この兄弟に祝福あれ   作:大豆万歳

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第40話

 熊と豚に失礼。

 兄さんが口にしたその言葉に、教会周辺に集まっていた野次馬達がゲラゲラと笑う。教会内の参列者は何という事をとざわつき、アクアはそれもそうかと納得したように手を鳴らす。そして領主のおっさんは、怒りに顔を真っ黒にし、激しく歯ぎしりする。

 あ、どうも。佐藤和真です。俺は今、野次馬達に混ざって一部始終を見守っています。

 

「なんだと!お前、ワシの式に乱入した挙句罵倒しおって!何をしに来た!」

 

 領主のおっさんが吠えると、おっさんの部下達が兄さんを取り押さえようと取り囲む。

 囲まれた兄さんが腕を軽く振ると、大量の武器が現れた。

 袖口から顔を出す抜き身の刀や剣。

 背中には薙刀などの長物を背負い。

 ベルトに腰蓑のようにぶら下がっているホルスターに入った、色んな形状のナイフ。

 

「……やるか?」

 

 兄さんの舐めまわすような目線と武器の数々に恐れをなした部下達は距離を取る。

 そして兄さんは武器を収納して2人に近づくと言った。

 

「ダスティネス・フォード・ララティーナを返してもらおうか。彼女は俺の女だ」

 

 それを聞き、野次馬達は固唾を飲んで兄さんを見守る。一方の領主は、兄さんの言葉を鼻で笑い。

 

「寝言は寝てから言うんだな、この冴えない鍛冶師風情が!ララティーナはお前の女になどならな」

『アルダープ様!?』

 

 おっさんの言葉を、ダクネスが遮った。おっさんはダクネスに突き飛ばされて壁を貫き、こっちに尻を向けた壁尻状態になり動かなくなった。……『聞き耳』を使ってみれば心音が聞こえるから、死んではいないようだ。

 そしてダクネスは被っていたヴェールを脱ぎ捨てると……。

 

「キャーッ!ダクネスったら大たーん!」

 

 何が起きたか詳しくは言わない。ただ、ダクネスが兄さんの首に腕を回して抱きついていたこと。兄さんが空いてる手でダクネスを抱き寄せていたことだけは言っておこう。

 

「……じゃあそういうわけで、ララティーナは貰っていく。じゃあな」

 

 何をとは言わないが堪能したのか、兄さんはダクネスの手を取ってこっちを向く。

 しかし、復活したアルダープのおっさんはダクネスを指さし。

 

「待て待て待て!!!お前は知らんだろうが、お前の大好きなララティーナはワシに膨大な負債があるのだ!それもお前のような貧乏人が一生掛けても返せない額のな!そんなにその女が欲しいのなら、まずは金を用意してこい!この貧乏人めが!」

「空気読めや馬鹿野郎!」

『そうだそうだ!』

「引くこと覚えろこの敗北者が!」

『そうだそうだ!』

 

 おっさんの発言にブチ切れた野次馬達からブーイングが飛ぶ。

 領主の売り言葉を聞いた兄さんは、ブーイングの嵐の中で持っていた鞄を掲げて言った。

 

「しっかり聞いたぞ、約束は守れよ!ララティーナが借りた20億エリス!1枚百万のエリス魔銀貨で2千枚がこの中に入ってる!こんなはした金、欲しけりゃくれてやるよ!」

 

 そして鞄の口を開けると、中身の金をおっさんの足元にぶちまけた!

 ぶちまけたということは当然ながら……。

 

「ああっ!?に、20億!?ああっ、待てっ、ララティーナを!ワシのララティーナを……ああっ金がっ!拾ってくれ!おい、拾ってくれ!」

 

 おっさんは慌てて金を拾い始めた。

 周りの参列者達も慌てて拾い始めている。

 協力しているように見えるが、ちゃっかりくすねている奴も何人かいたようだ。

 その隙に兄さんが動こうとすると、ダクネスがあの金はどうやって用意したのか訊ねた。兄さんが自分の貯蓄と知識と権利を金に換えてきたと答えると、ダクネスは腰が砕けたようにへたり込んでしまった。

 

「ああもう、しょうがねえな!」

 

 兄さんはへたり込んだダクネスをお姫様抱っこの形で抱きかかえ、俺達のいる教会入り口目掛けて駆け出した。

 しかし、再び兄さんを取り囲む領主の部下達。そこへ──。

 

「おい、その連中は後回しだ!それよりお前達も、こっちに来てワシの金を拾うのだ!!」

「は?ははっ!了解しました!」

 

