このすばも最終巻が発売しましたね。まだ読んでませんが、どんな結末を迎えるのか楽しみです
魔王軍幹部の襲撃から何も起こらず、数日が経ったある日。
「クエストよ!高難易度でもいいから、クエストを請けてお金を稼ぎましょう!」
「「えー……」」
突然そんなことを言い出したアクアに、和真とめぐみんが同時に不満の声を漏らした。アクアを除いて、俺達の懐は潤っている。そんな俺達が乗り気じゃないのを察したのか、いよいよアクアが泣き出した。
「お願いよおおおお!もうバイトばかりするのは嫌なの!コロッケが売れ残ると店長が怒るの!頑張るから!今回は、私全力で頑張るからあああ!」
これ以上泣かれると面倒なのか、和真が首を縦に振ってクエスト掲示板の方を指差す。
それを見て、アクアが嬉々としてクエスト掲示板の方に駆け出す。
「ちょっと行ってきていいか?アクアに任せるととんでもないクエストを請けることになる気がする」
「そうだな。私は高難易度のクエストでも構わないが……」
嫌な予感を感じた俺は掲示板へ行き、うんうん唸りながらクエストを吟味しているアクアの後ろに立つ。
「……よし。これに決め」
「させるかぁ!」
アクアの剥がした紙を取り上げ、元の場所に貼り直した。
「兄さん、アクアはどんなクエストを請けようとしていたの?」
「グリフォンとマンティコアの討伐」
「兄さんグッジョブ。そしてお前はアホか!」
「何よもう、2匹まとまってるところにめぐみんの爆裂魔法食らわせれば一撃でしょ?」
「お前の言う通りだな。じゃあ、具体的な作戦を教えてもらおうか」
何も考えていなかったのか、和真か俺に押し付けるつもりだったのか、アクアは露骨に目を反らして掲示板とにらめっこをする。
「ねえ、これとかピッタリだと思わない?」
興奮しながらアクアは依頼書を剥がし、和真に突きつける。
「えーと?『内容:湖の浄化。街の水源の1つの湖の水質が悪くなり、ブルータルアリゲーターが住み着き始めたので水の浄化を依頼したい。湖の浄化ができればモンスターは住処を他に移すため、モンスターは討伐しなくてもいい。注意:要浄化魔法習得済みのプリースト』報酬も30万で討伐の必要がないのは良いけど、お前、水の浄化なんてできるのか?」
和真の疑問にアクアは鼻で笑う。
「馬鹿ね、私を誰だと思ってるの?ほら、名前や外見のイメージで、私が何を司る女神か分かるでしょう?」
「……芸の神様」
「違うわよヒキニート!水よ!」
和真の回答にアクアが怒り、両腕を振り上げて吠える。
「じゃあ、それを請けるか。というか、浄化するだけならお前1人で出来るんじゃないか?そうすれば報酬も独り占めできるし」
「え、ええー……。多分、湖の浄化中にモンスターの妨害を受けると思うから、カズマ達には私をモンスターから守って欲しいんですけど」
和真の提案に渋ると思ったら、そういうことだったか。
「……わかった。ただ、水の浄化ってどうやってやるんだ?」
「どうって……私が水に手で触れて浄化魔法をかけ続けるだけよ」
「……良し、俺にいい考えがある。これなら、安全に水の浄化が出来るぞ」
策を思いついたのか、和真が笑顔でアクアの肩を叩いた。
街から少し離れた場所にある大きな湖。街の水源の1つで、この湖には小さな川が流れており、それが街へと繋がっている。
湖のすぐそばには山があり、そこから絶えず湖へと水が流れ込んでいた。
依頼にあった通り、湖は濁り淀んでいた。
「……ねえ、本当にこれで大丈夫なの?」
到着した俺達は俺と和真、ダクネスの3人でアクアの入った鋼鉄製の檻(ギルドから借りてきた)を湖の際に置いた。中から不安気なアクアの声が聞こえる。
「危ないと判断したら馬に鎖を引っ張らせて逃げるから、安心しろって」
使っている檻はモンスターの捕獲依頼用にギルドが常備しているもので、かなり頑丈だ。
……傍から見れば、女性を投棄しにきているように映るかもしれない絵面だが。
後はこのまま、離れた所でアクアが浄化を終えるのを待つだけだ。
──浄化開始から2時間経過──
