この兄弟に祝福あれ   作:大豆万歳

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第37話

 ダクネスがパーティーから脱退し、数日が経過したある日。

 和真達に夕飯の買い出しを頼まれた俺は、街の商店街に来ていた。

 来たのはいいんだが……なんだか周りからの視線がちくちくと刺さる気がする。俺が何をしたっていうんだ。

 

「よぉ、ハルキ。久しぶりだな」

 

 そんな中、俺は後ろから声をかけられた。

 振り向いてみれば、そこにいたのは厳つい顔に髭を生やしたモヒカン頭の男性。更に半裸で肩パッドをしているという風貌から戦士系の職業だと勘違いするかもしれないが、実は機織り職人をやっている。

 

「ポチョムキンのおっさんか」

「『4世』が抜けてるぜ」

 

 おっさんは苦笑しながら、自分の名前について細かい指摘をした。

 俺は屋敷に向かって帰ろうとすると、おっさんは俺の隣を歩き出した。

 

「そういや。お前のとこのクルセイダーの嬢ちゃんを最近見ないが、何処で何やってんだ?」

「……家の事情で冒険者を止めるって、実家に帰ったよ」

「成程。それであの噂(・・・)に合点がいったぜ」

「噂?」

 

 どういう事だと訊ねると、知らないのかとおっさんはきょとんとした。

 

「街中で噂になってるぜ。お前のとこのクルセイダーの嬢ちゃんが、この街の領主様と結婚するってな」

 

 …………。

 

「その話、詳しく聞かせてくれ」

 

 

 

 

 時刻は深夜2時。

 俺と和真とアクアは今、警戒の厳しいダスティネス邸を路地の影からこっそり観察していた。

 アクアが俺の体に、小さな声で各種支援魔法をかけていく。筋力増加、速度上昇、防御力上昇に魔法抵抗力上昇まで……。

 

「『ヴァーサタイル・エンターテイナー』!」

 

 アクアが、俺の聞いた事のない魔法をかけてきた。

 感覚から察するに、支援魔法の1つなんだろう。

 

「今の、何の魔法だ?」

「芸達者になる魔法。これで怪盗キッドやルパン三世みたいな声帯模写ができるわよ」

 

 なるほど、そういう意図があって使ったのか。

 俺は弓と、フックロープ付きの矢を取り出し、屋敷の屋根に狙いを定める。矢の先の方には布を何重にも巻き付けてあるので、音で気づかれることはないだろう。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

 皆と相談した結果、潜伏スキルや暗視スキルなど侵入に使えるスキルを持っていて、1度来た事のある俺が屋敷に乗り込むことになった。

 

「しっかりね。なんなら、ダクネスを気絶させて攫ってきちゃいなさい」

「お前仮にも神職なんだから、そういう事を言うのは色々とまずいだろ」

「いや、今回は俺もアクアの意見に賛成だ。せっかく支援魔法をかけたんだし、頑固なダクネスがそう簡単に口を割るとも思えない」

 

 俺は和真とアクアに見守られながら、屋根の天辺ギリギリのところに狙撃スキルで矢を放つ。

 矢は狙い通りの位置に引っかかる。

 そのまま暫く動かずにいるが、今の音で誰かが来ることは無さそうだ。

 屋根を囲む柵の一部にロープを結び付け、2人に向かって静かに告げた。

 

「俺が屋根に上って右手を挙げたら、ロープを解いてくれ。見回りがこの辺に来ないとも限らないし、ロープが見つかれば侵入がバレる。帰りは自力で何とかするから、お前らは屋敷に帰っててくれ」

 

