この兄弟に祝福あれ   作:大豆万歳

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第39話

 とうとう迎えた、ダクネスの結婚式当日。

 結局今日まで、ダクネスは俺達を頼って来なかった。

 

「カズマ、行きますよ!そして式をぶっ潰してやりましょう!うっかり口が滑って魔法が飛んで式場が更地になったり、うっかり口が滑って魔法が飛んで領主邸が更地になるなんて良くあることですから、何も問題ありません!ハルキも吞気に髭を剃ってないで行きましょう!今こそ2人があの巨人に変身する時です!」

「娘が借金の次に前科を背負ったと知ったら、故郷(くに)のご両親は泣くだろうな」

 

 バニルと約束した通り屋敷に帰ってきた俺は和真とゆんゆんに風呂場に放り込まれ、体を隅々まで洗って髭も剃ってスッキリしてこいと怒られた。

 広間のテーブルには、俺が今日まで作り続けてきた商品の設計図や試作品、日本から持ち込んだ知識のうち役立つものを分かりやすく書いた書類が並べられている。

 めぐみんは俺を見て、悔しそうな顔で杖を握りしめながら声を荒げた。

 

「ハルキは!ダクネスとあの領主が結婚しても良いんですか!?ダクネスが、あの領主に隙にされても良いんですか!?」

「良いわけねえだろ!」

 

 俺は思わずめぐみんに怒鳴り返した。

 いきなりの俺の罵声に驚いためぐみんは、少しだけたじろいで動きを止める。

 

「俺だってあんな奴にダクネスを渡したかねえよ!外見はどうでもいいが、悪評しかないからな!お前達は知らないだろうがな!あのおっさんは目についた可愛い娘や良い娘はどんな手でも使って物にして、飽きたら少ない手切れ金渡して捨ててるんだと!それ以外にも不当な搾取だの贈収賄だのやっといて決定的な証拠がないから、今も領主の座にいるんだよ!」

「す、すいません。あの領主の事を知っていたんですね……」

 

 今言った通り、あの領主の悪事には物証もなく、被害者達も頑なに口を閉ざすから国もあのおっさんを持て余していた。

 そこで、おっさんの悪事の決定的な証拠を得るために、お目付け役として派遣されたのがダクネスの親父さんだった。

 めぐみんが、杖をぎゅっと握りしめ。

 

「なら、なおさら放っておけないでしょう!?そもそも、ハルキがダクネスに手を出していれば、相手がいるからとあの領主に取られることもなかったんじゃないんですか!?だってハルキは」

「ああそうだよ!ダクネスの事が好きだよ!」

 

 めぐみんの言葉を遮るように、俺は答えた。更に畳み掛けるように続ける。

 

「でも言えるわけないだろ!身分の違いもあるし!俺とダクネスの関係が拗れてパーティーに悪影響及ぼして、解散したり全滅したりなんてしたくねえんだよ!いつもお前達は好き勝手言ってたけどな、こっちはパーティーの人間関係に気を遣っててそれどころじゃねえんだ!」

 

 今まで言えなかった文句を言ってやると、めぐみんは俺の目の前にやってきた。そして右手を振り上げて。

 

「お、おい、めぐみん!」

 

 和真の言葉から一拍遅れて、頬を叩かれる感触と音が広間に響いた。

 

「それでこんな事態を招くくらいなら、私達の言う通りにするべきでしたね。このヘタレ」

 

 めぐみんはゴミを見るような目で俺を一瞥すると、スタスタと屋敷を出て行った。遅れて、ゆんゆんが俺達に頭を下げてめぐみんの後を追った。

 

「……お前はめぐみんと一緒に行かないのか?」

「めぐみんにはゆんゆんがついて行ったし、今の兄さんを1人になんてできないよ」

 

 広間に残ったのは、俺と和真の2人だけ。アクアは来客中で、2階の自室で何か話しているらしい。そして俺と和真が何をするわけでもなく、椅子に座っていること数分。そいつは玄関の扉を開けて入ってきた。

 

「待たせたな、我が親愛なるビジネスパートナーよ!契約は絶対守ることで有名な我輩が来た!さあ、貴様の持てる知識の数々を見せて貰おう!」

 

 

 

 

 鬱屈とした空気をぶち壊すように、ハイテンションなバニルがやってきた。

 

「お前、少しは空気読めよ」

「おっと、これは失敬」

 

 和真に言われたバニルは俺の顔を見ると、肩を竦めてテーブルの上の物を見渡す。するとバニルはその中の書類をいくつか取り出し。和真に突き出す。

 