「おーいアクアー!浄化の方は順調かー?湖に浸かりっぱなしで体が冷えてるだろうから、トイレ行きたくなったら言えよー?」
「浄化の方は順調よー!後、トイレはいいわよー!アークプリーストはトイレなんて行かないからー!」
昔のアイドルみたいなことを言うアクア。どうやらまだ余裕そうだ。
「大丈夫そうですね。因みに、紅魔族もトイレなんて行きませんから」
聞いてもいないのにめぐみんがそんなことを言う。普段からモリモリ飲んだり食ったりしておいて何を言っているんだ。
「私もクルセイダーだから、トイレは……トイレは……」
「無理に対抗しなくて良い。トイレに行かないと言い張るなら、今度、日帰りじゃ終わらないクエストに2人を連れて実験してみよう」
「良いね兄さん。それ採用」
「採用しないでください。紅魔族はトイレなんて行きませんけど、謝るので止めてください。……しかし。来ませんね、ブルータルアリゲーター。このまま何事もなく終わってくれると良いんですが」
おっと、めぐみんがフラグが立てたぞ。その証拠に、湖の一部に小波が走り始めた。
大きさは地球の鰐とほぼ変わらないが、大きく違う点が1つだけある。それは──
「カ、カズマー!何か来た!何かいっぱい来たー!」
この世界の鰐は、群れで行動することだ。
──浄化開始から4時間が経過──
最初は水に浸かって女神の力だけで浄化を終わらせようとしていたアクアだが、今では一心不乱に浄化魔法も唱えている。
「『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』!」
アクアが入っている檻を鰐の群れが取り囲み、檻に牙を剥く。
「和真。何匹か鰐を仕留めていいか?肉と革を売って報酬の足しにしようと思うんだが」
「値段は?」
「あの大きさなら、肉と革を合わせて1匹あたり2万くらいだな」
「良いよ。2、3匹ほどお願い」
「あいよ」
俺はロープのついた銛を3本用意し、鰐の群れに照準を定める。
「『投擲』!『投擲』!おまけに『投擲』!」
俺の使った《投擲》は、幸運に比例して物を投げたときの命中率が上がるスキル。威力は投げた物体と本人の筋力に左右されるが、場所によっては弓矢と違って弾切れがほぼないのは大きい。
俺の投げた銛は狙い通り鰐の急所に命中した。俺はそのままロープを引っ張り、近くまで手繰り寄せる。何匹か陸に上がってくると思ったんだが、住処を脅かすアクアのほうが優先度が高いのか、こっちには1匹も来なかった。
「じゃあ、俺は兄さんとそこで鰐を捌いてくるから。何かあったら呼んでくれ」
「わかりました」
「あと、ダクネスは間違ってもあの檻の中に行こうとするなよ?」
「わかっている」
俺は仕留めた鰐を引きずり、めぐみん達から少し離れた所まで移動する。
「兄さん。俺の記憶が正しければ、さっきの銛、手持ちにはなかったよね。もしかして能力で生み出した?」
「いや、生み出したのではなく、取り出した」
「取り出すって、一体何処から……」
鰐を捌きながら、俺と和真は小声で会話をする。
「『めだかボックス』の宗像形って、覚えてるか?」
「うん。CV神谷浩史の、人も殺せない殺人鬼」
「大雑把に言えば、俺の能力は彼のように武器を隠し持つ能力だ」
「ってことは、他にも色んな武器を隠し持っているとか?」
「ああ。ただ、あっちと違って装備を全部捨てたら凄く速くなるなんてことはないな」
「つまり装備重量による移動制限はないってこと?なにそれ、チート能力じゃん」
「チート能力だよ。それも女神様から授かった」
「それもそうか」
──浄化開始から7時間が経過──
湖の際には、ボロボロになった檻がポツンと取り残されていた。
鰐に齧られた檻は所々に歯型が残っている。
浄化が終わり、湖の水も綺麗になったからか、ブルータルアリゲーターの群れも山へと住処を移したのが見えた。
もうアクアの浄化魔法を唱える声も聞こえない。
というか、1時間ほど前からアクアの声が聞こえなくなっている。