 ロープを引っ張って手ごたえを確認する俺に、2人は首肯した。

 俺はロープを上っていき、屋根に到着する。右手を挙げると和真がロープを解き、そのまま屋敷へと帰って行った。

 ロープを足元に手繰り寄せ、敵感知スキルで人がいない部屋を探る。そして探していると、2階に誰もいない部屋を発見した。

 屋根にかかったままのロープで窓からの侵入を試みるが、案の定施錠されていて部屋に入ることはできなかった。

 そこで使うのが初級魔法と現代知識。

 まずはティンダーで窓の表面を炙る。充分ガラスの表面が熱されたら、次にフリーズで一気に冷却する。すると、微かな音と共にひび割れた。

 音で誰か来ないか聞き耳を使うが、部屋に近づく足音も、音に気づいたような反応もない。

 俺が行ったのは、空き巣がガラス破りに使う焼き破りという方法。どっかのワイドショーの防犯特集で取り上げられていたのを、まさかこんな形で実践することになるとは。

 罅割れて、欠けたガラスの部分に指を入れ、鍵周りのガラスを少しづつ剥がすように割っていく。

 やがて鍵を開けられる大きさの穴を開けると、窓から部屋に侵入。ガラスの破片を回収して、ベッドの下に潜り込んで潜伏スキルを使う。

 

「『聞き耳』」

 

 ダクネスの部屋を探し出すため、スキルを使用。部屋の外から屋敷の見回りを行っている守衛の声が聞こえた。

 

『どうだ?お嬢様の様子は?』

『ぐっすり寝ておられるようだ』

 

 続いて、俺が今隠れている部屋に近づく足音。潜伏スキルを使ったまま、息を殺して相手の動きを窺う。

 

「言ったろ、何もないって。慎重なのはいいが、ほどほどにしといたほうがいいぞ?」

「あ、ああ。すまない」

 

 守衛の2人は部屋をざっと見渡すと、部屋を出ていった。声の感じから察するに、この2人がさっきダクネスの部屋の前で話をしていたんだろう。

 ならば善は急げ。俺は静かに部屋を出ると、ダクネスの部屋の前に立つ。ドアノブに手をかけて捻ってみるが、ビクともしない。まあ、そうだろうと思っていた。

 そこで俺は、2本の金属の棒を取り出し、スキルを使って鍵を開けた。極力音を立てないように扉を開け、部屋に侵入する。万が一侵入がバレて逃げる際の時間稼ぎ用に、再び鍵をかけておく。

 

「すぅ……」

 

 部屋の中に灯りはない。窓から差す星の光が、穏やかな寝息を立てるダクネスを照らしている。

 

「……ごくり……」

 

 素数を数えろ!!2、3、5、7、11、13、17、19、23、29、31、37…………。

 最近忙しくて例のお店を利用していないせいか、何がとは言わないが溜まっているな。今回俺が来たのはダクネスにパーティー脱退の理由を訊ねる為だ。雰囲気と欲望に飲まれてダクネスの寝込みを襲ってはいけない。

 

「……ハルキ……?」

 

 素数を数えるのに夢中になっていた俺の耳に、不意に声が聞こえた。俺が声のした方に顔を向けると。

 

「ハルキ、なのか……?」

 

 何時の間にか目を覚ましていたダクネスと目が合った。

 

「「……」」

 

 無言で、俺とダクネスは暫く見つめ合う。

 

「……言うほどじゃないけど、久しぶり」

 

 そう言った次の瞬間、ベッドから跳ね起き、抱きついてきたダクネスに押し倒された。

 俺の尻から背中にかけて衝撃と痛みが走る。ついでに柔らかい物のあたる感触があったが、痛覚が触覚に勝った。

 俺はうめき声をあげそうになったのを必死で堪えた。そしてバレていないことを祈った。

 

「お嬢様!今の音はいったい!?」

 

 しかし俺の祈りは届かず、音を聞いて駆けつけた守衛が鍵を開けようとしている。

 ここはアクアの支援魔法でダクネスの声を真似て誤魔化そう。と口を開こうとした瞬間、ダクネスに口を押さえられた。

 

「心配するな!ちょっと寝返りをうってベッドから転げ落ちただけだ!」

「ね、寝返りですか?それにしては音が大きかったような……」

 

 ダクネスの言葉を聞いて守衛は鍵を開けるのを止めたが、その場を離れるつもりはないようだ。そこで、ダクネスは続けて言った。

 

「き、筋肉がついて重くなったから、音も大きくなったのだろう!他の者にもそう伝えろ!」

「か、かしこまりました!」

 

