュドラを包み込む。そして爆音と爆風の後に、クーロンズヒュドラは跡形もなく消し飛んだ。
「案外俺達でも何とかなるもんだな。まあ、カズマのパーティーがいたからの話だがな」
「つーか、あれがあったならお前らだけでもできたんじゃねえのか?」
「俺と兄さん、めぐみんの今の状態を見てみろ、これが答えだ」
ヒュドラを倒した俺達は、ぞろぞろと冒険者達を引き連れて、達成感を胸にアクセルの街へと帰っていた。
今回の相手は大物賞金首だというのに、こちらの被害はまったく出ていない。これを知ったらギルドの職員はひっくり返ることだろう。
「それじゃあ、ヒュドラとの戦いで皆疲れただろうし、今日のところはゆっくり休んで、明日は受け取った報酬の一部でパーッと宴会しようぜ!」
『大賛成だ!』
和真の提案に皆が歓声を上げる中、俺はダクネスに声をかける。
「念願のヒュドラ討伐を達成した気分はどうだ?随分すっきりした表情だが、明日からはぐっすりと眠れそうか?」
「ああ、おかげで色んなものが吹っ切れた。今まで悩んでいたことが馬鹿らしいと思えるほどにな。だがそれは、ヒュドラを討伐したからじゃないぞ」
俺に肩を貸しているダクネスは、何日かぶりの笑顔を見せる。
「私はこの街の連中が好きだという事を、あらためて自覚した。おかげで迷いは無くなった。もう何も怖くないし、後悔もない」
「お前偶にそういうこと言うよな。聞いてるこっちが恥ずかしくて脇腹が痛い!」
俺にからかわれたダクネスは、むくれると脇腹を抓ってくる。
そして……。
「私は幸せ者だ」
翌日。
「冒険者の皆さん!昨日は本当に、本当にお疲れ様でした!!大物賞金首『クーロンズヒュドラ』討伐、おめでとうございます!つきましては、皆様に多大な報酬が支払われますので、こちらにお並びください!!」
『うおおおおおーっ!!』
ギルド職員一同の拍手と、昨日の討伐戦に参加した冒険者達の歓声で冒険者ギルドの空気が震えた。
今から手にする賞金を期待してか、誰しもが満面の笑みを浮かべていた。
「ていうか、何でダクネスは来ないんだ?報酬受け取ったらそのまま宴会するってのに。まさか、昨日の件で照れてるのか?」
「それはあるかもしれませんね。昨夜のダクネスときたら、私達の前でも恥ずかしがっているのか、何時もよりテンションが高めでした。普段はあまり酒を飲まないのに珍しく深酒してましたし、私とゆんゆんに酒を勧めたり……」
「うんうん」
「ダクネスはああ見えて恥ずかしがり屋で不器用な子だから、まだ皆の前に来られないのも仕方ないわ。留守番しているダクネスに、お土産買って帰りましょうよ」
ギルド中央のテーブルに陣取った俺達は、昨夜の妙に浮かれたダクネスを思い出す。
アクアの言う通り、ダクネスはまだ照れていて来るのが恥ずかしいんだろう。とりあえずダクネスの分は俺達が受け取り、屋敷で渡すとしよう。
因みにクーロンズヒュドラ討伐の報酬は10億エリス。あの戦闘に参加した冒険者の数は50人ほどのため、1人あたり2千万エリスが支払われる。
ある程度冒険者が報酬を受け取って列も短くなったところで、俺達も並ぶことに。
「では、サトウカズマさんのパーティーは5人分の報酬ということで、1億エリスを支払わせて頂きます!」
「ありがとうございます!よし、お前ら!約束通り報酬の一部で派手に……ルナさん、報酬はこの通り受け取りましたから!この前も賞金渡すの渋ってましたよね!気持ちは分かりますから、手を離してください!」
和真の説得を受けて、ようやくルナさんが賞金の入った袋を離すと。
「昨日はあらためて協力ありがとな!宴会しようぜ!!」
『おおおおお!』
冒険者ギルドに響き渡る野太い歓声。
時刻は昼だが、今回の宴会は長くなりそうだ。
すっかり日も暮れたアクセルの街を、屋敷に向けて帰る途中。
普段食べるよりも高めの食材を買ったので、留守番中のダクネスと二次会を始めるつもりだ。
買ってきたのは霜降り赤ガニ。
ダクネスの実家から贈られて以来、食べたことのない高級食材だ。
「ダクネス、ただいま。……あれ?でかけてるのか?」
俺達が屋敷に帰るも、ダクネスはいなかった。
テーブルにあった置き手紙を読んだところ、昔破壊された領主の屋敷が完成したらしいので、ヒュドラ退治の報告に行くと書かれていた。晩飯までは帰るらしい。
屋敷に帰ってきたアクアが卵の孵化作業に戻り、晩飯を催促する声をBGMに俺と和真は台所で調理を行う。報告が終われば帰ってくるだろう。
やがて普段より豪華な料理が完成し、それらが広間のテーブルへと並べられた。
「ねえハルキ、ダクネスの帰りが遅いんですけど。料理が冷めないうちにダクネスを探してきてー、探してきてー」
「そんなに言うならお前が探してこいよ」
そんなことを言っている間に、めぐみんとゆんゆんが人数分の食器とお茶を用意した。
