この兄弟に祝福あれ   作:大豆万歳

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まだやりたいことがあるので続きます


第41話

「諸君。人というものは会話が成り立つ種族である。我々と話をしよう」

「右に同じく。というか、コレはともかく何で私とアクアさんまで縛るのさ」

「クリスの言う通りよ!ほら、早く私とクリスのロープを解いてちょうだい!」

 

 両腕を強力な呪縛ロープで縛られ、広間の中央で正座させられているバニルが言った。

 バニルの両脇には、同じように縛られているアクアとクリス。そして3人の前で仁王立ちするダクネス。

 

「クリス。カズマから聞いたのだが、私とハルキが男女の関係にあるという噂を流したのはお前らしいな」

 

 言われたクリスがカズマの方を恨めし気に睨みつける。睨まれた本人は申し訳なさそうに頬を掻き、手を合わせて謝罪する。

 ダクネスが言ったように、俺とダクネスが男女の関係にあるという噂を流したのはクリスだったらしい。結果的に噂通りの関係になったけど、それはそれとして根も葉もない噂を流したことは許せないので、こうして縛り上げて正座させている。

 

「あ、あれはその、大事な一人娘がいつまでも独身だと親御さんも心配するだろうし、ハルキとダクネスの相性も悪くはなさそうだから後押ししようと」

「クリス?」

「何でもないですごめんなさい。私が全て悪かったです」

 

 ダクネスに睨まれたクリスが弁明を中断し、深々と頭を下げる。それは謝罪なのか、それともダクネスの顔が怖くて目を合わせられないからなのかは分からないが。

 

「ねえ、ダクネス。クリスも反省しているみたいだし、許してあげたら?そのついでに私の拘束も解いて欲しいんだけれど」

「……わかった。だが、アクアはもう暫くそのままでいてくれ」

 

 クリスの呪縛ロープをダクネスが解くと、アクアが全力で抗議する。バニルはそんなアクアの様子が面白いのか、笑うのを堪えていた。

 

「あの~、アクア様は一体何をされたのですか?」

 

 と、広間にいたウィズが恐る恐る手を挙げて訊ねる。

 アクアが何をしたか、それを説明するということは、昨夜俺とダクネスがしていた事を話すことになるわけなので……。

 

「兄さん、ダクネス、話しても良い?」

「いや、俺が話す」

「できるだけ遠回しな表現にするんだぞ、ハルキ」

 

 何があったのかと好奇の眼差しを向けるクリスとウィズに、俺は説明した。

 

「俺とダクネスが一晩中イチャイチャしたのを広めようとしたから縛り上げた」

「「っ!?」」

 

 瞬間、ウィズとクリスが口を覆い、目を輝かせて俺とダクネスを交互に見る。

 

「そっ、それはつまり、ハルキがダクネスの花を散らした……?」

「…………そうだ」

「「~~~~っ!?」」

 

 2人は顔を真っ赤にして声にならない悲鳴を上げ、部屋中を転がり回る。

 先日。俺とダクネスは晴れて恋人同士になった。その日は特に予定もないし、街に出れば例の騒動で冒険者達に絡まれたり揶揄われるだろうから、1日家で大人しく過ごしていた。そしてその日の夜、寝室での雰囲気とか今まで言い訳に使っていた柵やらが無くなったとか色々あり……俺はダクネスと甘く熱い夜を過ごした。

 暫くして落ち着いたのか、2人はアクアに目線を合わせるように屈む。

 

「アクアさん。2人の間に子供が出来たならともかく、そういうプライベートな話を広めるのって、凄く配慮(デリカシー)に欠けるから止めた方が良いと思います」

「クリスさんの言う通りです。そういった事をすると、皆さんに嫌われる要因になりますよ?」

「フハハハハハ!後輩女神の信徒とリッチーに正論を説かれるとは、とことん哀れな女神であるな!」

 

 2人の正論にぐうの音も出ないのか押し黙るアクアと、腹を抱えて転げまわり高笑いするバニル。

 そんなバニルをダクネスが腕力で無理矢理起こし、和真が顔を近づける。

 

「アクアの話じゃ、ダクネスの親父さんはかなりの悪魔に凄い呪いを掛けられたらしい。で、この街にいて尚且つかなりの悪魔という条件に合致するのはお前だけなんだが」

「この我輩が人の命を奪いかねない呪いを掛けたと疑われるのは心外である!あれは我輩の同胞の1人、辻褄合わせのマクスウェルがあの男に命じられてやったことだ!」

 

 バニルが口にした事実に俺達は顔を見合わせる。あのおっさん、悪魔と契約していたのか?