 守衛はダクネスの言葉に納得したのか、立ち去って行った。

 こいつ、ついに自分から筋肉をネタに使った。だが本人も少し恥ずかしかったのか、顔がほんのり赤くなっている。

 俺がダクネスの腕をタップすると、ダクネスは小声で謝罪して手を離す。絶対に喋らせないという力強い意思を物理的に感じた。多分手形が付いているかもしれない。

 

「で、あの手紙はどういう事だ?具体的な説明もなかったから、あいつらが心配していたぞ」

「そう、だな。すまない」

 

 ダクネスはベッドに座ると、隣に来いと手招きしてくる。

 俺が隣に移動すると、ダクネスは口を開いた。

 

「実は、当家はあの領主に金を借りていてな。父がゆっくり返していくつもりだったのだが、最近父の体が思わしくなくてな。それで、あの領主が催促をしてきた。父の存命中に返せるのか、とな。……但し、私が嫁に来るなら借金をチャラにするそうだ。だから、私は冒険者を辞めた」

「お前の家、あの領主に金を借りてたのか?それで冒険者を辞めるって、そんなの……」

「ああ、借金のカタに取られるわけだ。だが、これは貴族の家では珍しいことじゃないぞ」

 

 ダクネスは何でもない事を口にするかのようにそう言った。

 俺の表情を見たダクネスが。

 

「そんな顔をするなハルキ。私の男の趣味嗜好は良く知っているだろう?あの男は、色んな儀礼を飛ばして、結婚の日取りをとにかく急いでいる。よっぽど早く私を物にしたいようだ。あの様子では。鼻息荒いあのケダモノ領主に、初夜まで我慢できずに押し倒され、数日は貪られると思うと……!」

「いつも通りのフリは止めろ」

「フリだと?どこにそんな証拠が」

「涎垂らしてハアハアしながらじゃなくて、寂しそうな表情で言ってるじゃないか」

「……」

 

 誤魔化すように軽く笑うダクネスに指摘すると、途端に口を閉じた。

 

「成程、それでお前はヒュドラを倒したがっていたのか。良かれと思ってやったんだが、沢山人を集めて、悪かった。借金はどの位あるんだ?足りない分は、俺が」

「払うなんて言うなよ。私は貴族だ。本来私達が守るべき庶民が、命がけで稼いだ金で借金を返済する位なら、私は身売りを選ぶ。……それに、今のお前の財産でも払いきれる額ではないのだ」

 

 俺の言葉を遮りながら、ダクネスはジッと俺を見つめた。そして何を思ったのか、俺の首に腕を回してベッドに倒れこんだ。

 ベッドに広がる金糸の髪が、星の光を反射して淡く輝いていた。

 普段の気高さと気の強さは鳴りを潜め、何かを訴えるような瞳で俺を見つめる。意を決したように、俺の耳元で囁いた。

 

「このままあの領主にむざむざと奪われるなら……なあハルキ。いっそここで2人で、大人にならないか……?」

 

 落ち着け佐藤陽樹、良く考えろ。

 ダクネスはもう嫁に行く気だからこんなことを言っているんだ。

 もう諦めているから、2度と会えないと考えているんだ。

 このまま終わらせるつもりはないだろう?

 ダクネスをあんな奴のもとに送り出さないためにも、何とかしなければならない。

 だからダクネスにそっと掴まれた右手を払いのけるんだ!

 しかし、そんなに力がこもっていないはずの手を俺は払いのけることが出来ず、成すがままだった。

 ダクネスは俺の右手をそっと腹に置くと、静かに目を閉じた。後は任せたとでも言うように。

 俺はこの状況を何とかしようと、脳を全力で回転させた。そんな俺の指先に伝わる感触から、俺が口にすべき言葉が浮かんだ。

 

「……ナイス腹筋」

 

 

 

 

 顔の左半分が凄く痛い。頬もパンパンに腫れてるし、奥歯もグラグラする。

 さっきの雰囲気は俺の一言で台無しになった。ダクネスは顔を真っ赤にして拳を握りしめ、俺の事を睨んでいる。

 対する俺は床に膝をつき、頬をフリーズで冷却している。

 