 領主の指示を受けた部下達はおっさんの下へ駆け寄るが、おっさんは何も言っていないと言った。

 どういうことかと混乱する部下達と、渾身のドヤ顔をこちらに向けてくるアクア。芸達者になる魔法でおっさんの声を模倣したのだろうか。良くやったとサムズアップすると、アクアは小さくガッツポーズする。

 そして混乱が収まったのか、領主の部下達が兄さん達を再び追いかけ始める。

 

「『パラライズ』ッ!」

 

 聞き覚えのある声が野次馬達の中から響き、部下達の動きを止める。

 一拍置いて、2人の人影が教会入り口に立つ。

 野次馬達はこれから起きる事を期待するように2人を見守り、領主の部下達は怯えるように距離を取る。

 

「我こそは頭のおかしい爆裂娘!仲間の恋路を邪魔する不届き者を成敗しに参りました!」

 

 めぐみんの名乗りを聞き、教会の参列者と領主の部下はパニックになりながらも、彼女の一挙手一投足に注目していた。

 

「この街に住んでいるのなら、この杖の先の魔法が何かご存知ですね?先に言っておくと、この魔法は制御するのにかなりの集中力を必要とします。……突然不意を突かれて制御を失えば魔法が暴発し、この辺りが更地になります。掛かってくるのなら、そこら辺をよく注意してください」

 

 ここに来る前に詠唱を済ませていつでも撃てる状態にしたのか、めぐみんがそんな事を言った。

 と、隣に立っていたゆんゆんが兄さん達を指さす。

 

「ね、ねえめぐみん。ハルキさんとダクネスさんが……」

 

 ダクネスを抱きかかえた兄さんを見て、めぐみんはやれやれですと肩を竦めて首を振った。

 そして兄さん達の逃げ道を作るように、杖を教会内に向ける。

 それを見ただけで、領主の部下は慌てて参列席へと逃げて行った。

 その隙に兄さん達3人がめぐみんの下へと駆け寄ると……。

 

「な、何を怖気づいている馬鹿者がっ!あんなものはハッタリに決まって」

「アルダープ様!挑発するような言葉はお止めください!」

 

 領主の口を部下達が大急ぎで塞いで黙らせた。

 というか、いくらめぐみんでもここで爆裂魔法を撃つようなことはしない……筈だ。

 

「ありがとう、助かった」

「まったくハルキは、あのカズマの兄なだけあって最後はやらかすと思っていましたが……。まさか先を越されるとは思いませんでしたよ」

 

 ああ言っているめぐみんだが、口調からしてとても満足そうだ。

 

「めぐみん!それに、ゆんゆんまで!帰ったら……、話は、帰ってから……っ!帰ってから礼を……っ!」

 

 感極まっているのか、ちゃんと喋れないダクネスにゆんゆんは力強く言う。

 

「水臭い事を言わないでください。だって、私達は仲間じゃないですか!」

 

 そんなことをしている間にも、領主の部下達は兄さん達を包囲しようと距離をじわじわと詰める。めぐみんの導火線に火が点いている状態だから飛び掛かってくることはないかもしれないが、教会を出ると同時にもしかしたら……。

 

「おい、そこの野次馬達!そこにおるのは犯罪者だ!そいつらからワシの花嫁を取り返してくれ!そうしたら多額の報酬を払ってやる!なんなら、ワシの屋敷で守衛として雇ってやるぞ!」

 

 領主の言葉に、俺を始めとした冒険者達は顔を見合わせ……。

 

「お、おい、聞いているのかお前達!報酬を出す!いくら欲しいんだ!」

 

 明後日の方向を見て口笛を吹いたり、大欠伸をしたりして聞こえないふりをしてやることにした。誰がお前の言う事なんぞ聞くか。

 

「おいララティーナ。お前が1人でヒュドラ討伐するとか言ってた時みたいに、お前が自分勝手に嫁に行こうとしたのに、これだけの人数の連中が、お前を見逃して助けようとしてくれてんだ。少しはその堅い頭を柔らかくして、反省しろよ?」

 

 兄さんの言葉にララティーナは嬉しそうに頬を染め、軽く涙ぐんで頷く。

 涙腺に来た俺はハンカチを懐から取り出し、涙を拭こうと──。

 

「カズマ、大変です!そろそろ魔法の維持の限界が近いです!もう撃ってもいいですか?どの道私達は犯罪者です!ここで盛大に撃っちゃっても構いませんね?」

 

 涙が引っ込んだ。

 突然そんな事を言い出しためぐみんに、周囲の人間がぎょっとした。

 

「ああ、もう駄目です、維持できません!皆、私から離れて逃げてください!」

 

 これがめぐみん以外の魔法使いの言葉なら、ハッタリか何かと捉えるだろう。

 だが、既にめぐみんの事をよく知っている周りの連中は、真っ青な顔をしてその場から逃げ出した。

 俺も咄嗟に頭を抱えて丸くなると……!