 

「バニル。その悪魔の能力について詳しく話してくれ」

「あいわかった。だがその前に、この拘束を解いてはくれまいか?そうしたら対価に全て話そう」

「……妙な動きを見せたらアクアの拘束も解くからな」

 

 和真はそう言うと、バニルの拘束を解く。バニルは縛られた箇所を擦ると、話し出した。

 

「マクスウェルの能力についてだが、貴様らは身をもって知っている筈だ。例えば、貴様らが出席した王都で開かれた宴。あの元領主の失言が翌日には無かったことになっていなかったか?貴様ら兄弟と、そこの頭の中が年中お花畑な女神を除いて。或いは、貴様が魔王軍幹部のスパイだという嫌疑がかかったあの裁判。それまでの流れを無視するように、司法側の人間たちは貴様に死刑を言い渡そうとしただろう?最近で言えば、あの元領主の悪事や不正の証拠が湧き出ただろう?それはつまり、今までマクスウェルの力で隠されていた証拠が、出てきたという事だ」

「確かに……っていうか、そこまで知っていたなら、最初からお前が言えば済んだ話じゃねえか!」

 

 和真の言う通りだと言うように、俺達はバニルを取り囲む。

 

「まあ待つが良い。確かに、あの男が目の前で花嫁を奪われるという悪感情を食し、更に大金も得ようと貴様らを利用し、回りくどい事をしたのは認めよう」

「その大金もウィズが使い切ったけどな」

「……まず、マクスウェルとあの男は契約を交わしていたため、我輩としても手出しできなかったのだ。そしてマクスウェルは力が強力だが、頭は赤子なのが欠点でな。あいつに何度自己紹介をしたのか、1000回から先は数えるのを止めたほどだ。そしてそれをあの男は利用し、我が同胞に長い間タダ働きをさせていたのだ。貴様も知っての通り、我々悪魔にとって契約は絶対である。我々は契約者の願いを叶え、契約者から願いに見合った対価を頂く。それを蔑ろにしたあの男に我輩は然るべき報いを与えようと考えた。だから、マクスウェルに払うべき対価を払わせるために、地獄に放り込んでやった」

「それって殺したことと同義なんじゃないのか?お前、前に人間は殺さないとか言ってなかったか?」

「殺してはおらん。人間界と地獄では時間の流れが異なる。人間界ではマクスウェルに払っていなかった対価を払い終える前に寿命で死ぬが、地獄ならばそうはならん。勿論、対価を払い終えたら人間界に送り返す予定だぞ?その時の精神状態までは保証しないがな」

 

 普段の相手を揶揄って楽しんだり、商談の時に見せる紳士的な態度を投げ捨て、冷酷で非情な悪魔らしいバニルの一面。それを見ためぐみんとゆんゆんは恐怖から1歩下がり、クリスとダクネスは滅ぼすべきだと武器を構える。しかし俺と和真は……。

 

「まあ皆落ち着けって。要するに、今まで通り接すればいいわけだろ?何かお願いするときは、それ相応の対価を用意するとか」

「そうそう。バニルがやったことも、契約を蔑ろにした事に怒ってやった事だし」

 

 俺達のフォローを聞くと、バニルの仮面がキラリと光った。

 

「その通り!いやはや、流石は我が親愛なるビジネスパートナー。我輩の事を良く分かっている。そこの女神と女神の信徒の様に悪魔というだけで滅ぼしにかかる連中に、貴様ら兄弟の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいものだな!」

 

 バニルはいつも通りの調子に戻ると俺と和真の手を取り、固い握手を交わすと、嬉しそうに破顔した。

 

 

 

 

「では、我々はこれにて失礼する」

「お邪魔しました」

「おう。じゃあな~」

 

 用事も済んだので、ウィズとバニルが屋敷を出て行った。

 

