この兄弟に祝福あれ   作:大豆万歳

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毎日ジメジメしていて辛い


第42話

 女神エリス感謝祭。

 それは1年を無事に過ごせた事を喜び感謝し、幸運の女神エリスを称える祭り。

 毎年この時季になると世界各地で執り行われる恒例行事の事だ。

 

「エリス祭りはこの街でもやるのですね。私達の里でもやりましたよ。この日に女神エリスの仮装をすると、次の祭りの年までの1年間を無事に過ごせるようですね」

「エリス祭りには当家も毎年関わっているぞ。我がダスティネス家は代々敬虔なエリス教徒だ。毎年多額の寄付をしている」

「兄さん。女神エリスの仮装ってこの街でも見られる?」

「仮装するのが女性だけとは限らないからあまりお勧めできないぞ」

「やっぱりこっちでもそうなんですね。紅魔の里でも、族長だからって私のお父さんが毎年仮装してましたから」

 

 と、盛り上がっているところでアクアがテーブルを叩いた。

 

「皆、何を浮かれているの!?祭りを楽しみましょうって話をしたいんじゃないの!エリス祭りがあるなら、アクア祭りもやってくれないと不公平じゃない!というわけで、今年はエリス祭りは取り止めにしてアクア祭りをやってもらうの」

「んぐっ!?」

 

 タイミング悪く紅茶を含んでいたクリスが、盛大に咽た。

 

「だってずるいと思わない!?エリス祭りが行われているのに、どうしてエリスの先輩であるアクア祭りが行われないの!?たまには代わってくれてもいいじゃない!ハルキもアクシズ教徒ならそう思うでしょ?」

「いや全く」

「なあんでよぉ!」

 

 アクアが俺の肩に手を置いて前後に激しく揺らす。おいやめろ、首が痛い。 

 

「まあ何にせよ、私は勿論手伝えないぞ。領主代行の仕事が忙しい。祭りの期間中はとてもじゃないが時間は割けそうにないな」

「何でよー!ダクネスをハルキ達と一緒に助けたり、お父さんの呪いを解いたりしてあげたのに!」

「そ、それはそうなのだが……そもそも私はエリス教徒だし……」

 

 ダクネスに正論を突かれたアクアは、めぐみんとゆんゆんに訊ねる。

 

「まあ構いませんが。私達はエリス教徒というわけでもありませんし、アクシズ教徒には知り合いもいますしね。そうでしょう?ゆんゆん」

「はい!昔、ちょっとだけお世話になったので、その恩返しをさせてください!」

 

 それを聞いたアクアは2人を順に抱きしめた。

 

「流石めぐみんとゆんゆんね!カズマは勿論」

「やるわけないだろ」

「仮にも女神の従者なんだから、たまには言う事を聞きなさいよ!ねえお願いよ、なんなら私の代わりにゼル帝に餌をあげてもいいから!1回だけ譲ってあげるから!」

「丸々太るような餌を食わせてもいいな?」

「やっぱり駄目よ!」

「だいたい、エリス祭りを中止させるなんて土台無理だろ。エリス教団が怒り狂うぞ?」

「ええー……。それを何とかするのがカズマさんの役目なんですけど……」

「おいこらふざけんな」

 

 それを聞いたアクアは、立ち上がり宣言する。

 

「もういいわよカズマのけちんぼ!めぐみんとゆんゆんとクリスの4人で何とかしてみせるから!」

「ええっ!?」

 

 いつの間にか巻き込まれていたクリスが、驚きの声を上げた。

 

 

 

 

 翌日。アクア、めぐみん、ゆんゆんにこの街のアクシズ教会の責任者を連れて商店街に向かった和真が、屋敷に帰って来てこう言った。

 

「エリス祭りと共同開催って形で、アクア祭りをすることになった」

「……マジで?」

「マジで」

 

 一緒に向かったアクアとめぐみん、ゆんゆんに確認するが、3人とも和真の言う通りだと答えた。マジか。まさかこんなにあっさりと許可が下りるとは思わなかった。てっきり却下されたアクアが泣きながら帰ってくるもんだと。

 

「というわけでハルキ。明後日早速会議をするから、お祭り当日に何をするか考えておきなさい。いいわね?」

「……わかったよ」

 

 そして会議当日。俺はアクアと一緒にアクシズ教会に来たのだが。

 