「……おいアクア、無事か?ブルータルアリゲーター達は、もう全部どこかに行ったぞ」
檻に近づき、中のアクアの様子を窺う。
「……ぐす……ひぐ……えっぐ……」
「なあ、アクア。報酬なんだけど、俺達は今回いらないから。報酬の30万とブルータルアリゲーターの肉と革の買取価格、全部お前の懐に入れてくれ」
体育座りで膝に顔を埋めるアクアの肩がぴくりと動く。
だが、檻から出てくる気配はない。
「だから、檻から出ようぜ?もうアリゲーターはいないから」
和真の言葉に、アクアが小さな声で呟くのが聞こえた。
「……のまま連れてって……」
「ん?」
「……檻の外の世界は怖いから、このまま街まで連れてって」
どうやら、今回のクエストは、カエルに続くトラウマをアクアに植え付けたようだ。
「な、なあ、アクア。もう安全な街中なんだから、檻から出ろよ。周囲から突き刺さる目線が痛いし」
「嫌。この中こそ私の聖域よ。外の世界は怖いから暫く出ないわ」
膝を抱えて死んだ目をしたアクアを檻から出そうと、和真が先程から説得を試みるが、結果はこの有様だ。
作戦を立案した和真も後悔したのか、やっちまったと頭を抱えてため息をついた。
「兄さん。何とかアクアを檻から出す方法ってない?」
「案外、お供え物でもすれば出てくるんじゃないか」
「お供え物を取った後、高速で檻に戻る未来しか見えない」
「だよなぁ」
俺と和真でアクアを檻から出す方法を話し合っていると──
「め、女神様!?女神様じゃないですか!何をしているのですか、そんな所で!」
突然叫んでアクアに駆け寄り、鉄格子を掴む男が現れた。
そいつはあろうことか、檻の鉄格子を飴細工のように捻じ曲げ、中のアクアに手を差し伸べた。
「……おい、私の仲間に馴れ馴れしく触るな。何者だ?アクアの知り合いのようだが、アクアがお前に反応していないのだが」
見知らぬ男の前にダクネスが立ち、アクアに触れるのを妨害する。その間に俺は檻の中で膝を抱えているアクアに声をかける。
「アクア。あれ、お前の知り合いか?女神様とか言ってたし、何とかしてくれ」
「…………ああ!女神!そ、そうよ、私は水の女神アクアよ!それで、私にこの状況をどうにかすればいいわけね?任せなさいな!」
アクアがようやく檻から出てきた。
というか、さっきまで自分が女神であることを忘れていたのか。
「……どちら様?」
知り合いじゃないのか。いや、知り合いなのは事実なんだろう。男は驚きに目を見開いているから。
「何を言っているんですか女神様!僕です、御剣響夜ですよ!貴女に、魔剣グラムをいただいた!」
「ん~……?」
アクアは首を傾げ指折り数えるが、俺と和真はピンときた。こいつは恐らく、俺や和真のように、アクアから何か特典をいただいてこの世界に送られてきた日本人の1人なんだろう。
「……ああ!そういえばいたわね、そんな人も!ごめんね、結構な数の人を送ったから、忘れちゃってたわ」
若干表情を引きつらせながらも、御剣はアクアに笑いかけた。
「ええっと、お久しぶりですアクア様。貴女に選ばれた勇者として、日々修行に励んでいますよ。職業はソードマスター。Lv.も37まで上がりました。……ところで、何故アクア様はここに?というか、どうして檻の中に閉じ込められていたのですか?」
御剣は、チラチラと和真を見ながら言ってくる。
こいつはあれか、アクアに適当なことを言われてこの世界に送られてきたのか。名前を覚えていないところに、アクアのいい加減な仕事ぶりが良く分かる。
そして、こいつは和真がアクアを檻に閉じ込めたように映っていたようだ。
……まあ、傍から見ればそう映るよな。
アクアは、自分がこの世界に来た理由と、これまでの近況を御剣に説明し……
「馬鹿な。有りえないそんな事!君は一体何を考えているんだ!女神様をこの世界に引き込み、今回のクエストでは檻に閉じ込めて湖に浸けるなど!」
和真はいきり立った御剣に、胸ぐらを掴まれた。
それをアクアが慌てて止める。