 

「『エクスプロージョン』ッ!」

 

 めぐみんが、爆裂魔法を空に向けて打ち上げた。

 凄まじい轟音と共に空中に閃光が奔り、衝撃波が広がる。

 街中の硝子が罅割れ、辺りの人々は頭を抱えて地に伏せた。

 

「さあ、今の内……に……」

 

 魔力を使い果たしためぐみんは、ゆんゆんに支えられながら兄さんの方を見て、声のトーンを落としていく。

 ダクネスを爆風から守ろうとしたのだろう、兄さんがダクネスを押し倒していた。押し倒されたダクネスは顔を真っ赤にして兄さんの顔を見つめている。兄さんも良く見ると耳が真っ赤だ。

 

「ねえハルキ、流石にこの状況でダクネスを押し倒すのはどうかと思うの」

「ア、アクアさん。ハルキさんはダクネスさんを守ろうとやっただけで下心は無いと思います!」

 

 おっと、周囲で伏せていた見物客の皆さんが生暖かい目で2人を見てらっしゃる。

 兄さんは周囲の視線に気づいたのか跳ね起きると、ダクネスの手を取って領主の部下の囲みを突破しようとするが……。

 

「爆裂魔法は1日1回しか撃てないはずだ!今の内に取り押さえろ!」

 

 めぐみんが魔法を使ったため、領主の部下達が躊躇なくこちらに向かって駆け出した。

 ゆんゆんはめぐみんをアクアに預けて構える。

 

「ここは私に任せて、皆さんは先に行ってください!後で合流します!」

 

 ワンドと短剣を構えるゆんゆんを見て、領主の部下達は警戒の色を浮かべている。

 

「紅魔族とはいえ魔法使いの女1人だ!魔法を完成させる前に取り押さえろ!」

 

 そんな領主の部下の声が聞こえたので、俺と近くにいたダスト、キースは目配せをして。

 

「痛ええええええっ!いきなり押されてっ!ぐああああっ、骨がっ!骨があああっ!」

「おい大丈夫かカズマ!しっかりしろ!」

「……こいつぁ酷え。倒れた拍子に、骨が木っ端微塵に粉砕骨折してやがる!」

 

 俺は領主の部下にわざとぶつかって地面を転がり、痛がる演技をする。

 

「なっ!?触れただけで何を大げさな!いきなり飛び出したのはその男だし、自分から転んだではないか!ちょっ、折れてるとか言ってたくせに、なぜ俺の足が掴めええええ!?」

 

 俺は足首を掴み、『ドレインタッチ』で体力を吸い取る。いきなりの感覚に領主の部下はバランスを崩し、体勢を立て直そうとして。

 

「痛っ!てめえ、良くもやりやがったな!やってやろうじゃねえかこの野郎!」

「ちょっ、待てッ、やめっ!?」

「やっちまえ!」

「おい、俺も混ぜろ混ぜろ!」

「前からあの領主気に入らなかったんだ!」

 

 あっと言う間に野次馬冒険者達が領主の部下達を取り囲み、袋叩きにする。人混みから抜けた俺はゆんゆんを連れて兄さん達と合流し、走り出した。

 ほとぼりが冷めたら、あいつらに酒でも奢ってやろうとか考えながら。

 

 

 

 

 場所は変わり、ダスティネス邸。

 ダクネスと兄さん、アクアを屋敷内に残し、俺とめぐみん、ゆんゆんの3人は中庭に来ていた。

 ダクネスの親父さんは物凄く衰弱していた。おそらく、もう長くは保たないだろう。場の空気を読んだ俺達は兄さんとダクネスとアクアを部屋に残してきた。

 

「良かったんですか?あのままダクネスが領主の所に嫁入りすれば、貴女はハルキを手に入れることができたんですよ?」

 

 めぐみんが、ゆんゆんの方を向いてそんな事を言った。

 

「お前何を言ってむぐっ」

「どうなんですか?」

 

 めぐみんを黙らせようとしたら、顔にちょむすけを押し付けられた。

 ゆんゆんはめぐみんの言葉を聞くと、暫く考え……。

 

「多分。私って一人っ子だから、兄弟姉妹を何処かで欲してたんだと思う。だから、これで良いの」

「そうなんですか?だって貴女は、ハルキのことを……」

 