「ではこれより、アクア祭りの会議を行います。議長のサトウハルキです」

「書記のセシリーです」

 

 何故か俺が議長をやることになっていた。信者の誰かが議長を誰にするか訊ねたら指名されたからと言えばそこまでなんだが、普通教会の責任者のセシリーさんがするべきなんじゃないだろうか。俺を議長に指名した本人は、会議室の隅っこでチビチビ酒を飲んでいるが。……まあ、周りのアクシズ教徒の目もあるし、ここは大人しく言う事を聞こう。

 

「では今日ですが。皆さんから当日の出店の案を伺いたいと思います。案が浮かんだ方から手を挙げて言ってください」

 

 俺のその発言を皮切りに、会議はスムーズに進んでいった。何かとんでもない案が飛び出てくるかと思ったが。そんな事はなかった。射的とか、金魚釣りとか、食い物系の出店とか、割と日本でも見かけたような案が出てきた。これはもしかして、アルカンレティアで俺がアクアに言ったことが功を奏したのかもしれない。

 ……そう思っていた時期が俺にもありました。

 

「このヤキソバという料理。凄く美味しいですね!」

「特にこのソースの香りが食欲をそそります!」

 

 俺が今回の出店で出す焼きそばを、アクシズ教徒の皆さんが美味そうに頬張っている。それ自体は嬉しいから別に構わないが、問題は……。

 

「すいません。これの品名をもう1度言ってください」

「ですから、クラーケン焼きです」

「……イカ焼きの間違いでは?」

「いいえ、これは誰が何と言おうとクラーケン焼きです!」

「このオタマジャクシ大きくないですか?」

「そりゃあジャイアントトードのオタマジャクシですから大きいでしょうね」

「……金魚はどこにいったんですか?」

「それが困ったことに野良の金魚が見つからなくて。ですので、妥協案としてオタマジャクシ釣りも視野にいれようかと」

 

 数日で化けの皮が剝がれた。俺の感動を返して欲しい。

 俺は会議室のテーブルを叩き、出席しているアクシズ教徒に呼びかける。

 

「クラーケン焼きですが、当日の品名はイカ焼きにしてください。金魚がいないなら他の淡水魚を、それも子供でも簡単に飼育できる安全な種類を選んでください。そして最後に、他の方々もまともな出店をやってください」

「ええっ!?お祭りの場では多少のぼったくりや詐欺まがいの店を出しても許されるとアクア様はおっしゃっていたのに!?」

「どれもこれも『多少の』じゃ済まないレベルなんですよ!しかもこれは、今後アクア祭りを開催するか否かもかかった大事な第1回なんです!お願いします!ここで何かやらかして、アクシズ教徒が減っても構わないのなら俺は止めませんがね!」

 

 『アクシズ教徒が減る』

 その一言はかなり効いたようで、それ以降の会議では皆大人しくなった。

 

 

 

 

 アクシズ教徒として祭りの準備も行うが、冒険者として祭りの準備も進めなければならない。

 

「山に巣を作った、レッサーワイバーンの討伐はこちらです!現在バインドが使える盗賊と、空の敵という事で狙撃が可能なアーチャーを特に募集しています!強敵ですが、その分報酬は弾みますよ!参加者はあと6人です!」

「森に昆虫型モンスターが大発生してます!大量にいるので、こちらも人数を必要とします!数十人による大規模な討伐となります、職不問、レベル不問!」

「平原にも草食型のモンスターが大量発生していますので、そちらの方もお願い致しますね。放っておくと、彼らを餌にする大型のモンスターが集まってきます、その前に駆除をお願いします。現在ギルドでは、様々な支援物資を無償で提供するキャンペーン中です!討伐報酬も普段より上乗せします!この機会に頑張ってお仕事してください!」

 

 朝早くからギルドのあちこちでそんな声が飛び交い、人がバタバタと駆けていく。隣にいた和真が、目の前の光景を見て俺に訊ねた。

 

「ねえ兄さん。俺達が街の近辺のモンスターを駆除することで安全に祭りを行えるのはわかるけどさ。森の討伐を希望する冒険者の男性率高くない?」

「まあ、この時季になると男性冒険者は何を置いても大規模討伐戦に参加する。特に森でのモンスター討伐とかな」

「いや。それは見ればわかるからその理由を言って」

「そうだな。男性冒険者が森でのモンスター討伐に参加する理由は……蝉だ」

 