「小僧。我輩が見通したところ、これらは貴様のものであるな?」

「……」

 

 和真はそっとバニルから目を逸らして明後日の方向を見る。しかしバニルはお構いなしに続ける。

 

「小僧。大切な兄と、その想い人のためを思っての行動を我輩は評価しよう。だが、今回の商談の相手はあくまで貴様の兄である。故に、これは貴様の懐で温めておくがよい。我輩も、これについては見なかったことにする」

「……わかったよ」

 

 和真はバニルから書類を受け取ると、懐にしまった。それを見たバニルはうむと頷くと、試作品や設計図の数々、様々な財産権の所有証明書を、碌に確認もせず大きな鞄に詰めていった。但し、爆弾と火薬の設計図はいらないと返却された。

 

「さて。では商談の前に話をしようか。お題は、領主と鎧娘についてだ」

 

 バニルの言葉を聞き、俺と和真は表情を引き締める。

 

「おお、丁度良いところに現れたな。数少ない信者から頼りにしてもらえない哀れな駄女神よ。汝もそこに座るがよい」

「ほーん?清く正しく美しく頼りになる水の女神であるこの私をそう呼ぶなんて、よっぽど浄化されたいみたいね!お望み通りやってやろうじゃないの!」

 

 話が終わって2階から降りてきたのだろう、アクアを見つけたバニルが、手招きして座るように促す。ただ、バニルが余計な事を言ったせいで、喧嘩になりそうだ。

 

「おいバニル、喧嘩なら後で他所でやってくれ。アクアも大人しく座れ。兄さんを見ろよ、お前らがこれ以上余計な事したら斬りかかりそうな眼で睨んでるぞ」

 

 和真に言われて俺の顔を見たアクアが小さい悲鳴とともにそそくさと椅子に座った。

 

「さて、では改めて話すとしよう。何故あの鎧娘は借金をすることになったのか。それは貴様ら冒険者達が機動要塞デストロイヤーを討伐したことだ」

 

 世間話でもするように、バニルは始めた。

 

「今までの街ならば、デストロイヤーにより蹂躙され、領主は土地を失うものだ。街の住人は焼け出され、領地を失った領主も貴族も責任を取らされ、皆仲良く路頭に迷う。だが、この街はそうはならなかった」

「良い事じゃないか」

「うむ。確かに街は守られた。だが、街に至るまでの穀倉地帯や治水施設などは蹂躙されてしまった。当然、農業に携わっていた者達は穀倉地帯を荒らされ、仕事と財産を失った。荒らされた穀倉地帯はそう簡単には復興しない。そこで、その者達は領主に助けを求めたのだ」

 

 領主という単語が出た瞬間、嫌な予感しかしなかった。それを見透かしたのか、バニルはニヤリと笑う。

 

「貴様の想像通り、あの領主は助けを求めた人々にこう言った。『命が助かっただけでも儲けものだろう、贅沢を言うな。文句なら穀倉地帯を守り切れなかった冒険者達に言うといい』とな」

 

 酷い話だ。悪代官ですらそこまで言わないぞ。

 

「今回の件は、領主の責務を放棄したあの男以外、誰も悪くないかもしれぬ。冒険者達は充分以上に健闘したことは紛れもない事実だ。だが被害に遭った住人達もこのままでは路頭に迷ってしまう。そんな彼らが頼れるのは誰だ?」

「……ダスティネス家か」

「その通り!そして彼らはこう言った。『一介の冒険者が洪水で壊した建物の弁償金。その大半を負担した、慈悲に溢れるダスティネス様。どうか我らにもお情けを』……とな」

 

 洪水で壊した建物?

 

「バニル。その洪水で壊した建物ってのは、ベルディアとの戦いでアクアがやった事か?」

「うむ。まさかと思うが、貴様らが負った借金程度の弁償金で済むと思っていたのか?年中自然災害のバーゲンセールをやっているような国で生まれ育っておきながら」

 

 バニルの指摘を受け、俺は口を閉ざした。

 

「ダスティネス家は、屋敷を除く保有資産の大半を、建物の弁償金に充てた。そしてその時に資産の大半を失ったダスティネス家の鎧娘は、それでもデストロイヤーに蹂躙された者達を助けようと、責務を放棄した領主に頭を下げ、金を借りたわけだ」

 

 あの女、何勝手な事をしてくれたんだ。

 

「金を貸すのを渋る領主に、こういう条件付きでな。『もし、ダスティネス家の当主に何かが起こり、返済が困難になった場合には、担保としてその身体で』」

 