 そこから先の言葉を、ゆんゆんは首を横に振って止めさせる。

 

「ハルキさんを先に好きになったのはダクネスさんで、ハルキさんもダクネスさんの事が好き。それだけの事よ」

 

 ゆんゆんはそう言うと、空を見上げる。そしてめぐみんは背伸びをして、ゆんゆんに自分の帽子を被せる。

 

「なら、笑顔で2人を祝福してあげてください。今の酷い顔で言われても、2人が困惑するだけですよ」

「……うん……」

 

 声を震わせながら、ゆんゆんは帽子の鍔を掴んで顔を隠す。

 ドラマのワンシーンのような目の前の光景が涙腺に来た俺は、懐からハンカチを取り出して涙を拭こうと──。

 

「っ!?」

 

 突然感じた凄まじい魔力に、涙が引っ込んだ。

 何事かと俺は屋敷の方を向き、『聞き耳』を使う。

 

『呪いよ!このおじさん、かなりの悪魔にすんごい呪いを掛けられていたから、私の力でサクッと解除してあげたわ!』

 

 どうやら、空気を読まず部屋に残っていたアクアが魔法を使ったようだ。

 

『これでもう大丈夫よ!ダクネス、良かったわね!ダクネスのお父さんも、何度でもお母さんの話をしてあげてね!』

「カズマカズマ。今の魔力はアクアのものですよね?一体何が起きたのですか?」

 

 めぐみんとゆんゆんが俺に状況の説明を求めてきた。何が起きたか、一言で分かり易くまとめて言えば……。

 

「アクアが感動に水を差しやがった」

 

 良い話だと思ったのになー……。

 

 

 

 

 ダクネスを拉致ってきた次の日。

 

「領主が失踪?」

「ああ。なぜか今日になって領主の不正や悪事の証拠がこれでもかと湧いて出てな。王都でアイリス様に体を入れ替える神器を贈ったのも、領主だったらしい。それで検察が屋敷に行ってみたが、何処を探しても見当たらないそうだ」

 

 ──なるほど。

 

「……そんなわけで、もう夜逃げをする必要はないから、その荷物を戻してくるといい」

 

 俺達はダクネスの呆れたような言葉に、背負っていた荷物を自室に戻しに行った。

 色々なほとぼりが冷めるまで、何処か遠くに行って農業でも始めようかと思っていたんだが。玄関に戻ると、屋敷に入ったダクネスと目が合ったので反射的に目を逸らす。

 

「まあ、それなら一安心ですね。で、どうしてダクネスとハルキは若干気まずい空気になっているんですか?」

 

 気まずいとは失敬な。ちょっと恥ずかしくて目を合わせられないだけだ。

 

「アクアさん。昨日は何があったんですか?私とめぐみんは途中からだったので知らないことが多々あるんですけど」

「そういえばそうだったわね。まずは」

「「ぬおあああ!」」

 

 俺とダクネスがアクアの口を塞ごうとすると、和真達がアクアを守るように俺達の腰にしがみつく。

 

「さあ、アクア!最初から言ってやれ!」

「わかったわ!まず私がおじさんとの結婚は止めてハルキと結婚しなさいとダクネスに言ったの。そしたらハルキが教会のドアを蹴破って、突入してきたのよ。式の邪魔をされてキレたおじさんに『何の用だ!』って言われたハルキはこう言ったのよ!『ダスティネス・フォード・ララティーナを返してもらおうか。彼女は俺の女だ』ってね!」

「アクア!俺達に筋力増加の支援魔法を頼む!続きはそれからで!」

 

 じわじわとアクアに近付いたため、和真達は支援魔法を受けて俺達を押し返そうと抵抗する。

 

「続けるわね。それを聞いて鼻で笑ったおじさんをダクネスが突き飛ばして、自分でヴェールを脱ぎ捨てて……!」

「「脱ぎ捨てて?」」

「ハルキにキスしたのよ!」

「「ええっ!?」」

「「ああああああああ!」」

 

 隠し通したかった事実がアクアの口から出てしまった。

 俺とダクネスは膝から崩れ落ち、顔を両手で覆う。あいつらをぶん殴って今アクアが言った事を記憶から消去してやろうか。いや、そもそも昨日の出来事をあいつらの記憶から……。

 

「アクア。それだけじゃないでしょう?」

「勿論!ハルキがダクネスを連れて教会を出ようとしたら、おじさんが『ララティーナが欲しけりゃ金を出せ!』って空気を読まない発言をして、野次馬の皆がブチ切れたの。それで言われたハルキは持ってきていた鞄を掲げて答えました!『こんなはした金、欲しけりゃくれてやるよ!』と!」