「ちょちょ、ちょっと待って!?別に、私は結構毎日を楽しく過ごしているし、ここに一緒に連れてこられたことはもう気にしてないんだけどね?それに、魔王を倒せば帰れるんだし!今日のクエストだって、怖かったけど怪我人もなく無事完了したわけだし。しかも、クエスト報酬30万に加えてワニの買取価格6万、合わせて36万よ、36万!それを全部くれるって言うの!」
その言葉に、御剣は憐憫の眼差しをアクアに向ける。
「……アクア様。この男にどう丸め込まれたのかは知りませんが、今の貴女の扱いは不当ですよ。そんな目にあって、たった36万……?貴女は女神ですよ?それがこんな……。因みに、今はどこに寝泊まりしているんですか?」
こんな往来で女神女神言うなと言いたいが、余計な怒りを買いたくないので黙っておこう。
というか、初対面で随分言いたい放題だな。アクアの駄女神ぶりを知らないくせに。
御剣の言葉に、アクアが若干押されながらもおずおずと答えた。
「え、えっと、皆と一緒に、馬小屋で寝泊まりしてるけど……」
「は!?」
御剣の、和真の胸ぐらを掴む腕に力が込められたので、俺は御剣の腕を掴んで力を込める。
「いい加減、この手を放せ」
御剣は手を放すと、ダクネスとめぐみん、俺の順に観察する。
「……クルセイダーにアークウィザードに傭兵。随分パーティーメンバーに恵まれているようだね。君は、アクア様やこんな優秀そうな人達を馬小屋に寝泊まりさせて、恥ずかしいとは思わないのか?さっきの話じゃ、最弱職の冒険者らしいじゃないか」
こいつの言い分だけ聞くと、和真は凄く恵まれた環境にいるように思える。
何の関わり合いのない人間から見れば、和真の苦労なんてわからないだろう。
「なあ、兄さんは自分の工房で寝泊まりしてるから除外するけど、冒険者ってのは基本的に馬小屋で寝泊まりだろ?なんでこいつはこんなに怒ってるんだ?」
「あれよ、彼は異世界転生の特典の魔剣のおかげで最初から高難易度のクエストをこなして、今までお金に困っていなかったんだと思うわ。まあ、能力か装備を与えられた人間って、大体そんな感じよ。……それよりも、早く帰って報酬を受け取ってご飯にしたいんですけど」
「だな、帰るか」
アクアの提案にダクネスとめぐみんも無言で首を縦に振り、和真に視線を送る。
「じゃあ。俺達はこれで失礼します」
和真はそう言うと馬を引いて檻を引き、立ち去ろうとする。
……が、和真の前に御剣が立ち塞がる。
「やるか?」
「いや、ここはリーダーの俺に任せて」
和真はそう言うと、御剣に1歩近づく。
「では、こうしよう。僕と君がここで勝負をする。僕が勝ったらアクアを僕のパーティーに譲ってもらう。君が勝ったら何でも1つ言うことを聞く。これでいいかい?」
「言ったな?では遠慮なく!」
和真は頷くと同時にショートソードを鞘ごと抜き、襲いかかる。
「ちょっ!待っ……!?」
慌てた御剣だが、そこは流石高レベル冒険者。とっさに腰の魔剣を抜いてカズマの攻撃を防ごうとする。
「『スティール』!」
和真のスティールが決まり、左手には御剣の魔剣が握られていた。
「……は?」
俺は間の抜けた声を発した御剣に、心の中で合掌した。
「卑怯者!卑怯者卑怯者卑怯者!」
「あんた最低!最低よ、この卑怯者!正々堂々と勝負しなさいよ!」
御剣の仲間の、2人の少女が和真を罵倒するが、卑怯もラッキョウも大好物な本人は何処吹く風。魔剣の腹で頭を強打し、気を失っている御剣から鞘を奪い取り、ホクホク顔で納刀していた。
「じゃあ、勝負は俺の勝ちってことで。負けたら何でも言うことを聞くって本人も言ってたし、この魔剣はありがたくちょうだいするわ」
和真の言葉に取り巻きの1人が抗議する。
「なっ!?馬鹿言ってんじゃないわよ!それに、その魔剣はキョウヤにしか使いこなせないわ。魔剣は持ち主を選ぶのよ。既にその剣は、キョウヤを持ち主と認めたのよ!」
少女の一言に、和真はアクアの方を振り向く。
「……マジで?」
「マジです。あの痛い人が装備すれば石も鉄も豆腐の如く斬れるけど、カズマが使ったって普通の剣よ」