「悪かった!俺が悪かった!この空気に耐えられなかったんだ!」

「黙れ!乙女の覚悟を愚弄した挙句、人の気にしていることを口にしてただで済むと思うなよ!そこに直れ!次は右の頬をぶん殴ってやる!」

 

 ダクネスが、叫ぶと同時に殴りかかってくる。

 それを、俺はヒョイと躱した。

 廊下の方から慌ただしく人が駆け込んでくる音が聞こえる。

 夜中にこれだけ騒いだらもう誤魔化せないだろう。

 

「どうだハルキ。今に家の者が来る!このまま見つかればタダでは済まないぞ。貴族の令嬢の寝室に侵入したのだ、私の擁護が無ければ最悪首が飛ぶ。さあ、ごめんなさいダスティネス様と土下座でもしてもらおうか!」

 

 俺が攻撃を躱したことで更に頭にきたのか、ダクネスはいつになく怒りに燃えていた。

 やがて部屋の前に多数の気配がし、激しくドアが叩かれた。

 

「お嬢様!開けますよ!」

 

 守衛の声を聞きながら、ダクネスが手を広げて掴みかかる体勢を取り、そのまま俺に飛び掛かってきた。

 普段なら力比べは望むところじゃないが、アクアの支援魔法を受けた今の俺は負ける気がしない。

 それに、ここまできて頭を下げられるか!

 俺は掴みかかるダクネスと組み合い、がっつり四つに組んだ体勢で睨み合う。

 

「ふはははは!ハルキ、お前とは何度か戦ったが、最後は私の勝利だな!」

 

 俺がこのまま組み合ったままでいるのが、負けを悟ったことによるものと認識したダクネスが高笑いをする。

 俺が不意に力を抜いて倒れると、前傾姿勢のダクネスは前のめりになった。

 そのまま巴投げの要領でダクネスを背後に投げると、ダクネスは転がって部屋の壁に激突した。

 同時にドアが開き、守衛が部屋に入ろうとしてくる。

 すかさず俺は悪臭を放つポーションを直ぐ正面の守衛に吹きかけ、追い打ちをかけるように煙玉を床に叩きつけた!

 

 

 

 

「屋敷の窓と出入り口を全て封鎖しろ!換気のために開けようなどと考えるんじゃないぞ、その瞬間逃げられる!相手は潜伏スキル持ちだ、何もなさそうな所でも触ってみろ!絶対に逃がすな、捕まえろ!ダスティネス家の名に賭けて、あの男を捕らえ、私の前に連れて来い!」

『かしこまりましたお嬢様!』

 

 部屋から出る時に追加で大量の煙玉を投げた影響で、空気が煙たくなってる屋敷にダクネスの怒号が響き渡る。

 当の俺はというと今まさに潜伏スキルで身を隠し、更に煙玉を投げていた。

 

「ハルキーっ!何処だっ!自分から大人しく出てきたならば、全力往復ビンタ10発で済ませてやる!だが、私が見つけた場合はその程度で済むと思うなよ!」

 

 ここまでやった俺が言えることじゃないが、今のダクネスは完全に頭に血が上っていて話が通じる状態じゃない。何もせず、静かに引き揚げよう。

 俺は脱出のために施錠されていない部屋を探していたところ、運良く近くにその部屋はあった。俺は内側から鍵をかけ、そのまま窓から脱出を試みると──。

 

「……そこに、誰かいるのか……?」

 

 部屋の中央にあるベッドから、とても小さく弱々しい声が聞こえた。

 声の主は、ダクネスの親父さん。

 ロクな灯りのない部屋の中でも、頬が痩せこけ、顔色も青白いのがわかる。

 

「ああ、君か……。こんな夜更けにこんな所に……。なるほど、娘は、本当に良い仲間に恵まれた様だ……」

 

 ダクネスの親父さんは、そう言って笑いかけてきた。

 この時間、ここにいる俺の姿を見ただけで、何の目的で屋敷に来たのかを見抜いたようだ。

 流石王家の懐刀と呼ばれただけはある。

 しかし妙だ。以前はあんなに元気だった親父さんが、こんなに弱々しくなっている。短期間でここまで体調が悪化するものなのか?