「「おおっ!」」

 

 指の間からちらりと見てみると、めぐみんが俺とダクネスをにやけ顔で交互に見ていて、ゆんゆんは感動のあまり涙で顔がびしょ濡れになっていた。

 

「そ、そうだ!金と言えばハルキ、お前が私の代わりに払ってくれた金だが、父の体調が回復し次第、領主から没収した財産を計算し、それらの補填が行われるというのを言い忘れていた」

「……マジで?」

「ああ。今回用立てて貰った20億。そして領主の屋敷の弁償の金や、建物を破壊した金なんかも返ってくる。なにせ、この街を守る過程で発生した賠償金だからな」

「……20億……20億だと……!?」

 

 なんてこった。場の勢いとはいえ、はした金と称したあの大金が戻ってきて、一気に大金持ちになってしまうのか。

 あれ?でもそれだけの大金が来たら税務署に目を付けられるんじゃね?……今度窓口で聞いてこよう。

 いや、それよりも俺以外に金を受け取るべき相手がこの場にいるじゃないか。

 

「なあ和真。お前にもいくらか分けようか?もともと賠償金を請求されたのはお前なんだし」

「いやいや。あれは兄さんが用意した金だから、そっくりそのまま兄さんの懐にしまってよ。俺はバニルとの商談で金が貰えるからさ」

「まあそう言わずに。10億ずつ、平等に半分に分けようじゃないか」

「お構いなく」

「……本当にいいんだな?後で金を分けろとか言っても知らないぞ?」

「男に二言はない!」

 

 ふんす。と和真が胸を張る。

 よし言質はとった。後は、金が返ってきたら税務署に行って……。

 

「それはそうと、いい加減ハルキとダクネスは目を合わせてもいいんじゃないですか?ほら」

 

 予定を頭の中で組んでいるとめぐみんが俺の肩に飛び乗り、顔の向きを変えようとしてくる。

 全力で俺が抵抗していると、和真がぼそりと言った。

 

「……もしかして兄さん。ダクネスにちゃんと告白したいから、昨日の出来事をなかったことにしようとしてる?」

「……」

 

 和真に指摘された俺は黙り、明後日の方向を見る。

 

「……じゃあ、俺はめぐみんとの爆裂散歩があるから。ちょっくら出かけてくる」

「そうですね!日課はちゃんとこなさないといけませんからね!もしかしたら今日1日外出するかもしれませんが」

 

 俺の背中から飛び降りためぐみんが、和真と一緒に屋敷を出て行った。

 続いてアクアはゼル帝の卵を持って公園に日向ぼっこに行くと言い、ゆんゆんはちょむすけを連れて爆裂散歩に同行すると言って出て行った。2人とも屋敷を出る間際、1日外出するかもしれないと言い残して。

 

「「……」」

 

 気まずい沈黙から、屋敷内がしーんと静まり返る。

 ……ええい、男は度胸!今言わずしていつ言うか!

 

「……ララティーナ」

「なっ、何だっ!?いや、何でしょう!?」

 

 かなりテンパっているのか、ララティーナが敬語で反応した。

 

「俺と、結婚を前提につき合って欲しい」

 

 ララティーナの手を取って目を合わせ、告白する。

 

「そ、その!私は頭も筋肉も口調も()くて、度し難い性癖の持ち主でありがながら年相応に乙女なところがある、どうしようもなく面倒くさい女だ……いや、です。そんな私とふ、夫婦になりたいんですか……?」

 

 ララティーナは不安そうに俺の手をにぎにぎして目を泳がせると、慣れない敬語を使って言った。

 

「はい」

「……っ!」

 

 ララティーナが俺の手を握ったまま、目に涙を浮かべる。

 もしかして今のはまずかったのだろうか。具体的に相手の長所とか挙げて褒めるなりすれば良かったのだろうか。

 俺の頭に過った不安は、ララティーナの行動で払拭された。

 

「ハルキ……」

 

 ララティーナは涙を拭うと、そっと目を閉じて顔をやや上に向ける。

 良いのか?と、小声で訊ねるとララティーナは頷いた。

 

「ララティーナ……」

 

 俺はララティーナの肩に手を置き、少し屈んで顔を近づけて……。




領主の末路は原作通りなので丸々カットしました。
陽樹が教会に突入できたのは、警備をしていた人がバルターの息のかかった人間だった、ということにしておいてください
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