 バニルの言葉は、俺がテーブルを殴りつけた音で遮られた。

 それにビクッとなったアクアが俺の手を取り、回復魔法をかける。殴りつけた辺りには、手からにじみ出た血が付着していた。

 これで全てが繋がった。

 以前屋敷に訪れた執事は、領主からの使者だったのだろう。

 ダクネスの親父さんが体を壊した事を知り、借金の催促をしたんだ。

 それでアイツは借金を何とかするためにヒュドラを討伐すると言い出したり、俺達銀髪盗賊団に掛けられた賞金の額に目の色を変えたんだ。

 だけど、アイツを心配して集まってくれた冒険者達の姿を見て、これ以上は迷惑を掛けられないと、色々なものが吹っ切れてしまったのだろう……。

 

「ダクネスの借金の額は幾らだ?」

 

 俺が訊ねると、待ってましたと言わんばかりにバニルは用意した鞄を取り出し。

 

「お客様の持つ資産にこの鞄の中身を合わせますと、ちょうど借金と同額となります。……では、商談を始めようか!」

 

 

 

 

『何でもは知らないよ。ただ知っている事を知っているだけだ』

 

 知っていて当然の知識を興味がないからと知らないくせに、誰も知らない変わった知識を持っている男。

 

『あーもう面倒だからさっさと仕留めるか。いくぞ、ダクネス』

 

 基本的に慎重でありながら、いざという時は思い切った行動をする男。

 

『お前、随分可愛らしい名前してたんだな』

 

 私が貴族であることを明かしても、貴族であることよりも、私の本名に興味を示す変な男。

 その変な男と一線を超えようとした私も、きっと相当変な女なのだろう。

 式の会場であるエリス教会。ヴァージンロードを一歩歩くたびに、今までの楽しかった冒険の日々が蘇る。

 私が借金をした理由を知ったら、皆はどんな反応をするだろう?

 めぐみんとゆんゆんは怒るだろう。

 カズマは2人を宥め、私に容赦のない口撃をするだろう。

 アクアは訳も分からず泣いてしまうかもしれない。

 クリスは不貞腐れて暫く口を聞いてくれないだろう。

 アイツの場合は、説教を長々とした後、罰として私が嫌がるような事を実行に移すだろう。

 貴族として生まれた私は今まで、気の置けない仲間と共に過ごすことを許されてきた。

 だが、それも終わりだ。今度は、私が皆に恩返しする番だ。

 領主がこの身に色ボケしている間に、必ず奴の悪事の証拠を見つけだし、裁きを下す。

 たとえそれが何年掛かっても、仲間との思い出と、屋敷からこっそり持ち出したアイツのハンカチがあれば耐えられる。

 ……だというのに、無性にこの場から逃げ出したい衝動が湧き出ている。

 回れ右をして駆け出し、止めに来るであろう者達を吹き飛ばし、何もかも捨ててアイツの下に戻りたい。

 そんな事をすれば、他の者に領主の魔の手が伸びるのはわかっている。それを防ぐために私は今ここに来ている。

 そして、私は誓いの祭壇に着いた。

 待っていてくれ、皆。全てカタが付いたら……

 

「えー、汝、ダクネスはー。この熊と豚を足したようなおじさんと結婚し、神である私の定めに逆らい、流されるままに夫婦になろうとしています。貴女は、その健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しき時も、おじさんを愛し、おじさんを敬い、おじさんを慰め、おじさんを助け、その命の限り、堅く節操を守ることを約束しますか?出来ないでしょう?だから私達はハルキとくっつけって口を酸っぱくして言ったのに、ダクネスったら頭が堅くて困った娘ねー。どうせならアクシズ教に改宗しない?アクシズ教は愛があり犯罪でなければ全てが許されるわよ?例えば、身分違いの恋とか」

 

 その場違いな発言に、会場内が騒めいた。

 顔を上げて祭壇を見ると、アクアが私に手を振っていた。

 

「お、お前は!ワシの屋敷に来て散々迷惑を掛けていったあの女!何を!一体ここで何をしている!?」

 

 領主の罵声が響く中。

 今度は教会の扉が何者かによって蹴破られた。

 

「おいアクア!お前、今そのおっさんの事を『熊と豚を足したような』って言ってたが、それは良くないな」

 

 音のした方を向いてみれば。黒スーツに身を包み、鞄を手に持ったアイツは革靴の音を鳴らして教会に入り込み。

 

「熊と豚に失礼だろ?」

 

 領主に対して凄まじい罵倒の言葉を叩きつけた。




原作でクリスについてダクネスが何も言わなかったのは個人的におかしいと思ったので、足しました
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