 蝉?と、和真がオウム返しをして首を傾げる。

 

「こっちの蝉は日本の蝉と比べて声量が数倍くらいある」

「マジか。あのやかましい音の数倍あんのか」

 

 和真が嫌そうに顔を顰める。

 

「更に、昼夜問わず鳴き続けるぞ」

「よぉし、覚悟しとけよモンスター共!ちゅんちゅん丸の錆にしてやる!」

 

 和真が目をギラギラと輝かせてちゅんちゅん丸を抜き、ダストから砥石を借りて研ぎ始めた。

 今の和真の反応のように、森での討伐戦の男性冒険者の参加率が高い理由は蝉が昼夜問わず鳴くことにある。例の店にお世話になっている男性冒険者にとって、蝉は敵だ。夜も大声で鳴かれて眠れる者などいない。そして眠れないということは、お店のサービスも成り立たなくなってしまうということだ。

 まあ、俺は例のお店にお世話になることはなくなったけど、この討伐戦には参加する。だって蝉の鳴き声でムード壊されたくないし。

 そして冒険者がある程度集まったところで移動し、街の近くの森の中。

 

「防御に自信のある前衛職の方は、モンスター寄せのポーションを体に塗ってくださいねー。相手は格下ですが、数が多いので油断はしないようにお願いしますねー」

 

 今回のような大規模な討伐戦では、ギルドの職員が指揮を執ることになっている。

 というのも、冒険者は協調性のない自由な人が多く、職員が指揮しないと揉め事が起きるのだ。

 

「領主代行の私が全てのモンスターを引き受ける!そう、これは民を守る私の役目だ!だからポーションを全部寄こせ!」

「駄目ですよ!これは単にモンスター寄せってだけじゃないんですから、大量に塗り込んだらモンスター以外の生物にまで攻撃されますよ!」

「是非とも望むところだ!」

 

 そう、ちょうどこんな風に。

 

「おいダクネス。ギルドの人に迷惑掛けるな。お前はウチのパーティーメンバーを守ってくれればそれで良いんだから」

「ああっ!夏のモンスターは苛烈なんだ、頼むハルキ、後生だから……!」

「嫁がご迷惑をお掛けしました。それでは」

「嫁っ!?」

 

 嫁という単語を聞いた途端、抵抗していたダクネスが顔を赤くして大人しくなった。そして、生暖かい目と嫉妬と羨望の入り混じった視線が俺とダクネスに突き刺さる。

 この地点での駆除の参加者は俺達を合わせて30人程。

 大体が4人か5人パーティーの様だ。

 そんな連中の中でも、一際頑丈そうな連中がポーションを体に塗りつけていた。

 

「嫁……ヨメ……よめ……YOME……」

 

 さっきの発言が効いたのか、まだ顔を赤くして大人しくしているダクネスに頭からポーションをかけると、我に返ったのか俺から残りのポーションを奪い、自分の体に振りかける。

 

「守りは私に任せて、お前達は思いっきり暴れてこい」

「わかった」

 

 冷静さを取り戻したダクネスは、そんな格好いい事を宣言し、自信たっぷりの表情で不敵に笑った。

 

「めぐみんとアクアは頼むから大人しくしてくれ。特にめぐみん、お前の爆裂魔法を森で使ったら大惨事になる。ゆんゆんは、めぐみんの分頑張ってくれ。俺はアクアの分頑張るから」

 

 そんな俺とダクネスの後ろで、和真がめぐみん達に簡単な指示を出す中。

 

「冒険者の皆さーん!モンスター、第1陣が集まって来ましたよ!殺虫剤も大量に用意してあります!では、お願いします!」

 

 ギルド職員の声が轟いた──。

 

 

 

 

 たかが虫、されど虫。この世界の虫は、日本の虫よりも巨大でパワフルだ。

 例として、俺が殺虫剤をぶっかけて倒したカブト虫のようなモンスターは子犬ほどの大きさをしている。他にもクワガタやカマキリなどのような昆虫が襲ってくるが、どれも体がデカい。