しょんぼりと肩を落とし、和真はため息をついた。しかし、何かを閃いたのか、すぐに顔を上げた。
「そいつが起きたら、これはお前が持ちかけた勝負なんだから、恨みっこなしだって伝えといてくれ。じゃ、またどっかで」
言って踵を返す和真に、御剣の仲間の少女が武器を構えて通せんぼをする。まだ粘るつもりか。
そんな2人に和真は左手を見せつけ。
「ほー?今度は2人が相手になると?俺は真の男女平等主義者だ。あいつと同じようにスティールを食らう覚悟があるならかかってきなさい。ただし、盗られるのが武器だけだと思わないことだ」
指をワキワキ動かして挑発した。
一連の和真の言動に身の危険を感じたのか、俺達に道を空けるように後ずさった。
「さ、皆!帰ろうぜ!」
屈託のない笑顔で振り向く和真に対する女性陣の視線は、それはそれは冷たく、鋭かった。
「なぁ和真。さっきの痛い奴を擁護するわけじゃないが、俺の工房で寝泊まりしないか?」
「やだ。衣食住くらい自分で稼いだ金で何とかしたい。というか、貯金して一戸建てでも買って兄さんと暮らしたい」
「そうか、それは楽しみにしておこおう」
「お待たせー……って、アクアは何をしてんだ?」
俺と和真がギルドに到着すると、アクアが職員に掴みかかっているのが見えた。
「壊れた檻の請求を受けて、全力で抗議してるんです」
何という理不尽。
暫く粘っていたアクアだが、諦めたのかトボトボとこちらにやって来た。
「……あの檻を壊したってことで、今回の報酬は16万エリスだって。特殊な金属と製法で作られてるから、20万もするって……」
しょんぼりするアクアに同情の意味をこめて、頭を軽く撫でてやる。
「あの男、今度会ったら1発ぶん殴ってやるわ!それで檻の弁償代毟り取ってやるんだから!」
怒りを向ける相手のことを思い出し、アクアは拳を握りしめながら歯ぎしりする。
俺達としてはできればもう会いたくないんだが……。
「ここにいたのか!探したぞ、佐藤和真!」
噂をすれば影が差したよ畜生。件の男──御剣は俺達のいるテーブルに歩み寄ってくる。
「君のことは道すがら色々な人から聞いたよ。絶対下着剥ぎ取るマンだの、女の子を粘液まみれにするのが趣味の鬼畜だの、良くない噂で有め」
「ゴッドブロー!」
最後まで言い切るより速く、アクアの拳で御剣が吹き飛ぶ。
アクアは床に転がる御剣の襟首を掴み上げて。
「ちょっとあんた、壊した檻の弁償代払いなさいよ!おかげで私が払うことになったんだからね!30万よ、30万!特別な製法と金属で出来てるから高いんだってさ!ほら、さっさと払いなさいよ!」
おかしい、額が1,5倍に増えてる。
御剣はアクアに気圧され、無言で頷いて財布から金を差し出す。
御剣から金を受け取り、アクアはホクホクしながらメニューを手に取った。
気を取り直した御剣は、和真のほうを向くと頭を下げて言う。
「……あんなやり方でも、僕の負けは負けだ。そして、何でも言うことを聞くと言った手前、こんな事を頼むのは虫がいいのも理解している。……だが、頼む!魔剣を返してくれないか?あれは君が持っていても役には立たない物だ。君が使っても、そこらの剣よりも斬れ味の良い剣にしかならない。……どうだろう?剣が欲しいのなら、店で1番良い剣を買ってあげてもいい。……返してはくれないか?」
和真が嫌そうな顔で御剣のことを見下ろす。それに同調するようにアクアも手を振って御剣を追い払おうとする。
「……非常に言いにくいのですが。まずはこの男が既に魔剣を持っていないことに気づいてください」
「!?」
めぐみんに言われて顔を上げた御剣が、和真の腰や背中のあたりを凝視する。
「さ、佐藤和真!ま、魔剣は!?僕の魔剣は何処へやった!?」
顔中に脂汗を浮かべて縋り付く御剣に、和真は満面の笑みを浮かべ、金の入った袋を見せつけて一言。
「ゴチになりまーす♪」
「ちくしょおおおおお!」
御剣は、泣きながらギルドを飛び出した。
陽樹のチート特典に関する補足
アニメやゲームでよくある、『何処からともなく武器を取り出し、収納する能力』