「で、アクアの拘束だけどどうする?解いても良い?」

「……念のために聞くが、俺とダクネスの件について広めに行かないよな?」

「クリスとウィズにあんな事言われたんだもの、行けるわけないでしょ」 

 

 クリスとウィズの正論が相当効いたのか、アクアが大人しくなった。なので、拘束を解除する。すると、アクアは庭にある鶏小屋に直行。話をしている間、小屋の中にゼル帝の卵を置いていたのだが、果たして……。

 

「ねえ、カズマさん」

「はいはいなんでしょう」

「この小屋にゼル帝の卵を置いたのよね?」

「ああ。小屋の隅の所にな」

「殻しかないんですけど?」

「多分孵化したんだろうな。すぐ近くにいるヒヨコが多分ゼル帝だな。おめでとう、無事孵化したな」

「いいえ違うわ。あれはその身を体毛に覆われし極レアなドラゴン種、シャギードラゴンに相違ないわ。恐竜から進化して鳥類になったんだもの、ドラゴンに羽毛があってもおかしくないわ……」

 

 和真の言った事実を受け止められないのか、なおもあれはドラゴンだと言い張るアクア。哀愁漂う背中とうわごとのように呟く言葉が、俺達に同情を誘う。今日と明日の晩飯はあいつの好物でも作って慰めてやろう。

 

「ねえねえハルキ」

 

 アクアを和真に任せていると、クリスに袖を引かれた。

 

「何でダクネスのこと本名で呼ばないの?」

「言われてみればそうですね。何か理由でもあるんですか?」

 

 続いて、めぐみんも訊ねてくる。ゆんゆんも同意するように隣で頷く。

 

「まだ皆の前で本名で呼ばれるのは恥ずかしいから、本名で呼ぶのは2人っきりの時だけにしてくれって言われた」

「「「ふ~ん……」」」

「うぅ、そんな目で私を見るなぁ……」

 

 3人に生暖かい目で見られたダクネスが、顔をほんのり赤くして俺の背後にそっと隠れる。ダクネスの恥じらい顔、ご馳走様です。

 

「それじゃあ、本題に入るね」

 

 和真がアクアを慰め終えて、場所は戻り屋敷の広間。

 クリスが今日屋敷に来たのは、俺達にも神器回収の手伝いをしてほしいと言うためだったらしい。そうとは知らなかった俺達は、クリスの姿を見るなり縛り上げてしまったわけだが。

 ダクネスは体調が回復しきっていない親父さんの代わりに領主の仕事を任されているため無理。めぐみんはやれることが限られているが、必要になったらいつでも頼んで欲しいと返答。ゆんゆんも同じく、必要になったら頼りにして欲しいと言った。和真は王都で既に協力したので快諾。

 そして俺は──

 

「仕事が無くて暇だったら手伝う」

「仕事と言えばハルキ、前に使ってた工房はどうなったの?ダクネスの借金を払うのに売っちゃった?」

「ああ。で、それが今朝、バルターからお礼ですってそっくりそのまま返ってきた」

「そ、そうなんだ……わかった。じゃあ、あとはアクアさんなんですが……」

 

 クリスが期待の眼差しで見ると、アクアはきっぱりと答えた。

 

「残念だけど手伝えないわ」

 

 その言葉が以外だったのか、皆の視線がアクアに集中する。

 

「お前、どうせうちの鶏に餌やったら後はゴロゴロしてるだけだろ?この中で一番暇を持て余してるわけだし、少しは手伝ってやれよ」

 

 和真がそう言うと、アクアは困ったようにため息を吐いて言った。

 

「ええ、確かに今は暇よ。でもね、大事なイベントが控えているから忙しくてそれどころじゃなくなるのよ。ねえカズマ。それが何なのか、そのちっちゃい脳を回転させて当てて」

「御託はいいからさっさと言え」

 

 もったいぶるようなアクアの態度にイラついたのか、和真がアクアの言葉を問答無用で中断させる。当の本人はしょうがないわねとわざとらしく肩を竦め、言った。

 

「皆は女神エリス感謝祭って知ってるかしら?」




2人の初夜については皆さまの想像にお任せします。
ダクネスの妊娠するタイミングですが、原作17巻エピローグの辺りになる予定です。あの世界、魔王軍の活動のせいで生まれ変わりを拒む魂が多くて少子化が進んでますので。その影響ということで。
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