 

「親父さん、弱っているところ非常に申し訳ないんですが、ダクネスが怒り狂ってるので説得してもらえませんか?」

 

 俺の言葉に親父さんは、楽しそうに笑った。

 

「そうか。ここのとこ暗く塞ぎ込んでいた娘が、そんなに怒っているのか」

 

 笑い事じゃないんだよなあ。こっちは文字通り命がけだぞ。

 

「そういえば親父さん、この家は領主のおっさんに借金があるって聞いたんですけど。何があったんですか?ここの家ってそこまで金の掛かる暮らしをしている筈無いですし。どう考えてもおかしいなと思って」

 

 俺は疑問に思っていた事を親父さんに訊ねてみた。

 ダクネスが細かい事情を教えてくれないなら、親父さんに聞くしかないだろう。体の具合が悪いところに聞くのは申し訳ないが。

 

「……うん、ハルキ君。君は中々頭が良いな。やはり、君に娘を任せるという考えは間違いではなかったか。すまないんだが……娘を連れて、何処かへ逃げてはくれないか……?」

 

 借金の理由に対する回答で娘との駆け落ちを勧められた。

 

「無理ですよ。今ダクネスに追いかけまわされてここに逃げてきたんですから」

「そういえば、そうだったな。これは済まない。借金の理由だが、聞かないんでくれんか。借金は娘の意思で出来た物だが……。何、娘を連れて逃げてくれたら、後はこの屋敷でも売り払えばそこそこの金にはなる。それに今、色々と手を尽くしている。借金自体が無くなるかもしれん」

 

 借金が無くなるかもしれないって、不当な借金って事か?ダクネス、あの領主に一体何を……。

 

「それより、娘が先走り、嫁ごうとしている。これは何としてでも止めたい……。ハルキ君、この私が考えるに、君と娘はお互いの事を憎からず想っている。だからこそ相手の幸せを考え、お互いの間に壁を設けて距離を置いている。違うかね?」

「いや、それは……」

「ハルキ君」

 

 答えに迷っていると、親父さんは強い光を瞳に宿し、俺を真っ直ぐ睨んだ。

 

「身分の違いやパーティーの人間関係を理由に本心を押し殺し、目を背けるのは止めなさい」

 

 いや、俺は親父さんが言うように本心を押し殺していたことなんてない筈だ。なのに、何故か心に突き刺さる。

 

「……それよりも親父さん、どこか体調が悪いんですか?病は寿命だから回復も蘇生も効かないですけど、このタイミングで親父さんの体調が悪化するっていうのは……」

「領主に毒でも盛られたと思ったのかね?それは真っ先に調べたが、毒は検出されていない」

 

 毒によるものでは無い、か。ならどうやって?病にしてはタイミングが良すぎるし、やっぱりアクアの『くもりなきまなこ』とやらで診てもらうべきか?

 

「まだか!まだハルキは見つからないのか!」

 

 ダクネスの様子があれじゃあ、アクアを連れてくるのは不可能だな。逆に親父さんをうちの屋敷に連れていく考えもあるが、それは酷だろう。

 

「王様とかに掛け合って、どうにかしてもらう事は出来ないんですか?親父さんは国にとって大事な人なんでしょう?借金が不当な理由だっていうなら……」

 

 俺の言葉に親父さんは静かに目を瞑り、首を振った。

 

「そんな事をしても。娘は嫁ぎに行くだろう。誰に似たのか、頑固でな。国王に金を用立ててもらっても、そんな事に国民の税金を使うなと言って、自分の身と引き換えに借金を棒引きにしてくるだろう。……本当に、なんでこんな分からず屋に育ったのか」

 

 まったくです。

 親なんですから、あの頑固な娘を何とかしてくださいよ……。

 と、その時突然、蝶番の壊れる音と共にドアが倒れた。

 そこにいたのは荒い息を吐き、ドアを踏みつけた状態で俺を睨むダクネスだった。

 

「見つけたぞ、ハルキ……!」

「おいおいおいここに病人がいるんだから静かに開け閉めしろよ」

 