 そしてそいつらに襲われて負傷者が出る中、アクアは頑張って治療に専念していた。いつものように調子に乗ることなく、黙々と。

 何かやれば余計な厄介事を引き起こし、何もしなくてもアンデッドにたかられるあのアクアが大人しくしている。

 アクアもやっと成長したのか。と、俺が静かに感動している中。

 

「『エクスプロージョン』ッ!」

 

 めぐみんが突然魔法を唱えた。

 俺達がいた森のかなりの上空。

 そこに轟く爆音と、目も眩まさんばかりに輝く閃光。

 それらと共に爆風が吹き荒れると、後に残っていたのは地に倒れ伏した冒険者達とダクネスの姿。

 小さな昆虫型のモンスター達は、その衝撃波の余波に耐えきれず、全て地に伏せて動かなくなっていた。

 辺りにうめき声が聞こえる中、アクアだけはどうにか回避したのか、地に転がる人達にせっせと回復魔法を掛けて回っている。

 

「めぐみんは、レベルが上がった」

「ふざけんな!」

 

 起き上がった和真がめぐみんを起こし、一喝する。

 

「何で大人しくしろって言ったのに爆裂魔法使うんだよ!見ろ、この惨状を!お前後で皆に謝っとけよ!?」

「カズマが私の出番はないなんて言うからですよ。それに、この街の住人は既に爆裂慣れしてますから大丈夫ですよ」

 

 堂々と開き直るめぐみんの言う通り、あちこちに転がっていた冒険者達は文句の1つも言わず、何事もなかったかのように起き上がる。ギルドの職員も同じように起き上がり、周りを見て状況を確認している。

 こいつらも大概だな……。

 

「皆さんご苦労様でした。では、そろそろ第2波が参りますので……」

 

 第2波。

 淡々とした職員の言葉と同時に、大量の虫の羽音が聞こえてきた。

 おそらく、さっきの爆裂魔法の衝撃と震動で、木々の虫達を怒らせてしまったのだろう。

 

「あーもう!兄さん!」

「おう!」

 

 和真はめぐみんをゆんゆんに任せて、俺と並ぶ。

 そして拳を2度打ち合ってハイタッチし、ジャイロを突き出して叫ぶ。

 

「「オレ色に染め上げろ!ルーブ!」」

『ウルトラマンビクトリー!』『ウルトラマンギンガ!』

「纏うは土!琥珀の大地!」「纏うは水!紺碧の海!」

『ウルトラマンロッソ、グランド!』『ウルトラマンブル、アクア!』

「「先輩の力、お借りします!」」

 

 ヒュドラ討伐戦と同じように、身長を等身大まで抑えて俺と和真が変身して虫の群れと対峙する。

 

「『グラビティホールド』!」

 

 俺は手を地面に叩きつけて重力を操り、飛来してくる虫の動きを無理矢理止める。

 

「和真!」

「『スペリオン光輪』!」

 

 背後に立つ和真の放った光輪が複数に分裂し、虫の群れを切り刻んでいく。そして半分ほどまで減ったところで。

 

「兄さん!チェンジ!」

「わかった!」

『ウルトラマンタロウ!』『ウルトラマンティガ!』

「纏うは火!紅蓮の炎!」「纏うは風!紫電の疾風!」

『ウルトラマンロッソ、フレイム!』『ウルトラマンブル、ウインド!』

「「先輩の力、もう少しお借りします!」」

 

 フォームチェンジすると同時に、和真が虫の群れに飛び込む。そして、俺は上空に飛翔して待機。

 

「『スパイラルソニック』!」

 

 和真が周囲を高速回転して竜巻を発生させ、上空に群れを巻き上げる。更に上昇させて森からできるだけ離れたところで。

 

「『ゼットシウム光線!』」

 

 待機していた俺が攻撃して一掃する。

 風が止んだところで確認してみれば、森一面に虫の残骸が散らばっている。竜巻に巻き込まれた樹がなぎ倒された以外に大きな被害はない。冒険者達とギルド職員が巻き込まれた、ということも無し。

 しかし、世の中には万が一ということがある。例えば、第3波(おかわり)がやってくるとか。俺と同じようにそう思ったのか、和真がギルド職員に訊ねる。

 

「念のために確認しますけど、第3波が来るとか……」

「あります!」

『撤退ー!!』

 

 蜘蛛の子を散らすように、俺達は全力で逃げた。




ウルトラマントリガー。これからの展開が楽しみですね
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