「今日の料理はちょっと凝ってますね。お嬢様のダクネスでも、あまり食べたことがない料理ではないでしょうか」
後はダクネスが帰ってくるだけ。そしたら2次会が始まる……はずだった。
「ねえカズマー!ハルキー!もう冷めちゃったわよ、温め直してー」
夜の帳が下りる頃になっても、ダクネスは帰ってこなかった。
「……ご飯を前にお預けとか。私はダクネスじゃないんですから、ちっとも嬉しくありませんよ。……帰ってきたら、罰としてソファーの前で正座させて暫くお預けさせて、目の前で食べてやります」
「それ、ダクネスさんにやっても罰にならないと思うんだけど……」
「……遅いな。晩飯までは帰ってくるって書いてたのに」
「バニルが占った通り、実家で何か起きたのか?それなら何が起きたか知らせてくれれば、こっちもそれに合わせて動くのに」
皆で愚痴を言いながら、ダクネスの帰りを待つ。
やがて苛立ちは怒りに変わり、ダクネスが帰ってきたらどんな罰を下してやるかの会議が始まった。
大概の罰はご褒美になるあいつにはどんな罰が効くのか、皆で意見を出し合って考えた。
けれど、誰1人として食事に手を付けようとは言わなかった。
結局、アクアが選んだ超可愛らしい服を着せてそれに見合った髪型にさせ、ギルド及び街中引き回しの上、1日借りるだけでも高額な魔道カメラでの撮影会を行うことになった。あいつは羞恥責めだけはご褒美にならないからな。
それが決まったのは、そろそろ日付が変わろうとしていた。
「……遅いわねぇ」
アクアが呟くが、誰も食事に手を付けようとしない。
ヒュドラ討伐の報告にどれだけ時間をかけているんだろうか?
いくら相手があの領主とはいえ、大貴族の令嬢であるダクネスに何かできるとも思えないのだが……。
このまま待ってても帰らないなら、朝帰りしたところをとっ捕まえてさっきの罰に何か付け加えるとしよう。
……バニルの見通す力を使って、ダクネスの恥ずかしい話を暴露させる、これでいこう。帰ってきた時間に比例して、バニルが質問する時間を伸ばしてやろう。
俺がそんな決意を密かに固める中、誰も食事に手を付けようとしなかった。和真がさっさと食べようと言っても、困った表情を浮かべて窓の外を眺めるだけ。
結局、ダクネスはこの日帰ってこなかった。
それどころか、その次の日も、更にその次の日も。
ダクネスが屋敷に帰ってくることはなかった──。
「じゃあ、工房に行ってくる」
「「「行ってらっしゃい」」」
「行ってらー」
朝食を済ませ、兄さんが屋敷を出ていく。
広間に残された俺達は、顔を寄せ合って話し合う。
「やっぱりダクネスがいなくなって動揺してるな。普段通り振舞っちゃいるけど、俺の目は誤魔化せない」
弟である俺の観察眼に納得したのか、皆がやっぱりと頷く。
テーブルの中心には、ダクネスから届いた手紙。これに目を通して以来、兄さんの様子がおかしい。偶にどこか遠くを見てボーっとしていたり、大きなため息を吐いたり。今朝なんかダクネスの分の食器を出しそうになっていた。
「ダクネスは、本当にこのままパーティーを抜けてしまうんでしょうか……」
俺達はめぐみんの言葉に無言になる。
「……しょうがないだろ、実家が実家だ。元々、今まで俺達みたいな一般人と冒険が出来たのがおかしいんだよ。兄さんもそう言ってただろ」
「でも!これって絶対変ですよ!ダクネスが何も言わずにパーティーを抜けるなんて!私達は手紙1枚でお別れを済ませる様な、そんな薄っぺらい関係ではないはずです!」
めぐみんが、テーブルの上にある手紙に拳を振り下ろして俺の言葉に食って掛かる。
「というか、クリスさんは何処で何をしているんでしょうか?ダクネスさんが冒険者を辞めたとなったら、真っ先にお屋敷に突撃するはずなのに……!」
ゆんゆんは、苛立ったような口調で拳を握りしめていた。目も紅く輝いているから、相当頭にきているな。それがクリスに手紙を寄こさないダクネスへの怒りなのか、手紙を受け取って何も行動しないクリスへの怒りなのかは分からない。
俺は何となく、テーブルに置かれた手紙に目を通す。
──突然こんな事を言い出して、本当にすまない。お前達には言えない、込み入った事情が出来た。
貴族としての、やむを得ない事情だ。お前達とは、もう会えない。本当に勝手な事だが、パーティーから抜けさせて欲しい。どうか、私の代わりの前衛職をパーティーに入れてくれ。
お前達には感謝している。それは、どれだけ感謝しても足りない程で……。お前達との冒険は楽しかった。私のこれまでの人生の中で、1番楽しいひと時だった。
私は今後、お前達との冒険の日々を絶対に忘れる事はないだろう。今までどうもありがとう。
ダスティネス・フォード・ララティーナより。愛する仲間達へ、深い感謝を──