 俺の言葉に続き、親父さんがダクネスに注意する

 

「ララティーナ。何があったか知らんがまずは冷静に」

「お父様は黙っていてください」

「はい……」

 

 ダクネスに睨まれた親父さんは、頭まで布団を被って丸くなった。

 

「いいかハルキ、良く聞け!この件は貴族同士の話だ。お前の様な庶民はこんなドロドロした事に首を突っ込まず、工房に籠って汗水垂らして働いていろ!」

 

 瞬間、俺の中で何かがキレる音がした。

 

「もういいだろ、借金なんて!そんなもん無視してどっか逃げちまおうぜ!?それで、新しい土地で皆でやり直せばいいだろうが!それに、お前も分かってるんだろうな!?このまま俺が何もしないで屋敷に帰ったら、和真達が絶対に何かやらかすぞ!お前の結婚式当日には、式場が更地になってるかもな!」

「やれるものならやってみろ!その時はお前を主犯としてひっ捕らえ、牢屋にぶちこんでやる!それが嫌なら、4人を引き止めておけ!私は逃げない!私が逃げれば、その分何処かにとばっちりがいくのだ!……そして、その話とは別に……!」

 

 ダクネスが、言いながら俺に向かって駆け出した。

 嫁に行く前に、最後の決着を付けておくつもりらしい!

 やられるわけにはいかないので踵を返し、窓に向かって駆け出した。

 

「この分からず屋の頑固者が!もういい、勝手にしろっ!後で泣きを見ても知らねえからな!」

 

 俺はそんな言葉を残して、窓に体当たりを……!

 

「助けて欲しくなったら、いつでも屋敷に謝りに来い!心配かけてごめんなさい、私は皆さんの助けが必要ですってな!」

 

 窓ガラスを突き破り、俺はそのまま地面へと落下する。

 肩口から受け身を取って立ち上がり、騒ぎを聞きつけてこちらに駆けて来る守衛から逃げるために柵をよじ登り……!

 

「こっちに来るなー!持ち場に戻れー!」

 

 守衛の顔面に悪臭を放つポーションを瓶ごと投げつけたり、煙玉で視界を遮るなどしつつ、屋敷へと帰って行った。

 

 

 

 

「まだ痛むな……アクアー!ヒールかけてくれ!」

 

 俺は屋敷に帰り着くと、広間のソファーでうとうとしながら、卵を温めているアクアに近付く。

 ダクネスも和真達に顔を合わせ辛いのか、屋敷にまでは追ってこなかった。

 

「ふあ?……ちょっとハルキ!何があったの!?治療費にどんな馬鹿な事したのか教えなさいよ!」

 

 アクアが興味津々に、俺にヒールをかけてくる。

 その騒ぎに、今まで起きていたのか和真達もやって来た。

 

「ハルキ、お帰りなさい。それで、目的は果たせましたか?ダクネスからはなんと?」

 

 めぐみんにダクネスの事を聞かれただけで、無性にモヤモヤとイライラがこみ上げてくる。

 俺は自室から着替えをいくつか見繕い、鞄にねじ込んでいく。

 

「ダクネスの家には借金があるんだと!それで、あの領主と結婚すれば借金がチャラになるんだとさ!」

 

 借金という単語を聞き、皆が財布を取り出して頭を抱える。仮にも大貴族であるダクネスが身を捧げなければならないほどの借金だ。

 俺達の金を集めた所で、どうにもならない金額なのは明らかだ。

 そんな4人に背を向け、俺は荷物を持って玄関に向かう。

 

「あいつが決めた事だから、もうほっとけ!俺はあいつが泣いて謝って頼んでくるまで何もしないからな!」

 

 と、和真が、そんな俺に向けて言ってきた。

 

「兄さん!拗ねてる場合じゃないだろ!ダクネスが嫁に行っちまうんだぞ!?本当にこれでいいのかよ!?」

「それはあの頑固者に言ってこい!俺はもう知らん!」

 

 俺はそれだけ言い残し、屋敷を飛び出した。




あと3回で億千万の花嫁編終了(予定)
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